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愛の行方1


僕は東京都目黒区に産まれた。所謂お金持ちのボンボンである。
親は優しく、学校には友達がいるし、テストでは満点を連発。
テストで満点を取るとお父さんが報酬としてお金をくれた。

高校に上がると、欲しいものは一通り手に入った。
少し慢心。

テストの点数で初めて赤点をとった。
父さんは私を殴った、初めてだった。
「どうだ、悔しかったらやり返してみろ」

父さんは笑っていた。

次の日学校に行くと、隣の席の武志がその顔どうした、と心配してくれたが赤点取ったから父親に殴られたなんて言えなかった。

そしてまた赤点を取り、父さんに殴られた、父さんはこれを罰というのだ、わかったかと、また笑っていた。

次の日学校に行くと、武志は気づいた、お前、最近テストの成績悪いな、どうせゲームでもしてるんだろ、にしても、その傷、誰にやられたんだ?俺が、やり返してやろうか?


武志は空手をしていて、全国大会で優勝するほどの実力で僕の親友だ。
いや、いいよ、もしもやり返すのなら僕がやる。
お、言ったね、じゃあウチの道場に来るか?
誘われたが、まずは自力で戦いたかったので、わざと赤点を取って、対決に挑んだ。

無理だった。

次の日、武志に道場に行きたいと頼んだ、お、いいね、よし、今日の放課後な!
教えてくれるのは武志のお父さんだった。
私の父とは違い常に厳しく、失敗した時には優しい性格の人だった。

放課後に特訓する日々が続いた。

よし、もうそろそろ出てみるか、大会に


はい!と僕は今の自分ならできるという自信と共に大声で返事をした。

その大会は目黒区の地下で行われている腕試しリングという名のなんでもありの地下賭博の会場だった。

僕は、なんでもありでも、今の僕なら勝てる気がした。
武志のお父さんはそのリングのレフェリーが仕事で所謂元締めというやつだ。

お金持ちってのは色々いる。

初めての試合の相手は武志だった。
その試合はドロー。
賭けた人達はガッカリ、僕は武志が相手だったので手加減してしまった。

実は武志との約束で道場に通わせてくれる代わりに勉強を教えてあげるという条件を出していて、僕が強くなるにつれて、武志は勉強ができるようになり、空手とは距離が離れていたせいで身体がすっかり鈍っていた。

逆転。

武志と私は学力と体力が逆転し始めていた。

次の日、対戦相手は、可愛らしい女の子で、少し気が進まなかったが、打ち勝った。

その日、家に帰ると父さんはあの時にみたいに笑っていた。

少し気になったが、家でも自主練を続けた。
勉強なんて必要ない、今の僕には強さだけが必要だ。

武志は知らぬ間に学年トップの成績に、僕は学年のドベになっていた。
少し、少しだが、武志に敵意が目覚めてきた。

またリングに上がり、倒してやりたくなってきた。

よし、今日も大会に出ようと、大会に足を向けると父さんが居た。
客席で笑っていた。

そして今日の対戦相手は武志だった。
武志は「俺は別に負けてもいいから、さっさと終わらせて帰ろうぜ」と勝負に興味がなく大会に出る理由は私の父さんに頼まれたからという理由だった。

武志には恩があるし、倒すのはあまり気持ちよくないが、遠慮なく倒した。

帰ると父さんは、大儲けさせてもらったよ、また頑張ってくれよと言ってくれた。


なんだか嬉しくはなかった。

父さんを倒すために始めたのに父さんの賭博に利用させられたらと思うと父さんを憎くて堪らなかった。

次の日学校に行くといつも通り武志は仲良くしてくれて、結構強くなったじゃんもう父さん倒せるんじゃない?と軽く言ってきたが、僕にはわかっていた父さんの強さは武志を倒した程度では敵わないと。

しかし、なぜ、父さんがあの会場にいたのかが謎だった。
父さんはそういった賭け事は一切やらない人間だったし、趣味はアウトドアでよくキャンプに行っていたし、家族で行ったこともある。

気になったので父さんに聞いてみた。
父さんは
「聞きたいか?」
と怪しげな笑いを浮かべて言った。
「うん」
「本当に?」
「うん」

話してくれた。

実はゲームばかりしている僕を強くしようと、わざわざ地下賭博場を買い取り、武志の父さんに頼み、武志に道場に僕を呼ぶように頼んでいたのだった。

父さんは勉強だけではこの世の中ではうまくやっていけないことを知っていた。

だからといって武術が必要なのではなく、努力ってのは、何にだって結果をもたらしてくれること

努力をして結果がダメだったとしても、努力をしたことは消えないこと

賭博であれ、人間は戦いが好きだってこと

色々なことを教えてくれた。

僕が感じていた父さんの笑いは全部わかっている笑いだった。

続き


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