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#月夜

story 月夜〜追記・千編〜

story 月夜〜追記・千編〜

初めは僅かな違和感だった
夕暮れ時になると体が重く
ひどく疲れを感じた
それから時折り
咳き込むようになった
風邪でもひいたか…
そう思い
薬湯を飲み早めに休むと
翌日には和らいだ
そんな具合がしばらく
続いたある日
吐血した
千は長からの命で
隣国の動きを探っていた
戦さになるかもしれなかった
その日は里へ戻ったのが
とおに夜半を過ぎていた
露が降り冷える
また体がひどく重かった
戸口の側まで来

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story 月夜〜後編〜

story 月夜〜後編〜

これが観音様だよ
朧げな記憶の彼方で
母が言う
ふくよかな頬に
細い目をした木彫りの像は
泣いているのか
笑っているのか
幼い左伊には
分からなかった
ただ
母のようだと思った
微かに香の匂いがする
ハッとして左伊は
起き上がろうとしたが
背中に猛烈な痛みが走り
思わず声が漏れた
静かに…
すぐ横で気配がした
気配は左伊に触れた
まだ動いてはいけない…
左伊は耐えつつ気配を追った
声の主が
湿った

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story 月夜〜前編〜

story 月夜〜前編〜

左伊という男がいた
隠れ里の者で
間者だった
ある時不覚をとり
深手を負った
身を眩ますことはできたが
山沿いの沢まで逃げて
動けなくなった
これまでか…
骸を残してはならない
里の掟があった
私の骸は
いずれ里の者によって
跡形もなく消えだろう…
左伊はできるなら
自ら姿を消したかった
だが
できなかった
この期に及んで…
遠くなっていく意識の端で
必死に何かを掴もうとしている
左伊は沢の流れに

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story 月夜〜沙耶編〜

story 月夜〜沙耶編〜

薪を割る音がする
薬草摘みから帰ると
沙耶は庵の裏へとまわった
薪は小気味良い音を立てながら
辺りへと転がっていく
野良着が良く似合うている
沙耶が近づくと
左伊は手を止め
汗を拭いた
目当ての薬草は採れたか
左伊が聞くと
沙耶は籠を傾けて見せた
傷はもう良いのか
あまり無理するな
沙耶が言うと
左伊は腕を回して見せた
この通り
沙耶のお陰だ
穏やかに笑う左伊が
沙耶には眩しく感じられた
これだけ

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