『Inscryption』の実績が全部MtGのカード名なのに翻訳されてなかったから俺が解説する
(2021年11月17日:大好評につき追記修正、タイトル解説を追加)
最近Redditをフラついていたら、どうやら最近出たインディーゲームの実績名が全部『マジック:ザ・ギャザリング』(以下MtG)のカード名だったらしい。なるほど、元祖TCG故あって人気も根強い。『Inscryption』の開発陣も、MtGが好きだからそういった要素を持ったゲームにしたのだろうし、そういった小ネタを仕込んでも違和感はない。
そして翻訳者として、気になったのは日本語でそれが反映されているかどうかだった。MtGは日本語版が出ているし、日本でもそこそこの人気があるからちゃんと翻訳されているのかな~と思っていたが、案の定と言うべきか、反映されていなかった。何の変哲もないテキストのように翻訳されていた。
なのでここは私が一肌脱ごうと思う。つまり、全部解説してやろうということだ。各項目(この記事の執筆時点での達成率順)では、英語原文とInscryptionの日本語版、そして元ネタのカードを併記している。
(カード画像はScryfall様およびBigweb様より引用しました)
Blood Artist / 血のアーティスト
Miner's Bane / 工夫泣かせ
Innocuous Insect / 無害な虫
こればかりは想定外だった。なんと超ごちゃ混ぜセット『ミステリーブースター』のおまけ枠についてくる『R&D Playtest Card』(開発部プレイテストカード)からの収録なのだ!日本語版が存在し得なかったのだ!
Grizzled Angler / 不平をこぼす釣り人
『異界月』より両面カードの表面。「grizzle」から「不平を言う」と解釈するか、「grizzled」を字義通りにとって「白髪交じりの」と訳すかで解釈が分かれて面白い。
Uncage the Menagerie / 自由になった見世物
「menagerie」は見世物用に集めた動物とも、単に多様な動物ととることもできる。
再生した希望 / Reborn Hope
実績の条件に「スペアのフィルムを見つける」とあるのでInscryption側は「再生」の洒落が成立している。
Ancestral Vision / 古のビジョン
顔合わせ / Face to Face
こちらも日本語版がないカード。ジョークセット『Unhinged』出身で、銀色の枠のジョークセットのカードは英語版のみが通例。
我慢の勝利 / Enduring Victory
Inscryptionの訳では「我慢によって勝利した」、MtGの訳では「勝利したことが残り続ける」と解釈されているように思える。
リスの世話人 / Squirrel Wrangler
Renewal / 心機一転
こちらも日本語版がないカード。日本語版が出始める前の「Homelands」より。
Avenging Druid / 復讐のドルイド
Doomed Necromancer / 破滅したネクロマンサー
MtGの現在の定訳では「necromancer」は「屍術師」となるが、初登場がそういった訳の制定以前のものなのでこうなっている。
Accomplished Automaton / 完成した自動機械
自動機械が完成したのか、自動機械が何かを成し遂げたのか、ここでも解釈の差が出ている。
Wizard Mentor / 魔術の師
(日本語版はBigweb様より)
Balance of Power / パワーバランス
Essence Capture / 本質を捉えろ
Rank and File / 平社員
解釈としてはどちらも間違いない。英語はtheとかがある性質上それが何であるかをいちいち単語単位で説明する必要性が薄いので、日本語に訳する時はそこを文脈で埋めてあげる必要がある。
Painter's Servant / 画家のしもべ
Natural Connection / 自然なコネクション
自然とつながっているのか、自然につながっているのか…
Murder / 殺しの現場
単に「殺人」などでは日本語の名称としてはイマイチ物足りないところはあるので、やむなしといったところだろう。個人的に日本語は他の言語と違って何かに名前を付ける時に特別な法則があるのではないかと思っている。
Dramatic Finale / 劇的なフィナーレ
これはMtG側が定訳に凝りすぎているきらいがある。
Gruesome Encore / おぞましいアンコール
Role Reversal / 立場逆転
Forgotten Lore / 忘れられた知識
これも日本語版が出始める前のカード。とはいえ、最近のMtGの定訳通りならそのまま「忘れられた知識」となるだろう。
Grim Bounty / 残忍な賞金首
Bountyを賞金そのものと訳すか賞金首と訳すかで解釈が割れた。
超余談:直近のコラボセット『ダンジョンズ&ドラゴンズ:フォーゴトン・レルム探訪』のカードなのだが、現在コラボ先の『ダンジョンズ&ドラゴンズ』日本語版復活の署名活動が行われている。通ればMtGの世界観「ラヴニカ」や「テーロス」などで遊べるサプリメントの日本語版が出るかもしれない。協力をお願いしたい。
Dark Offering / 闇の捧げもの
こればかりは日本語版の画像が見つからなかった。MtGでの和名は「暗黒の捧げ物」。
Collective Effort / 結集した力
文脈を踏まえると、英語原文の意味はMtG側では「集団/collectiveによる努力/effort」、Inscryption側では「集めること/collectiveへの努力/effort」といったところだろうか。文脈で意味が変わる好例と言える。
Devil's Play / 悪魔の一手
MtGではplayを「遊び」、Inscryptionではplayを「ゲームにおける一手」と解釈している。これも文脈で意味が変わる例だろう。
Agonizing Remorse / 苦悩と自責の念
Inscryptionでは半ば決まり文句的な表現を使って訳している。
おまけ:タイトル解説
『Inscryption』というタイトルは学校で習わない(けどファンタジー絡みでは割と出てくる)英単語を掛け合わせた言葉遊びなので合わせて解説する。
(英辞郎 on theWeb様より引用しました)
●inscription
[名]
1.記されたもの、題辞、碑文、銘
2. 記すこと、記入
3.〔贈呈された本に書かれた〕献辞
Inscryptionはカードゲームである。カードに「記された」文が役割を示し、物語を伝える。元の言葉とゲーム名で1文字しか違わない上に、読みは完全に同じなので注意。
MtGでは《豊穣の碑文 / Inscription of Abundance》など『ゼンディカーの夜明け』の「碑文」カード3枚で使用されている。
●crypt
[名]
1. 穴蔵、〔納骨用の〕地下室、遺体安置
2. 《解剖》腺窩、陰窩
地下墓地といえばファンタジー的には秘宝や恐るべき秘密の隠された場所というイメージがある。事実、Inscryptionの終盤にも原文で「crypt」と表現される場所が出てくる。
ファンタジーの定番だけあって、MtGでもcryptの名を持つカードは数多い。「ショックランド」の一角《血の墓所 / Blood Crypt》、墓地対策カードの筆頭《トーモッドの墓所 / Tormod's Crypt》、破格のスペックを持つマナアーティファクト《魔力の墓所 / Mana Crypt》など、有名なカードも多い。
余談になるが、地下墓地という性質から「crypt」は謎や暗号と結び付けられる事が多い。「cryptic」=「地下墓地っぽい」なら「謎めいた」という意味になるし、「cryptocurrency」は暗号通貨、「cryptozoology」は未確認動物学、UMAの研究ということになる。
(《Lonis, Cryptozoologist》を《暗号動物学者、ローニス》って訳したMtGの翻訳班許してないからなコノヤロー!!おめーらここ1年ぐらいやたらたるんでんだよ!!)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?