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「合否の理由」を明確に語れますか?~コンピテンシー面接・行動質問のススメVol.4(2/3)

4.「コンビテンシー」を採用面接に活用する理由

次に、採用面接において、私たちが「コンピテンシー面接」を強く推奨する理由を述べることにしましよう。「コンピテンシー面接」のメリットは何か。それを表にまとめてみました。

■コンビテンシー=職務を成功させるための行動
①情報収集の手引きとなる
②応募者の強点と弱点の分析に役立つ
③公正で正確な合否判定ができる

①~③について、その要点をご説明しましよう。

①の「情報収集の手引きとなる」とは、「自社にとって必要なコンピテンシーとは何か」をリストアップすることにより、面接で収集すべき重要な情報の内容や種類をあらかじめ理解でき、合否判定で必要となる情報収集に面接中専念することかできる、ということです。


これによって、応募者からどのようなコンピテンシーの要素(たとえば「リーダーシップ」や「他者との協調性」)を聞きだせばいいかという明確な目的と意図をもって、面接を進めることができます。逆にいえば、個々の面接官によるその場その場の「思いっき質問」や目的・意図がはっきりしない質問などに起因する収集情報量の偏りなどを回避できるわけです。

なお、「自社にとって必要なコンピテンシーとは何か」を抽出することは、「戦略的な採用」を策定するうえできわめて重要な要素となります。この進め方についてはVol6で再考することにします。

②に挙げた「応募者の強点と弱点の分析に役立つ」とは、単に「いい・悪い」といった直感的、思い込み評価ではなく、 コンピテンシー面接を的確に行えば「応募者の行動の実態が浮かび上がり、応募者の持ち味と深刻な問題点を明らかにできる」「採用後に応募者の伸ばすべき能力を判断できる」ということです。

たとえば、「人柄がよさそう」とか「まじめで責任感が強そう」といった評価では、応募者の実際の行動は予測できず、またそれが自社の事業特性や風土においてプラスに作用するのかマイナス要因となるのか、実際の仕事ぶりを予測することができません。

つまり、「この応募者はこういうふうな仕事のやり方をするところに強味があるけれども、こういうようなところは、心配だ」ということを、入社前にわかるようにしよう、というのが「コンピテンシー面接」なのです。

③の「公正で正確な合否判定ができる」とは、 コンピテンシー面接が「業務を遂行するうえで成功・失敗を招く行動特性」にフォーカスし、応募者の行動特性を判定するという理由からです。

言い換えると、「合否判定の判断材料となるある特定の行動について、応募者の現在までの行動を引きだすことを目的とした以外の質問はしない」、「どの応募者に対しても公平に、 コンピテンシーにかかわる質問を投げかける」、その結果「成果に結びつく業務遂行能力に焦点を絞って合否判定が行われる」ということになるわけです。

なお、最終の合否決定の方法については、あとのVol7でさらに詳しく説明することにします。

5.応募者の顔は忘れても、行動はいつまでも覚えている

以上、 コンピテンシー面接のメリットを説明しましたが、 コンピテンシー面接を行うことによって、従来の面接とは異なり、応募者のことを本当に知ることができ、「合否の理由や根拠」を応募者の具体的な行動に基づいて説明することができるようになります。

たとえば、ある営業職の応募者を不合格にした面接官にその理由を尋ねたところ、次のような答えがかえってきました。

「たくさんの営業を採用してきた経験から、彼のような少し暗い印象のタイプは、まず営業としては成功しない。線も細いし、押しも弱そうにみえる。営業職を希望する志望動機もあまり納得できるものではなかった。営業職としては不採用です」

もし、 みなさんが合否のとりまとめ役なら、 この面接官の不採用の理由に納得されるでしょうか。この説明では、以下の理由から合否決定の根拠を関係者に説明することはできません。

一つめは、 「暗い印象、線も細い」などといったコメントは、面接官自身の価値観や印象によるもので、 その会社が営業職に必要とする能力要件に照らした内容ではないからです。

二つめは、合否判定の基準がきわめてあいまいだからです。「押しも弱そう」ということですが、応募者のどのような情報に基づいて「押しが弱い」と判断したのかかわかりません。

三つめは、 「志望動機もあまり納得できない」ということですが、どういう志望動機であれば合格で、どういう志望動機だったら不採用なのか、その判断基準がわからないからです。

一見もっともらしく思える不採用理由ですが、じつは合否判断に関する理由ーーー面接で応募者から収集した情報に基づく具体的な理由については、 この面接官は何も語っていません。

これに対し、コンピテンシー面接では、あらかじめ組織や仕事に求められる能力要件として設定したコンピテンシー(の有無や強弱)を確認するために質問をし、そのコンピテンシーに関連する行動事実を情報として収集するわけですから、合否の理由はそれに基づいて具体的に語ることができます。

たとえば、過去に営業の経験がまったくない学生の 「説得力」 についても、 コンピテンシー面接でなら評価は可能です。 たとえば、「過去にどのように他人を説得したか」「仲間に自分の考えを売りこんだり、影響を与えるためにどうしたか」などについて質問し、過去の経験談をその学生の 「説得力」に関連する行動情報として引きだすことで、 「説得力」という能力要件を客観的に評価できるのです。

採用面接で、 1日に多数の学生を面接している場合、どんどんと面接が進むにつれて、前し会った学生を忘れてしまう経験はないでしょうか。人物印象に頼る面接をしていると、応募者の印象が徐々に薄くなってくる傾向があります。

しかし、 コンピテンシー面接の場合、時間がたっても思い出す内容は、応募者の印象よりもまず、応募者の過去の経験や行動事実なのです。

私自身、数え切れないくらい多くの面接に同席しましたが、今でも何人かの応募者をはっきりと覚えているのは、面接の場で語られた話の内容によってです。 その話を思い出すことによって、面接時の応募者が記憶によみがえってくる。 それがコンピテンシー面接の卓越した効用だと実感しています。

採用する理由もしない理由も、応募者の行動事実に基づいて明確に語れることこそ、 コンピテンシー面接の最大の特長であり優位性なのです。

6.考え方はいくらでも脚色できる

ところで、 コンピテンシー面接では、評価の判断材料(情報)としてなぜ「行動」や「行動事実」をことのほか重視するのでしょうか。このことは、先の章でも少しふれましたが、ここであらためてその理由についてご説明したいと思います。

なぜ「行動」を聞きだすことが重要か。

それをキーワードであらわすなら行動はごまかせない、過去の行動は将来の行動を予測するという2語に集約できるでしょう。このVolでは「行動はごまかせない」についてお話しします(「過去の行動は将来の行動を予測する」は次のVol5で)。

ここで視点を変えて、応募者にとっての採用面接を考えてみてください。

採用面接は応募者にとって自分を売り込む真剣勝負の場です。ですから応募者は、面接官からの質問にはすべて全力で答えなくてはならないと思っており、面接官の質問の目的や意図が理解しがたいものであっても、 一生懸命回答を考えて、面接官の期待に沿うような答えを返そうとします。

また、合格したいとの願いから、面接官に対して「自分を少しでもよく見せたい.「高く評価してもらいたい」と思うのは当然のことでしよう。その結果、本人に悪気はなくても、話す内容に誇張や脚色が入る可能性が高くなります。

ことに応募者の「考え・やりたいこと・希望・理屈・理由・意見・一般論」などを質問すると、濃淡強弱の違いはあっても、その回答には自然となんらかの脚色が施されると考えたほうがいいでしょう。

たとえば面接官から、「アルバイト先の店でお客様と接するとき、どのような点に気をつけていましたか」という質問を投げかけられた場合、「笑顔を絶やさないように、そして、できるだけお客様のご要望をよく聴いて、それに応えるように努力していました」といった種類の回答が、ごく自然に応募者のロをついて出てくるものです。

この回答はウソではないでしょうが、その中で応募者自身がどこまでそれを実行したかはわかりません。そこで、質問の内容を「では、お客様に笑顔で本当に喜んでもらえた経験を話してください」というように具体的レベルにおろしていくと、応募者は自分のとった行動をごまかすことができなくなるのです。

考えや思いは、知識や情報をもっていれば答えることができます。しかし、 コンピテンシー面接で行動事実を質問されると、応募者は自分自身の過去の行動をごまかせません。自分が実際にやっていない行動や、経験したことのない状況での言動については基本的に話せないわけですから、 「自分の行動を最後までごまかしきる」 ことは、 応募者にとってはきわめて困難になるのです。

行動のウソはコンピテンシー面接によって、 すぐにメッキか剝がれてしまいます。

【著者プロフィール】 伊東 朋子
株式会社マネジメントサービスセンター 執行役員 DDI事業部事業部長。国内企業および国際企業の人材コンサルティングに従事。

お茶の水女子大学理学部卒業後、デュポンジャパン株式会社を経て、1988年より株式会社マネジメントサービスセンター(MSC)。

人材採用のためのシステム設計、コンピテンシーモデルの設計、アセスメントテクノロジーを用いたハイポテンシャル人材の特定およびリーダー人材の能力開発プログラムの設計を行い、リーダーシップパイプラインの強化に取り組む。
(※掲載されていたものは当時の情報です)

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会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント


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