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『ブルーアーカイブ』で、ニューロンが焼ける音がした。

※本編内でメインストーリーVol.1 第1章までの内容に触れています。


『ブルーアーカイブ』は、劇薬だ。


今年頭に2周年を迎えるタイミングでメインストーリー最終章が配信開始され、格段の盛り上がりを見せるブルーアーカイブ。

私も常々公式に謳われる「透き通るような世界観」「青春物語」とは程遠いようなドス黒い何かがあるとは聞いていたが……その真実は、生半可な物ではなかった事をお伝えしたい。


運命の瞬間 ~ 脳を焼いたワンシーン

友達の話など、常々話は聞いていたものの、思う所があり数日前にプレイし始めた。

(ちなみにゲームシステムとしては以前プレイしていた『プリンセスコネクト!Re:Dive』を思わせる作りだが、MOBAを思わせる戦闘システムなどに違いがあるといった程度の印象だ)

チュートリアルの壮大さはどこへやら、メインストーリーが始まった最初のうちは「ストーリー的にも『プリコネ』の二番煎じか」、「チュートリアルの話も一向に回収されなさそうだし、この感じならまず長続きしないだろうな」と思っていたが、「例のシーン」にたどり着いて、その疑問は「もう少しだけ付き合ってもいいか」に変わった。


その「例のシーン」というのがこれだ。

アビドス(注:高等学校)を襲った一団の武装からブラックマーケットに手がかりがあると踏んだ一同は、そこで自分たちが返済したお金が犯罪の温床である闇銀行に流れている場面を目撃する。しかし確証は無く、その証拠を掴むために襲撃を決行する。

pixiv大百科「覆面水着団」より引用

このシーンを見た瞬間はチュートリアル後のオープニングでも掲げられる「ミリタリー」「ファンタジー」「青春」が渾然一体となった世界観を「不思議なバランス感覚」程度にしか思っていなかったが、冷静になって考え始めると、それは人が読むことのできる言語で書かれた狂気とでも言うべき物であることに気づき始めた。

狂気のカタチ ~なぜブルアカがクレイジーなのか

確かに、ブルーアーカイブをご存知でない読者の中には、「この手のソシャゲなんかじゃよくある話じゃないの?」と思う読者もいるかもしれない。しかし問題はそこではない。

例えば『刀剣乱舞』の刀剣男子達は文字通り刀の付喪神的存在(記憶が間違っていれば申し訳ない)であり、ウマ娘達は我々の世界などの競走馬の魂を宿して生まれる。そして、刀剣男子達は歴史を改変しようとする勢力と戦い、ウマ娘達はレースで競い互いを高め合う(他の職に就くこともあることに言及はされるが、ゲームの主眼ではない)。

ブルアカの女の子達はどうだろうか。ヒトそのもの、あるいはヒトにパーツを一つ足した程度のマイルドでありがちな人外で、それぞれ異なるデザインの天使の光輪を持ち、銃やドローンなどの現代兵器で戦う、学生である。

もしこれが普通のソシャゲなら、終末の世界を舞台に、天使に祝福された少女達が現代兵器で怪物と戦わざるを得ないとか、そういった表現をするのが妥当だろう。

しかし、ブルアカが一線を画すのは、その存在を説明しようともしないまま、物語へと引きずり込んでしまう事である。

獣耳とか翼がついているなら、少しぐらいでも人間との違いを強調するのが普通である。しかし、ブルアカにはそれすらない。

登場人物の誰も―プレイヤーの分身たる「先生」ですら―件の銀行強盗や、そこで得たお金を使う事を引き止めることはあっても、治安の悪さや、光輪のついた人々などには驚く気配が一切ない。その点すらも、誰も説明しようとしないのである。

一応光輪に関しては、光輪のついている人々は肉体が強く、銃撃戦に耐えられるという情報がチュートリアルの会話からギリギリ読み取れるかもしれないが、それでも考察の域を出ない。

よく見る世界観固有の要素ぐらい説明するのがファンタジーの基本ではないのか?と思ってしまうが、キヴォトスの民はプレイヤーの質問には答えない。

しかも、そんな態度のくせに、力ある者こそ正義と言わんばかりの世界観はVol.1のアビドス高校の物語を通してグリグリと脳に押し付けてくる。特に銀行強盗のシーンでだ。

『グランド・セフト・オート』もかくやという治安の悪い世界のくせして、少女達は修羅場をくぐり抜けてきたアウトロー風味だとか、新兵に「生きて帰れるとは思うなよ」と言葉をかけるバキバキの軍人だったりする訳でもない。コミカルで、キャラが際立ちに際立った、よくある感じのアニメキャラで、本人達は青春を謳歌しているらしい爽やかさが、確かにそこにある。

自分が日頃から聞いていた明るい学生たちと戦災や兵器を描く陰鬱感の差は、『魔法少女まどか☆マギカ』のような落差らしい落差ではなく、共存共栄しているものであるという、存在すら予想だにされなかった矛盾だったのである。

筆者はこの時点でまだVol.1を進めている段階だが、メインストーリーのメニューでは、Vol.3は「条約」が主眼となるという。

こうやって説明するが、これはアウトローと列強ひしめくキヴォトス大陸を舞台とした軍記ファンタジー『蒼録戦記』ではない。学園都市キヴォトスを舞台に、透き通るような世界観で日常に奇跡を探す(らしい)青春物語『ブルーアーカイブ』である。

「先生」以外の学校教師がまるで見当たらないのに、他の一般人は時折出てくる事からも、これがキッザニアに新設された戦争コーナーか、女学生達の日常に見える幻覚を通した軍記物語の世界ではないかと疑ってしまう。

しかも、この矛盾にどこまで行っても自覚があるようなのがもどかしい。端々に現れる新約聖書、旧約聖書やカバラを由来とする固有名詞の数々から感じられる天使の光輪との関連性は、単にゲームのためにカジュアルに戦闘を起こせる世界観にして終わりではなく、そのために周りも徹底的に固めたという事が伝わってくる。

無理矢理な世界観というのは個人的にあまり好きではないが、ブルーアーカイブはそういった疑問をねじ伏せる態度がある。

そしてそこから生まれる衝撃は、脳のすべてを刺激するようだった。

蒼に染まるまで ~ あとがき

一般にはトンチキとされる『ニンジャスレイヤー』や関連メディアでもあまり衝撃は感じずに、そういう物なのか、面白いなと受け入れていたが、ニンジャスレイヤーで言うところの「ニューロンが焼ける」感覚とは、この事だったのだろうか。

私はまだ、この狂気の世界の扉を開いただけに過ぎない。その先で何かまた気になる事を見つけたのなら、そこでまた一度お話ししたい。

(本当なら今頃D&Dの映画の記事書いてる頃だったのにブルアカが悪いよブルアカが…)


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普段はファンタジーRPGとか翻訳の話をしたり、海外の同人ゲームの翻訳をしています。

元祖RPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』や、その関連メディアのひとつである『ヴォクス・マキナの伝説』に関する記事も書いています。
普段はナチュラルに没入できる世界観を楽しんでいるので、メタ的ないびつさがある世界観はあまり好みではなかったのですが、ブルアカはその構造に自覚的だったのが衝撃的だったという訳です。

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