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「思いこみ・決めつけ採用」がもたらす組織へのダメージ~<こんなはずじゃなかった>ではもう遅い Vol.3(1/3)

1.思いこみ採用の「サプライズ」

前章でご紹介してきたような採用面接は、おそらくどの企業においてもかなり一般的に見られる光景ではないでしようか。だからといって、「面接は難しい。短い時間でヒトを見ているのだから」ではすまされません。 いうまでもなく、「思いこみ・決めつけ」による面接5評価・合否判定が続くかぎり、毎回ある割合で採用ミスによる"サプライズ社員。が確実に入社してど、ることになるからです。


その結果、職場の風土や雰囲気が悪くなったり、会社のカルチャーが微妙に変化したり、企業理念やミッションが社員に浸透しにくくなるなど、組織全体かぎくしやくし、組織力を弱める危険性をはらんでいます。少量であっても、悪貨はじわじわと良貨を駆逐していくのです。

ところで、 ここでいう「サプライズ社員」とは、入社後に「面接のときの判断とはまったく違う想定外の行動を職場でとる、期待や想定とは大きく外れる」社員のことです。

たとえば、「彼(彼女)は面接では、はきはきと受け答えをし、体育会系のクラブで4年間選手を務め頑張ってきたということだったので、チームワークを重んじながらバリバリ仕事を推進.してくれるはず・だーと期待して採用したのに、ふたを開けたら自己主張ばかりが強くて周囲の人間と衝突することが多く、職場の中で浮いている存在となってしまったというような、面接での評価や期待と採用後の実体とがあまりにもかけ離れた社員のことをたとえた表現です。

あるいは逆に、「印象が地味で、大学ではクラブにもサークルにも入っていないけれど、根はまじめそうなので、人数確保としてとりあえず採っておこうか」と採用したら、与えられた仕事には最後まで責任をもってやり抜く、 コツコツ型でしかも見かけによらず積極的で前向きなハイパフォーマーだったというような、想像以上にいい人材のことも、本マガジンでは「うれしい」 サプライズ社員とよぶことにします。

後者のサプライズ社員なら、結果として採用は成功したのだから別に問題ないではないか、という意見は当然あるでしょう。しかし、 こうした例はたまたま運がよかっただけで、面接の評価精度という観点では、「面接官が応募者を正確に見抜けていなかった」ということがやはり問題なのです。

いずれにしても、採用面接の段階で応募者の能力を見極め、 マイナスはもちろんのこと、たとえ「うれしい」ほうであっても「サプライズ」を少なくすることが、面接には強く求められています。

企業にとっては、「いかに採用の正確性を高めていくか」ということが、組織の活力の低下を防ぐうえで、検討すべき課題であることはいうまでもありません。「サプライズ」をゼロにすることは困難でも、かぎりなくゼロに近づけることは可能なのです。

精度を高める(ヒット率を上げる)面接のテクニックについては順次ご紹介していくことにし、Vol.3では、なぜ「思いこみ」評価や「決めつけ」評価が多くの企業で行われ、それによる採用ミスが跡を絶たないのか。また、採用ミスによる弊害がどれほど大きいことなのかを、考えていくことにします。

2.なせ面接で同じ失敗が繰り返されるのか

面接官の個人的印象に偏った人物評価が、採用面接において繰り返し行われている要因はいくつか考えられます。

その一つとして、採用した人の職務遂行能力が低くても、そのことは入社後すぐに顕在化せず、数年たってからようやく明らかになるということか挙げられるのではないでしようか。採用のツケは時間の経過とともにボデイプローがきいてくる、これが採用の恐ろしいところです。

しかしながら、数年後に能力が期待以下であったことが判明したからといって、その原因をわざわざ面接審査の時点にまでさかのほって究明しようとすることはほとんどありません。そのため「面接の精度を高める」という重要な課題については、結果として手つかずのままになってしまうわけです。

さらに、能力レベルが低いとの人事査定が数年後になされても、その原因を特定できないこともまた、採用面接とその合否判定の実施方法にメスが入りにくい要因の一つといえるでしょう。

たとえば採用後に社員の能力が伸びない場合、その要因が特定できないのは、もともと能力の低い人を面接では高いと評価し誤ったのか、それとも能力が高いにもかかわらず、職務内容とのミスマッチや上司との好ましくない関係、あるいは上司のマネジメントカや指導力のなさなどによってその能力が開花しないのかが判然としないからです。原因かわからなければ、対策の打ちようがありません。

もちろん、以上のようなことを精緻にトレースして、原因を究明することはできます。たとえば人事・採用部門の担当者が中心になって、面接時の各面接官の評点やコメントをデータ化したうえで、入社した人の成長度合い、能力の発揮度合いを追跡調査し、ある期間ごとにそれを数値化して面接時のデ1タと逐一照合していけば、面接時の評価方法の問題点を明らかにすることは可能でしょう。

しかし、そのための労力とコストは計りしれません。

コア人材の不足や組織の成長カ・活力低下の要因として、「面接での評価基準や合否判定の方法がおかしいのかもしれない」という仮説が立てられるのであれば、まずは、面接のあり方を見直したり、面接官の意識改革をするほうがよほど建設的で、その成果も見えやすいといえるでしょう。

そのための効果的な方法の一つは、面接官と人事(採用)担当の方々に対して、採用面接に対する考え方とその効果的な方法を啓蒙していくことです。

3.人は「いい結果」だけを記憶にとどめる

採用戦略の重要な要素である面接法が見直されないのには、面接官サイドの問題もあります。なぜかというと、採用ミスによる「サプライズ社員」が顕在化しても、面接官本人は面接での合否判定の不適切さにはなかなか気づかず、採用ミスについて厳しく言及されることも少ないからです。

これはけっして、面接官に責任感や当事者意識が稀薄だからということではありません。人はいい結果だけしか記億にとどめない傾向が強いからなのです。

これをわかりやすく説明してみましょう。

面接官が「◎」の評価をして採用した人が、入社後きわだった力を発揮し、周囲からも高い評価を受けている場合、「面接での見立てどおりじゃないか」という自己評価になります。

逆に、自分が「x」評価した人が採用され、その人が社員として低い評価を受けている場合も、「ほら見ろ、だから面接のときに採用しないほうがいいといったのに」と、 これまた面接官としての自分の眼識を高く評価する事例になるわけです。

これらはたまたま面接時の評価とその後の能力発揮が一致したにすぎません。面接官当人はその数少ない例だけを覚えていて、それ以外のケース 「◎」評価したのに「x」だった例や、「x」評価したのに「◎」だった例が山積しているのに、 それらに自分がかかわったことはすっかり忘れ去られているのです。

ですから、面接の何年かあとから問題児となる社員が出はじめても、眼光人を射る眼力で人物の裏面までをも見抜く、まさに「名人芸」ともよぶべき独自の判断・評価への自信は、面接官の中で少しも揺らぎません。

また、前述したように、「サプライズ社員」の顕在化と面接での評価との因果関係があいまいなので (上司のせい、職場のせい、市場のせい・・・・・いくらでも要因が挙げられるので)、面接官の面接の仕方や合否判定の方法が問題になることは少なく、結局、面接のあり方は手つかずのまま、「思いこみ・決めつけ」採用が毎年踏襲されていくのです。

4.面接の新たな、そして重要な役割

あらためて現在という時代、とりわけ労働や雇用を取り巻く環境を考えてみると、私自身その急激な変化に驚きを禁じ得ません。日本的経営の特徴の一つとされ、日本企業の成長を支える基盤ともいわれた終身雇用制度(「長期雇用の慣習」といったほうがいいのかもしれません) が実質的に崩壊し、ことに若い世代のあいだでは転職が当たり前の時代となりました。

そうした意識の変化、労働流動性の高まりに伴い、学生の就職に関する考え方も大きく変化しています。所属する会社での昇進・昇格よりも、自らの専門性やプロとしての実力を磨き、市場価値を高めることに、より大きな価値を見いだす若者が増えているのです。

そしてそうした人たちは、よりよい雇用条件や職場環境を求めて、早い時期に躊躇することなく転職していきます。企業にしてみれば、優秀な人材、会社に残ってほしい有能な社員ほど、どんどん退職してしまうという時代になったわけです。

従来は長期雇用が前提だったため、採用した人たちの中にサプライズ社員が混じっていても、長期的に教育し自社の色に染めていけばいい、し:すれ成長して戦力になってくれる、という考えが成り立ちました。しかし、もはや企業はそうした考えを改め、採用という一大ブロジェクトのあり方を根本から見直さなければなりません。

今や、能力はもちろんのこと、自社と応募者とのマッチングをも評価の対象にし、 一人ひとりの特性を十分に見極めて、旧来の「量の採用(アタマ数採用)」から「質の採用」に転換するための戦略を策定しなければならない時代に突入したといっていいでしょう。すなわち、応募者の志向性が自社の事業展開や固有の文化、あるいは企業理念にマッチするかどうかの判断も、採用面接の重要な要素の一つになったのです。

にもかかわらず、このことに気づいていない企業、あるいは気づいていても旧来のやり方をなかなか変えられない企業が数多くある。それが私の経験知からいえる悲しい現実なのです。

【著者プロフィール】 伊東 朋子
株式会社マネジメントサービスセンター 執行役員 DDI事業部事業部長。国内企業および国際企業の人材コンサルティングに従事。

お茶の水女子大学理学部卒業後、デュポンジャパン株式会社を経て、1988年より株式会社マネジメントサービスセンタ-(MSC)。

人材採用のためのシステム設計、コンピテンシーモデルの設計、アセスメントテクノロジーを用いたハイポテンシャル人材の特定およびリーダー人材の能力開発プログラムの設計を行い、リーダーシップパイプラインの強化に取り組む。
(※掲載されていたものは当時の情報です)

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会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント


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