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小市民シリーズ3『秋季限定栗きんとん事件』(2009)紹介と感想

米澤穂信『秋季限定栗きんとん事件 上』東京創元社, 2009
米澤穂信『秋季限定栗きんとん事件 下』東京創元社, 2009


あらすじ

高校二年の二学期、小鳩君はクラスメイトの仲丸さんに告白されて付き合い始めた。
その頃、新聞部の一年・瓜野君は、保守的な学内新聞を改革しようとしていたが上手くいかない日々を過ごしていた。
しかし、偶然出会った小佐内さんに告白して付き合うようになってから、瓜野君には次々とチャンスが訪れるようになる。
木良市で毎月起こっている放火事件に共通点を見つけた瓜野君は、チャンスを活かして学内新聞を盛り上げていく。


紹介と感想

木良市で頻発する放火事件を軸に、瓜野君視点と小鳩君視点で進む今作。

小鳩君は相変わらず小市民を目指しており、仲丸さんの前でも自称小市民な態度で楽しく日常を過ごしています。
一方、小佐内さんの姿は、本作の中心人物である瓜野君を通して描かれていきます。

小佐内さんが何を思い、何を企んでいるのかは相変わらず読者側にも伏せられているので、放火事件だけでなく、小佐内さんが何を暗躍しているのかにも頭を使いながら読む事になります。

楽しい日常を過ごしていた小鳩君も、ある時を境に放火事件に興味をもち、最終的には健吾や五日市くんの協力を得ながら見事な作戦を立案・解決へと導いていきます。

全体を通して、不器用な青春を送る小鳩君と小佐内さんの姿が良く描写されていました。
肥大した自意識で部を私的利用していたとはいえ、瓜野君に対して小山内さんが行った仕打ちは少し可哀そうで、やはり小佐内さんは怖いと感じました。
そして、教室で仲丸さんと話す小鳩君は最高に小鳩君で何か安心しました。

犯人は予想の範囲内でしたが、しっかり伏線を拾った推理で満足です。
二人の関係も、現状収まる所に収まりましたが、さてどうなるか続きも楽しみです。

かつてのぼくであれば言葉にしただろうことを、いまのぼくは心の中で思うだけ。しかし、思うという事実は、やはり変わっていない。ぼくはこう思っている。——どうだ。その程度でぼくに謎をかけようなんて、おかしくって話にもならない。もうちょっと手の込んだやつで、出直してきてくれないかな。

米澤穂信『秋季限定栗きんとん事件 上』東京創元社, 2009, p.196

ネタバレあり感想


犯人である氷谷くんは最初からかなり怪しい人物でしたが、その怪しさを裏付けする行動をしっかりとってくれるので助かりました。
それに、氷谷くんは小物であり、今回も真に謎解きをしなければいけないのは小佐内ゆきでした。

最初から何かしら暗躍しているとは思っていましたが、その動機が途中から変わったことに気づかないまま読み進めてしまい悔しかったです。
確かに、同意がないのに勢いでキスをしようとするのは最悪ですが、それに対して一応彼氏ではあるのに徹底的に自らの無能さを思い知らせる叩き方をする小佐内さんの恐ろしさが光ります。

また、小鳩くんも浮気上等の仲丸さんが相手とは言え、話していて糠に釘だったとの評価はさすがです。小山内さんの他愛ないは怖すぎです。
二人の本性を小市民的に見せる例えとしての栗きんとんの使い方も綺麗に決まっておりタイトル回収として良かったです。

小鳩くんは小佐内さんに対して恋心を自覚しそうな感じがありますが、小佐内さんがどこまで感じているのかは今回も分からない状態なので先が読めません。
お互いに最良の相手が現れるまでの、次善の選択肢として関係修復をした二人がどのような結末を迎えるのか気になります。

 よくわかった。そのままではえぐい自称小市民を、誰からも疎まれないようにする方法論。
 シロップのように甘い恋人といっしょにいて、砂糖の衣を重ね着するうちに自分も甘くなろうとするのも、一つの方法。小佐内さんはそれを期待していたとはっきり言ったし。
 だけど結局、それでは上手くいかなかった。マロングラッセ方式は失敗だった。
 ぼくたちは煮られて潰されないと、ちゃんとアクが抜けないのだろう。何度も叩き潰されたはずなのに、どうやら裏ごしが足りなかったらしい。

米澤穂信『秋季限定栗きんとん事件 下』東京創元社, 2009, p.229

シリーズ一覧

01.春期限定いちごタルト事件(2004)
02.夏期限定トロピカルパフェ事件(2006)
03.秋期限定栗きんとん事件 (上)(下)(2009)
番.巴里マカロンの謎(2020)
04.冬期限定ボンボンショコラ事件(2024)

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