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読書感想文

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#小説感想

小市民シリーズ1『春期限定いちごタルト事件』(2004)紹介と感想

米澤穂信『春期限定いちごタルト事件』東京創元社, 2004 作者の作品は〈古典部〉シリーズが好きで全作読んでいますが、後はドラマ化された作品を見ている位になります。 〈古典部〉を読み始めた時に〈小市民〉シリーズも読もうと思いながら時間が経ってしまいましたが。 そして2024年、完結編の出版にアニメ化という流れの中で、今が読み時だと思い遂に手に取りました。 収録短編あらすじ 羊の着ぐるみ 小市民を目指す小鳩常悟朗と小佐内ゆきは船戸高校に入学した。順調な高校生活を始めたと思

有栖川有栖『幻想運河』(1996)紹介と感想

有栖川有栖『幻想運河』講談社, 2001 10年くらい前に火村シリーズを数作読んだことがありますが、ノンシリーズを読むのは初めてになります。 あらすじ 大阪の各所の川にバラバラにした死体を小分けにして捨てていた男が警察に捕まった。 場所は変わってアムステルダム。シナリオライターを志す恭司は、アムステルダムでの生活も長くなってきたため、そろそろ出たほうが良いのではと思いながら、今の環境に未練があり決断できずにいた。 友人達とマリファナを吸った夜に、夢の中で突如告げられたバ

酉島伝法『るん(笑)』(2020)紹介と感想

酉島伝法『るん(笑)』集英社, 2023 収録作あらすじ 三十八度通り(2015) 土屋は三十八度の微熱が続いていた。解熱剤を飲んだことを妻に怒られ、身体も頭も怠い中でも仕事は休めない。 仕事へ行く途中に同じマンションの藤巻等と贄を龍の身体に投げに行った。 その後も、体調は悪くなり続ける。 一緒に暮らしていた真弓は出て行ってしまい、いつの間にか日常の風景も大きく変って行くなか、土屋は動き続ける。 千羽びらき(2017) 真弓の母は、蟠りの末期状態だった。 丙院に入院して

井伏鱒二 読書記録①(鯉/夜ふけと梅の花/山椒魚/屋根の上のサワン/休憩時間)

岩波書店のドリトル先生物語全集の翻訳で小さい頃から文章に親しんでいた井伏鱒二。 しかし、「山椒魚」を学生の時に読んで以来、作者の実作品を読むことはありませんでした。 今回、ふと思い立ち手に取ってみたので読了作品の感想を書いていきます。 鯉(1926年) 友人である青木南八から鯉を貰った私が、それからどれほど鯉に悩まされているかを描いた小品。 鯉を大切に思うあまり、鯉至上主義になっていく男。友人が亡くなってすぐに、友人の愛人に預けてある鯉を取りに行き、取る間に無断で枇杷を

ネロ・ウルフ長編26『母親探し』The Mother Hunt(1963)紹介と感想

レックス・スタウト 鬼頭玲子訳『母親探し』論創社, 2024 2014年から論創社から出ているレックス・スタウトのネロ・ウルフシリーズ。 今年の作品は、ドラマ化された作品は日本でも放送されましたが、原作としては日本初訳になります。 あらすじ 六月初旬の火曜日、ルーシー・ヴァルドンから受けた依頼は、家の前に置き去りにされていた赤ん坊の母親を見つけること、九か月前に亡くなったリチャード・ヴァルドンが父親である可能性を明らかにすることだった。 わずか三日で赤ん坊を一時預かって

イーデン・フィルポッツ『孔雀屋敷 フィルポッツ短編傑作集』感想

イーデン・フィルポッツ/武藤崇恵・訳『孔雀屋敷 フィルポッツ短編傑作集』東京創元社, 2023 収録短編あらすじ孔雀屋敷 Peacock House(1926) 教師をしているジェーン・キャンベルは、夏の休暇にダートムアのふもとに建つポール館へやってきた。ポール館には、幼い頃に亡くなった父の友人・グッドイナフ将軍が住んでおり、招待してくれたのだ。 ある日、ジェーンは散策途中に孔雀が住む独創的な屋敷へたどり着いた。そこで、二人の男と一人の女の諍いの果てに起きた殺人を目撃する