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小市民シリーズ1『春期限定いちごタルト事件』(2004)紹介と感想

米澤穂信『春期限定いちごタルト事件』東京創元社, 2004

作者の作品は〈古典部〉シリーズが好きで全作読んでいますが、後はドラマ化された作品を見ている位になります。
〈古典部〉を読み始めた時に〈小市民〉シリーズも読もうと思いながら時間が経ってしまいましたが。
そして2024年、完結編の出版にアニメ化という流れの中で、今が読み時だと思い遂に手に取りました。


収録短編あらすじ

羊の着ぐるみ
小市民を目指す小鳩常悟朗と小佐内ゆきは船戸高校に入学した。順調な高校生活を始めたと思った四月の半ば、小鳩は小学校の頃からの知り合いである堂島健吾から、女子生徒のポシェット探しに協力して欲しいと頼まれる。

For your eyes only
入学から一か月が経ち、ゆきの自転車が盗まれたある日、小鳩は健吾から美術部にある絵画について相談に乗って欲しいと頼まれる。ある卒業生が残していったその絵は、あまりにも平板な上に、殆ど同じと言っても良い内容の2枚組からなる『世界で一番高尚』な作品だった。

おいしいココアの作り方
とある日曜日。健吾の家に呼ばれた小鳩は、偶然会ったゆきと一緒に健吾の家でおいしいホットココアを飲んだ。その後、成り行きから健吾の姉・知里と一緒においしいココアを淹れる為に必要な道具が使われていない台所を前に、どうやって淹れたかを推理することになる。

はらふくるるわざ
中間考査の終了日、理科Ⅰのテスト終了間際に栄養ドリンクの瓶が棚から落ちて割れた。その物音のせいで思い出しかけていた答えを思い出せなかったゆきは、小鳩を呼び出すのだった。

孤狼の心
以前盗まれたゆきの自転車が乗り捨てられていたのが発見された。自転車はボロボロになっており、意図的に踏みつけられたような跡もあった。昔のように動き出したゆきを心配した小鳩は、悩んだ末に健吾に助けを求める。


紹介と感想

小市民を目指す小鳩常悟朗と小佐内ゆきを主人公にした連作短編集になります。
ただ謎を解くのが得意なだけでは探偵足りえないという過去が垣間見える小鳩くんが、なんだかんだと人の良さで謎を解く状況に陥ってしまう話が揃っていました。

第1作目である今回は、2人が小市民を目指すきっかけになった過去について、想像が出来る範囲では語られましたが、その詳細については語られませんでした。
その詳細が明かされるのかは分かりませんが、続きを早く読まなければと楽しみです。

連作短編集として、細かくばらまいていた要素が最終話で回収されており、一冊の本としても満足感がしっかりあります。
個別の短編では、謎が綺麗でオチの虚無的な感じも好き、勝部先輩は恐い「For your eyes only」、日常キャラクターミステリー的な面白さが強い「おいしいココアの作り方」が特に好きでした。

まだまだ4部作の第1作目、小市民を目指すも前途多難なほろ苦い二人の青春物語がどうなるのか、引き続き読んでいこうと思いました。
そして、アニメでどのように描かれるのかも楽しみにしています。

 ぼくと小佐内さんは約束をしている。互いに互いを逃がすこと。ぼくは、もう小賢しい知恵を働かせたりしないように、逃げると決めた。同じように、小佐内さんにも理由がある。

米澤穂信『春期限定いちごタルト事件』東京創元社, 2004, p.167

シリーズ一覧

01.春期限定いちごタルト事件(2004)
02.夏期限定トロピカルパフェ事件(2006)
03.秋期限定栗きんとん事件 (上)(下)(2009)
番.巴里マカロンの謎(2020)
04.冬期限定ボンボンショコラ事件(2024)


メディアミックス一覧

漫画
饅頭屋餡子 『春期限定いちごタルト事件』全2巻

アニメ
小市民シリーズ(2024年7月~9月)
 『春期限定いちごタルト事件』『夏期限定トロピカルパフェ事件』のアニメ化




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