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ブルックナーの交響曲第3番を鑑賞(作品予習&生演奏の感想)|アムステルダム音楽旅

最近の私の鑑賞傾向はオペラ、歌曲、宗教曲などのテキスト付き作品に偏っている。テキスト付き作品は楽しい。文字という強力なサポートのお陰で、ますます妄想力に磨きがかかり、作品の世界に浸りやすい(笑) 作品を通して新しい単語やフレーズを知ることができるので語学力がアップしたような気分にもなる。お得だ!(笑) そろそろクラシック音楽鑑賞を始めたいと思っている語学好きの人は、器楽曲よりテキスト付きの作品からスタートすると良い。

というわけで、最近はクラシック音楽の王道であるオーケストラ作品、特に交響曲に少し苦手意識を持ってしまっている。今回の旅ではブルックナーとベートーヴェンの交響曲を鑑賞。ヨーロッパ旅行中に鑑賞できる作品は「ここで出会ったのも何かのご縁」の方針で鑑賞すべし。遠ざかっていく交響曲と再会する良い機会となった。


作品予習|ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、指揮ヘルベルト・ブロムシュテット

ブルックナーと言えば交響曲第7番が私の1番好きな作品。11年前のウィーン旅で、シュターツカペレ・ベルリン(ダニエル・バレンボイム指揮)で鑑賞した思い出の作品だ。全楽章それぞれ魅力的だから全部好き。わざわざ事前予習してヨーロッパまで行って鑑賞した作品は印象に強く残る。だから、わざわざヨーロッパまで音楽鑑賞に行くことには価値がある。(泣きたいほどの円安であっても!)

しかし、なんと、交響曲第7番以外は、ほとんどブルックナー作品を知らない!ほぼ初心者なのだ!

今回鑑賞することになった交響曲第3番は、私の記憶が間違っていなければ、一応、生演奏を鑑賞したことはある。クラシック音楽鑑賞1年目だった2008年に東京都交響楽団の公演で聴いたと思う。指揮者の小泉和裕が都響の何らかのポジション(都響首席指揮者?)に就任するときの記念公演だったと記憶している。クラシック超初心者だった私の目当てはブルックナーではなく、リストのピアノ協奏曲を弾いた当時20歳ぐらいだったアリス=紗良・オットだったのだが、後半プログラムの渾身のブルックナー交響曲「ワーグナー」(交響曲第3番の通称)にも感動した。よく知らないが凄い曲だと思った。ただし、当時はコンサート鑑賞前に予習する習慣はなく、鑑賞後も特に深追いはしなかった。

15年の時を経て再びブルックナーの交響曲第3番に挑む。

予習音源として、ベルリンフィルのデジタルコンサートホールにある2017年12月の演奏を利用した。指揮はヘルベルト・ブロムシュテット。版は何と初稿(1873年版)。このブルックナーにおける「版」というのが、そもそも交響曲が苦手な鑑賞者としては面倒だ。解説を読んでも、それぞれを数回聴いても、よく分からない。私の頭が悪いからなのかもしれない。個人的には「版」の違いにはあまり興味ない。今回は、演奏が珍しい初稿の演奏であるこの動画のみを繰り返し聴くことで、これをデフォルトとして頭にインプットすることにほぼ?成功したように思う。デジタルコンサートホールの抜粋版がYouTubeにあるので掲載する。

演奏動画そのものだけでなく、デジタルコンサートホールのサイトに無料で公開されているブロムシュテットのインタビュー動画が非常に参考になった。

インタビューから面白いと思った情報を抜粋する。

  • 3番のスコア(総譜)は280ページ!ブルックナーの交響曲の中で飛び抜けて長い。しかし、演奏時間は60分ぐらいで、最長というわけではない。演奏時間が長いのではなく、音の数が多いということ(だから楽譜が黒インクだらけ!)。

  • 初演(第2稿1877年版)は最悪だった。指揮するはずだった友人は亡くなり、代わりにブルックナー自身が指揮したが、ブルックナーは指揮の経験がほとんどなかった。終演時はほとんど客が残っていなかった。その少ない残った客の中に若きグスタフ・マーラーがいた。当時マーラーは17歳だった。(ブロムシュテットはドイツ語で「14歳」と言っているが、英訳は17歳となっている。マーラーは1860年生まれなので17歳が正しい。ひょっとしたら、ブロムシュテットは初演の演奏で使われたスコアは初稿のものだったと勘違いしているのでは?初稿が1873年の最後の日に完成したから1874年に演奏されて、マーラーは14歳と思ったのかも。)

  • 若きマーラーは初演に向けた4手ピアノ版の編曲を手伝った。まだティーンネイジャーだったマーラーはこの音楽をよく理解して演奏に感動できる若者だった。後年、ブルックナーがこの「長すぎる」と言われる当作品を短縮しようとした時「最初のでパーフェクトなんだから、短くするなんてダメですよ!」と言ったとか。

  • 第3楽章スケルツォは短い。最初のタカタカ音は子供のおもちゃでカチャカチャ音を立てているみたいだ。あるいは鍋の中に棒を入れてクルクル掻き回している音のようだ。

第1楽章の冒頭のトランペットのパートを大熱唱し、第2楽章のヴァイオリンとヴィオラの美しい掛け合いも歌ってしまう、インタビュー&演奏当時90歳のブロムシュテット。第4楽章の金管パートも歌いまくってインタビューは終了する(笑)  熱唱しながら作品を解説する動画が好きだ。ブロムシュテットの他、ロイヤルオペラハウスのYouTubeチャンネルでアントニオ・パッパーノもよくオペラの解説で歌いまくっている(笑)

若き日のマーラーが最後まで残った客の中にいたこと、4手ピアノ連弾版の編曲に携わったことはWikipediaにも書かれているが、Wikipediaを読んでも頭に残らないことが、巨匠のインタビュー動画なら記憶に残る。不思議だ。(ブロムシュテットの熱唱が頭から離れないww)

さて、ブロムシュテット指揮ベルリンフィルハーモニー管弦楽団の「初稿」演奏をしっかり頭にインプットした私は意気揚々アムステルダム行きの飛行機に乗った。KLMの機内エンターテイメントの中にティーレマン指揮ウィーンフィルハーモニー管弦楽団によるブルックナー交響曲第3番が入っていたので、予習の仕上げとして聴いてみた。衝撃だ!超スローではないか・・・

生演奏|ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、指揮イヴァン・フィッシャー

Het Concertgebouw | 2023年12月 | 筆者撮影

2023年12月17日
Het Concertgebouw
Concertgebouworkest
Iván Fischer, conductor
Bruckner
Symphony No. 3 in d minor

私の席は前から2列目の中央。指揮者イヴァン・フィッシャーまで直線距離で3メートルもない。フィッシャーさんファンなら失神するかもしれない至近距離である。

私の席から撮影 | Het Concertgebouw | 2023年12月 | 筆者撮影

速攻演奏が始まりそうな雰囲気だったのに、突然フィッシャーさんが指揮台からトークを開始。想定外だ。オランダ語で。涙!誰か訳して〜!音楽に言葉の壁はないと言う人もいるが、実際は壁だらけだ。

5分あるいは10分ほど喋ったのではないだろうか(理解できないので長く感じたのかもしれないが)。予習編で紹介したブロムシュテットのインタビューは18分(通常のベルリンフィルインタビューの中では長い)。ブルックナー3番は指揮者が演奏前に長く語りたくなる作品ということなのかもしれない。

フィッシャーのトークで聞き取れた言葉の中に以下のドイツ語と似た言葉があった。

  • viel langsamer (これまでより更に遅く)、junger(若い)、alle(全て)、warum(なぜ)

ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団では、ブルックナー交響曲のチクルスを開始する。その第1回目が今回の3番。2024年はブルックナー生誕200年だ。それに気づいたのは、ついさっき(笑) 今後日本国内で何を聴こうかなと思ってコンサート検索してみたら、ブルックナー作品が多い。よく見たら「生誕200年」と書いてある。コンセルトヘボウの情報には生誕200年については特に記載がなかった。いや、あったかもしれないが気づかなかった。記念イヤーを大々的にアピールするのは日本ならではなのか?

フィッシャーはおそらく、これから始まるブルックナーチクルスにあたり、ブルックナーの全交響曲の中での3番について説明したのではと考える。しかし、オンラインプログラム(オランダ語のみ→Google翻訳で英訳して読んだ)に掲載されたフィッシャーの言葉には「遅く」や「若い」の単語は出てこない。

ふと思い出したのは、飛行機内で聴いたゆっくりテンポのティーレマン指揮のブルックナー3番のこと。私が参考音源にしたブロムシュテット(演奏当時90歳)の演奏の方がスピード感がある。若い指揮者の方がスローに演奏したがると言うことをフィッシャーは言ったのか?あるいは、何やらスマホをいじる動作を見せていたので、スマホいじりに忙しい現代の若い聴衆に対して、もっとゆったり落ち着いて物事と向き合えとか、何かメッセージを伝えたのだろうか?いずれもオランダ語がわからない私の想像に過ぎない。

客ウケは良かった。何度か笑いが起きた。ああ、言葉がわからないなんて虚しい。悔しい。気軽なメッセージかもしれないが、重要なメッセージかもしれない。私にはわからない。外国語を瞬時に訳す便利なアプリがあっても、このような場面で突然始まったトークに対して、慌ててアプリを取り出して解読するのはハードルが高い。(録音していると勘違いされて係員が飛んでくるかもしれない。)もし、この公演を聴かれた方で、オランダ語が得意な日本の方がいらっしゃったら、フィッシャーさんのトーク内容をぜひ教えていただきたい。

フィッシャーの演奏は、私の中でデフォルトになったブロムシュテットの演奏より遅かった。初稿ではないと思ったが、第2稿か第3稿かは分からない。どこにも記載されていない。

前から2列目の中央で聴くド迫力に大興奮!このホールの残響はまるで石造りの教会の建物のようにグワンと鳴る!金管の目立つメロディーも大音量で味わう。抜群の響きに酔いしれる。コンセルトヘボウは天井が高いと思う。長方形だが正方形に近い。天井は高いが床面積がとてつもなく広いと言うわけではないからこそ実現できる音響なのではと思う。座席数は約2,000席。

さて、休憩なしの公演では、演奏後にもドリンクが振る舞われる。粋なサービスに感謝。最高の気分で赤ワインをさっと手に取った。鑑賞後の熱気あふれるお客さんに囲まれて味わう、快演直後の1杯はやはり格別だ!

Het Concertgebouw | 2023年12月 | 筆者撮影

6年ぶりのアムステルダム音楽旅。前回はそれほど感じなかったのだが、意外と若い人も多いと感じた。この公演が日曜午後だったからかもしれない。家族連れやカップルが多かった(日本では自分も含めお一人様だらけ)。カラフルでお洒落な格好でコンサートに来るところは、さすが数々の有名な美術館を誇るオランダ。

そして、オランダといえば、相変わらず拍手が効率的だ(笑) みんな一斉に勢いよくスタンディング。割れんばかりの拍手を一定時間続けたら、さっと終了(笑) 何度も何度も何度もカーテンコールしない。

Het Concertgebouw | 2023年12月 | 筆者撮影

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