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第5章<成長する>地図なしでラーニング・ジャーニーを始めないこと

1.ラーニング・ジャーニーの始め方

ラーニング・ジャーニーがツアーや遠足と呼ばれることはない。旅と呼ばれるのは、意味のある目的地に向かって、長く困難だが得るものの多い道を進んでいくからだ。どんな旅でもそうだが、目的地(成長の目標)にたどり着くには地図が欠かせない。オリエンテーション、アセスメント、公式学習、スキルの練習、適用、支援、その後の支援、その他不可欠な活動が、旅を始める人々のために行われる。


ラーニング・ジャーニーの目的は、新米リーダーや上級管理職が準備を整えることから、経営幹部にビジネスの課題を克服できるようにさせることまで、とても幅広いので、単にコンピテンシーやリーダーシップに関する能力開発プログラムを組み合わせるだけでは、旅は作れない。既存のリーダーシップ能力開発の方法(コース、本、モデルなど)は有益ではあるが、ラーニング・ジャーニーが功を奏するのは、組織の状況に合わせて組み立てられた場合のみである。その設計にはビジネスおよび組織文化への知識、創造性、さまざまな学習および学習支援手法の経験が必要だ。

5.6図 上級管理職に昇進するリーダーの基本的なラーニング・ジャーニー
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図5.6は、上級管理職への移行をしているリーダーの準備度向上を目的とした基本的なラーニング・ジャーニーの地図を示している。地図は、新たな職務で困難な課題に立ち向かえるよう準備を整えるためのすべての活動(公式的なイベントの間、または前後の)を示している。公式学習、ネットワークや人間関係づくり、職場適用、組織の主要な問題に関わる連携を通じて、リーダーの集団はともに、新たな視点、整合性のとれた理解、スキルの強化、そしてすぐに職場実践する機会を得る。もちろんトレーニングの長さやタイプ、カリキュラムは期間を置いて行うか1回にまとめて行うかなど、多くの選択肢がある。また、学習を次の学習につなげていって成長目標に向かわせられるよう、個人に合わせた学習アクセラレーター、グループでの練習、その他の活動やツールもイベントの間や前後に含まれている。

5.7図 組織の枠を超えた戦略実行のための上級管理職向けラーニング・ジャーニー
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図5.7は、上級管理職を対象とした、より多面的なラーニング・ジャーニーである。地図の利点がはっきりするだろう。この図では、グローバルなサービス関連企業が世界各国の顧客に、より効果的で一貫したサービスを提供するという課題に直面した場合を例としている。

視覚的な地図を作るのは簡単に見えるかもしれない。だが、ラーニング・ジャーニーの地図の作成には、単にプロセスを図で示すだけでない重要な理由がある。 

参加者が旅の一部分だけでなく旅全体の準備をできるようにする。ラーニング・ジャーニーは長く困難の多い能力開発体験であるため、旅を始める前に全体の地図を見ておくことが役立つ。旅に努力が必要なことはほとんどの参加者が認識しているが、地図を見ると、何が起きるか、各部分が全体にどのように当てはまるかを細かく知ることができ、途中で支援を受けられることもわかる。 

参加者の上司が自分の役割をよく理解できるようにする。参加者には上司の支援(コーチング、優先順位づけ、スキル適用の機会を探すなど)が必要である。参加者の現在の職務と仕事量を上司が理解していると、過度な負担をかけずにラーニング・ジャーニーに焦点を当て続けられるだろう。また、学習イベントと実世界の懸案事項の重要な関連性も見つけやすくなる。例えば、CEOが会社の戦略的優先事項と、その達成のためにリーダーに何が必要かを明確にしてからラーニング・ジャーニーを始めると、参加者とその上司は日常業務の中でそれらの課題に焦点を当てるようになる。これには、上司が自分のスキルや準備度を振り返りたくなるという副次的な効果もある。 

地図は、ラーニング・ジャーニーをそれぞれの国に合わせて調整するための基準を示す。多国籍企業でのラーニング・ジャーニーは、一貫した手法、経験、プロセス、期待を示していくために特に効果的である。ラーニング・ジャーニーの地図があれば、それぞれの国に合わせて旅を作り変え、国境を越えて整合性を取ることができる。例えば、経験の浅い中国の上級管理職には、より長期にわたるコースや別のスキル構築活動が役立つかもしれない。地図は、核となる学習目標を維持し、旅の全体的な意図を守りつつ、各国のニーズに合わせて旅をカスタマイズできる。 

旅をより創造的にデザインし、その魅力を高める。視覚的な地図の作成は、創造プロセスに良い影響を与え、その結果、学習者は魅力的な経験を得て、意味のある変化をもたらすためにより幅広い手法を用いることができるようになる。DDIの「グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2014|2015」では、最も効果的なリーダーシップの能力開発プログラムを持つ組織は、そうでない組織と比べ、能力開発の手法が32%多いことがわかった。また、ラーニング・ジャーニーを行っている組織を、単発の研修のみ行っている組織と比べると、学習者の学習プログラムに対して高く評価する率は3.4倍となり、リーダーに優秀であるという評点がつく率も2.9倍高かった。さらに、同業他社と比べて、財務面における高業績企業として上位20%に入る確率が2.5倍高かった。 

最高経営幹部がラーニング・ジャーニーを積極的に支援するようになる。ラーニング・ジャーニーの地図は、経営幹部がこの取り組みへの投資の利点を知り、主要な組織的問題と戦略との整合を理解するのに役立つ。最高経営幹部は、地図の検討とフィードバックに直接関わるべきである。これは、彼らが最も関心を持っている学習者の能力開発において、今何が起こっているのかを理解し、共有するうえで大きな意味を持つ。これによって、最高経営幹部が人材開発の加速化のスポンサーとしての役割を学ぶことができるのだ。

2.能力開発計画、学習経路、ラーニング・ジャーニーの重要な関連性

🔶能力開発計画(付録4.4参照)

能力開発ニーズが特定され優先順位がつけられた後の、各コンピテンシー、阻害要因、任務、知識ごとに設定される幅広い能力開発目標。何をいつ開発するかは明確にするが、その手法は明確にしない。

🔶学習経路

学習目標達成のためにどのように能力開発計画を実施するか。その段階的な取り組み。

🔶ラーニング・ジャーニー

重要な能力開発ニーズを満たすための、学習経路の一段階。ラーニング・ジャーニーは「大勢のニーズ」を満たすために作られているが、その最終的なインパクトは、参加者のヒューマンニーズおよびタスクニーズがいかに満たされ、グループの経験に融合されるかによって決まる。

3.速度とビジネスへの影響のためにラーニング・ジャーニーを設計する

図5.6と5.7のラーニング・ジャーニーの例は、適切な学習を作り出し維持するのに不可欠な公式および非公式の学習要素を組み合わせてある。だが、ラーニング・ジャーニーが確実にその準備度を向上させるためには、設計にあたってと以下いくつかの信条を追加する必要がある。

🔶「赤い糸」を特定する

ラーニング・ジャーニーには、説得力のあるテーマ――すべての活動を旅の最終目的に導く包括的なブランドや見出し――が必要である。このテーマは旅のあらゆる側面を全関係者(参加者、人事部門、経営幹部など)に関わる目的に結びつけるため、われわれはこれを「赤い糸」と呼ぶ。しかし、赤い糸はただの呼称ではない。コンパスのように、旅が軌道に乗っている(あるいは外れている)ことを継続的に示す指標である。あるCEOは次のように語っている――「赤い糸は重要である。参加者にラーニング・ジャーニーの経験について尋ねてみると、それがいかにすべて会社のビジネスと結びついていると理解していることがわかるような答えが返ってくるからだ」。 

世界中の顧客に効率的なサービスを提供するために、ラーニング・ジャーニーを始めたグローバルなサービス関連企業に話を戻そう(図5.7)。「多国籍の顧客に向けて卓越性を推進する」という赤い糸を中心にラーニング・ジャーニーが設計された。適切で全体的な目標であるが、組織はどのようにしてすべての学習活動が赤い糸によって目標に密接に結びつくようにするのだろうか?

5.8図 「ビジネス・役割・個人」アプローチ
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会社は、赤い糸を各活動と結びつけるために「ビジネス・役割・個人」アプローチ(図5.8参照)を採用した。具体的には、ラーニング・ジャーニーはまず顧客によるスピーチで始まった。その中で、論拠、改善の緊急性を設定(ビジネス関係を作るための効果的な活動)した。続いて、グローバルな価格設定やテクノロジーシステムの整合といった主要な問題に取り組むために、アクション・ラーニング・チームが結成された。

そして数カ月間、グローバル感覚、戦略的パートナーシップ、人脈の構築、変革推進、実行力といった、リーダーが仕事の目標を達成するために必要なコンピテンシーを対象に(学習を各リーダーの職務に関連させて)、スキル構築コースが実施された。最後に、リーダー全員がアセスメントを受け、コンピテンシー、個人特性の洞察を得た後、フィードバックとコーチングも受けた。そして多国籍の顧客に向けて卓越性を推進する能力を高めるための個々の能力開発計画を作成した。こうして、学習プロセスのあらゆる側面が各個人と関連づけられた。 

赤い糸は特定のコンピテンシーやコース、経験の上に位置するものであり、ビジネスの目的、個人の関連性、緊急性に対する高い意識を生むことでラーニング・ジャーニーをひとつにまとめる。

4.おすすめ人材アセスメントソリューション

5.DDIとは

DDIは、世界最大手の革新的なリーダーシップ・コンサルティング企業です。1970年の設立以来、この分野の先駆者として、リーダーのアセスメントや能力開発を専門としてきました。顧客の多くは、『フォーチュン500』に名を連ねる世界有数の多国籍企業や、『働きがいのある会社ベスト100』に選ばれている世界の優良企業です。
DDIでは、組織全体におよぶリーダーの採用、昇進昇格、能力開発手法に変革をもたらす支援をすることで、すべての階層において事業戦略を理解し、実行し、困難な課題に対処できるリーダーの輩出に貢献しています。
DDIのサービスは、現地事務所や提携先を通じて、多言語で93カ国に提供されています。また、同社の研究開発投資は業界平均の2倍であり、長年にわたる実績と科学的根拠に基づいた最新の手法を駆使して、組織の課題を解決しています。

◆DDI社の4つの専門分野

DDI社は、4つの専門分野を中心に、長年の実績と科学的根拠に裏付けられたソリューションと、より深い洞察を提供し、優れた成果を生み出しています。

6.会社概要:株式会社マネジメントサービスセンター

創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント

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