昨日は奈良で、今日は大阪。山のちJFL in 秋の関西!
夜行バスは早朝の京都駅八条口へと到着した。この時間から営業している駅前のなか卯に心を動かされながらも、ここから更に近鉄電車へと乗り換える。
向かう先は、奈良だ。
この日、私の応援する東京武蔵野ユナイテッドFCは敵地で奈良クラブと対戦を控えていた。久々のアウェイ遠征に、否が応でもテンションが上がっていく。
奈良観光は朝が勝負だ。
奈良に遠征に行く方がいたら、ぜひ早起きをして早朝から街へ繰り出してみてほしい。寺社仏閣の多い奈良は、朝から観光できる見所が多いからだ。眠そうな顔をしたシカが「俺らはまだ営業時間外だぜ」とでも言いたそうにこっちを見ているのもなんとも趣深い。
私が真っ先に向かったのは、東大寺の大仏殿だ。大仏好きの私ではあるが、恥ずかしながら東大寺に向かうのは今回が初めて。大仏界の超大物。大仏殿へ近づくだけで、胸が高鳴る。
大仏殿に入り、初めて見るそのお顔。まるで私が訪れることを待ってくれていたかのような暖かな表情。思わず息を呑み、目を閉じ、手を合わせる。
普段は観光客で人だかりになっているであろう大仏様も、朝一番だったからか人はほとんどいない。国宝を独り占めだ。人目を気にせずさまざまな角度から優しいご尊顔を眺めていると、こちらまでゆったりとした気持ちになってくる。この感動体験がたった600円で味わえるとは、あまりにも慈悲深い。さすが社会情勢の安定のために建造された盧遮那仏。奈良時代の方々に深く感謝をしたい。
次に、趣向を変えて奈良県庁舎へと向かう。和の雰囲気の強い奈良公園周辺にあって、コンクリートを基調としたモダニズム建築は一際異彩を放っている。
内部に入ることはできないが、建築を外から眺めることは朝でももちろん可能だ。中庭が広いのは設計コンセプトに仏教寺院のような伽藍構造がイメージされているらしく、正面以外から建築を眺めるとまた違った見え方になるのも面白い。
改めて写真で建物を眺めてみると、建物の上部の六角形は目と鼻に見えてはこないだろうか。さらに角があり、なんとなく鹿の顔にも見えてくる。もし意図しているのだとしたら、なかなかユーモアセンスのある建築家だ。ちなみにこの県庁を設計したのは片山光生氏。旧国立競技場の設計でも知られている。
せっかくなので、もう一つ奈良の建築物を紹介したい。それはJR奈良駅旧駅舎だ。昭和9年に完成し、駅が高架化される直前の2003年まで現役だったものだ。実際に利用したことのある方も多いのではではないだろうか。
JR奈良駅の現駅舎を出てすぐのところに移設されている。左右対称なデザインに、中央に建てられた仏塔のような突起が可愛らしい。古都らしく寺社建築のようにも見えるが、どことなく西洋のエッセンスも感じるところが味わい深い。内部は観光案内所とスターバックスコーヒーに生まれ変わり、装いも新たに旅行者等を迎え入れる場所となっている。建築に興味のない人でも、コーヒーを買いに行きがてら訪れてみてはいかがだろうか。
奈良の街中で楽しむ、お手軽な山のちサッカー。
世界遺産の神社、春日大社で参拝を済ませたら、早速山登りへ。神社も山も、どちらも朝早くが気持ちがいい。神社でのお祈りした内容は、もちろん勝点3だ。
奈良の市街地程近くに聳える若草山は標高342m。東京タワーとほぼ同じ高さで、それほど高い山ではない。しかし、登山家は山の高さで挑戦するかどうかを選ぶわけではない。そこに山があるから登るのだ!
入山料150円を払い、登山を始める。どうやら朝9時から出ないと登山はできないようだ。
下から見るとなだらかですぐに山頂まで辿りつけそうだが、山は三重になっているので、見た目以上に山頂までは距離がある。だれでも楽しみながら登ることができる難易度ではあるが、舐めてかかると急な上り坂もあって侮れない。
一重目、二重目の山頂に騙されながら、少しずつ登っていく。紅葉にはまだ早いが、青空と草木のコントラストが美しい。汗ばむ陽気の中を登っていくと、30分ほどで山頂へと到着した。
この山の特徴は、なんといっても眺望の良さだ。各山頂まで到着して街の方へと視線を移せば、奈良の市街地街が一望できる。先ほどみた市役所も、ここから見るとまた面白い。
標高はそれほど高くないが、周りに高い建造物がないため遠くまで見渡すことができる。上空から眺める古都はまた新鮮だ。地図と見比べながら、これから向かうロートフィールド奈良がどこにあるかを探してみる。奈良駅からそれほど離れていないはずなのだが、土地勘がなくてわからずじまいだった。残念。
奈良の市街地の向こう側には、生駒山地が広がっている。山々は南北方向に延びていて、尾根伝いに大阪府と奈良県との県境を形成している。ざっくりといえばここから見えている範囲は奈良県で、山の向こう側には大阪の街が広がっているのだろう。
大仏に建築に山。奈良といえば寺社仏閣の印象が強いが、切り口を変えればさまざまな観光ができるのだ。
そう、そしてシカもいる。君も山を登ってきたのだろうか。
既に満腹に近いほどいろいろと観光を詰め込んだので、そろそろスタジアムへと向かう。あとは、試合に勝利できれば最高だ。大丈夫。さっき寺で祈って徳を積んだんだから。
そう息巻いてロートフィールド奈良へと向かったのだが、神頼みで試合に勝てるほど甘くはない。試合は1−2。クロス性のシュートがそのままゴールに吸い込まれて先制するも、後半に痛恨の2失点。痛すぎる逆転負けを喫してしまった。
大仏パワーや神通力をフル活用しても、勝てないのがサッカーだ。空は快晴だが、下位対決に敗れた武蔵野の頭上には、残留に向けて暗雲が立ち込めているように思えた。
山は準備が肝心だ。
奈良戦の逆転負けはショックだった。逆転負けほど心にくるものはない。切り替えて次の試合に目を向けようにも、次節の相手は昇格1年目ながら上位を走るFC TIAMO 枚方だ。
枚方にはネームバリューのあるメンバーが多い。監督は元名古屋の小川佳純、選手には元大宮のFWチョ・ヨンチョルや元セレッソ大阪の井上翔太といった元Jリーガーを多数擁している。序盤からJ3参入の条件となる4位以内をキープし、今年のJFLの台風の目の一つとなっている。6月に行われたアウェイ戦は残念ながら無観客試合で遠征することはできなかったが、3-1というスコアで敗戦していた。
次の試合も厳しそうだなあ。そう考えていると、このマガジンの広報担当とよださんから連絡が入っていた。
「さかまきさん、明日枚方と刈谷の試合見ない?」
私が関西へと訪れていることを知り、声をかけてくれたようだ。聞けば13時キックオフ、場所は枚方陸上競技場。枚方の試合は初めて生で見るし、対戦相手の刈谷は残留争いのライバル。これは、偵察の意味でも見に行ったら面白そうだ。
「行きます!」
そう即答すると、今度はルートを検索する。奈良駅から競技場までは電車とバスで1時間ほどの距離だ。しかし、これでは面白くない。せっかく関西に来ているのだ。もっと関西の山を楽しまなければ来た意味は半減してしまう。奈良・大阪近辺で登山したい山に登ってから、スタジアムへと向かうのだ。
関西の山についての知識はほどんどない、しかし、一つ気になっている山がある。
それが、生駒山だ。先程若草山からの写真に写っていた山だ。標高でいえば600m程度ではあるが、奈良県と大阪府との県境として横たわっている。高さ的には十分登れる高さだ。
これはうまくやれば、山のちサッカーができるかもしれない。
さらに調べると、南北に長い生駒山地には長い自然歩道があり、縦走が人気のようだ。市街地から近くアクセスが良いのもうれしいところだ。長短様々なコースがあるが、一番長いコースだと、ちょうど北側のゴールは枚方市内になるとのこと。
これは、本格的に山のちサッカーの気配がしてきた。
時間と距離の兼ね合いから、今回は近鉄生駒駅からスタートして生駒山へと登り、そこから北上して交野市駅まで向かうことにする。およそ30kmのルートだ。自分の体力を考えれば、少々厳しいがやれないことはないはずだ。
そうと決まれば話は早い。前代未聞の二日連続山とサッカーが始まろうとしている。
階段ダッシュトレーニング!急登の生駒山。
朝5時に起床。ハイカーの朝は早い。ランニングウェアに着替えて、宿をチェックアウトする。10月上旬といえども、明け方に薄着でいるのは肌寒い。地下から発車する近鉄線に乗り込み、目指すのは山のふもとだ。
近鉄奈良駅から生駒駅までは20分ほどで到着した。特急も停車する、近鉄奈良線の主要駅だ。ホームで乗ってきた列車を見送る。進行方向に目をやれば、駅のすぐ先にはトンネルが口を開けて待っている。ガタゴトと音を立ててトンネルへと吸い込まれて行った列車は、大阪へと向かう。
列車に乗ればものの10分足らずで向こう側へと行ける。さらに、山へ行くなら生駒駅からは山頂までロープウェイもある。
しかし、私は敢えて厳しい道を行く。自分の足で、大阪へと向かうのだ。
駅を出てあたりを見渡すと、ベッドタウンなのだろうか登山のスタートとは思えないほど商店街と住宅地が広がっている。生駒山の標高は660m。GPSを搭載した時計によると、駅前の標高は150mほどのようだ。山頂までの道のりは約3km。1kmにつき50mほど登ることになる。身体が冷える前に走り出そう。
登山といっても、初めのうちは階段だ。人通りの少ない商店街を抜け、住宅街の中を一足飛びに走っていく。この辺りに住んでいる人は、駅までいくのも大変だろう。
部活のトレーニングを思い出すような階段ダッシュで息が上がる。休憩がてら振り返ると、既に駅も街も小さく小さくなっている。想像以上に高い場所まで住宅街が広がっているんだなと実感する。
一つ目のロープウェイの駅を過ぎると、神社が見える。休憩がてらお参りをして、安全を祈願。ロープウェイ沿いの道で上を眺めると、ここから先もかなりの上り坂のようだ。
道も舗装が減り本格的な山道だ。さて、ここからが本番。気を引き締めて足を運んでいく。
山の上には何がある?
生駒山の山頂が近づいてくる。しかし、普通の山とはちょっと雰囲気が違うのだ。階段でしっかりと舗装されているし、広々とした駐車場があったりもする。訝しげに階段を登っていくと、そこにあったのは、
なんと、遊園地だった。
生駒山上遊園地。看板には、小さく「SINCE 1929」の文字。近鉄が沿線開発の一環として、先程のロープウェイと合わせて開発したのだそうだ。戦前生まれの遊園地。関西在住の方にとっては、きっと懐かしさや馴染みのある場所なのだろう。関東でいうところの、西武園ゆうえんちのような存在だろうか。ちなみに、遊園地としての歴史で言えば、ひらかたパーク、通称ひらパーの方が20年ほど古いそうだ。関東で言えば花やしき的な立ち位置なのかもしれない。
それにしても、上から下まで完全に登山の格好で遊園地に来ているというのもなんともシュールだ。まだ朝8時前ということもあって、もちろん子供たちの姿もなければ、遊具も動いていない。園内は開放されていたので、まずは山頂を目指すことにする。
久しぶりに訪れた遊園地。初めてきた場所だが、なにか懐かしさを感じる遊具ばかりだ。そして、そんな数ある遊具の中でも一際に目立つのが、飛行塔だ。
この飛行塔は開園当時からの現役。同型のものは既に無く、現存唯一なのだそうだ。また、遊具としても日本最古を誇っている。第二次世界大戦中、遊園地の遊具のほとんどは金属回収令で解体されてしまったが、この飛行塔は山上にあることから監視施設として使用されることになったことが幸いして解体を免れたそうだ。この希少性から、先程のロープウェイとともに先日土木学会選奨土木遺産にも選定されている。
飛行塔を横目にうろうろと園内を歩いてみる。しかし、頂上は見つからない。山頂は遊園地に飲み込まれてしまったのだろうか。
ここは登山で来るような場所ではないのかもしれない。しかしそんな私の不安をよそに、意外なところにしっかりと山頂を示すものが現れた。
なんと、列車のアトラクションのプラットフォームに頂上の表示があった。
はい、これをもって登頂達成!ここが生駒山の頂上です!それにしても、ここが県境であることをうまく表した秀逸な立て札だ。
山頂遊園地だけあり、景色の良さは百点満点だ。昨日若草山から見た景色を今度は逆から眺めてみる。
ここから先は進路を変え、県境付近を尾根伝いに走っていく。先程までのファミリー向けの雰囲気とは打って変わって、なかなか本格的なトレイルだ。これは走り甲斐がある。ちらほらと私と似たような服装のトレイルランナーや、ハイカーともすれ違うようになった。
目的地は北にあるのだが、少しだけ寄り道をするために南へと向かう。下り基調で少しスピードを出しながら走ると、唐突に開けた場所に出た。
向こうに見えるのは、大阪の街。昨日はこの生駒山に遮られて見えなかった大阪の街が、海が、今眼前に見える。
天気にも恵まれて、大阪湾までよく見える。ビル群は梅田、緑の深い場所は大阪城公園だろうか。少し左側に見える大きなビルはきっとあべのハルカスだろう。まるで地図を見ているかのように、目の前に街の姿が見えてくる。これだけ都市部から近い場所に、こんな山が聳えている。東京に不満は全くないが、こうした自然との距離の面では大阪も良いなあと思う。きっと夜景は壮観に違いない。
目を凝らしてみると、手前に競技場が見える。きっとこれはあの場所に間違いない。
その場所とは、JFLに所属するF.C.大阪の試合が開催される花園ラグビー場。奈良クラブとF.C.大阪との試合は、この山の名前をとって生駒山ダービーと呼ばれている。
この記事がリリースされる時点で、F.C.大阪は J3参入の可能性をまだ残している。来年はJ3で暴れてほしいところだが、来年もしJFLで対戦があれば、ぜひ両チームのサポーターには、ダービーの折に生駒山登山に挑戦してみてほしい。
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