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誕生日には焼そばU.F.O.を

ボクの家は雨もりがした。

子どもの頃の話だけど。

大雨が降ると、ぽっちゃん、ぽっちゃん。雫が天井から落ちてくるので、鍋やドンブリをかき集め部屋中たくさん並べた。
中に新聞紙を突っ込み水を吸い取らせ、外に跳ねないように工夫するハイテクシステムも考案した。真っ暗な部屋で寝ていると、トントトトントン、音がPOPで、まるで陽気なラテン音楽のようで気分がアガった。

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また、
ボクの家には牛肉がなかった。

「カレーライス」は「豚肉」しか知らなかった。
CMのカレーには四角い肉が入っているから「母ちゃん、あれなんや?」と聞くと「豚の角煮や」と教えられた。

「すき焼き」は、「鶏肉」が入ってるものだと聞かされ食べていた。

「焼肉」という食べ物は、父ちゃんが時々買ってくるマトン(羊肉)を鉄板で焼いたモノだと信じていた。
大人になってから、牛肉を網で焼くことを知った。叙々苑では美味しすぎて腰が抜けた。

牛肉はシオツマ家には存在しなかった。
言っておくけど、インドではない。

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ボクん家は中流あたりだったと思う。でも、今思えば育ち盛りの悪ガキ3人息子だから、家財を食い尽くしかねない。親はさぞ大変だったのだろう。

だから感謝している。やっぱりボクには家の晩ごはんが最高のご馳走だった。神だ。
慎ましいけどとても幸せだった。

そんなシオツマ家では、恒例のお約束があった。
家族の誕生日には、主役のリクエストしたメニューが晩ごはんになる。それを家族みんなで一緒に食べるのだ。ハンバーグでもオムライスでもなんでもいい。

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ある年のボクの誕生日のこと。
母ちゃんが尋ねた。

「シオツマ、今晩、何食べたいん?」

ボクは、満面の笑みで答えた。

「焼そばUFO、2つ食べたい!」


ボクの家では、焼そばUFOは、あくまでごはんのオカズ。
あの濃いソースが香る麺を少し口に含んで、熱々の白い飯をいっぱいかきこむ。
なぜゴハンをって?でなきゃ、お腹いっぱいにならないから。いつもそれだけで幸せだった。

だけど…

一度でいい、
一度でいいから、ごはん無しでUFOを2つ、腹いっぱい食べてみたかった。
そんな貴族のような贅沢をしてみたかったのだ。

母ちゃんは少し驚いて、「あんた…ほんま?」

ボク「ほんま。」

母ちゃんは「はいよ。」とだけ答えた。

そして、その晩…、

小さなコタツに
焼そばUFO、14個がズラリ。


じいちゃんと、ばあちゃんと、
父ちゃんと、母ちゃん、
兄ちゃんと弟。
7人家族全員で焼そばUFOを2個づつ食べた。

みんな、笑顔で祝ってくれた。

「美味しいなあ」
と濃厚ソース麺を口いっぱいに頬張りながら、
「これだけUFO飛んできたら地球を侵略してまうで。」
と誰かが言って、みんな笑った。


最高の夜だった。


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