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小市民シリーズ2『夏期限定トロピカルパフェ事件』(2006)紹介と感想

米澤穂信『夏期限定トロピカルパフェ事件』東京創元社, 2006



あらすじ

高校二年の夏休み初日、小山内さんに〈小山内スイーツセレクション・夏〉を渡された小鳩君は、なぜだかスイーツショップ巡りに付き合わされることになる。
疑念を抱きながらも付き合う小鳩君は、ひょんなことから堂島健吾からも厄介毎の話を聞いた。
果たして、小鳩君は小市民的にひと夏の思い出を作ることができるのか。


紹介と感想

シリーズ2作目は、小さな謎も挟みながらも、前作と違い長編の構成となっていました。
長編として構成されているだけあり、ミステリーとしての面白さは1作目よりも強くなっています。

しかも、長編としての趣向を際立たせながらも、一つの短編としても面白い作品が入っているのでお得度が高いです。

しかし、ここまで読んだからにはシリーズの続きが気になってしまってしょうがない終わり方をした本作。
アニメがここまでで終わると分かっていると落ち着かなくなってしまいます。

リアルタイム読者がここで数年我慢していたのは偉いです。
なるべく早いうちに続編を入手し、シリーズの行く末を見届けたいと思います。

 自分が良く知っている人間が思わぬ行動を取ったら、どうしたんだろうと不思議に思うだろう。思わぬ行動が重なれば、相手に何か心境の変化をもたらす重大事があったのかと心配する。そして、それがさらに続けば、自分はもしかして相手のことを理解し損ねていたのではないかと疑念を持ち始めることになる。

米澤穂信『夏期限定トロピカルパフェ事件』東京創元社, 2006, p.68

ネタバレあり感想


小鳩君が犯人としてバレないように現場の偽装を行う短編「シャルロットだけはぼくのもの」が、前作と趣向を変えた作品として、主要キャラクター2人を印象付けるとともに日常ミステリーとしても面白いものになっており流石だなと思っていたら、それが作品全体を貫く趣向を暗示していたのには驚きました。

謎解きを止められない小鳩君は、犯人である小山内さんの足跡を考えずにはいられません。
そして、小山内さんのとった方法も自分の中の『狼』を最大限に利用したものでした。

小山内さんが何かを企んでいること、そして健吾が追っている川俣さなえの件も絡んでくるだろうことは早いうちに予想できるようになっていますが、小山内さんの計画の全容までは読み切れませんでした。
でも、一番難しいのはその心中になります。

二人が小市民を目指すのはやはり無理なのかといえば、それは無理なのでしょう。
だから別れるのは妥当なようでもありますが、視点人物である小鳩君と一緒のものしか見れない読者としては、小山内さんの気持ちを正解として知ることはできません。

本当は、小鳩君に感情的な部分で一緒に居る意味を見出して欲しかったと思うんだけども!小鳩君は踏み込めない人だから!
思春期の自意識の強さからなるめんどくささですよ!
でも二人に言いたい、そんな形で別れて生涯の別れになることがどれだけ多いのか!

しかし、二人のシリーズには続きがあるので少し安心です。
果たして、この後の二人はどうなるのか。そして、ミステリーとしての趣向もどうなっていくのか気になります。

 本当は『狐』なんかじゃないのに自分を『狐』であると思い込んで、そして『小市民』になると宣言したんだったら。しかも、それすらも嘘なんだとしたら。
 ~中略~
「残るのは、傲慢なだけの高校生が二人なんだわ……」

米澤穂信『夏期限定トロピカルパフェ事件』東京創元社, 2006, p.227-228

シリーズ一覧

01.春期限定いちごタルト事件(2004)
02.夏期限定トロピカルパフェ事件(2006)
03.秋期限定栗きんとん事件 (上)(下)(2009)
番.巴里マカロンの謎(2020)
04.冬期限定ボンボンショコラ事件(2024)


メディアミックス一覧

漫画
構成:山崎風愛 作画:おみおみ『夏期限定トロピカルパフェ事件』全2巻

アニメ
小市民シリーズ(2024年7月~9月)
 『春期限定いちごタルト事件』『夏期限定トロピカルパフェ事件』のアニメ化




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