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偏見と固定観念を排除した合否判定~システマティックな意思決定法Vol.7(3/3)

6.意思決定は合計点ではなく応募者の全体像で

コンピテンシーごとの評点が決まれば、いよいよ合否判定(1次面接であれば、2次面接に進ませるかどうかの判定)に移ります。このとき各評点をどのように扱うか。

対象となるコンピテンシーはA、B、C、D、Eの五つだとします。評点は5点評価とし、採用の基準となる行動が「3」(求める基準である=仕事を成功させるための基準を満たしている)です。

さて、このとき「A、B、C、D、Eの各評点の合計点数を計算し、その高い順に合格者を決める」という方法では、このシステムをつかっている意味がなくなってしまうことを、あらためて申しあげておきます。というのも、この方法では、組織が最も重要とする必須コンピテンシーやコンピテンシーの訓練可能性、および(後述する)コンピテンシーの相互関係性を無視することになるからです。

同様に、「合計点数が15点(五つのコンピテンシーの平均点が3)以上であれば合格とする(あるいは次の2次面接や役員面接に進ませる)」という方法も、「コンピテンシー採用」の基本的な考え方に反します

一つの例ですが、「A、B、C、D、E」の各評点が順に「2、4、3、4、4」であったとしましょう。この合計点数は17点で、しかも基準以上の行動を発揮できるコンピテンシーが三つありますから、たぶん順位はかなり高いところに位置づけられるはずです。

しかし、この人の場合、その組織にとって最も重要である必須コンピテンシーAの評点が「2」で、しかもそのコンピテンシーの訓練可能性が低い場合、「自社の社員として欠けていては困る能力要件」が期待レベルに達していません。したがって、入社してからもそのコンピテンシーが開発される可能性は低いということになります。

また逆に、評点が順に「4、3、2、3、2」だったとすると、必須コンピテンシーAは期待レベルを上まわっていますが、一方、期待に満たない「2」と評価されたコンピテンシーが二つあるわけです。このときに、他の二つのコンピテンシーが訓練可能なものであれば、合計点数は14点と低めであっても、この人は採用される可能性があります

このようなプロセスで最終意思決定を行えば、基準を下げて誤った人を採り急ぐ危険性も低くなりますし、採用する前から、応募者の能力開発のニーズを認識して採用するわけですから、配属先での育成方法もあらかじめ計画することができるでしょう。

こういったことまで検討して最終意思決定をすることができるのは、システム化された採用プロセスの最大の特徴です。

7.判定の定量化・効率化は採用ミスのもと

以上からもおわかりいただけるように、合否判定にはそれなりの知識とスキルが必要です。

ところが、合否判定について討議自体が煩わしいとか、トレーニングなしでも機械的に判定がくだせるようにするといった理由で、判定の定量化が行われることが少なくありません。しかしながら、先ほども説明したように、「合格判定」を定量化すること(たとえば、先の合計点や平均点で「×点以上であれば、合格」との基準を設けることなど)はいくら効率的であっても厳に慎むべきでしょう。こうした方法は、最終的には合否判断のミスにつながる原因になるからです。

ただし、「不合格判定」においては、あらかじめ定量的な基準を設けておくことも一案と考えます。

たとえば、最も重要とする必須コンピテンシーとそれに次ぐ重要度の高いコンピテンシーをいくつか抽出し、その項目については評点が「2」以下であれば不合格、というようにこの方法は、けっして判定の効率化のためではなく、いわゆる「組織にとって成功する確率の低い人」が合格してしまうリスクを回避するのに役立ちます。

いずれにせよ、合否判定で評点を扱う際は、必ず「そのコンピテンシー」が「わが社にとって」どのような意味があるのか、またそのコンピテンシーは入社後に訓練することができるのかという視点で討議し、そのうえで最終的な結論をだしていただきたいと思います。

8.合否判定にはコンピテンシーの「相互関係性」を検討する

本Vol.7の最後に、合否判定におけるコンピテンシーの相互関係性について、その概要を説明しておきます。

あるコンピテンシーの高い行動特性が、他のコンピテンシーの弱い行動特性を補うというケースや、その逆に、あるコンピテンシーの強い行動特性が、他のコンピテンシーの弱い行動特性をさらに強めるケースがあります。

たとえば、「継続的学習能力」の高さは「計画力」の弱さを補う可能性があります。その理由は、仕事についてからでも「計画力」は学べる可能性が高いからです。

また後者の例では、「行動開始力」の高さが「分析力」の弱さをさらに助長し、ことに入社した最初のころ仕事で大きな失敗を招く可能性があります。

というのも、この二つのコンピテンシーの相互関係性という観点から検討すると、こういう人は、あまり深く考えないまますぐに行動に移してしまう(本来の持ち味である「行動開始力」が強みとして発揮されず、むしろ「分析力」の弱さが先行する)という行動特性を有していると考えられるからです。

人の行動は、一つひとつを完全に切り分けて考えることは難しいものですが、コンピテンシーの相互関係性を検討することで、応募者の行動傾向を総合的に判断していくことが可能になります。

たとえば、「執着性」というコンピテンシーの評点が高い人がいたとしましょう。先にも解説したように、執着性の高い人は一般的に自分の仕事のやり方や仕事自体の完璧性に固執する傾向があります。でも、これはあくまで「一般的に」であり、「傾向がある」という域を出ません。

しかし、もしこの人の「適応力」が低かった場合、この人が入社し自社の仕事のやり方や職場風土になじめなければ、「仕事熱心」「あきらめない」といった長所が生かされないということになるわけです。

これを事前に判断するために相互関係性のある「適応力」というコンピテンシーを見ると、その評点は低いものでした。つまり、上司が「こうしろ」といっても聞き入れず、自分のやり方を変えようとしない人だと推察できます。コンピテンシーの相互関係性を活用すれば、採用の合否決定の前にこういったことがわかります。採用しないほうが、無難といえるでしょう。

採用において、ターゲット・コンピテンシーを決める場合に、「重要性」「訓練可能性」「相互関係性」を考慮しておくことをお薦めします。

【著者プロフィール】 伊東 朋子
株式会社マネジメントサービスセンター執行役員 DDI事業部事業部長。国内企業および国際企業の人材コンサルティングに従事。

お茶の水女子大学理学部卒業後、デュポンジャパン株式会社を経て、1988年より株式会社マネジメントサービスセンター(MSC)。

人材採用のためのシステム設計、コンピテンシーモデルの設計、アセスメントテクノロジーを用いたハイポテンシャル人材の特定およびリーダー人材の能力開発プログラムの設計を行い、リーダーシップパイプラインの強化に取り組む。
(※掲載されていたものは当時の情報です)

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会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント

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