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地に足のついた、JRPGじゃないJRPG バグ・フェイブルズ

ゲームキューブ用ソフト『ペーパーマリオRPG』の発売から17年。ペーパーマリオシリーズは作品を重ねるにつれ、より「ペーパー」である事を強調するようになり、RPG要素は薄れていった。それでもなお、シンプルにして奥深い、アクション要素のある戦闘や、個性的すぎるキャラクター達を擁していた『マリオストーリー』と『ペーパーマリオRPG』の初期2作を愛し、同じ方向性の新作を待ち続けるファンは多い。

その中で、任天堂連中にやる気がないのならばと、「Moonsprout Games」を名乗る海外の熱狂的なファン達が寄ってたかって作り上げたのが『Bug Fables ~ムシたちとえいえんの若木~』(原題:Bug Fables: the Everlasting Sapling)(Steam / Switch)である。
今これを読んでいるあなたが聞いたことがなければ、それは仕方がない。発売はなんと2019年11月21日。執筆時点で2年も経っていないのだ。

ちなみに発売元はDANGEN Entertainment。「魔女の家MV」の発売元と
言われればピンとくるかもしれない。

そして、ペーパーマリオ側のファンであるなら、この記事以外にも、同じくファンである(そして何より私に購入を決意させた)端子氏の記事も読んでほしい。ゲームプレイに関してこの記事でも説明はするが、詳しい説明は端子氏に譲りたい。

今回の記事はペーパーマリオも含め、普段(オフラインの)RPGをプレイしない人間の視点から書かれたものである。

どの辺りがペーパーマリオなのか

ほぼ全体がペーパーマリオである。キャラクターは全員一枚の紙に描かれており、小さなエリアで区切られたフィールドを進み、戦闘はターン制、ダメージは5まで行けば大ダメージ、ダメージ判定はわかりやすいQTE。ペーパーマリオそのものである。大きな違いといえば、キャラクターがマリオ達ではなく全員ムシである事程度。
ペーパーマリオの再現としてのクオリティは高く、キャラクターの能力を使った道中のパズル要素や、シンプルかつ戦略の幅の広い成長や戦闘要素も再現されている。

ほとんどクローンゲームだが、それだけではSteamの98%という圧倒的すぎる高評価は得られない。ではどこにオリジナリティがあるというのだろうか?例えば、戦闘にもパーティメンバー1人のターンを犠牲に他のメンバーを2回攻撃させる「ターンをゆずる」要素。あるいは…

地に足のついたストーリー

JRPG離れしたストーリーや世界観。もしバグ・フェイブルズの最大の特徴がペーパーマリオの上質なクローンである事でなければ、私はこれだと言いたい。

バグ・フェイブルズは一本道で、主人公達は固定の、いわゆる「日本式RPG」だ。だが、その始まりは、謎の敵が突如として世界を覆い故郷を焼き尽くしたり、テロリストが爆破ミッションに臨んだりするようなものではない。主人公は壮大な運命を背負って旅立つ訳でもない。
主人公達は一介の冒険者であり、彼らが冒険者ギルドの片隅で出会う所から始まる。第1章を通して、彼らはすぐに有名人になるが、それでも有名人止まりであり、彼らでなければ世界を救えない訳ではない。そもそも、始まった時点では救うべき危機は(少なくとも見える範囲には)ない。

古代文明の遺物を追う旅の中で、騎士道的な理想を追い続けるカブ、故郷を抜け出し、自分の実力を認めさせたいヴィー、そして途中加入する謎だらけのリーフ、パーティ3人それぞれの背景が少しずつ明らかになり、物語にも関わってくる。

そして、生きて帰った者のいない洞窟「ヘビのあぎと」に踏み入り、生還する。大地の神「ヴィーナス」の試練を乗り越え、認められる。執筆時点でまだ多くはプレイしていないが、やがて古代の文明、そして不老不死の秘宝「えいえんの若木」の謎を解き明かしていくのだろう。

ストーリーは一本道、プレイするキャラクターも固定だが、その描かれ方は『ペルソナ』だの『ゼノブレイド』だのといったような昨今の日本のRPGとは一線を画する部分がある。敵は心の力を具現化させないと倒せないものではない。そして、神は討つべき存在ではない。

また、『UNDERTALE』や『moon』のようなアンチRPG的主題もない。どれだけ敵を倒してもゲームがプレイヤーの心を痛めつけようとする事はない。
主人公達の立場、そして世界観はペーパーマリオ以上にRPGらしい。

ムシ達が「生きている」世界観

そう、世界観といえば ―
主人公達は古代文明を追う旅の中で、バグアリアの各地を旅する事になる。その中で君は ―
大地の神を崇める農村、古代の遺物が残る砂漠、敵対する国家の境界線を見て、感慨にふけることができる。
大国の女王から、村で通りがかったあの人まで、パーティの印象や感想を見ることができる(これはペーパーマリオ由来だが)。
バグアリア中に散らばった歴史書を図書館に返し、読む事ができる。
農場で農家から家畜がどうバグアリアの社会に貢献しているかの話を聞くことができる。
子供のための作り話と思っていた存在を本当に目の当たりにして、パーティが驚く様を見ることができる。
そして、そういった見聞きした事も、収集要素としてプレイ実績に記録されていく。

世界の隅々にまで、設定がある。画面の向こうのムシ達は、バグアリアに生きている。そして、その暮らしの営みを知る事を、ゲームシステムが推奨している。
古代文明の謎を追う冒険は、さながら一つの旅行記にもなりうる。

その様子は、まるでストーリーも世界観も、両方とも原点回帰しているようだ。それも元祖も元祖、TRPGにまで…
…この話の続きを書きたい所だが、話すと本題から離れてしまうので、別の記事に分割することにする。

総括

上質なペーパーマリオのクローンなので、RPGにありがちな「移動が面倒くさい」「何もない時間が多くてダレる」といった問題が軽減されている。それでいて知的好奇心を刺激する、濃厚を超えて濃縮還元100%な世界観。そしてなんと日本語版の翻訳も、日本語フォントの選択も(ここ大事)極めて上質なので、読んでいて違和感を感じる事はほぼない(翻訳者を選んだであろうDANGEN Entertainmentに感謝を)。
「RPGは苦手だが、昔ペーパーマリオなら狂ったようにプレイしていた」
「ゲームの設定資料集を読み漁るのが好きだ」

もしあなたがこのどちらかに少しでも覚えがあり、かわいい見た目や虫に抵抗感や恐怖感がないなら、バグ・フェイブルズに100%ドハマりする。
DANGEN、いや断言させてもらおう。
もしハマらなければ私をまよえるさばくの流砂に投げ込むか、私のTwitter(MSLabo102)に文句を言ってもらっても構わない。

では、また会うときまで、あなたがバグアリアの歴史を紐解く時が来ますように。

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