見出し画像

人事マネジメントの過去、現在、未来 ~日本の人事コンサルタントの草分け

梅島みよ氏は、日本の人事コンサルタントの草分け的存在として戦後の日本企業の人材開発を常にリードし、米国の科学的アセスメント技法を日本に初めて導入し、普及させた女性経営者です。90代にして今なお現役で、株式会社マネジメント サービス センターの相談役として活躍される一方で、講演、執筆活動も行っています。本セッションでは、その梅島氏に、日本の人事マネジメントの過去と現在、そして、未来の人事マネジメントのあり方についてお話しいただきました。

梅島 みよ氏
株式会社マネジメント サービス センター 顧問
1924年、静岡県出身。1944年津田英学塾卒業。在日米陸軍司令部(訓練課)で管理者訓練トレーナーとして勤務した後、日立製作所を経て、訓練コンサルタントとして独立。1966年には、米軍時代の仲間と共に経営・人事コンサルタント会社である株式会社マネジメント サービス センター(MSC)を設立。同社社長、会長を経て、現在は顧問を務める。日本における経営・人事コンサルタントのパイオニアとして知られている。

1.戦後、米軍で管理者訓練トレーナーに

私が人材業界、コンサルタント業界に入ったのは1953年のことです。戦争に負けて、それまでは愛国少女でしたから虚脱状態になり、なす術もなく、することがないから結婚しました。それから10年ほどは主婦業で子育てです。そのうちに仕事をしようという気持ちになり、座間にある在日米陸軍司令部(訓練課)に勤めました。そこにはマネジメントトレーニングコースというものがあり、いわゆるMTP(マネジメント・トレーニング・プログラム)ですが、私はそのトレーナーになりました。

米軍のMTPのトレーナーのときは、女性でも男性でも問題はなかったのです。女性のマネージャーでも、女性の講師でも、トレーナーとして受け入れてくれたんですね。ところが、米軍は1950年代の半ば頃、大量に兵隊を帰国させてしまい、米軍で働く日本人のコンサルタントは不要になりました。私も退職して一人でコンサルタント商売をやっていたところに、米軍時代のコンサルタント仲間が一緒に会社をつくろうと声をかけてくれ、東京で今のマネジメント サービス センター(MSC)を立ち上げたのが、1966年のことでした。以来、今日まで50年以上、同じ会社に勤めています。今、93歳ですから、本来はもうご隠居さんなのですが、今でも週に2、3回は会社に行っています。

2.D.W.ブレイ博士と出会い、最新の人材アセスメント技法を日本に導入

MSCを創業した当時は、日本の会社に伺いますと、女性に管理者教育などやらせてくれない時代でした。「女性の講師が男性の管理者の教育なんかできますか、女性なら女性社員の教育訓練をやってください」と言われる時代です。それで女性の教育訓練をやったのですが、テーマはすべてマナーばかりです。

私はそんな日本の現状に腹を立てまして、アメリカの産業界の視察旅行へ行きました。アメリカの大企業ではどのような女性教育をやっているのだろうと、各社に手紙を出したのです。その頃はちょうどアメリカで雇用差別撤廃の法律ができた後だったので、いろんな企業が「当社は男女別の教育などないが、とにかく見にいらっしゃい」と歓迎してくださいました。私は大喜びで、バンク・オブ・アメリカ、AT&T、IBMなどいろいろなところを訪問し、アメリカの女性管理職の昇進状況などをこの目で見ました。

そのときに一番うれしかったのは、AT&Tでマネジメント・セレクション(管理者選抜)というプログラムを実施しているブレイ博士に会い、男女の管理能力についての調査結果を目の当たりにさせてもらったことです。当時はアメリカでも、男性の昇進率のほうが高かったのです。大学から新卒の男性と女性を管理者候補として雇うと、5、6年後に男性は70%ぐらい昇進しているのに、女性は30%ぐらいしか昇進していません。そこでブレイ博士が、本当に女性には管理能力がないのかと、アセスメントセンター・メソッドという手法をつくって調査したところ、結果、女性にも十分に管理能力があるということが証明されたのです。

それを知った私は興奮し、「ぜひ日本に来て、話をしてください」とブレイ博士にお願いすると、ブレイ博士は翌年の1972年に来日し、アセスメントセンター・メソッドの話をしてくださいました。これが、日本初のヒューマン・アセスメント紹介セミナーでした。また、これをきっかけに、MSCはブレイ博士とその友人のW.C.バイアム氏の創業した世界規模の人材コンサルティング会社、DDI社と技術提携を結び、DDI社の各種プログラムやサービスの日本導入を受けることになりました。

とはいえ、当時の日本企業の人事マネジメントは、年功序列が基本。能力評価をしてコンピテンシーなどを見て有能だとわかっても、「じゃあ昇進させよう」とはなりません。実際、アセスメントプログラムも10年ぐらいは売れませんでした。ですが、あきらめずに続けました。1980年頃になるとようやく時代が変わり、日本企業の海外進出も進んできましたので、「海外に出す人間の能力調査」や、「若手の管理者を国内で課長に昇進」させることができる、といった方向でアセスメントが売れ始めました。

このように私はずっと今日まで、女性の能力開発と、アセスメントという、2つのテーマを追い続けています。

3.日本の管理者のコンピテンシーの変遷から見えること

皆さんの中にも、アセスメントを採用してくださっている企業は多くいらっしゃると思います。このアセスメントも、45年の間に、企業からいただくご要望が少しずつ変わってきました。初期の頃に要求されたコンピテンシーは、技術提携したDDI社から送られてきたものが35項目でした。それがだんだんと整理され、今、企業で最もよく使われるものは、12項目から18項目ほどになりました。

そうしたコンピテンシーの変遷を調べてみますと、最近の10年間で、日本の管理者のコンピテンシーとして、企業がここを見てほしいと付け加えてこられたものに、「情報管理力」、「成果管理力」があります。これらをなぜ付け加えてこられるかというと、求められているけれども、自社の管理者はそこが弱いという状況があるからです。

また、今後、特に重要で、力を入れていかなければならないと言われる項目は「創造力」、「リーダーシップ」、「計画組織力」です。日本人は、計画力と実行力を分けて考えますが、アメリカから来るコンピテンシーでは、これらをまとめて「計画組織力」と呼びます。計画を立て、その計画を実行する組織をつくり、実行し、成果を見るというのを、すべて「計画組織力」 という言葉の中に入れているわけです。日本人はこの「計画組織力」というのが取り立てて弱いのです。日本とアメリカの同じレベルの人たちの評点を並べてみても、日本は計画力は高いのですが、この「計画組織力」が総じて低くなっています。

日本人が低いものはほかにも、「リーダーシップ」と「決断力」があります。日本の管理者のひとつの傾向が現れているのではないかと思います。

4.女性活躍に限らず、多様性を活かす人事マネジメントへ

男女雇用機会均等法が制定されたのは1985年のことでした。翌年にはガイドラインが出され、企業はこの新しい法律に対応していくことを求められました。ところが、日本の多くの企業は、最初の頃はこの取り組みを男性・女性というところに限定してしまったようです。本当は、多様性、ダイバーシティというところに広げて、グローバルにさまざまな国籍の人たちを採用し、今の時代に必要な多様性を活かす人事マネジメントに移行してしかるべきだったと思います。しかし、実際にはなかなかそのように進みません。

今、グローバル化が進んできて、多くの企業がアジアをはじめとして世界の国々に出ていっていますが、やはりその国のカルチャー、その国の歴史、その国の風土をきちんと理解しなければ、現地のマネジメントは成功しないようです。これからの人事マネジメントのあり方としても、ダイバーシティの考え方で、多様なバックグラウンドの人たち、文化の異なる人たちのことを理解することが、より重要になってくると思います。

5.個の能力拡大を組織の拡大につなげていく時代

これからの時代は、日本の一人ひとりが自分の能力の拡大ということを考えなければいけないと思います。アセスメントを長くやってきて折々に感じることですが、人間の能力というのは、実は、持って生まれたものがかなり大きいんですね。そして、これは日本人の特徴ですが、自分の弱いところを強化しようとしすぎます。

しかし、本当は、強いところを伸ばすほうが大事なのです。例えば、「この人は人間関係については非常によろしい、しかしながら問題分析力が少し弱い」というときは、この人を人間関係が非常に求められる部門に置き、弱い問題分析力についてはサポートする部下をつけるというように、マッチングも含めた人材配置が重要になってくるのでしょう。

私の師であるブレイ博士がおっしゃっていたのは、「自分の持って生まれた能力をまず見つけなさい」ということでした。ブレイ博士がずっとおやりになっていた研究ですが、企業に入社する人のアセスメントを入社時に行って、その能力を見つけるのです。そして、職場でいろいろな部門を経験することによって、どのような能力が伸びたか、だいたい10年ごとにまたアセスメントを行って調べます。そのようにして、その人の最も優れた能力を発揮できる部門に順々に回していくことで、人間の能力拡大のスピードを上げられるとお聞きしました。

今はスピードが求められる時代ですから、年功序列でやっていくというよりも、適材を適所に配置するようなプログラムが必要なのではないでしょうか。一人ひとりの持っている能力が伸びれば、当然、会社全体の能力も大きくなります。

近頃は、本人が「こういう研修を受けたい」と自ら手を挙げ、会社が「いいでしょう」と判断すれば、その研修を受けることが認められるといったような、能力開発の仕組みが出てきています。会社が「この研修を受けなさい」と指示するのではないのです。これからは、個の拡大こそが、組織の拡大にプラスになる時代、そして一人ひとりが主体的に自分の能力の拡大について考え、会社がそれをサポーしていく時代になっていくのではないか、と思っています。

※HRproコラボ記事

6.おすすめソリューション

会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円 (令和 2年12月31日)
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?