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-外伝-【好奇心の令嬢】

〜Assault Travel in NY〜
ver.1.10

・プロローグ

「こちらグレイハウンド、HQ、スペイン広場からサンタンジェロ城までのテヴェレ川付近一帯の封鎖、及び民間人の避難完了、
 戦車大隊、歩兵部隊、スナイパー部隊のアンブッシュ完了、目標を未だ補足せず、over」

「こちらHQ、戦闘配備の完了をマップデータ上でも確認、「目標」は現在ブランドストリートから西へ向け進行、いや、移動中。
 何をしでかすかわからんがテヴェレ川西岸上陸は死守せよ、サンピエトロ聖堂には近づけさせるな。」

ローマ市街テヴェレ川沿岸に構えるある一個中隊
「隊長、今回の作戦はあくまで「目標の確保」とありますが戦車隊や重火器の仕様許可が降りてる理由がわかりかねますよ」

髭を顎まで生やした部隊長はサングラスをかけたまま双眼鏡をのぞきながら部下にぼやくように返す。

「作戦概要には一通り目を通したようだなぁ..通報から駆け付けた警官隊は武装解除させられ軍への出動要請、軍先遣隊の到着からわずか5分足らずで通信途絶、
最後に入った通信では「目標に対しての鎮圧銃およびライフルによる効果認められず」とあるが当たり前だぁ、やっこさん、ありゃ「ジゼ」だ」

「ジゼとはなんです?作戦概要には「目標の外的特徴は20代半ば頃の性別女」としか、」

「おまえ、アカデミー出身だったよなぁ?派兵経験は2016年の中東派遣のみだったか、まぁあんな駐屯してるだけの任務じゃこれが初の「実戦」になるかもなぁ、
 知らんのも無理はない、が、もう間もなくわかるさ...」

足元に地鳴りのようなものを感じると同時に空気が揺れ、無線機が鳴り本部からの通達が聞こえた。
「スナイパー隊各員へ、目標に対し一斉にアプローチ」


テヴェレ川東岸のスナイパー隊5ペアがブランドストリート西部にて目標を確認、スポッター(観測手)のカウントと同時に一斉にトリガーを引く用意をする。

スポッター
「目標を肉眼で確認、カヴール橋に向け移動中、距離1500、カウント0と同時に射撃、3.2.1fire... !?」 

その女はジェラートを片手にまるで午後の散歩を嗜むような歩調で移動を続けていた
タタタタタンッ!と5つのポイントから一斉に狙撃音が鳴るのと同時に赤いハイヒールの足元から黒い砂塵のようなモノが細い線上に形成され、体の1m手前で5つの方角から発射された50口径弾を同時に絡め取るように静止させていた。

その一つを指でつまむように手に取ると
「あら、さっきの店で気になったルージュと形も大きさも似てるわねぇ、でもレディへの贈り方としては少し雑じゃなくて?」
そう言うと同時に砂塵のようなモノで絡めとった4つの弾丸を発射方向へそのまま射出し、手に持った最後の弾丸を放るとデコピンの要領で弾き返した

その精度たるや、各スナイパーのアンチマテリアルライフルにことごとく命中させスナイパーの手は使い物にならなくなっていた。

「もう帰ろうかと思ってたのだけど、あんなモノ(戦車)まで用意しちゃって・・・可愛い、少し遊んであげようかしら」

そう言うと彼女の足元から黒い砂塵のようなものがまるで濃い霧のように湧きあがり大地を覆い尽くさんとばかりの津波のような形状を作り前方の戦車隊を覆った。

中隊員
「っ!のまれる!HQ!」 zazazazazaaa...

「通信障害!?この霧、砂塵?、砂鉄?...」


数刻前


ローマ市街ブランドストリートのとある高級ブランドブティック
その女は透明なプラスチックケースに入った赤い「ワインのようなもの」とご当地名物のジェラートを起用に片手で持ちながらショッピングをするために店内へ入った

女性店員「いらっしゃいませ、素敵なお召し物ですね、今日はどんなものをお探しでしょうか?」

「あらありがとう、特に決めてないわ~」といいながらジェラートを頬張る

女性店員「ご飲食物をお預かりしておきます、こちらにどうぞ、観光ですか?」

そう言うと店員は慣れた手付きで小さなトレイを差し出し「飲み物」とジェラートを預かると少し離れたガラスのカウンターへ置く。

女性店員「こちらのスカーフなどいかがでしょう、今年のモデルでして、首に巻かれても鞄などに着けられても映えますよ」

「ん~ここの服はワタシ好みじゃないけど、ソレはいいわねぇ」

店員が気付くとスカーフはすでに女の首元に飾られ、女はジェラートを片手に持っていた。


「ありがとう、お代はソコに置いたわ、」

「それにしてもこの街の『じぇらーと』っておいしいわぁ、代わりに御釣りとあのドリンクはあなたにあげるわ、私の飲みかけで悪いけど、この街のジェラートへのお返しよ」

店員が少し驚きながらカウンターに目をやるとそこにはトレイに乗ったドリンクの横に小さな宝石の山が出来ていた。

慌てて店員がカウンターへ駆け寄るとそのころには女は店を出ようとしていた。

女性店員「お、お客様っ」

「安心なさい、ホンモノよ」

そう言われ女性店員がトレイに目やると宝石ではなく「飲み物」のほうに気付く、そこには確かに偽物にはとても見えない「ホンモノの眼球」が入っていたのだ。

そうして女性店員の悲鳴とと共にブティックをあとにしたのが警察への通報につながり

包囲した警官隊の制服と銃を取り上げ、警官達の下半身の「銃」を軒並みあらわにさせたのが今回の発端であった。


・本編 1.10


「ジゼ様、お控えください先日のローマ市街でのような事があっては...」


「しつこいわぁ、ジョドー...行くと言ったら行くわ、それともあなた私に一生籠の中の小鳥をやってろとでも言うわけぇ?」

ジョドーというその人間離れした体躯を持った男は主人に跪き深く頭を垂れていた。

発せられるその声はとても低く、深く、そして困惑が混じっている。

一方のその「ジゼなる主」
頭髪と肌は凍てつくような純白、真紅のルージュはさながら雪原に咲く赤い花弁の如く際立ち

華奢な体格とは裏腹に豊満な胸元を強調するかのように露出させた衣装を身に纏い

身の丈の三倍はあろう大椅子に足を組みながら座りながら横に跪く男には目もくれず自分の爪の色形を気にしながら気怠げな声でその臣下に答えた。


男は続ける

「そうではありませんが、もう少しお立場と時代をお考えいただきたく申しているのです。」

「先日のジゼ様のローマ市街での「お買い物」による被害はユーロ国連軍戦車隊2個大隊
歩兵隊4個中隊、都市一部半壊
奇跡的にも築年数20年以後の建造物並びに歴史的建造物の損壊は見られず
軍人への重傷者はあれど死者0名
民間人への死傷者0名
この話題は今や「ネット」という媒介を通し全世界へ報道されており、ユーロ諸国上層部も隠蔽にも限度があると言って来ております
17世紀とあるアジアの小国をジゼ様の匙加減ひとつで廃都と化した時代とは違うのです。」

主は気怠げな口調で返す

「だからユーロには「ウチの研究員達のサンプルを少し提供する」って事で黙らせたじゃない、
いくら21世紀の科学が進歩したとはいえ、あの猿達にとってはお釣りが来ても良いくらいの技術提供よ...」

「そうそれにそのネット!それよぉ〜!
なんでも「インスタ」なるもので実際に人々が集まらずとも社交会のような事をしてると言うじゃない、
ワタシもやりたいわ、できるようになさいよっ」


そう言い放つとおもむろに取り出したスマートフォンを床に投げる。

『流行りだから』という理由で買ったはいいものの今までろくに触ったことがなかったのだ。

正確には必要性が無かったのも大きな理由ではあるが、本人としては「最近の若い女子」のようにいつか使いこなしてみたいとも思っていたようだ。


臣下の男は深くため息をつき
胸ポケットからベルのような通信装置を取り出すと部屋の外にいるメイドの1人を呼び出した。

部屋をノックし「お呼びでしょうか。」と一人のメイドが入ってくる

ジョドーがメイドに言いつける

「俺にはわからんゆえ、おまえがジゼ様のスマートフォンに「インスタ」をインストールし使えるようにして差し上げろ」

メイドはあっけにとられた様子で

「は、はぁ、インスタを、ですか...」
と言いつつ手慣れた手つきで作業を終わらせスマートフォンを主のもとへ運ぶ。

さっきまでの気だるげな表情とは一変し、まるで新しいおもちゃを見る子供のような瞳でスマーフォンを手に取ると
浮ついた気分を隠すことなくスマーフォンに食い入る。

ふんふん、ふむふむ、こうかっ!

めくるめくポーズで何枚もの「自撮り」を決め込み、それをジョドーとメイドに見せびらかす。

ジョドー心中では
「これでジゼ様が少しでも満足し、城内で過ごす時間が増えればと願っていた」が、

その願いは逆の方向へと拍車をかけることとなってしまったのは後の顛末である。


「あら~こんなお料理まで皆々は投稿してるのねぇ、中華、フレンチ、懐石、ん~でもどれも見飽きてるわぁ」

ジョドーの脳内はめぐるめく思考を凝らしていた

あるときには
「ジョドー、本場の四川料理が食べたいわ」
と言われれば主の外出に先んじて中華連邦政府にホットラインを繋ぎ

あるときには
「本場の懐石料理と寿司が食べたいわ」と言われればすぐさま日本国首相へ取次ぎ「最悪の事態」に備えてきた。

数日前はジョドー200年ぶりの不覚、主の部屋へノックを繰り返すも反応がなかった。

不自然さを察し部屋へ入ってみると
そこには主の姿は無くメモが一枚書き残されていたのだった。

『ジョドーへ、本場の「じぇらーと」を食べに行ってくるわね(ハート)』

それゆえの惨事だったのである。


そんな中ジゼはスマートフォンに映る写真からあるものを見つけて心躍っていた。

「なに、これは...パンに野菜の切れと肉を挟んだだけのもの、添えてあるのはジャガイモを切って揚げたモノだけ?」

バーガー&ポテトである

「なに、なんなのよ...こんな粗末な作りなのに、なんでこんな輝いて見えるの...不思議ねぇ惹かれるわぁ」

ジョドー脳内さらに思考を巡らせる
これはマズイ
いつもの「本場に~」を言いかねない

バーガー&ポテトの本場...
起源を英国もしくわドイツのフィッシュ&チップスとするがおそらくそこではない...

現代最もポピュラーとされてる国とすれば
米国か!
これはまた厄介なことになる前に根回しを...

「ゴホンッ、ジゼ様それでは私は執務がありますゆえこれにて失礼いたしますが、先ほどのご忠告をお忘れなきことと、「お出かけ」になる
際には必ずこのジョドーめに一言告げてくださいますよう...それでは」


そんな臣下の心労など気にもせず今やその手の平の中ひとつで各国の名スポット、グルメなどを閲覧できてしまう事に夢中であった

「これが『自由の女神像』ね
この土地も独立国として旗を揚げる前から何度か行ったことはあるけれど
行く用事なんていつもあの'いけ好かないシャーマン(インディアン魔術師)'の所ばかりで、気にして見て回ったことなんてなかったものね
それが今では自由と夢を謡う国ねえ、嫌いじゃないわ、フフフ...決めた」

思い出にふけりつつ次の「お出かけ」の目星をつけ上機嫌のジゼであった。

「その女」ジゼの勢力の起源は中世ローマ帝国時代にも遡る

その前よりも存在していたとされる説もあるが
歴史上の表に出ないことと、文献などの資料も発見されていない事によりその実態は定かになっておらず、
またその勢力が一大国家級とされることから
はるか昔より世界各国との間に太いパイプがあったとされている
言わば世界主要国との不可侵条約のようなものが暗黙視されていたのだ。

その表上存在しない世界情勢とそれを支える各国の動きを組織と見立てた都市伝説が一般では「フリーメイソン」などという名称で出回っている。



数日後

~米国国防総省ペンタゴン~ 

そのとある一室に特別会議室が設けられていた。
議題は数日前にとある勢力から送られてきた通信内容である『主の外出についての協力要請』

その議題と対策に20名ほどの各部門のトップが頭を抱え沈黙していた。


「....バカらしい!古いしきたりとはいえ、これはもはや我が国家への侮辱だ!」
M.I.Tを首席で卒業し軍事経論のエキスパートとして務めるフィリップ.T.ダグラス(42)はそう一括する。

「まぁ落ち着きたまえフィル、君の気持もわかるが、これは『あちら側』からの誠意であって我々の先達もそう捉えて来ているのだ」
国防総省副次官(代理)ダニエル.D.ジョンソン(63)はそれをなだめ事態の穏便な収束を促していた。

「左様、ダニーの言う通りこれは『あちら側』の誠意の表れと儂も見ておる、それにここで事を荒立てるようでは「エリザベス2世の秘密の茶会」を台無しにし彼女に顔向けできんというものだ、旧ソビエト時代の借りもある...」

経歴、年齢、役職不明の老人の一言で会議は
「あくまで穏便に」という方向で可決された。
 

「それで、彼女の行先と到着予定日時は?」
ロバート.L.メイスン作戦参謀(仮)(55)

「先方からの最新の情報では米国時間
明後日am10:00頃NY、マンハッタン島への上陸の可能性が濃厚かと推測されます、
それにあたりマンハッタン島ならびに周辺地域の民間人へは各企業の協力のもと『大規模災害演習』の名目で避難勧告を出す案が迅速かつ最有力候補としてあがっております。」
ジョージ.S.ストンプ空軍中佐(39)


「あまりにも粗末な名目だが仕方なかろう、なにせ残すところわずか数日という短時間に170万人以上を「ウソにより」移動させねばならんのだからな」
もう一人の音声でのみ会議に出席している経歴年齢不詳の老人の声が会議に一旦の区切りをつけたところで米国ホットラインの受話器が鳴り響いた。


一同に緊張が走る。


米国大統領補佐官が受話器を取る

「こちらユナイテッドステーツ、まずは緊急ということもありプレジデントではなく補佐の私トーマス・ヨハンソンが代理を務めさせていただく非礼を詫びる。
 ...はい、...はい、What`s!? oh...Thank you for the infomation..good luck.. 」

震えた手で受話器を降ろす。

「皆、落ち着いて聞いてほしい...「彼女」が向こうを立ったそうだ。」
米国時間 23:12

〜マンハッタン〜

ハドソン川と6番街に挟まれた場所にある
ディスコクラブ「シエラ」
そのクラブの地下には一般には知られていない非公式の小規模カジノがあった。

カジノフロア、バーカウンター横のソファ席

ハンチング帽を被りサングラスをかけ
派手なアロハシャツを着た黒人男が奥のスタッフルームから出てくる。
情報・非合法物・銃火器売買人
通称Becker(ベッカー)

一方ソファの奥でくつろぐ男
黒髪のセミロングに冗談のような白塗りフェイスペイントを施し、黒いコートに袖を通さずマントのように羽織っている、
B.Jと名乗りそれがそのまま愛称とされていた。


好調そうだなぁBJ! バチカンの帰りか?来るなら電話くらい..

アロハシャツ男が挨拶ついでに喋るのを遮る。

まあ座れよベッカー...

アロハシャツの男は嫌な空気を感じながらも席に腰掛ける。

お、おう、では失礼させてもらうぜ...
男が腰掛けるとテーブルの下から無数の刃物が下腹部まで伸びていた。

白塗り男は両手をソファの横にもたれかけ
変わらずの姿勢のままだった。

お、おいおい穏やかじゃねぇなぁ、お前さんのハロウィンはいつものことだが世間じゃまだ早過ぎ...

その達者な口を塞がんとするばりに大きな刃物が2つガシャリと音を立て鋏のようにテーブルの下に追加される。

心あたりはあるなあ?ベッカー俺は残念だ...

まてまてぇ!
SVR(露、諜報機関)に潜らせてある奴から対象の死亡も確認したぁ!
見事なもんだったぜ!
情報通りドイツ側からの干渉もなかったろぅ?
報酬もきっちり口座に...


そうじゃねえ、キャンディーのほうだ
よくもあんな薄めた混ぜ物寄越せたものだな
どっかの誰かに俺への「贈り物」として渡されたのなら素直にそう言え
完全にどっかの誰かさんの使いパシリに落ちる前に今ここで楽にしてやる
今までのよしみ、せめてもの情けだ

冷汗がアロハ男の額を伝う。

あ、ああそっちか、「手違い」なんて常套句はアンタにゃ通じねぇわな...

実のところそっちの原料の仕入れが追いついてねぇんだ
例の企業が撒いたウィルスにこの前アップデートがかけられて以来トリップできる成分が軒並み手に入りずらくなった...
ルート元も追いつけてねぇ畜生め!
すまねえ事をしたなぁ...


ぬるぬるとテーブルの下から刃が引っ込んでいった。


ようやく一息つき帽子を少し上げ額の汗を拭う

その「手品」を見ると初対面のお前さんをからかった時を思い出すぜ
今日は奢らせてくれぇ
俺から話したいこともある

そういうとアロハ男はバーテンに注文をする。

バーボンをくれ..ダブルでな、あとシャンディガフを、ガフはビア薄めで頼む...

バーテンが下がるとアロハ男が懐から小包を取り出す。

キャンディーの質は変わらねぇが今回はこいつを詫びにオマケしよう
例のウィルス散布事件以来滅多にお目にかかれねぇ代物だぁ

そう言うと小包をBJの方へテーブル上を滑らすように渡す。


小包をゆっくり開け、香りを確かめ、中を覗く。


これは随分と懐かしい見覚えの葉と香りだ
確かに本物に見えるが?
残りモノもほとんどがとっくに世の中から消え今や新たな栽培も厳しかろう

アロハ男は小さく辺りを見回すと得意げに話し出す。

例のク◯ッタレ大企業様がウィルスを散布して以来、大規模な野外栽培は軒並みオシャカにされたがなぁ..
屋内の栽培屋共は場所を点々としながらまだ作ってるという噂は本当だった!
そのほとんどがどこかの企業の買占めに合うか、構成員の一家共々もれなく棺桶行きにされるが
しぶとい連中がいるもんだぜぇ
ついこの前の事だ、
あの北アメリカ一帯をしきるマフィア
ルイーダファミリーが本物を仕入れてるという噂が流れたが、
ありゃ本物に似せた別種のガセモノだ
効き目も粗悪なもんだぜぇ?
そこで、だ
ウィルスのアップデート次第でいつキャンディーの質を下げざるを得なくなるかと危ぶんでた俺は独自のルートでとある栽培屋と直接コンタクトをとってたのさぁ
それでも半年は企業のネズミやら国の潜入捜査と勘ぐられてたがなぁ、先日ようやくモノを受け取れたってぇオチだぁ

ーウィルス散布事件とは

十数年前、国家の力が大戦で弱まり各国の有力企業が経済政策から国家間戦争の代理を勤めるに至るようになってらから数年が経過した頃、

その中のとある企業が暗黙の条約を破棄し、有力勢力の存在する都市や裏経済を回す栽培場所など広範囲に渡り特殊なウィルスを散布するというバイオ攻撃事件が起きた。
当然、他の企業も暗黙の条約があるとはいえバイオ攻撃への研究及び対細菌兵器実戦配備にまで至っていたが、散布した企業の技術が数十年先を行くものであり世界各国数多の企業は後手に回る事となった。

事件の最大の難点はどこの企業がそれを散布したかが特定できないとう所にあった。

細菌学、生物学の専門家達の論文によるとその特殊ウィルスの特徴はこうである

感染対象はあらゆる生命、人、動物、植物、昆虫や微生物にまで至る、
感染対象の中で潜伏し、何かしら指向性の方法で発症、特定の感染者、特定の種を死に至らしめる。
他の細菌兵器を乗っ取り同種化あるいは死滅させる。
マイクロマシンのような一面もあり散布側の意向に応じて進化するいわばアップデートができるのではないかと推察されている。
それの散布は実質的に散布地域の生命へ手綱をつけるのと同義であった。

企業間、宗教間、テロ、独立国主張地域など様々な場面でその指向性致死が活用され、それを都合良しとした者達の情報操作なども相まり巧妙に散布元を隠蔽していた。

懸念されたのが食糧問題に直結する新型ハイパーオーツ麦などの屋外栽培の穀物類であったが
食糧危機による経済攻撃を散布した企業は望んでいないようだった。
その側面、裏社会で大きな経済効果を生み出していた植物の被害が甚大なものとなっていた、薬の原料となる植物の主要栽培地域が「散布側の意向」により枯れ果てた。
そのため現在ではケミカル系のドラッグが闇市場の9割超を占めており、植物を原料とした薬は高級品の域を越え今や絶滅危惧種扱いとなっていた。

流石は情報屋を名乗るだけのことはあるなあ...

そう呟き、BJは感心しながらも早速その場で持っていた煙草の葉を少量灰皿へ捨て小包の中の葉をそこへ詰め火をつける。

懐かしの香りを嗜みながら薄めのシャンディガフを一口煽った。

アロハ男もやるせなさそうにグラスの中身を一気に飲み干す。

そういやお前さん、相変わらずお得意の「手品」以外だと道具はソーコムしか使ってねぇのかい? 
おいバーテン、同じものをもう一杯くれぇ


「煙草」を嗜みながらBJが答える。

だからこいつぁ手品じゃない、って毎度言わせるか、もう「手品」でいい... 

たまには気晴らしでウージーやらデザートイーグルなんかも使ってみるさ

この前は対戦車ライフルなんてのも面白かったが、持ち運びやら組み立てが億劫でなあ
最終的には面倒でいつものやり方になるだけだ


両手を顔まで上げまっぴらのような仕草をするアロハ男。

俺もこんな仕事柄だぁ、スクリーンから飛び出てきたような輩や魔法みたいなモノを扱う輩を何人も見てきたが、
お前さんの「手品」はまた一風珍しく見えるぜ

何年前になるか...懐かしいなぁ、おまえさんと初めて会った頃、当時の俺のお得意さんがあんたをからかって片腕飛ばされちまったのを今でも覚えてるぜぇ


綺麗に斬ってやったろ?今の再生治療じゃあんなもんいくらでも綺麗にくっついたろうに...


その後はどうなったかは俺もわからねぇ
それっきしめっきり音沙汰無しだからなぁ
アレでも傭兵あがりの中じゃちったぁ名の通った奴だったんだぜ?
まっ、今となっちゃあおまえさんと組めてよかったけどなっ、ヘへへ

それよりだなぁ、オマエさんの手品は別にとして道具の方はどれも今じゃ骨董品も同然だぁ

いっそのこと変えねぇか?
強化カーボン製ワンハンド型最新モデル通称ジグソー
簡易式バレル交換で30発連続フルバーストから44口径マグナム弾まで自由気ままさ
安くしとくぜ?
新企画の弾なら小ロットでもすぐ手に入る、なにより第5世代3Dプリンタにも対応してる
オプションパーツまるまると国をまたぐ時なんかの運ぶ手間が減るってもんだぁ

あぁバーテン、ジンをロックでくれぇ銘柄はぁ..ギルビーで頼むライムも忘れずになぁ

よく喋る男だ、アロハ男の酔いに拍車がかかってきたようだ。

それを横目に
まあ、気が向いたらなあ...と軽く流すと

派手なドレスの女が二人歩いてくる事に気がつく


Mr.BJ!
来てらしたのならこのスージーにお声かけくださいな
あら、ベッカーもいらしたのね
まぁこちらはいつものことですわねっ...


アハハハハ!
いつも気付くとソファに座ってるんだBJは!
今日〜こそ名前を当ててみせるわ!
ん〜〜BJ、BJ...ブラウン・ジョン!
どう?


こらキャシー
お客様への詮索は厳禁よ
それに...BJの名を先に教えてもらうのは先輩であるこの私です


なぁにそれ!
こんなところで先輩特権とかずーるい!
れっきとしたパワハラじゃなーい!?


そう言い争いながらもどこか仲良さげな2人

このクラブシエラ地下専属のホステスである

気品ある雰囲気を漂わせ
ロイヤルブルーのドレスを纏い
黒髪ロングヘア
少し強めな口調のスザンナ

対照的に活発な印象
クリムゾンレッドのドレスを上手に着崩し
ブロンドにシャギーヘア
元気によく笑うキャサリン


二人ともベッカーとBJをよく知る
クラブ・シエラ
カジノフロアホステスのトップ2人である。

BJ、お隣、失礼しても?
と丁寧なスージー。

BJがお酒なんて珍しい!
と元気よく隣に来るキャシー。

おや、スージーにキャシー...今ご出勤かい?
2人とも今夜もドレスがよく似合ってるじゃあないか

BJは両脇に座るホステスに語りかけた。


まったくBJはお上手ですね
どこぞのどの女性にもそんな事を言ってらっしゃるのでしょう...

軽く流す、スージー。


そんな事はないさあ
エンパイアの上から眺める夜景も
君達に比べたら霞むってもんだぜ...

くさすぎるセリフを息をするように垂れ流すBJ。
まぁ呆れた...
なんてありふれた口説き文句、古すぎます
そしてやはりそうなのですねっ
君「達」と言うのがその証拠!

と拗ねたフリをして見せるスージー。


ねぇ!ねぇったら!それよりBJ!
今日のは当たりでしょ?
ブラウン・ジョン!
どう?良い線!? アハハハハ!

キャシー...
それじゃあ姓と名があべこべな人みたいじゃないか
ジョンブラウンという偉人の名があるだろうが...


そう言うとキャシーはお得意の見事な『テヘペロ』ウィンクを見せてくれる。

おぃおい!
なんだよ2人してBJ、BJってよぉ!
俺には連れねぇじゃねぇかぁ!
酌くらいしてくれたってバチはあたらねぇぜ!


ベック、あなたは毎日毎日ウチで飲み過ぎです
バーテン、
Mr.BJにソルティドッグをウォッカ9割でお願い
あちらの方にはチェイサーをお待ちして... 

ベッカーを軽くあしらいつつ、BJがあまり酒に強くない事を知っての小意地悪オーダーを手際よくこなすスージー。

おいスージー勘弁してくれえ、そりゃもうソルティドッグじゃない、『塩がついたただのウォッカ』だ...

苦笑いのBJ。

アハハハ!
ベックはもうヘロヘロじゃない!
まだアタシ達が来たばっかりよ!?
BJを見習いなさいよ〜アハハハハ!

う〜るせぇ!小娘がぁ...
BJが飲んでるのはなぁ
ジンジャーエールみたいなもんなんだよ!
だいたいスージー!
俺だってBJと一緒の客だってのによぉ
毎度なんだその態度の違いはぁ!
わかったぞぉ、逆に俺を誘ってるなぁ!?


ベック?
あなた
私と一晩50$の娼婦の見分けがつかないほど泥酔のご様子ねっ
バーテン!チェイサーではなくもうチェックにして差し上げて... 


アハハハ!
スージーはベッカーにキツすぎで笑っちゃうわ!元気出して〜ベッカ〜 
アハハハハ!


注意がそれた隙にBJはオーダーをし直す。

ああバーテン...
さっきの無茶なマティーニは取り消しだ
代わりにソフトのベリーソーダを頼む
2人には、そうだな....
2人がいつも飲んでるのをやってくれ...

そんなよくあるやり取り

今夜も

いつもの仕事話ついでの平穏な夜が過ぎてゆく。


と、思いきや。


ベッカーの携帯が鳴り響く。

『21世紀宇宙の旅テーマソング♪』

冗談みたいな着信音

それに毎回大笑いのキャシー

それを毎回黙らせるスージー

それに応答するベッカー


あぃあい、俺だぁ...

...なに!

そりゃ確かか?

何!明日だと!?
そりゃ日付変更直後の「明日」って意味か!?
....
それだって間に合うわきゃねぇだろぉ

追加ではずむだぁ!?

おまえ!支払い相手がいなくなる事前提で言ってやがるだろぉ!

いくら足止めだけってもなぁ...

(チラチラとBJの方へ視線をやる)

まぁ宛がいねえ事もねぇが、気分屋だからなぁ

とにかく、こっちはあまり宛にするな!

わかった、そっちも気をつけろ

その短時間の通話の間に酔っ払いの口調が急に真剣な声に変わり
ヘベレケだった表情はサングラス越しでもシラフに戻ってることがわかる。

察しの良いスージーは
バーテンが遅いわ
などと言いながら
キャシーの腕を取り引きずるように席を立つ。


ずいぶんと忙しそうだなあベッカー、急用か?


お前さんなら一週間前のローマ市街の事件、
わかるよなぁ?

あぁ、マスコミの報道では竜巻がローマ市街の一画を襲ったなどと言ってるアレか、
もうネットじゃ当時の街頭カメラの映像が出回って「チープな隠蔽」などと炎上騒ぎだがな
あれ、「あの女」だろ...


「その女」がここにくる...
ペンタゴンに潜ってる奴からの情報だ間違いない

少し困った表情を見せながらBJは聞く。
...いつだ?

衛星カメラが彼女の米国入りを
23分前に旧ケネディ国際空港にて確認した
行き先はNYとの情報で間違いないらしい
ここマンハッタン上陸は時間の問題だ...

数秒の沈黙を挟みBJが応える。

...そいつぁ、まずいなあ
目的はいつものショッピングか?

だろうなぁ、パターンからしてそうだ
事態の収集にはグリーンベレーがあたるそうだが

奴の気分次第じゃいくら精鋭部隊かき集めたところであまり意味がねぇ

そこでだ、おまえさん
ここは一つ米国政府に貸しを作る気はねぇか?

BJは即答する。

断る
例えこの前のバチカンの三倍出されても御免だ、今は..あの女とやり合うのは無理だ、
ずらからせてもらうぜ。

まてそう早まるなぁ
そりゃあ命あっての物種だぁ
なにもおまえさんと奴に直接対決やってくれてんじゃねぇんだ、
軍の防衛線などやっこさんがその気になりゃ数分ともたねぇ、
今からじゃ非難勧告も到底間に合わん、
それに彼女が必ずしも暴れるとも限らねぇ、
用は万が一の時、時間稼ぎをして欲しいだけなんだ。


BJは少し考え答える

... 、悪いが断る...


一旦席を外した二人がトレイにドリンクのせ戻って来た。

まったく...
ウェイターが遅いから私が持って参りましたわ

悪いねスージー、ありがとう

ベリーソーダを受け取ると、
何やらルーレットエリアの方から騒がしい声が聞こえる。


おい!ディーラー!
イカサマなんじゃねぇのかぁおい!?
ったくやってらんねぇぜ小馬鹿にしやがって!
俺等を誰だと思ってんだ!あぁ!?

そうけたたましく騒ぎ立て
椅子などを蹴り騒ぎ立てる連中が目に止まる
6人程といった所か。

横目でその様子を見ていたBJがソーダを飲みながら呟く。


今日は随分と元気の良い客がいるんだなぁ?

ため息をつくスージー。

ここ最近でルイーダのファミリーに入ったマフィアの一派よ
ルイーダはまだ認めてないようだけど...
彼等のボスが最近ウチのオーナーと利権の話をしててね
その下っ端達は来る度難癖つけてはあの騒ぎ...
なんだいオーナーの野郎ぅ
今日は連れねぇと思ったら...
このあと来客があるって俺を追い出したのはこのことだったのかよ!

ベッカーは不機嫌そうにジンを煽った。


尚も収まらぬマフィア達。

本当にイカサマじゃねえかどうか
おまえのタマに聞いてみるかぁ?

ディーラーに銃をチラつかせる。

キャシーがその様子を見て不満を垂らす。

ホンっト!アイツらウザい!
ウチの子達のお尻触りまくってくるし
センスない香水ベットリで臭いし!

あ!ヤバっこっち見た!アハハハハ!


キャシー
あなたの声が大きいからです
それにしても、今日は少しやりすぎね...

スージーはピアスについたインカムに話しかける。

アレックス、ジョシュ
お客様の『介抱』の準備をしておいて
『相当酔ってる』ご様子よ
念のため私のも...


マフィアの下っ端御一行がルーレットにシラけ
バーラウンジの方へ向かって来る。

その中で一番騒いでた大柄な男を先頭に取り巻きを連れソファ席に来る。

興醒めしたがこっちにもイイ女がいるじゃねぇか
...なんだぁ?
おい見ろよ!
ハロウィンにゃ季節はずれのピエロがいるぜぇ!それともサーカスから抜け出してサボり中ってかぁ!?笑わせやがる!

取り巻き達は大爆笑。

BJはあまり意に解さない様子で答える。

まあそんなトコだな、息抜きにジュースを飲みに来てるだけだ

マフィア達は尚も食ってかかる。

おいおい?聞いたかぁ?
ジュースだとよぉ!笑わせやがる
おまえら此処がどこだかこのハロウィン坊やに教えてやってくれぇ!
ママがジュース作って待ってるぜ?
早いとこ失せなぁ!

腹を抱えて笑い出すマフィア達。

帽子を深く被り苦笑いをするベッカー。

キャシーは天然なのか、
空気が読めないのか、ニヤニヤしている。

なぁお嬢さん方ぁ
こんな冴えねぇアロハやピエロ野郎なんかとより
俺らともっと楽しまねぇかい?


スージーがすぐさま対応する

お客様、お祭り騒ぎをご希望でしたらフロアを間違えてらしてるのでは?
ダンスクラブは1Fでございます

おぃおぃお嬢ちゃん
口を利く相手を間違えてねぇかい?
じきにこのクラブも俺達のシマになる
今ウチのボスが君達の上司とお話し中だぁ
そうなった時には俺の専属にでもなるかぁ?
ベッドの上のなぁ!へッヒャヒャッ

大笑いする取り巻き共をものともせずスージーは続ける。

このカジノフロアへいらっしゃる「人」は
皆様ボディチェックをお願いしております
先程のようなモノを持ち込んでおられるようではお客様でもなければ「人」でもございまん
生憎、当カジノのフロアレディは豚の同伴はご遠慮させていただいております...

空気を読めない子キャシー....。

アハハ!豚はひどいワ!アハハハお腹痛い!

マフィアの男はホステスにコケにされた憤りを隠せない。

「っ!このアマぁ!」

テーブルに置かれてるシャンパングラスを取り
軽口を叩くスージーへ撒き散らす。


その瞬間、
BJの目がわずかに見開き
それと同時にテーブルの反対側
マフィアの足元まで鋭利な大小様々な金属をヌルりと伸ばす。

それを即座に察するスージー。

Mr.BJ!...
お納めください...どうか

シャンパンでずぶ濡れになりながらも毅然とした態度を変えることなくBJを抑する。

アハハハ!
スージーびしょ濡れマジうける!
いっつも先輩特権振りかざしてるバチが当たったんだわ!
アハハハハハハ!

...この娘は少し空気を読んだ方いい。


BJはスージーに抑止され、テーブルの下に展開していた鋭利な金属の塊のようなモノを引き込める。


一瞬の静寂...


束の間の静寂を破ったのはバーカウンター横のスタッフルームの扉を勢いよく蹴り開けて来る二人組だった。

あーあーまったくもう見てらんねぇぜ
スージィーそろそろいいだろー?

見た目は20代半ば頃だろうか
すらりと伸びた長い足に白い肌
首まで伸びた金髪を片方だけ掻き上げた中性的な顔立ちの男
黒のスラックス、白いワイシャツに黒のベストその姿はまるでディーラーそのもの。
アレックスことアレサンドロ・ミケルセン(28)

アレックス..
あまりはしゃいでは他のお客様に迷惑です...
大丈夫ですか?スージー

そう言うともう一人の男がシャンパンに濡れたスージーにハンドタオルを渡す。

強面の外見とは裏腹に
落ち着いた声と紳士的な出立ち
身長は190程の長身に厚い胸板をした体格
ツーブロックに刈り上げられた短髪の男。
ジョシュことジョシュア・マッカーソン(32)


BJは内心、シャンパンをかけられる事まで予想してインカムで「念のため私のも」とタオルまで用意させていたのかと感心していた。

マフィアは態度の大きいアレックスに突っ掛かる。

なんだぁ?テメェら
ディーラーの分際で
口の利き方ってもんを教えてやる


取り巻きの一人が乗り出し
アレックスに掴みかかったその刹那

掴もうとした腕は素早く取られ、体をくるりと回されるとポーカーテーブルにナイフで手の甲を刺され固定された。

その痛みに悲鳴を必死に押し殺すも苦痛の声を上げずにはいられない。

客達はその光景を見るなり
忘れおそるおそる去る者
悲鳴を上げながら走り去る者
各々その場から退場する。

マフィアの取り巻き達が一斉に懐から銃を取り出し銃口を向ける。

テメェ..よくやってくれたなぁ..
舐めてんのかぁ!!


アレックスは胸元の埃を払うような素振りを見せ澄ましている。

とうとう呆れ返ったベッカーが口を開く。
おいおいもう勘弁してくれぇ...

おいこらアロハ、今更遅えぞ
てめぇらも全員尻にキスで済むと思うなよ?

さらにため息をつくベッカー。

いやなぁ、俺はアンタ方の心配を..

ベッカーが最後まで言う間もなく
手にナイフを刺された男が片方の手で懐から銃を取り出そうとしたのをジョシュは見逃さなかった。

テーブルに手を刺され固定された男は
中腰の状態のまま銃を握った手に
すかさずジョシュの体重を乗せた低めの蹴りが入る
その腕は通常曲がらない角度に折れると
見事な流れ作業で首をへし折られた。

言わんこっちゃねぇ...
呆れるベッカー。


「か、構わねえ!ぶっ殺せっ!」

激昂したマフィア達が一斉にトリガーを引く。

その怒号と共に
BJは大理石製のテーブルを蹴り上げ弾避けにすると同時にスージーとキャシーの肩を両手で片方ずつ抱えると、ソファごと後ろにひっくり返るように身を隠す。

アァァア!!アハハハハ!

こんな時でもキャシーは笑顔を絶やさ..

否、これはもはや頭のネジが緩んでいるのだろう...


テーブルとソファを盾に身を隠すBJ、スージー、キャシー
そこへ滑り込むジョシュ。


アレックスとベッカーはバーカウンター内に身を隠していた。

スージーは髪を気にしながら。

まったくびしょ濡れじゃない
ジョシュ、アレは持って来たわね?

こんな状況下で追加のタオルなど気にしている場合だろうか。

お持ちしてますスージー、どうぞ。
そう言うとジョシュは腰の後ろから取り出しスージーに手渡す。

!?

それを見たBJは少し驚いた。


飛び交う銃弾、カウンター越しからベッカーとアレックスが手と銃だけ出すように撃ち返し応戦する。

二人共そこらの素人と違いプロである。

そんな弾は当たるはずもないと知りながらも
相手が距離を詰められないよう牽制として働いていた。

おいオッサン!
あんま撃ち過ぎるなよ
予備の弾はないんだ

安心しろアレックス!
俺を誰だと思ってやがる

そう言うとベッカーは予備の弾倉をアレックスに渡すとこう告げる。

あいつら素人だが数が厄介だぁ
5人の後ろにまだ数人いやがる
俺が手前の3人をやると同時にルーレットの脇まで周りこめるか?

アレックスは笑みを見せた。

お安い御用だ

よぉし、3カウントだぁ
1と同時に飛び出していいぞぉ!
3..2..!?



ベッカーのカウントより早く事態は急展開を迎える。

大きな銃声とガラスの破裂音と共に中二階のVIPルームのガラスが割れその破片と共に大きな椅子と男の死体が降って来て粉煙が立ち込める。


「な、なんだ!?」
突然の展開に驚くマフィア達



どぉやら『過激な交渉』で話しはついたみてぇだなぁ
オーナーも歳だってのに相変わらずだぁ
テメエの店で派手にやりやがる...

にんまりと笑顔を見せるベッカー。

マフィア達の銃撃が止む。


粉煙が薄くなって行くとようやく自分達のボスだと気付く。

....

「!っ、ボスっ!」


やがて粉煙が晴れてゆく
その死体の後ろに人影が見えてくる
青いドレスの女が長い鞭を垂らし、立っていた。 



どうやらオーナーもあなた方のボスは気に召さなかったみたいね
さ・て、この荒れ用...
弁償は当たり前ですが?
あなた方にも教育を施すべきだと私は考えます..


「念のため私の」ソレが彼女の手に握られていた。

どうにでもなれと言わんばかりのマフィア達。

「こうなりゃ関係ねえ!全員ぶっ殺せっ!」

再び銃口を向けトリガーを引かんとするその瞬間、
スージーは素早く片足を伸ばし低く構えると同時に鞭を振り下ろす。

長くしなったその鞭は一度地面を物凄い速度で跳ね上げると
その勢いで瞬く間に目の前のマフィア二人の手首を正確に粉砕した。

鞭の先には鉛の分銅が付いており
しなる勢いと遠心力から打ち出されるソレは
人体の骨に当たろうものなら粉砕骨折は必須。



アァアハハハハ!!

聞き覚えのある笑い声と共に大きなテーブルが奥のマフィアめがけて宙を舞う。

大人の男が二人がかりで運ぶのがやっとの重量のテーブルである。



マフィアはありえない光景を目の当たりにした。


赤いドレスの女がそれを軽々と投げつけると同時に勢い良く走ってくる。

彼女の体の二回りはあろう巨漢のマフィアに
駆ける勢いのまま真っすぐ蹴りを入れ壁へ叩きつけた直後
その横にいた男の首を掴み床へと叩きつけた。

同伴ん〜?
残念でしたァ!閉店でぇーす!
尚アフターはお断りしまぁーす!
アハハハハハハハ!

一方BJは倒れたソファの裏に座ったまま
転がってきたコーラの瓶を開け飲んでいた。

胸ポケットから煙草を取り出し火をつけると
隣りの巨漢に話しかける。

なぁ、ジョシュ...
彼女達...いつもああなのか?

Mr.BJは初めてでしたか
ああなった彼女達は...
私共でも手をつけられません...

肝の座った子達だとは思ってたがまさかここまでとはねえ、ははは
俺の故郷に伝わる昔話に出てくる怪物にそっくりだ、「赤鬼と青鬼」ってね...

そう薄ら笑みをこぼすBJ。

スージーは近い残りのマフィアの首に鞭の先を巻き付けると
柱を滑車のように基点とし
後ろを向き体重を乗せ引っ張り上げると
首ごと顔面を柱に叩きつけられ地べたに叩き伏せる。


残るは後方に残る二人

一人はキャシーに向けて銃を乱射する。

キャシーは咄嗟にそれをかわすと同時に
近くに倒れているルーレットテーブルを掴むとそのままそれを盾に大笑いしながら突っ込んで行きテーブルごとマフィアの1人を床に叩きつけた。

その狂気染みた二人を目の前にした最後の一人は非常階段から逃亡していた。


まったくとんでもないお嬢様方だ...

BJがコーラの瓶を片手に散々としたフロアを見て回る。

あーあーこりゃまたオーナーにドヤされるぜ...

髪を掻き上げながら面倒くさそうに呟くアレックス。

スージー、キャシー、お二人共お怪我は?

変わらず落ち着いた様子のジョシュ。

あるわけがない。

心配ならこいつらにしてやれぇ
まぁ首から頭蓋からめちゃくちゃだな
こりゃダメだ、怪物女共めっ...

そう言いながらカウンター内の残った酒瓶を開けどさくさにまぎれタダ酒を食らうベッカー。

このツケの清算が困りましたわね
こいつ達はルイーダファミリーですが
これはルイーダ本人の意図ではないでしょう
このクラブも彼とは長年の付き合いですもの
そしてこの一味のボスはこの有様、請求先がないわね、自腹になるのかしら...

さすがの古株ホステスのスージーは「会計」を気にしていた。


カハっ、ゲホっ!

マフィア一味の一番騒ぎ立てていた男にかろうじて息があった。


コートを揺らし煙草をふかしながら
コーラ瓶をぶらぶらさせ
BJが倒れてる男の顔の前に立ち見下ろす。

手首から先は原形を止めない程に複雑に骨が折れており脇腹にも例の鞭を食らったのだろう、
肋骨が飛び出していた。

BJがその虫の息の男に話しかける。

辛そうだなあ、おい
だがまあ自業自得だ
俺もまさか彼女達があんなだとは思わなかったぜ?
せめてもだ、楽にしてやる...

そう言いながら周りに見えないように腕からヌルヌルと鋭利な金属の塊を出す。


て、テメェ...
知ってるぞ、BJ、だなぁ...


複雑に折れた肋骨が肺や心臓に刺さっているのだろう、
ひゅーひゅーと息の音を上げながら続ける。

白塗りフェイスペイントに...
幾重の刃物を使う...
Blade Joker...いつか兄弟がテメェをっ..


首を刎ね介錯をした。


ふと後ろを見るとキャシーが目を丸くし口に手をあてていた。

マフィアの最後の言葉が聞こえていた。
刃物のらしきモノは見えていないはずだが...

アハ〜〜!ウっソ!今聞いちゃったぁ!
アハハ!スージー!アタシ今聞いちゃったわ!
BJの名前!アタシの勝ちネ!アハハハ!

なんですって!
キャシーあなたって人は
この後に及んでアナタはまったく...

BJがフォローするように呟く。

それもただのアダ名だ、本名じゃねえよ
気にするなスージー...

はしゃぎながら飛び跳ねるキャシー
その着地と同時に地鳴りが起きた。


!?っ、キャシー!
もう終わったのだからおよしなさい!
それともアナタ、また体重増えたわね?

エっ?エっ!?
今のアタシじゃない!
そんな増えるワケないでしょ!
スージーのバカぁ!!

ベッカーがカウンターの中から瓦礫を押し除け出てくる。

ちくしょうぉ..イテテ
そんなこんなしてるウチに
「あの女」が来ちまったじゃねぇかぁ..

その瞬間、地下にも響く轟音と共に再び大きな地鳴りが起きる。

先程の揺れより大きく中二階のVIPルームの天井とカジノフロアの天井の一部が崩れ落ちる。

一同はすぐさま非常階段を駆け上がり地上階へ出た。

そこにはかつてのダンスクラブの面影は無く
壁は所々崩れ天井が抜けており
夜空に綺麗な月が覗いていた。

エっ?エっ?ナニコレ?
アタシやってないわ!!

見れば流石にわかるわ、お黙りなさい
クラブがこれじゃ私達も廃業かしらね...


いつになく冷静にベッカーが皆に告げる。

いいか?よく聞け
おまえら「ジゼ」は知ってるな?
彼女が今夜、ここマンハッタンに来るという情報がさっき入った。
一刻も早くマンハッタンから出ろ、
事態が急過ぎて住民の避難勧告すら出せてない状況だ。

!、事態を察し驚きを隠せないジョシュ。

冗談だろー、なんでわざわざここに来んだよ...
心底面倒そうなアレックス。

ベッカーのバカ!
なーんでソレを早く言わないのよー!?

言おうとしたらオマエさんたちがドンチャカ騒ぎし出したんだよ!
いいからキャシーはスージーと一緒にマンハッタンを出ろ!今すぐにだ!
くれぐれも変な気は起こすなよ?


キャシーよく聞きなさいアレックスとジョシュも、
ハドソン川に私のクルーザーが停めてあります
橋は今頃パニックでしょうからそれで川を南下するのが一番よ

皆の落ち着きを確認するBJ。

よっこらせっと、さすが皆大丈夫そうだな...

そう言うとBJは早速その場を離れようとしていた。

BJ!おまえさんホントに手を引いちまうのか!?

冗談じゃねえ、ゴジラ退治みたいなもんだ、俺は行くぜ、
ほらよっ、その格好じゃまだ冷えるだろうが

そう言うとドレス姿の2人にコートとその中にも着てた上着を投げ渡すと
隣のビルの上へ金属のようなモノを伸ばし
ぬるぬると、それはまるで自動巻きロープにぶら下がるかのように登って行く

ビルの影の暗がりではっきりとは見えないが
何やら『黒い大きな物体』に吸い込まれるように姿を消す。

体の奥に響くような一瞬の振動と共にその大きな物体はマンハッタン上空方面へと消えて行った。


あ、ありがと、って、エっ...ナニあれ?
BJのクルマ?


どう見たらアレが車に見えるのまったく
BJ...「今夜も月が綺麗ね」...
さっ船に急ぐわよ

ベッカー、アナタは一緒にくるのか、どうするの?

やりたかねぇが俺は「ゴジラ」の情報収集だよぉ

ったくBJの野郎...



〜20分前〜

ニューヨーク 2ndアベニュー付近のとあるピザ屋

ピザ屋オーナー・フランク
「おい、ジョージ!もう看板しまっちまってくれぃ!デリバリーも今日は終いだぁ!」


「マジっすかオヤっさん!今日は早く帰れる!」


「あまえんとこ、産まれたばっかりで嫁さんも大変だろぅ、毎晩遅くまで残しちまってる上にいつも余ったピザばっかだからな、今日はこの七面鳥も持ってけぇ!」


「えええ!いいんすカ?やった〜!こんなの子供のころのクリスマス以来だよ!ありがとうオヤっさん!」


そんな閉店間際、3人組の客が店の前にやってくる

「すいませーん、今日は閉店なんですー、またのお越しを〜!」

そう言ってジョージは店のガラス戸を閉める。


「おいジョージ、
後ろでガラスを破りかねんノックをしてるグラマーな彼女は嫁さんかい?」


「え?」

ジョージが振り向くとガラスの扉越しにやたらと露出の多いセクシーな服装の女が立っていた。

「すいませ〜ん、お客さん今日は閉店なんす〜、しかしすごい格好ですねぇははは」


女は真剣な眼差しだった

「最初に言っておくわぁ、ワタシいますごくお腹が減ってるの!」

ジゼである。


「とは言われましてもね〜お客さん、もう閉店で、オーブンの火も落としちゃったんですよ〜」


「怠慢ね!ごまかしても無駄よっ!
この『すまほ』でっ!ここの閉店時間も、ここに『ぴっつぁ』ってモノがあるのも調べ済みなのよ!閉店にはまだ2時間早いこともねっ!」

ジゼは空腹のせいでかなり気がたっているようだ。


「確かに今日は少し早めの店じまいですが2時間って...オヤッさん!ネットのウチの閉店時間て間違ってたりしますー?!」

そう言いながらジョージは自分のスマホで時間とネットの店の情報を確認する。

「ほら、お客さん、時間ももうとっくに0時を回ってますしネットのウチのサイトにも閉店時間は1:00と...あ!もしかしてお客さん外国から来ました?いるんですよたまに時差ボケ気付かずに来ちゃう人が〜」

ジゼは顔を真っ赤にし足をドスンっと足踏みをする。

一度目の揺れ、震源地ニューヨーク2ndアベニュー付近、震度5を気象庁が観測した。

「ボ、ボケですって!?アンタから喰ってやろうかしら!」

ジゼは時差の事を知らなかった訳ではない、
ただ空腹のあまり頭があまり回っておらず
ただただボケと小馬鹿にされたように感じたに過ぎなかった。

その揺れに加えその女から出るオーラに驚き慌てふためくジョージ。

「お、お客さん、とりあえず落ち着いて、このピザでよければあげますんで、ね?」

ジゼの表情が少し和らぐ。

「こ、これが『にゅーよーかー御用達の ぴっつぁ』...」

一口食べるやいなや、
ジゼの表情は鬼気迫る表情へと戻り
ジョージの胸ぐらを乱暴に掴むとカウンターから引きずり降ろす。

「アンタよくもこのワタシを騙したわねっ!知ってるのよ!インスタで見たんだからっ!ぴっつぁ ってのはねえ!ミヨ〜ンとっ!こうっミヨ〜ンとチーズが伸びるんだからっ!」

余り物のピザはすっかり冷めチーズは伸びない。


「ひ、ひえぇぇえ、やめて!殴らないで!食べないで!」


先程の揺れにも微動だにせず腕を組み
そのやりとりを薄目で見ている男がいた。 

リロ・フランクリン(53)
ピザ作り一筋35年
そのこだわりから産み出される味は数々のニューヨーカーを虜にする。
尚、口ヒゲがトレードマーク。

「おいジョージ、釜に火を入れろ...」


「なっ!?オヤっさん!?」


「バカ野郎ぅ!」
「腹を減らした奴がそこにいる」
「遠路はるばる俺のピザを食べにだ」
「断る理由がねぇ...」

頑固一徹ピザ親父

久方ぶりのやり甲斐に職人魂の火がつく。

冷凍生地?んなもん食わせる訳にはいかねぇ

倉庫から寝かしてある生地を取り出すと見事な手捌きでクルクルと回し瞬く間に薄く丸いピザの生地が形取られる。

そこからさらに木の棒でクリスピーの薄さまで引き伸ばす。

薄過ぎず、そして厚くもならず。

生地の旨味がほのかに味わえる絶妙な薄さである。

ホールトマトの缶を年季の入ったハンマーで一見乱暴に叩きつける

するとどうだろうか。
見事に缶の半分だけが口を開きハンマーの釘抜きでこじ開ける。

トマトソースをたっぷり塗ったあとは特製のチーズ2種を乱雑にぶちまける

するとどうだろうか。
一見乱雑に見えたそのチーズの振りは絶妙な間隔で生地を覆っていた。

そこに自慢の自家製サラミ、ペパロニをトップする。

「お嬢ちゃん、辛いのはイケる口かい?」

その匠の技に呆気にとられていたジゼは咄嗟に答える。

「え、ええ、辛い食べ物も、好きよっ」

「よぅし..」
そう言うとハラペーニョとガーリックを生地の上で薄い輪切りにカットし散りばめていく。

200°のオーブンに入れ、待つ事10分。

炎が垣間見えるオーブンからついに匠の逸品が姿を表す。

オーブンから出したピザはスピードが命
冷めてしまっては元も子もない
素早くピザカッターで8等分に切り分ける。

「待たせたなぁお嬢ちゃん、さぁおあがり」

名物、特製リロ・フランクリンズ

小麦粉の風味をほのかに感じさせる生地を絶妙な薄さに仕上げ、トマトソース、チーズをベースにサラミ、ペパロニ、ハラペーニョ、ガーリックをトッピングする、旨さを追及した極み、
栄養バランス?無視、低カロリー?、無視。

出来立て熱々、チーズがプクプクと表面で踊る。

その出来立てのピザを目にしたジゼはまるで初めてショートケーキを目の前に出された少女の目をしていた。

「これが..ぴっつぁ!」

横でそれを見つめるジョージ
ジゼはジョージの方に目をやる

「アンタやっぱり騙してたのねっ!」

ジゼのハイヒールブーツは的確にジョージの溝落ちを射抜く。

ジョージ悶絶

出来立てのピザへ顔を向け直すと少女のつぶらな瞳に戻る。

まずは一口。

「あっ熱っ!ハフハフっふーっふーっモグリ」

!!、
一口食べればもう止まらない
ぱくぱくと次から次へ出来立てのピザを頬張る。


満足行く一仕事を終えた匠はキッチンの奥で葉巻に火をつける。

「気持ちイイ食いっぷりだぁ、アンタぁただモノじゃあねえなぁ...」


口の中一杯に広がるほのかな小麦の風味と豊かなチーズ、そして加熱されたことによりサラミとペパロニから溢れ出る肉汁にハラペーニョとガーリックが絶妙なスパイスとなってジゼの味覚と臭覚を襲う。

なんなの、コレは!?攻撃?!

その美味しさに悶絶し、うっかり足踏み。

二度目の揺れ
震源地ニューヨーク2ndアベニュー付近
震度6強を気象庁が観測。

地盤自体の揺れではなくピンポイントでの衝撃だった為被害は震源地から5km圏内に収まったと後日地質学研究家トーマス・A・ゴードン氏の見解としてチャンネル9のニュースで報じられた。

ピザ屋はほぼ全壊
しかし納得行く仕事を終えた匠は腕を組んだまま葉巻をふかしたまま
微動だにせず余韻に浸っていた。

このオヤジ、タダものではなかった...

続 

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