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読書感想文

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2024年4月の読書まとめ+『ななつのこ』『AURA~魔竜院光牙最後の闘い~』『ナイトウィザード リプレイ 白き陽の御子 』『アイウエオ殺人事件』感想

4月の前半は入院していたこともあり、3月に引き続き読書量が多かったのですが、後半は溜まっていた録画を観たり、日常生活活動に追われてあまり読書ができませんでした。 5月は、仕事が始まり忙しくなることもあって読書量自体は引き続き少なくなりそうですが、質の方で充実した読書時間を過ごしたいと思います。 加納朋子『ななつのこ』(1992) 19歳の短大生・入江駒子は、ある日書店で『ななつのこ』という短編集に一目惚れし購入した。読み終わると、熱に浮かされたようにファンレターを出した

遠藤周作『私の履歴書 落第坊主の履歴書』(1989)紹介と感想

遠藤周作『私の履歴書 落第坊主の履歴書』日本経済新聞出版社, 2013 1989年6月に「日本経済新聞」へ掲載された、幼少期からの前半生を振り返る「私の履歴書」と、その内容に関連した過去のエッセイの再録で構成されています。 十数年振りに狐狸庵先生のエッセイを読みましたが変わらぬ面白さを感じることが出来て嬉しかったです。 滑稽で軽妙な軽さと人の深い所まで見抜くような深さのバランスが良く、そのどちらにも人間がしっかり描かれていました。 友人の自殺や戦時中の話など、シリアスな内

阿津川辰海『阿津川辰海読書日記 かくしてミステリー作家は語る〈新鋭奮闘編〉』紹介と感想

阿津川辰海『阿津川辰海読書日記 かくしてミステリー作家は語る〈新鋭奮闘編〉』光文社, 2022 本書は、ミステリー作家であり無類の読書好きである著者の、本への愛と博識ぶりが分かる、全3部構成の解説・エッセイ集になります。 その紹介数は総勢362名、1,018作品と驚きの量。 第23回本格ミステリ大賞[評論・研究部門]受賞作です。 「第1部 阿津川辰海は嘘をつかない~阿津川辰海 読書日記~」では、〈ジャーロ〉のサイト内で現在も連載しているエッセイから、2022年3月掲載の第

ケサランパサランについて~『ケサランパサラン日記』の紹介と感想+ケサランパサランについて調べたこと

西 君枝『ケサランパサラン日記』草風社, 1980 西 君枝『ケサランパサラン日記』紹介と感想  自宅の庭先で偶然ケサランパサランと出会った事から始まる、孫にも協力してもらいながらの観察の日々。 そして、ケサランパサランの持主が多いと言われている宮城県への旅の記録を、豊富な写真と一緒に送る。  自分にとってケサランパサランと言えば、スーパーマリオワールドで登場し、スーパーマリオブラザーズワンダーでも再登場している、あれでした(マリオではケセランでした)。  しかし、この

笹沢左保『東へ走れ男と女』(1967)紹介と感想

笹沢左保『東へ走れ男と女』徳間書店, 1983 前から読みたいと思っていた笹沢左保。読みたいと思っていた本とは違いますが、病棟の本棚に本書があったため手にとってみました。 ドラマ化作品は何作か見ていますが、著者の本を読むのは初になります。 あらすじ 大和田順、30歳。妻は浮気の末に学生と心中し、会社に復帰すると後輩が持ち逃げした60万円の責任を取って返済しろと会社から求められる。 何もかも嫌になった大和田は、会社を辞めると決心した夜に、謎の女に声をかけられ田園調布にある

十津川シリーズ長編3『消えたタンカー』(1975)紹介と感想

西村京太郎『消えたタンカー』光文社, 1983 まだ読んだ事の無かった初期の十津川を読んでみました。 西村京太郎はドラマの方がお馴染みで、原作は、十津川シリーズ長編5作程度と中短編数作、名探偵シリーズ全4作、左文字シリーズ数作、『殺しの双曲線』などのノンシリーズ数作程度しか読んでない初心者になります。 あらすじ インド南端から1000キロの沖合で58万キロリットルの原油を運んでいたマンモスタンカーが炎上した。 近くを通っていた船に救助されたのは乗務員32名中、宮本船長

竹本健治『匣の中の失楽』(1978)紹介と感想

竹本健治『匣の中の失楽』講談社, 1991 『ドグラ・マグラ』『黒死館殺人事件』『虚無への供物』の日本三大奇書にプラスして、日本四大奇書と言われる際に追加される本書『匣の中の失楽』。 夢水清志郎の某作品など、様々な作品で名前を知っていながら読む機会がなかったのですが、これまた病棟の本棚にあったため、入院と言う果てしない時間を利用して読了しました。 入院中でなければ読むのに少し時間がかかったかもしれないため、良いタイミングで読めたと思います。 面白かったとも言えるし、作品内で

法月綸太郎『法月綸太郎の冒険』(1992)紹介と感想

法月綸太郎『法月綸太郎の冒険』講談社, 1995 著者の本は、クリスティーに関する考察を描いた「カーテンコール」を読むために『法月綸太郎の消息』を読み、「引き立て役倶楽部の陰謀」を読むために『ノックス・マシン』を読んで以来、約5年ぶり3冊目になります。 収録短編あらすじ 死刑囚パズル(1992) 死刑囚・有坂省二は、松山所長の計らいでお茶と饅頭を口に入れ、後は刑の執行を待つばかりだった。 しかし、執行直前に激しい痙攣状態に襲われ、そのまま息を引き取った。 死因は急性ニ

清水義範『青山物語1974 スニーカーと文庫本』(1994)紹介と感想

清水義範『青山物語1974 スニーカーと文庫本』光文社, 1995 これまた阿津川さんの紹介で読みたくなっていた清水義範の著書が病棟の本棚にあったため、手に取ってみました。 著者の本を読むのは初ですが、ユーモア系の人というイメージだけあります。 あらすじ オイルショックに物価高騰、ユリ・ゲラーがフォークを曲げて、長嶋茂雄は引退し、田中角栄は辞任に追い込まれると、1974年は大変な1年だった。 そんな中、平岡義彦は悩んでいた。 26歳、サラリーマン生活3年目の義彦は、仕事

有栖川有栖『幻想運河』(1996)紹介と感想

有栖川有栖『幻想運河』講談社, 2001 10年くらい前に火村シリーズを数作読んだことがありますが、ノンシリーズを読むのは初めてになります。 あらすじ 大阪の各所の川にバラバラにした死体を小分けにして捨てていた男が警察に捕まった。 場所は変わってアムステルダム。シナリオライターを志す恭司は、アムステルダムでの生活も長くなってきたため、そろそろ出たほうが良いのではと思いながら、今の環境に未練があり決断できずにいた。 友人達とマリファナを吸った夜に、夢の中で突如告げられたバ

貫井徳郎『被害者は誰?』(2003)紹介と感想

貫井徳郎『被害者は誰?』講談社, 2003 病棟の本棚をブラウジングしている時に、タイトルが気になり手に取ってみました。 著者の本を読むのは初となります。 収録作あらすじ 被害者は誰?(e-NOVELS '01年10月23日号~'02年1月15日号/週刊アスキー '01年11月6日号~'02年1月29日号) 亀山俊樹の自宅の庭から女性の白骨死体が発見された。 亀山俊樹は自分の犯行だと認めたが、被害者の身許や動機などは黙秘を貫いていた。 自宅からは、十年前に書かれた三人

佐々木譲『笑う警官』(2004)紹介と感想

佐々木譲『笑う警官』角川春樹事務所, 2007 前から読みたいと思っていた〈道警シリーズ〉第1作目を、入院中に読むことができました。 以前感想を書いた阿津川さんの本でも紹介されており、読みたい熱が高まっていたので良かったです。 読んでみると期待以上に面白く、シリーズの続編も読みたくなりました。 あらすじ 大通署刑事課盗犯係の佐伯と新宮は、小樽まで出向き盗難自動車の密輸に関係した男を確保してきたが、道警本部にかすめ取られてしまう。 同日、円山にあるアパートの一室で女性の

黒岩涙香「無惨」(1889) 紹介と感想

黒岩涙香『黒岩涙香探偵小説選Ⅰ』論創社, 2006, p.1-54 黒岩涙香『黒岩涙香探偵小説選Ⅱ』論創社, 2006, p.249-255 黒岩涙香(1862~1920)は、主に明治期に活躍しており、ミステリー好きにとっては外国作家の小説を翻案して日本に紹介したことで知られています。 無惨(1889/明治二十二年) あらすじ 数多くの創傷、擦剥、打傷があり、頭も裂けている世にも無惨な死体が見つかる。谷間田と大鞆、二人の刑事が目を付けた手がかりは、死体が握っていた縮れた

黒岩涙香「血の文字」「紳士の行ゑ」+エミール・ガボリオ「バチニョルの小男」 紹介と感想

黒岩涙香著『黒岩涙香探偵小説選Ⅱ』論創社, 2006 各務三郎編『クイーンの定員Ⅰ 傑作短編で編むミステリー史』光文社, 1992, p.127-203 今回は、エミール・ガボリオの作品を翻案した2作品と、「血の文字」原作である「バチニョルの小男」を紹介したいと思います。 カボリオの原作もホームズとライバルたちの時代に負けない面白い物語ですが、それを涙香がどう調理したのかを観ることで、涙香が論理的な考え方を重視していたのが分かるものとなっていました。 エミール・ガボリオ