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絵本『ちいさなくれよん』は勇気とやさしさのものがたり

折れて小さくなったからと男の子に捨てられてしまった黄色いくれよんが、別の誰かに色を与えて幸せにしていくお話がある。『ちいさなくれよん』(作:篠塚かをり、絵:安井淡)という絵本だ。幼い頃からなんども繰り返しページをめくり、母と、妹と読んできた。

「ぼく、まだ かけますよ。まだ、きれいに ぬれますよ」
おおきな こえで よんだけれど、 だれも ひろいに きて くれません。

『ちいさな くれよん』より

くれよんはゴミ箱を飛び出して、外の世界で自分の役にたつものを見つけようと旅をする。子どものくつや、車のおもちゃ。色褪せてしまって使ってもらえなくなったものや、もともと鮮やかな色を持たないものたちに、美しい黄色の命を吹き込んでいくのだ。

黄色に塗ってもらったものたちは、自信と笑顔を取り戻していく。その代わりに黄色のくれよんはさらに短く小さくなってしまうのだが、それでも自分が最後まで役に立てるようにと旅を続けていく。最後は光の弱くなった星を助けるために星に向かって飛び立っていく。

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くれよんで塗れるか塗れないか。この本の本質はそこにはない。まだ機能を持つものが捨てられて、それでも誰かを進んでいく姿に、非常に愛着が湧くのだ。「君はいらない存在だ」なんて言われたら誰だって悲しいし、どんなものでも(人でも)、輝ける可能性があって誰かにとっては希望になれるかもしれないと、そんなメッセージがあるように思う。

私はちいさな頃から絵が好きで、くれよんやクーピーもたくさん使っていた。力加減を間違えて折れることも日常茶飯事で、空き缶にちいさなクレヨンをごろごろと集めていた。

短くなったそれを使うことは確かに少なかった。きれいな紙が巻いてある整然と並んだやつのほうを好んで使ったし、よほど珍しい色でもない限り、手を汚さないものがよく思えた。特にくれよんはいろんな色を一緒くたにして缶に入れておくと、すぐにお互いに汚しあって汚い見た目になった。だから捨てたいと思ったことも一度や二度ではないし、実際に持て余して捨ててしまったこともあると思う。

けれども、この本を読んだあとには黄色のくれよんの健気さに子どもながらに感動して、そういう扱いに罪悪感を覚えたものだった。それで幼い私の行動がどれだけ変わったかは覚えていないけれど、優しくて勇気のあるくれよんが周りの人の悲しみを肩代わりするように拭っていくお話が好きだったのだ。

もう何年も自分のくれよんなんて手にしていない。ちょっとだけ色数の多いセットに入っているぐんじょういろが好きだったな。鮮やかなくれよんの一色一色が、友達だった幼い頃にひさびさに思いを馳せる。黄色のくれよんみたいに勇気ある優しい人間になるにはまだ私は未熟だけれど、でもせめて、何かを役立たずと決めて存在を否定するようなことはしたくないなと思う。


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この記事はメディアパルさんの#わたしが一緒に育ったロングセラー絵本の企画への参加記事です。絵本っていっぱい思い入れのある作品がある中で、忘れられないかもと思った本について書きました。


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