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内定ブルー もしくはご無沙汰自由

1月13日,就活が終わった。

第一志望の企業。もはやガチファンになっていた社長から内定をいただいた。嬉しかった。幸せだった。毎秒プレッシャーと戦う日々がこれで終わる。心から安堵し解放感に浸った。

でもその気持ちは長くは続かなった。

選考中の企業をすべて辞退し,説明会をキャンセルし,お世話になった方々に報告を済ませて,ふっと息をついた時私の前から道が消えていた。

就活中はあんなにはっきりと見えていた,これから進むべき道がどこにもない。就活に邁進することで都合よく忘れていた自分の曖昧さが急に重くのしかかる。目線が下がり足元を見つめる。私は今どこにいるんだ。どこに行けばいいんだ。

大学生活は人生のモラトリアム期間であるという。学生と社会人の狭間で迷い,失敗しながら生き方を学んでいく期間。そして就活を通じて今までの人生を振り返り,自分の強みや価値観に適した仕事を見つけて就職していく。

就活が終わればモラトリアムも明けると思っていた。自分の今やこれからをよりクリアに,確信をもって語れるようになると。ない。そんな確信はどこにもない。就活という熱源を失った私の精神はどこにも飛べないまま地面にへばりついて息だけをしている。

マリッジブルー,という言葉がふと頭をよぎった。結婚を控えた人が,間近に迫った結婚生活に突然不安や憂鬱を覚えるというこの症状は今の私にどこか似ている。

検索した。ヒット。

私の憂鬱には「内定ブルー」という名前がついていた。

なんだ,ありふれた感情だったのか。肩の荷が降りると同時に,動かなければ,と思った。この精神の沼地は浅いが広い。早く陸地を見つけて上がらなければ足を取られて起き上がれなくなりそうだ。私はお世話になった社会人二人に尋ねた。

「大学生のうちにやっておいた方がいいことを教えてください」

できればこんな思考停止した質問はしたくなかった。私の強みはよく考えよく動くことです,と就活であんなに自信満々に答えていたのに。でも私には猶予がなかった。一刻も早くこの重たい沼から抜け出たい。お二方は親切に回答してくださった。

一人目,人事の方。「自分の興味から派生した自分磨き かな」

二人目,キャリアアドバイザーの方。「①大学生のうちにしかできないこと②社会人に向けた準備 だね」

お二人とものアドバイスに共通しているのは「自分が何をやりたいか」を大切に,ということだった。そうか,就活は自己分析,業界研究,企業分析とやることが大体決まっていたけれど,これからはどんな手段で何をやるのも自由なんだ。その選択自体に正解・不正解はなく,自分が選んだ行動に自分が納得できればそれでいいんだ。

そう考えると足取りが軽くなってきた。やりたい事?そんなのいっぱいあるよ。ラインの就活用オープンチャットで積み立てNISAの話が盛り上がっていたことがあって,気になってた。それから,やっぱりインドに行きたい。卒業までに絶対,南インドを一週間一人旅したいな。そう考えるとバイトも頑張らないとだし,サボりがちだった美容や筋トレも頑張って…。

それから一週間。私は今,積み立てNISA開設の申請を出し,楽天銀行に口座を開設し,YouTubeで資本形成について学んでいる。かと思えばインドのガイドブック片手に何月にどの地域へ行くか真剣に思いを巡らし,ケーララ州に行きたすぎて涙目になる。その傍ら数か月ぶりにバイトに入り,縮毛矯正をかけ,気まぐれにスクワットや足パカをし,そして初めてnoteというものを書いている。

この圧倒的モラトリアムをどう過ごすのが正解なのかはいまだに分からない。本当は卒論にもそろそろ着手しないといけないのだがその現実からは目をそらしている。自由というものはなかなか厄介だ。自由は決められた方向に情熱を注ぎ慣れた人を「先が見えない」という不安によって拘束する。自由は決断ができる人にしか使えないのだ。やっと気づいた。

相変わらず私の目の前には道がない。だが道がないという自由がある。自由の奴隷になるか使いこなすかは自分次第だ。私は今猫じゃらしを振って,自由のご機嫌取りをしている。まだまだ相手にはされていないけれど,せめてずっと楽しそうにしていよう。そんな私を自由が怪訝そうに見,ふっとこちらに手を伸ばしたとき,

全身で捕まえて,抱きしめて,離さない。



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