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#小説感想

ホーソーン&ホロヴィッツ第5弾『死はすぐそばに』Close to Death(2024)紹介と感想

アンソニー・ホロヴィッツ 山田 蘭訳『死はすぐそばに』東京創元社, 2024 毎年楽しみにしているホロヴィッツの最新作。今回はホーソン&ホロヴィッツシリーズになります。 あらすじ リヴァービュー・クロースという、周囲を門で囲われ電動門扉からしか出入りができない高級住宅地に最近越してきたケンワージー一家は、周囲の家と諍いを起こし嫌われていた。 住民たちの憎しみが高まっていく中、ジャイルズ・ケンワージーが住民の一人が所有するボウガンで喉を打ちぬかれて殺される事件が発生する。

《海の上のカムデン》シリーズ4『ピーナッツバター殺人事件』(1993)紹介と感想

コリン・ホルト・ソーヤー/中村有希・訳『ピーナッバター殺人事件 The Peanut Butter Murders』東京創元社, 2005 あらすじ 材木問屋で秘書をしているカルメラが、車が故障したため線路を歩いている時に、列車に轢かれて轢死したバラバラ死体を見つけたことから物語は始まる。 死んだのはライトフットという男性で、〈海の上のカムデン〉の比較的新しい入居者・エドナの婚約者だった。 更にカルメラが働いていてる材木問屋の経営者はキャレドニアの友人であったことから、キ

鞍馬天狗シリーズ短編「鬼面の老女」「西国道中記」紹介と感想

「鬼面の老女」(1924) 大佛次郎『鞍馬天狗 第十巻』中央公論社, 1969, p.3-32 あらすじ 小野宗春亡き後、弟の小野宗行が全てを奪ってしまった。 宗春の忠臣・浦部甚太夫に連れられ、逢阪山で武術を教えられながら育った宗春の一子・宗房。 成人し、甚太夫も亡くなり、金に困って叔父を頼って実家へ行くが、計略に嵌められ一銭ももらえなかった。 その帰り、密使を捕まえようとしていた鞍馬天狗一味と刀を交わす宗房。 誤解も解け、父を知っているという鞍馬天狗と知己を得る。

鞍馬天狗 長編第3作『角兵衛獅子』(1927~28)紹介と感想

大佛次郎『鞍馬天狗 第一巻』中央公論社, 1969, p.1-200 野村萬斎が鞍馬天狗を演じたNHK時代劇が好きで、いつか嵐寛寿郎の映画も観ようと思っていた『鞍馬天狗』。今回、原作を手に取る機会があり読んでみました。 最初に選んだのは、鞍馬天狗と言えば杉作少年とのイメージから、超有名作『角兵衛獅子』にしました。 ちょうど、入院中に読んだ『ねこぱんち』で大佛次郎と猫の関係を描いた漫画を読んだので、これもまた一つの運命だと思うのです。 あらすじ 角兵衛獅子の杉作は、稼ぎ

鞍馬天狗 長編第6作『山嶽党奇談』(1928~1930)紹介と感想

大佛次郎『鞍馬天狗 第一巻』中央公論社, 1969, p.201-499 あらすじ 京都東山の高台寺横の路地には、白髪の老人の姿をした化物が姿を見せると騒がれていた。 また、化物だけでなく最近は山嶽党という暗殺集団まで現れていた。 鞍馬天狗は、ただの人殺し集団を野放しには出来ないと山嶽党を追いかけるが、中々尻尾を掴めず、何度も命を狙われてしまう。 隠れ家を変えようとしていたある夜も、鞍馬天狗と杉作は山嶽党の一味に命を狙われる。 同士である大前田逸郎の援助もあり、短筒で撃た

鞍馬天狗 長編第22作『女郎蜘蛛』(1957)紹介と感想

大佛次郎『鞍馬天狗 第八巻』中央公論社, 1969, p.1-212 あらすじ 京で起きた公卿連続予告殺人。死の日を予告した書状が舞い込むと、その予告通りに人が死ぬのだ。 高倉三位という最初の犠牲者から手紙を見せてもらった鞍馬天狗。その後、高倉は血染めの衣類だけを残して消えてしまった。 鞍馬天狗は岡っ引の長次や、犬猿の仲である与力の鹿倉藤十郎とも情報を交換し合い事件を調べ始める。 事件を調べて見えてきたのは、人を見下し秘密主義、しかし内実は金もないのに物欲と色欲に溢れる公

有栖川有栖『幻想運河』(1996)紹介と感想

有栖川有栖『幻想運河』講談社, 2001 10年くらい前に火村シリーズを数作読んだことがありますが、ノンシリーズを読むのは初めてになります。 あらすじ 大阪の各所の川にバラバラにした死体を小分けにして捨てていた男が警察に捕まった。 場所は変わってアムステルダム。シナリオライターを志す恭司は、アムステルダムでの生活も長くなってきたため、そろそろ出たほうが良いのではと思いながら、今の環境に未練があり決断できずにいた。 友人達とマリファナを吸った夜に、夢の中で突如告げられたバ

小市民シリーズ1『春期限定いちごタルト事件』(2004)紹介と感想

米澤穂信『春期限定いちごタルト事件』東京創元社, 2004 作者の作品は〈古典部〉シリーズが好きで全作読んでいますが、後はドラマ化された作品を見ている位になります。 〈古典部〉を読み始めた時に〈小市民〉シリーズも読もうと思いながら時間が経ってしまいましたが。 そして2024年、完結編の出版にアニメ化という流れの中で、今が読み時だと思い遂に手に取りました。 収録短編あらすじ 羊の着ぐるみ 小市民を目指す小鳩常悟朗と小佐内ゆきは船戸高校に入学した。順調な高校生活を始めたと思

小市民シリーズ2『夏期限定トロピカルパフェ事件』(2006)紹介と感想

米澤穂信『夏期限定トロピカルパフェ事件』東京創元社, 2006 あらすじ 高校二年の夏休み初日、小佐内さんに〈小山内スイーツセレクション・夏〉を渡された小鳩君は、なぜだかスイーツショップ巡りに付き合わされることになる。 疑念を抱きながらも付き合う小鳩君は、ひょんなことから堂島健吾からも厄介毎の話を聞いた。 果たして、小鳩君は小市民的にひと夏の思い出を作ることができるのか。 紹介と感想 シリーズ2作目は、小さな謎も挟みながらも、前作と違い長編の構成となっていました。 長

小市民シリーズ3『秋季限定栗きんとん事件』(2009)紹介と感想

米澤穂信『秋季限定栗きんとん事件 上』東京創元社, 2009 米澤穂信『秋季限定栗きんとん事件 下』東京創元社, 2009 あらすじ 高校二年の二学期、小鳩君はクラスメイトの仲丸さんに告白されて付き合い始めた。 その頃、新聞部の一年・瓜野君は、保守的な学内新聞を改革しようとしていたが上手くいかない日々を過ごしていた。 しかし、偶然出会った小佐内さんに告白して付き合うようになってから、瓜野君には次々とチャンスが訪れるようになる。 木良市で毎月起こっている放火事件に共通点を見

小市民シリーズ番外編『巴里マカロンの謎』(2020)紹介と感想

米澤穂信『巴里マカロンの謎』東京創元社, 2020 収録作品あらすじ 巴里マカロンの謎(2016) 新しくオープンした店のマカロンを食べに名古屋まで来た小佐内さんと小鳩くん。美味しくマカロンを堪能するはずが、ティー&マカロンセットについてくるマカロンは3種類のはずなのに、席を離れていた小佐内さんの更には4種類のマカロンが乗っていて……。 紐育チーズケーキの謎(2017) 礼智中学の学祭でお菓子作り同好会が作るニューヨークチーズケーキを目当てに、日曜日に学祭まで出向いた小

小市民シリーズ4『冬期限定ボンボンショコラ事件』(2024)紹介と感想

米澤穂信『冬期限定ボンボンショコラ事件』東京創元社, 2024 あらすじ 放課後、堤防道路を小佐内さんと歩いていた小鳩君が車に轢き逃げされ入院した。 小鳩君は、お見舞いに来た堂島君から中学時代の同級生・日坂君が自殺したらしいと聞いて動揺する。 日坂君は、小鳩君が小佐内さんと出会い、小市民を志すきっかけになった出来事に関わっていたのだった。 右足を骨折しベッドから動けない小鳩君は、中学3年時に起こった日坂君がひき逃げ被害に合った事件の苦い記憶をノートに書きだし始める。 その

村田沙耶香『コンビニ人間』(2016)紹介と感想

村田沙耶香『コンビニ人間』文藝春秋, 2016 あらすじ 古倉恵子は18歳の頃から18年間コンビニでバイトをしながら生活している。 世間の常識に馴染めない彼女は、コンビニで働き始めてから初めて人間として生まれた実感を感じられた。 しかし、36歳になって独身でコンビニバイトしか経験のない恵子に、周囲の人間は奇異の目で見るようになっていた。 家族や周囲の人から「普通の人」に見られるように意識して生活している恵子だったが、コンビニで働く以外の人生が考えられなかった。 しかし、社

酉島伝法『るん(笑)』(2020)紹介と感想

酉島伝法『るん(笑)』集英社, 2023 収録作あらすじ 三十八度通り(2015) 土屋は三十八度の微熱が続いていた。解熱剤を飲んだことを妻に怒られ、身体も頭も怠い中でも仕事は休めない。 仕事へ行く途中に同じマンションの藤巻等と贄を龍の身体に投げに行った。 その後も、体調は悪くなり続ける。 一緒に暮らしていた真弓は出て行ってしまい、いつの間にか日常の風景も大きく変って行くなか、土屋は動き続ける。 千羽びらき(2017) 真弓の母は、蟠りの末期状態だった。 丙院に入院して