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ぼくのPoetry gallery

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かつて野に棲んだ詩鬼の残骸をここに記すという悪い趣味です。
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2021年1月の記事一覧

詩117「葬られたる秘密」

「葬られたる秘密」
(生誕170年の小泉八雲に捧ぐ)

抽斗に閉じ込めた彼女の記憶が息を潜めている
世に「秘すれば花」とは言うけれど
その大きな箪笥の中で遮られた時間こそ 揺れ動く盗まれた手紙であり
もしくはボヘミアの醜聞のような甘い芳香が小鼻を撫でる
この案じられるがままに眠りに咲く白粉花は
やがて苦悩の化身が現れて
念じられるうちに摘み取られてしまう
煙は高くて 灰に散る話

Masanao

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詩116「Not」

「Not」

開かない扉をノックして、
弾けない鍵盤を押してみて、
書けないペンで手紙を書いて、
空のカップのコーヒーを飲み干した。
陽射しだけが優しかったから、
許された日を探しに行きます。

Masanao Kata©️ 2021
Anywhere Zero Publication©️ 2021

詩115「嫌な日」

「嫌な日」

目を覚ました。
今日は嫌な日だ。
それでも動かなきゃ。
俺のソーラーパネルは充電を始めてしまった。
有り合わせの言葉を詰め込んでさ。
硬い箱に詰め込まれてね。
無益なパネルディスカッションが待っている。
なんだか忙しなく 煮たり焼いたり
メスティンに詰めた食材かと思ってしまう時がある。
結局、月は帰ってくるのかと訊ねた。

Masanao Kata©️ 2021
Anywhere Z

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詩114「四十雀」

「四十雀」

ぼくの詩の神様は
「詩人は四十から」と仰っていたが
齢四十を過ぎても僕の詩は実りを知らず
もしや詩人は四十雀なんじゃないか
と仮説を立てた

四十雀はその道の学者先生の研究に拠ると
語順を正確に理解してその啼き声を駆使するそうだ
その音で仲間への伝達を行うらしい
市街地の緑の中に棲んで
言葉を使えば羽ばたくことも出来るだなんて
鳥で収めておくには勿体ない
だから四十雀は都会の詩人なの

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詩113「氷った男の話」

「氷った男の話」

未来以上の未来を求める時こそ
あらゆる沈黙が目を醒ます

民衆はあの駅前広場で
わからないことを信じるべきだったのか
つまらないことを履き違えるべきだったのか
扉を開く鍵なんてものは常にひとつの存在であった

衝動は冷たい部屋の中で
震える舌を引き抜くべきだったのか
ああ 声が見えないよ
ああ 姿が聞こえないんだ
こんな自分なら溶けてしまえ

未来以上の未来は
つきまとう嫌いに

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