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鞍馬天狗 長編第3作『角兵衛獅子』(1927~28)紹介と感想

大佛次郎『鞍馬天狗 第一巻』中央公論社, 1969, p.1-200

野村萬斎が鞍馬天狗を演じたNHK時代劇が好きで、いつか嵐寛寿郎の映画も観ようと思っていた『鞍馬天狗』。今回、原作を手に取る機会があり読んでみました。
最初に選んだのは、鞍馬天狗と言えば杉作少年とのイメージから、超有名作『角兵衛獅子』にしました。

ちょうど、入院中に読んだ『ねこぱんち』で大佛次郎と猫の関係を描いた漫画を読んだので、これもまた一つの運命だと思うのです。


あらすじ

角兵衛獅子の杉作は、稼ぎを落として途方に暮れている所を、倉田という侍に助けてもらう。
その後、親分である隼の長七へ今日のことを話すと、鞍馬天狗が倉田典膳と名乗っていることを聞き、倉田と出会った松月院へ案内することになってしまう。
松月院では、鞍馬天狗と新選組の激しい斬り合いが始まり、逃げる鞍馬天狗へ近藤勇が発砲しようとする刹那、杉作は近藤勇へ飛びついた。
間一髪、鞍馬天狗へ当らなかった銃弾。恩に報いようとした杉作の心持ちに感心した近藤勇だったが、長七が黙ってはいなかった。
その夜、痛めつけられそうなところを、他の子ども達とともに鞍馬天狗に助けられた杉作は、
西郷吉之助の屋敷で暮らすこととなった。
西郷家での暮らしは快適だったが、気づくと十日ほども倉田から連絡が無いと西郷達が心配している。
杉作は、天狗の叔父さんの無事を確かめるために、屋敷を抜け出し探しに行く事にした。
これが、京都と大阪をまたにかける大冒険の始まりだった。


紹介と感想

手に汗握る、面白い冒険活劇でした。

『少年倶楽部』連載作品であり、主な視点人物を弱さや無鉄砲さもある子どもの杉作にしていることで、自然と物語にドキドキ感が生まれています。
杉作は現在の目で見ても、子ども過ぎて苛々する事もなく、大人すぎて不自然なこともない、ちょうど良い塩梅のキャラクターになっていました。

物語は多きく分けて前半の京都篇と後半の大阪篇に分かれていますが、大阪篇になると鞍馬天狗は早々に城に捕らえられてしまいます。
もちろん、合間合間で鞍馬天狗の活躍は描かれますが、どれも脱出までにはつながらず、読者は杉作や黒姫の吉兵衛と一緒に、どのように鞍馬天狗は助かるのだろうと目が離せなくなっていきます。

特に、後半は鞍馬天狗の出番も暫くなくなり、どうにか鞍馬天狗を助けたい杉作や吉兵衛、近藤勇に切りかかる志士たちの視点から、物事が悪い方へ流れていくのを見せつけてきます。

鞍馬天狗がかっこよく見えるためには敵にも魅力的な人物が必要ですが、近藤勇はさすがの存在感を魅せてくれました。
特に、今回は近藤勇が居なければ、鞍馬天狗は最終回になっていたと言えます。
そして、近藤勇にそのような働きをさせたのは、杉作の一途な気持ちだったのでした。

また、杉作や吉兵衛を散々悩ませた暗闇のお兼も、今後再登場があるのか気になる所です。
今回は、散々嫌な働きをした後、最後の最後は出番が無くなってしまったので、またいづれ決着がつくと良いなと思いました。

端役では、池永十太夫が出番の少ない中で、武士らしい行動と、可哀そうな最期によって印象に残っています。

当時人気だった大衆小説には、それだけの理由があると分からせてくれる、良い読書体験でした。読んで良かったです。


映像化

鞍馬天狗の映像化は映画・テレビを通してかなりの数があり、全てを把握することは難しかったです。
とりあえず、自分用に分った物だけ記載しておきます。

映画
嵐寛寿郎・主演 第1作・第2作・第3作
 『鞍馬天狗異聞 角兵衛獅子』(1927)
 『鞍馬天狗異聞 続・角兵衛獅子』(1927)
 『鞍馬天狗異聞 角兵衛獅子功名帖』(1928)

嵐寛寿郎・主演 第18作『鞍馬天狗 角兵衛獅子の巻』(1938)

嵐寛寿郎・主演 第28作『鞍馬天狗 角兵衛獅子』(1951)

東千代之介・主演 第2作『鞍馬天狗 角兵衛獅子』(1957)

市川雷蔵・主演 第1作『新鞍馬天狗』(1965)


テレビドラマ
大瀬康一・主演『鞍馬天狗』(1967~1968)
 第1話「角兵衛獅子」

高橋英樹・主演『鞍馬天狗』(1969~1970)
 第1話~第4話「角兵衛獅子」

竹脇無我・主演『鞍馬天狗』(1974~1975)
 第2話「角兵衛獅子」

中井貴一・主演『新春時代劇スペシャル 御存知!鞍馬天狗』(1989)

目黒祐樹・主演『鞍馬天狗』(1990~1991)
 第1話~第3話「泣くな角兵衛獅子」「裏切り者に不覚の涙」「宿敵にも武士の情」

野村萬斎・主演『鞍馬天狗』(2008)
 第7話・第8話「角兵衛獅子」


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