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怒涛渦巻く深夜のレスキュー
毎年、台風が近づくこの時期が来ると
昨日のことのように思い出すことがある
~ DEAR ボクのヒーロー達へ ~
書き出しに、こう綴られたハガキは
今も、大切にしまってある
もし、あなた達がヘリで来てくれなければ
私は死んでいたに違いありません・・・
かれこれ、25年以上も昔の話だ・・・
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その年の6月
季節外れの大型台風が西日本を直撃した
雨は収まりつつあったものの
吹き返しの風が強く吹いていた
夕食を済ませた丁度そのとき
職場から呼び出しの連絡を受けた
出勤すると
和歌山県潮岬の沖合で
海上保安庁の飛行機が
漂流中の救命ボートを発見したが
その後、見失ったという
現場には、ヘリコプターを搭載した
巡視船「みずほ」が向かっていたが
あまりにも海が荒れているので
巡視船に搭載している
ヘリコプターが発進できずにいた
そのため、要請を受けた私たちの飛行隊が
地上の基地からヘリコプターを発進させ
行方不明の救命ボートを再捜索し
遭難者を救助することになった
辺りは、夜のとばりに包まれて
目視での捜索も限界に近づいていた
当時、私は20代後半
飛行隊では最も若手の機長だった
![](https://assets.st-note.com/img/1685615958030-PKKjdt4z7v.jpg?width=1200)
既に2機のヘリが現場に向かっており
私は3機目の機長として
飛行隊で待機することになった
副操縦士は
私より3つ若い20代半ばの後輩
キャビン・クルーとして
ベテラン2名が乗務する
辺りもすっかり暗くなった午後8時頃
先行した2機はボートを発見できず
現場を離れて基地に戻ることになった
![](https://assets.st-note.com/img/1684759091741-mzv1xYE8HM.jpg?width=1200)
その後、「みずほ」が
遭難者を乗せたボートを発見した
既に帰還中の2機のヘリは
燃料切れの恐れもあるので
現場に引き返す訳にはいかない
「みずほ」搭載のヘリコプターも
やはり船体の動揺が激しくて
発進できずにいた
そのため、基地でスタンバイしていた
私のチームに発進の命が下った
午後11時45分、テイクオフ
10数トンの巨体が、ふわりと宙に浮かぶ
そして台風の余波が残る
漆黒の大海原へと舵を切った
時速220キロで飛んでも
現場まで1時間かかる
やがて「みずほ」の位置を
レーダーで捕捉し
無線機を通して連絡を取る
![](https://assets.st-note.com/img/1684833196778-dCxmJxDDvi.jpg?width=1200)
現場の風は時速100キロ
波高8メートル ・・・
巡視船からのヘリの発進はおろか
ボートへの接近すら難しい状況
そのことが容易に想像できた
おまけに、この日は
月明りのない暗夜
最悪の環境条件だ
自分達にこのミッションは
成し遂げられるのか ・・・
一瞬、そういうことが脳裏をよぎった
しかし、ここは覚悟を決めるしかない
現場の状況をみて
救助の可否を判断する
私は副操縦士とクルーにそう言って
指令センターにも無線でそう伝えた
日付も変わった午前1時前
現場に到着、巡視船「みずほ」と合流した
「みずほ」は
遭難者が乗る救命ボートを
探照灯で照らしてくれていた
![](https://assets.st-note.com/img/1685360164302-NPQTSo1OhY.jpg?width=1200)
私は一度、救命ボートの上空を通過し
近傍に発光弾を投下した
進入開始
そう宣言して、大きく旋回
バーティゴ(空間識失調)に陥らないよう
計器盤の指示を頼りに高度を下げる
機体は、何も見えない漆黒の暗闇の中に
どんどん吸い込まれていく
まさに背筋が凍る思いだ・・・
![](https://assets.st-note.com/img/1684758291620-U0XbYPkLUd.jpg?width=1200)
ようやく、サーチライトの明かりが
海面に届き始めた
しかし、そこに映し出された海面模様は
私の想像をはるかに凌ぐものだった
波高8メートル
それは3階建のビルの高さに匹敵する
コクピットの若手2人は
怒涛のように寄せては返す
巨大なうねりに翻弄された
![](https://assets.st-note.com/img/1684833606050-Q8LYGvbtmu.jpg?width=1200)
ピーッ、ピーッ、ピーッ、
大波が近づくたびに
海面への異常接近を警告する
不気味なアラーム音が
コクピット内に響き渡る
万一、波に呑まれそうになったら
即座に離脱できるように構えながら
何とか、やや高めの高度で
ホバリング(空中静止)に移行できた
救命ボートからは
2人が救助を求めていた
しかし、荒れ狂う嵐の大海原を
木の葉のように舞う救命ボートは
再び見失う恐れと、転覆の恐れがあった
これは一刻を争う ・・・
ここまで来て、私の頭の中には
「助けずに引き返す」という
選択肢はなかった
即座に、クルーに対しウィンチで
引き上げるよう指示した
![](https://assets.st-note.com/img/1685360130264-oZ2EAiMLgN.jpg?width=1200)
すると、不意にクルーから
必要ならば、海に降ります!
と言われた
ベテラン・クルーのプロ根性には
頭の下がる思いだったが
コクピットの2人は
機体を安定させるだけで
精一杯の状況
クルー1人を海に降ろしたら
もう1人のクルーだけで
救助しなければならなくなる
それに、要救助者は成人男性2人で
未だ体力は残っているように見えた
2人には自力で上がってもらうしかない
私はクルーの降下救助を認めず
サバイバースリングでの救助を指示した
それからおよそ15分
4人の格闘が続いた
ようやく1人目を機内に引き上げ
2人目の救助を指示しようとしたとき
私たちは救命ボートを見失っていた
![](https://assets.st-note.com/img/1684833563507-vAcNZqtrD3.jpg?width=1200)
「みずほ」も、近傍に留まり
救命ボートを照らしてくれていたが
あっという間に波間に消えてしまった
必ず近くにいる!
しっかり探すんだ!
私の口調も、次第に厳しくなっていった
しばらく経ってから
少し離れたところで
木の葉のように舞っている
救命ボートを見つけた
それからまた
2人目を救助するまで更に15分
その時間が、とても長く感じられた
その後、無事に2人目を引き上げ
上昇しながら現場を離れた
![](https://assets.st-note.com/img/1685533148732-U5ub1cBZDs.jpg?width=1200)
帰りは向かい風になるので
基地まで2時間はかかる
6月とはいえ、荒海に濡れて寒かろう
キャビンの暖房を入れて
クルーに容体を確認させた
健康状態に問題はなさそうだったが
予想外だったのは
彼らは外国人だったこと
しかも、何があって彼らは
漂流することになったのか
指令センターや「みずほ」も
そのことについて
しきりに聞きたがっていた
他に要救助者は居ないのか
別のヘリを発進させる必要はないのか、と
![](https://assets.st-note.com/img/1685360239367-HAe5yfTpQw.jpg?width=1200)
ヘリコプターの中は
会話もままならないほどの
騒音に包まれている
クルーにメモを渡して質問させたり
ヘッドホンを付けさせて
直接話をしたりして
ようやく遭難者は
彼ら2人だけであることが判明した
約2週間前にグアムを出港し
日本に向かっていたところ
折しも台風による荒天でヨットが転覆
丸一日、嵐の波間を漂っていたという
午前3時半、無事に基地に着陸
![](https://assets.st-note.com/img/1685535649500-RQ1b4l45mY.jpg?width=1200)
救急車に迎え入れられる2人は
やはり疲労困憊している様子だった
おもむろに、1人が私に向かって
ガッツポーズをしてみせた
私は大丈夫、ありがとう
きっとそう伝えたかったに違いない
ミッション完了
私たち4人は
飛行隊で歓喜をもって称えられ
後日、この救出劇は
地元紙やニュースでも取り上げられ
海上保安庁長官から感謝状をいただいた
ヘリコプターでしか成し得ない
この仕事に、大きな誇りを感じた
ガッツポーズを見せてくれた方は
後日、日本人の女性と結婚し
やがて可愛らしいお嬢さんを授かった
![](https://assets.st-note.com/img/1685356906978-uCezJyaK2m.jpg?width=1200)
しばらく文通が続いたが
その後、どうなっただろうか
あの子も成人し、きっと何処かで
幸せに暮らしているに違いない・・・
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怒涛渦巻く深夜の荒海で
共に闘った巡視船「みずほ」
その船上で歌われた B'z の OCEAN は
私のお気に入りの楽曲のひとつ
公安系の職域で共通して言えることは
リスクは
回避するものではなく
克服するもの
という考え方
我々がリスクを回避して諦めたら
助かるものもの助からない
リスクを克服するために
日々、あらゆる努力を惜しまない
それが、この職域の誇りであり
プロ意識なのであろう
![](https://assets.st-note.com/img/1685616037651-lXfrA23R4j.jpg?width=1200)
🌱 次世代を担うヒーロー達へ 🌱
📌 目的意識
「何になりたいか」ではなく
「何がしたいのか」を大切に
パイロット、医者、外交官・・・
肩書は目的ではなく手段であり
その肩書を使って、何を成したいのか
それによって、その人の真価が決まる
📌 覚悟を決めること
自らが率先して決断し
そして結果については
すべて自分が責めを負う
そういう覚悟を決めて
腹をくくれば
何事も道は拓ける
📌 あきらめの悪さ
自分は本当に最善を尽くしているのか
日々、ただその一点だけを問い続けよ
ダメだと思ったとしても
何度もしつこく食い下がる
そういう、あきらめの悪さが
成長への原動力となる
![](https://assets.st-note.com/img/1685536576700-fSFFt7aezi.jpg?width=1200)
映画「トップガン・マーベリック」で
主人公ピート・ミッチェルが語った
"Don't think, just do.” とは
考えなくても
自然に身体が動くようになるまで
徹底的に技を磨くということ
そうすることで
「絶望を希望に変える」ちから
というものを養うことができる
映画「The Guardian」
老兵は去るのみだ
過ぎ去りし栄光に胡坐をかくことなく
これからも眼下の道を真摯に歩み続けよう
リアリズムが支配するこの世界で
果敢にリスクと闘い
そして野に海に散っていった
幾多の同士たちへの熱き想いを胸に
*追記しました。