野生を取り戻せ!城ヶ島デジタルデトックス単独行
最近私は、野性について考えている。
私は、自分の中の野性を見つけるために、ときどき通信機器を家に置いて出かける。
(前回)
旅の行き先は気まぐれ、目的を持たずにでかけよう。
旅の行き先は、いつも気まぐれに決めている。
観光が目的ではないので、具体的な目的地が無いこともある。
今回は、三浦半島の先端まで行ってみることにした。
三浦半島の先端には、城ヶ島という島があり、最寄り駅からバスが出ているようだった。
城ヶ島には行ったことが無いし、何があるのかも知らない。
なんとなくの行き方だけ把握して、あとは特に調べずに出かけた。
いつも旅の目的は持たずに出掛けている。
持ち物は少なく、特別なものはいらない。
今回の持ち物は、メモを取るためのノート、カメラ、ヒルティの幸福論、財布、そして折りたたみ傘である。
前回までの反省で、本を持って行ったところで読まない可能性が高いことがわかっていたが、もしかしたら途中で何か足止めを食らって、長い時間暇を持て余すかもしれない。
そうなったときの備えのために、一応持ったという感じで、結果読まなかったとしても、安全に帰宅できたなら構わない。
お守りのようなものとして、バッグに忍ばせた。
カメラは、何を撮りたいという目的もないので、レンズの画角はフルサイズ換算28mmにした。
自分に取って1番、見たまま撮れると感じる画角だ。
道は平坦、だが予想外。
城ヶ島への道のりは、複雑な乗り換えも無く、平坦なものであった。
私は、まず、品川行きの電車に乗った。
品川駅で京急線に乗り換えて、三崎口駅を目指し、三崎口から城ヶ島へは、バスで終点まで乗って行けばよかった。
三崎口の駅を出ると、意外に多くの人が訪れていて、城ヶ島方面のバス乗り場は行列ができ、バスに乗り切れるかどうか不安になるほどであった。
駅の様子を見ると、この辺りは海鮮が有名なようで、若い人から年配の方まで、幅広い世代の人が訪れていた。
なんとかバスに乗ることができたが、バスの車内は混んでいた。
地元の人も多少乗っているようだったが、途中の三崎港バス停で、乗客は半分ぐらい降りていったので、ほとんど観光客だったのだろう。
残り半分の乗客は、終点の城ヶ島バス停まで乗っていた。
バスを降りると、スキューバダイビングのスーツを着た人たちが目に留まった。
釣り竿を持った人らや、観光パンフレットを持った人なども歩いており、想像していたより多くの人が訪れている様子だった。
バス停の周りを少し歩いてみた。
地元の人だと思われる青年らが、ビールを飲んでくつろいでいた。
磯には釣りを楽しむ人らや、海水浴を楽しむ親子連れや、景色を楽しむカップルもいた。
旅館跡などもあれば、飲食店は観光客を意識した店構えになっていて、昔から人がたくさん訪れる場所だったのだろうと思われた。
波の音のある暮らしを想像する。
地面に生えている草木は、南国の情緒があり、海の匂いも相まって、とても遠くに来た感じがした。
私は、お腹が空いて来たので、磯の先端にポツリとたたずむ食堂に入り、腹ごしらえをすることにした。
昼ごはんにはまだ早い時間で、店内はがらんとしていたが、昼どきにはにぎわうのであろう。
早い時間から飲んでいるらしい男性2人が、テラス席で海風を感じながら談笑していた。
店内には、テレビの音声と波の音だけが聞こえる。
エアコンはついていなかったが、風が通り抜けて気持ちがよかった。
私はゆっくり刺身の定食を食べて、お店の人にお礼を言って店を出た。
腹も膨れたので、海岸をとぼとぼと歩いた。
見たことのないオレンジ色の花、
1人で磯焼きを楽しむ人、
不思議な紋様の岩肌、
ずっと昔から人が住処にしてきたであろう洞穴、
波の様に反り立つ岩、
フナムシの行列、
半島の先端で、ずっと波を受け止め続けてきたであろう岩などを見つけた。
海岸は岩場になっていて、波が絶え間なく打ち付けている。
黒く濡れた岩に、白い波がぶつかって流れる様子は、普段見られないコントラストと色合いで、激しい様子とは裏腹に、幽玄な様子にも感じられた。
波の音は常に聞こえていて、この島で暮らす人は、遠くに聞こえる波の音をずっと聞きながら暮らすのだろうと思われた。
それは都会で暮らすのとは全然違う環境だ。
波にさらわれたり、海が荒れたりして、失われた命もあるだろう。
波が岩に打ち付けて少しずつ陸地を削っていく様子は、まるで地球が陸地を飲み込もうと、大口を開けているように見える。
そうゆう恐怖と隣り合わせで暮らしてきた人々の、文化風習はどんな風に変化して、適応してきたのだろうか。
東京からアクセスが良いので、近場な気がするが、暮らすとなると別世界なのだろうと思われた。
海岸線をしばらく歩いていくと、道は山道へ入っていった。
階段を登り、高いところから見下ろしてみると、海の景色がまた違って見え、波の音も違って聞こえる。
海がどのように見えるか、波の音がどのように聞こえるかによって、人々の暮らしにつきまとう不安の様子も違うのだろうと想像される。
そうすると、島の中でもどのような場所が人が暮らすために好まれ、または避けられるのか、想像が膨らんだ。
少し行くと、茂みの中に脇道らしい細い道を見つけた。
道はくだっていて、また海岸線へとおりていくように思われたが、せっかくなので脇道にそれてみようと茂みを潜った。
脇道をずっと通り抜けて行くと、人気の無い海岸に出た。
先ほどまでの海岸線と違い、人の暮らしと隔てられていて、時間が止まっているようだった。
先に来ていたらしい人たちが、何も無いねと元来た道へ帰って行った。
波の音だけが、絶え間なく聞こえている。
元の道に戻ってしばらく行くと、道路に面した公園に出た。
駐車場があり、綺麗に整備されていて、いつの間にか波の音も、遠くにかすかに聞こえる程度に小さくなっていた。
島の中でもアクセスが良いためか、人出が多くにぎわっていた。
私は、ベンチに座って少し休憩した。
メモを取るノートに、黒いアリが登ってくる。
近くに散歩に疲れた犬が、飼い主の足元でだらしなく寝そべっている。
先ほどまでの景色と違って、人の営みが感じられる景色だ。
私は、公園をぐるりと歩いてみた。
人々は、散歩をしたり、芝生に寝転がったりして、思い思いに過ごしている。
先ほどまでの海岸線の岩場に見られた厳しい様子とは打って変わって、
展望台に登って景色を見渡してみると、海は、海岸線で見るより大人しく見える。
公園から海岸線におりることができる道を見つけて、また岩だらけの海岸線におりてみた。
私はカナヅチだから水辺は怖いのだが、舗装された道路ではなく、岩場を歩いて、この地で暮らしてきた人々の野性に触れたいと思っていた。
ごつごつした岩場を歩くのは、ひどく疲れる。
小さな子どもはへっちゃらな様子で歩き回っている。
黒く濡れた岩には、波が絶え間なく打ち寄せている。
曇り空だったので、海は暗かったが、岩場の周りはシアンに透けていて、波は白く泡立っている。
岩場を1人で歩いているのは、釣りか犬の散歩をしている人の他には、私ぐらいであった。
岩に打ち付ける波をじっと見ている私の様子を見て、ひょんな気を起こさないかと心配させていなければよいな、などと思った。
町ごとに専門家がいる。
私は、バス停がある島の西の端から、東の端まで歩いて来たので、このまま島を一周してバス停に戻ってみることにした。
岩場を歩くのは大変だったが、舗装された道を歩いて見ると、島は思ったよりも小さく、すぐにバス停まで戻ってくることができた。
このままバスに乗って帰ってもよいが、せっかくなのでもう一つぐらいお店に入ってみることにした。
お腹は空いていなかったので、バス停近くの喫茶店に入ってみた。
店の外には、映画スターやミュージシャンの似顔絵が所狭しと飾ってあった。
店内も、壁一面に往年の映画スターのブロマイドや映画のポスターが飾ってある、趣のある喫茶店だった。
私は、アイスカフェオレを注文した。
テーブルの上に、懐かしい星占いが置いてある。
昔は、飲食店や喫茶店でよく見られた、コインを入れたら、おみくじのように占いの内容を書いた紙が出てくるものだ。
これも一興だと思い、私は自分の星座にメモリを合わせて100円玉を入れてみた。
何も出てこなかった。
私は、店の中の写真はご主人が集められたんですか?と、店内に腰掛けていたご主人に尋ねてみた。
ええまあ、と控えめなお返事が返ってきた。
映画がお好きなんですね、と言うと、またええまあと控えめなお返事のあとに、ご主人の近くに置いてあった紙の束を私に手渡しながら、こんなものもあります、とおっしゃった。
見ると、A4の紙を束ねたそれには、「世界映画ベスト1000」というタイトルが印字されていた。
Wordかなにかで作られたであろうその冊子には、1000本の映画のタイトルがランキング形式でまとめられていた。
これはご主人がまとめられたんですか?と訪ねると、ご主人はまた、ええまあ、と控えめに答えられた。
1000本の映画を、自分の好きな順に並び替えるだけでも大変な作業である。
そのうえ、1000本のランキングの後ろには、番外編が続いており、その後には、さらに手書きでまとめられたものが続いている。
ご主人は、マニアというほどじゃないんですよ、有名どころしか観てませんから、と控え目におっしゃった。
昔は名画座で複数本立ての上映を見に行ったけど、神田の岩波ホールも閉まってしまったし、この辺りにもTSUTAYAが4軒あったが、今は撤退して1軒しかないんですよ。と残念がっていた。
私が、店の外の似顔絵も、ご主人が書いたんですか?と訪ねると、ええまあ、と控え目におっしゃった。
ご主人は、私がノートに道中の記録を書き記しているのを見て、おたくは小説を書いてるんですか?とたずねられた。
私は、いや日記みたいなものです。どこへ行ったとか、何を見たとか書いているだけで。と控え目に答えながら、あぁ作家活動というのはこうゆうものなのだな、と思った。
旅をして見たもの触れたもの、感じたことや閃いたことを書き記して、そこから人が楽しめるような表現を作っていく活動なのだ。
そんな話をしていたら、新しいお客がやってきた。
親子連れで、たくさん注文をしている様子だったので、私は会計を済ませて、ご主人にお礼を言って店を出た。
次は映画好きの友人を連れて来たい。
旅をして物語を作ろう。
バス停に戻ると、行列ができていたが、1本前のバスの運行が遅れていたとかで、2台のバスが停まっていたので、私は運良く座ることができた。
帰りのバスは、東京方面に帰るであろう乗客が、道中次々に乗り込んできて、たいへん混み合った。
城ヶ島へと渡る橋は、城ヶ島大橋と言うそうだ。
歩道には、徒歩や自転車で島との間を行き来する人が見える。
私は、その様子を見ながら、物語のアイデアが浮かんでくるのを感じた。
例えば、島の方と半島の方に、それぞれ暮らしている人がいて、その2人が交流するときは、この橋を渡って行き来するのだろう。
2人の住民を思い浮かべて、それぞれに動機を与えると、私の頭の中で、2人は動き始める。
私は、頭の中でプロットを考えながら、電車に揺られて家路についた。
旅をして物語を作る。素晴らしいことだ。
私はこれを続けていきたい。
おわり
漫画化
この旅に着想を得た漫画を下記で無料で公開しています。
ぜひ読んでみてください。
Reference
参考資料等です。
城ヶ島・三崎の魅力紹介(神奈川県)
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Photos
その他の写真です。
Taken by Leica SL2-S + Leica Elmarit M28mm f2.8 and FUJIFILM X70
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2022年10月1日
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