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「合否の理由」を明確に語れますか?~コンピテンシー面接・行動質問のススメVol.4(3/3)

7.「観念的質問」「誘導質問」から「行動質問」へ

こうした脚色を回避する方法――それは同時に、面接官の印象評価や主観的評価を回避する方法でもあるわけですが――は、応募者が実際にとった「行動」を尋ねることです。これを「行動質問」とよび、対して「考え・希望・意見」などを尋ねる質問を「観念的質問」とよびます。

ほかにも、「あなたは問題解決が得意なほうだと思いますか? それはなぜですか?」や「あなたは新規の見込み客をどのようにして探しますか?」といった質問も観念的質問に属します。その質問の回答からは、その人の「行動」ではなく「考え方」しか取り出せません。


この観念的質問と同様、行動情報の収集を妨げる質問に「誘導質問」があります。Vol2で「面接官が自分の期待を込めた“助け舟” を出すよくない質問」として例不したのがこれです。たとえば、

「バイト先では店長の代理までしてたんですね。ということは、お客さんのクレーム処理や××業務などはお得意でしょうね」とか、

「要するにあなたは、どんなことにもその信念を貫き通して、異なる意見に対してはきつと○○という対応してきたんですね」

などのように、面接官が応募者に答えてもらいたい方向に導いていく質問をいいます。応募者は「はい一と答えればいいだけですから、それ以上の情報は得られません。もはや回答を脚色する必要もないわけです。

コンビテンシー面接は、多くの面接官が好んでつかっている観念的質問や誘導質問を意識して少なくし、行動質問に転換することからはじまります。先に挙げた観念的質問を行動質問に転換する例を示しておきますので、参考にしてください。

観念的質問 「あなたは問題解決が得意だと思いますか? それはなぜですか?」
                🔻
行動質問 「あなたが今までに対処した困難な問題を一つ挙げて、その問題を解決したときのことを話してください。あなたは実際、その問題をどのようにして解決しましたか?」

観念的質問 「新規の見込み客はどのように探しますか?」
                🔻
行動質問 「あなたが以前の会社で新規の見込み客を探したときのことを、順を追って話してください」

ここであらためて、行動質問をするときのポイントを挙げれば、

①過去において実際にあった事例を引きだす
②応募者本人が何をしたかを聞く
③応募者が実際にどのような行動や言動をとったのかを具体的に聞く

の三つになるでしょう(ほかにもありますが、それはあとの章で説明します)。

これらを踏まえて行動質問を投げかけていくと、応募者は「実際に」「自らが」かかわった「行動(何をしたか)」を話すようになり、だんだんと応募者の実際の行動事実が浮き彫りになってくるのです。

それでも、応募者は「自分をよく見せたい、高く評価されたい」という“売り手”としての動機はもち続けているでしょう。それは回答の中で、面接官に聞かれたくないマイナス部分の回避やあいまいな表現、意見、考えを駆使した切り返し、あるいは一般論化などとしてあらわれます。

たとえば、

「大学では三年生のとき、文化祭実行委員の一員として文化祭の改革にかかわり、いろいろと苦労しましたが、最後には大きな成果を収めました」

「(前職の) ○○社のプロジェクトで、私は役割以上のことをやってきたつもりです」

といった回答が予想されるわけです。

たしかに応募者は何らかの経験と行動をとったことは事実なので、コンピテンシー面接の経験やスキルがあまりない面接官は、「なるほど」とうなずいてしまうかもしれません。しかし、これだけの情報では応募者自身の実際の「行動」は見えてきません。

では、これに対して、面接官はどのように対処すればいいのでしょうか。

8.行動はごまかせない

いうまでもなく、面接官は行動質問の基本に立ち返るべきです。そして、次のようなフォローアップ質問を投げかければいいでしょう。

前者の回答に対してであれば、

「では、あなたが文化祭実行委員のメンバーに選ばれたきっかけについて話してください」

「その委員会の中であなたはどのような役割だったのでしょうか?」

「あなたがいう『大きな成果』とは、具体的にどのようなものだったのでしょう?」

「その成果をあげるためにあなた自身はどのようなことをしたのですか?」

「あなたが経験した『いろいろな苦労』の中で、最も苦労したときの経験を教えてください。

そのときあなたは、その苦労にどのように対処したのですか」

「あなたはそのトラブルをどのようにして解決したのでしょうか? 詳しく話してください」

などの質問が考えられます。

また、同様に後者に対しても、「役割とは具体的に何だったのか」を確認したうえで、「その中で、あなた自身は実際に何をしたのか」を質問すればいいでしょう。

たとえば、「社運をかけた○○プロジエクトにかかわり、それを実現させることに貢献しました」という応募者の回答に対して、フォローアップ質問を重ね、そのプロジェクトで応募者が実際にとった行動事実を引きだしたら、単に会議のときの書記役でしかなかったということもあるわけです。面接官は、応募者の話す表面的な事実に惑わされ、勝手に想像力をはたらかせて、「この人には大きなプロジエクトを推進するだけのリーダーシップがある」などと思いこんではなりません。

このようにあいまいな部分に対してフォローアップ質問をし、「事実関係」の確認をとりながら、「行動事実」を一つひとつ引きだしていけば、もはや応募者は脚色や言い込れができなくなります。つまり、「行動はごまかせない」、あるいは「自分が実際にとった行動しか話すことはできない」ということです。

いうまでもなく、こうした行動質問は応募者を困らせるためのものではありません。そうではなく、面接官(すなわち会社)が本当に必要な情報を収集し、その情報に基づいて適正な合否判断をくだすことが最大の目的です。

ですから面接官は、「追及する」「詰問(きつもん)する」といった姿勢をとるのではなく、あくまで「応募者の現在までのさまざまな経験について具体的な行動で話をしてもらう」という姿勢で臨むことが重要です。応募者と良好な人間関係を築くことで、応募者の情報提供意欲は高まります。

とはいえ、コンピテンシー面接、ことにその中で行われる行動質問は、ある意味で応募者の内実を摘出することにつながるわけですから、応募者にとって、面接の雰囲気はよくても、かなり厳しい面接になることは事実です。私自身が実際に同席した新人の採用面接での事例をご紹介しましょう。

9.行動質問でわかった「ウソ」

ある会社の新卒採用(一般職)に応募してきた若い女性(学生時代はスポーツ施設でアルバイト)の話です。ある面接官の質問に対し、彼女は次のように応えました。

「私が大学時代にやっていたアルバイトで最も努力してきたのは、職場の雰囲気を和ませることです。御社でもそのときの経験を生かして、職場の人間関係をよくするように一生懸命頑張っていきたいと思っています」

彼女は笑顔が愛らしく、なかなか感じのいい学生でした。そんな彼女の口から「職昜の雰囲気を和ませる」「人間関係をよくしたい一「頑張ります」という言葉が発せられたわけですから、面接官はその“和み系・癒し系”の雰囲気の中で、「この人を採用すれば、仕事のうえで対人トラブルを起こすことなく、きっと職場の雰囲気をよくするいい潤滑剤にもなってくれるだろう」と感じたようです。ふむふむとうなずきながら質問を打ち切ろうとするその面接官を制して、私は次のような質問を投げかけてみました。

「なるほど、そうした努力をすることはとても大切なことですね。ところで、あなたが職場の雰囲気を和ませようと思ったきっかけは何ですか? そのときの状況を話してもらえますか?」

すると彼女は、「え~と」とか「あのときは……、たしか……」というばかりで、まともな回答を返してくれません。そこで私は、

「じゃあ、質問を変えてみましょう。アルバイト先で職場の雰囲気を和ませるために、あなたが最初にしたことは何だったのですか?」

と、別の行動質問をしてみました。私は助け船を出したつもりだったのですが、彼女の口から「え~と」「あの~」といった言葉さえ消え、下を向いたままほとんど黙りこんでしまったのです。仕方がないので、私は最後に事実確認のための質問をしてみました。

「じゃあ、最後に確認ですけど、あなたのはたらきかけによって、職場の雰囲気や人間関係はどのように変わったんでしょうか?」

彼女はしばらく逵巡(しゅんじゅん)したあと、蚊の鳴くような声でぽつりとつぶやいたのでした。「あまり変わりませんでした」と。

フォローアップのための行動質問をしてわかったことは、最初の回答にあったような努力を彼女が実際にしたわけではない、ということでした。たぶん、面接のためにあらかじめ用意してきた回答だったのでしょう。したがって、「頑張ります」という意志表示に関しては何の確証もないということになります。

問題は、その学生の「頑張ります」が本心かどうか、ということではなく、彼女がその意志を職場で本当に実行できるかどうか、ということです。「頑張る」「努力する」と宣言することと、それを「実際に行動に移す」こととはまったく別の問題なのです。

【著者プロフィール】 伊東 朋子
株式会社マネジメントサービスセンター執行役員 DDI事業部事業部長。国内企業および国際企業の人材コンサルティングに従事。

お茶の水女子大学理学部卒業後、デュポンジャパン株式会社を経て、1988年より株式会社マネジメントサービスセンター(MSC)。

人材採用のためのシステム設計、コンピテンシーモデルの設計、アセスメントテクノロジーを用いたハイポテンシャル人材の特定およびリーダー人材の能力開発プログラムの設計を行い、リーダーシップパイプラインの強化に取り組む。
(※掲載されていたものは当時の情報です)

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会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント

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