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清水義範『青山物語1974 スニーカーと文庫本』(1994)紹介と感想

清水義範『青山物語1974 スニーカーと文庫本』光文社, 1995

これまた阿津川さんの紹介で読みたくなっていた清水義範の著書が病棟の本棚にあったため、手に取ってみました。
著者の本を読むのは初ですが、ユーモア系の人というイメージだけあります。


あらすじ

オイルショックに物価高騰、ユリ・ゲラーがフォークを曲げて、長嶋茂雄は引退し、田中角栄は辞任に追い込まれると、1974年は大変な1年だった。
そんな中、平岡義彦は悩んでいた。
26歳、サラリーマン生活3年目の義彦は、仕事では頼られるようになり給料もあがっていた。
しかし、本当は小説家になりたい義彦は、仕事に面白味を見出だせず、自分は何をしているのか自信が持てないでいた。
未来の景色が見えない中で、仕事を頑張り、毎日に息苦しさを感じながら、アルバイトで来ている女性と親しくなり、毎日が忙しく過ぎていく。
果たして、義彦はどんな1年を過ごすのだろうか。


紹介と感想

自伝的小説『青山物語1971』の続編との事ですが、前作は未読です。また、『青山物語1979 郷愁完結編』と合わせて三部作となるようです。
しかし、本書単独でも問題なく楽しめました。

著者曰く、大いに脚色のある自伝的小説である本作は、主人公・平岡義彦が1974年、26歳の時に経験した出来事が綴られています。

要所要所で、その場の状況や義彦の心境などに作者のツッコミが入る、ユーモア溢れる文体で物語は進んでいきます。
すごく似ている訳ではありませんが、大人になった目線で若い頃を突っ込む感じが、ちびまる子ちゃんのナレーションと近しいものを感じながら読みました。


義彦含め、登場人物はカッコ良くも信念が強い訳でもない、ちょっと個性的な普通の人々で、それがユーモラスに綴られているためサクサクと読み進めることができます。
しかし、仕事のせいで夢を追うことができないと感じ腐り気味な思考になる義彦など、描かれているのは普遍的な若者の姿であり、時代を経たいま読んでも理解することができました。

悩みの渦に取り込まれている義彦は中々気づけませんが、義彦の周囲には良い人が多く、多くの人の影響で長いスランプから抜け出す糸口を見つけます。
社長の越川も良い人ですが、解説で自身でも言っているように、友人の花田吾一の距離感が頼もしかったです。


まったく、この1年だけみると義彦はリア充じゃないか、と思いました。
しかし、自己実現が出来ていないと思い込んでいる人間の視野の狭さは良く分かるので、気づけないのも無理ありません。だから、インドなのです。


また、義彦の勤める会社は、若者文化やファッション関連の情報を収集・分析するような業務をしているため、舞台となる1974年当時の世相や文化が描かれており、物語のリアリティーを高めていました。


軽妙で楽しい筆致で描かれているが、ハッキリできないあやふやな感情に振り回される苦悩に共感できる。
決してカッコ良くもスッキリもしてない青春を、歳を取ってから振り返る面白さが濃縮されていました。

義彦や花田が気になるので、前作と次作も読みたくなりました。もちろん、このシリーズ以外の著者の本にも手を出してみたいと思います。

心の底には不遜なまでの自信を抱き、強気で、なのに現実に対してはウブで、不器用で、とりあえず感じのいい人間でいようと大人しくしていて。
 そのうえ、大きな野望を持ち、それがかなわぬツラさを抱いて、落ちこんでばかりいるのである。コンスタントにスランプという困った状態なのである。

清水義範『青山物語1974 スニーカーと文庫本』光文社, 1995, p.69
作者による主人公・平岡義彦の性格説明

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