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アガサクリスティーについて

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アガサ・クリスティー関係の記事をまとめています
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#ミステリー

アガサ・クリスティー『パーカー・パインの事件簿』紹介と再読感想

アガサ・クリスティ 山田順子訳『パーカー・パインの事件簿【新訳版】』東京創元社, 2021 アガサ・クリスティー・アワーを再見したため、シリーズ内でドラマ化されたパーカー・パインも再読しました。 また、パーカー・パインは個別短編集の他に2編の短編があり、早川書房では『パーカー・パイン登場』と『黄色いアイリス』に分かれて収録されています。 東京創元社の『パーカー・パインの事件簿【新訳版】』では、この別に収録されていた2編も合わせて1冊に納めておりクリスティーによる前書きもあ

アガサ・クリスティー『殺人は容易だ Murder is easy』(1939)紹介と再読感想

アガサ・クリスティー/高橋 豊 訳『殺人は容易だ』早川書房, 1978 『ゼロ時間へ』を再読した流れから、去年のBBC製作クリスティー原作ミニドラマシリーズに選ばれた『殺人は容易だ』も、10数年ぶりに再読してみました。 あらすじ 植民地で警官をしていたルークは、引退してイギリスへ戻って来た。 友人の家へ行く途中の列車で同席したピンカートンという老婦人から、ウイッチウッド・アンダー・アッシュと言う小さな町で3人の人間が殺され、近く4人目が殺されそうなのでロンドン警視庁へ行

アガサ・クリスティー『殺人は容易だ』ドラマ作品 紹介と感想

『殺人は容易だ』Murder Is Easy(1982/米) ワーナーが80年代に製作していたクリスティー原作テレビ映画シリーズの1本です。 時代は製作当時の80年代になっており、舞台はイギリスの村ですが、ルークはアメリカ人でコンピューターの専門家になっています。 ルークを事件に呼び込むことになるフラトン(原作のピンカートン)には、同じくワーナー製作版『カリブ海の秘密』『魔術の殺人』でミス・マープルを演じるヘレン・ヘイズが出演しています。 他にも、オリヴィア・デ・ハヴィ

アガサ・クリスティー『ゼロ時間へ Towards Zero』(1944)紹介&再読感想

アガサ・クリスティー/田村隆一訳『ゼロ時間へ』早川書房, 1976 BBC製作のクリスティー原作ミニドラマシリーズの次作が『ゼロ時間へ』だと発表され、最近読んだ『殺人は容易ではない アガサ・クリスティーの法科学』の著者が好きだと言っていたのもあり、10数年ぶりに再読しました。 あらすじ 著名な弁護士であるトリーヴス氏は常々、「殺人というものは終局であり、ゼロ時間の一点に集中されている」と考えていた。 1月、マクハーターという男が自殺に失敗し病院に入院していた。 2月、一

『ゼロ時間へ』映画・ドラマ 紹介と感想

クリスティー原作の中でもメディアミックス展開されている媒体が多い作品の一つが『ゼロ時間へ』になります。BBC製作のミニシリーズで制作も予定されているため、一度整理したいと思いました。 今回は、映画とドラマを紹介します。 映画『ゼロ時間の謎 L'Heure zéro』(2007/仏/108分)  監督:パスカル・トマ  脚本:フランソワ・カヴィグリオリ 物語は原作と同じくトリーヴス弁護士がゼロ時間の考えを語る所から始まりますが、この場にバタイユ警視(原作のバトル警視)が居

アガサ・クリスティー『招かれざる客』The Unexpected Guest(1958)紹介と再読感想

アガサ・クリスティー 深町眞理子訳『招かれざる客』早川書房, 2011(電子書籍) あらすじ 霧の濃いある晩。サウス・ウェールズにあるウォリック家のリチャードの書斎に、スタークウェッダーという男が訪ねてきた。 車が溝にはまってしまったため助けを求めに来たスタークウェッダーは、車イスの上で死んでいるリチャードを発見した。 書斎の中にはもう一人、リチャードの妻・ローラが銃を手に持ち茫然と立っていた。 彼女は、スタークウェッダーの質問に答える形で自分が殺した事を認めた。 スター

アガサ・クリスティー「ナイチンゲール荘」原作・戯曲・映画 比較感想

ネタバレ全開で記載しています。 原作「ナイチンゲール荘(うぐいす荘) Philomel Cottage」 1924年のグランドマガジン11月号で発表。1934年出版の『リスタデール卿の謎』に収録。 主人公はアリクス・マーティン。殺人者はジェラルド・マーティン。元カレはディック・ウィンディフード。 アリクスとジェラルドが出会ったきっかけは友人の家の集まり。現在のコテージの様子以外はすべてアリクスの回想で語られる。 アリクスの緊張状態での心理描写や、後の戯曲では削られたジェ

アガサ・クリスティー「事故」原作・戯曲 紹介と感想

「ナイチンゲール荘」の記事を書いてから、同じく『リスタデール卿の謎』に収録されている「事故」も他者の手による戯曲があったと思い出し、久しぶりに読み、情報を一つにまとめようと思い立ちました。 ネタバレ全開で記載しています。 原作「事故 Accident」 1929年にイギリスの新聞Sunday Despatchへ掲載後、1934年出版の『リスタデール卿の謎』に収録。 登場人物も少なく、ページ数的にもショートショート的なサスペンスです。現代の眼で見れば良くある話といえますが

アガサ・クリスティー/中村妙子・訳『暗い抱擁 The Rose and the Yew Tree』(1947)再読感想

アガサ・クリスティー/中村妙子・訳『暗い抱擁』早川書房, 1974 あらすじ 現代の聖人・クレメントおやじ、本名をジョン・ゲイブリエルと言う。 ひょんなことからヒューは、ゲイブリエルと再会する。 これは、ヒュー・ノリーズが回想する、聖人と呼ばれる前のジョン・ゲイブリエルと過ごした日々の記録である。物語は、再会したゲイブリエルが、最後に発したひとことへ向けて進んでいく。 交通事故で半身不随になったヒューは、兄夫婦とコーンワルにあるセント・ルーへ越してきた。 姉・テレサの影

名探偵 赤富士鷹(2005/全2話/各89分)

第一夜「ABC殺人事件」 原作:『ABC殺人事件』(1936) 第二夜「愛しのサンドリヨン」 原作:『ゴルフ場殺人事件』(1923) ドラマ概要 2005年12月29日と30日に放送された、アガサ・クリスティーのポワロシリーズを昭和十一年の日本を舞台に描いたスペシャルドラマです。 ラジオをキーアイテムとして、丁寧に活写される戦前の昭和という舞台で、アガサ・クリスティーの物語を楽しめます。 感想 本放送の時に最高に楽しみ、その後も録画を何度も観ているドラマです。 その後

クリスティー短編の魅力を伝える良作『アガサ・クリスティー・アワー』(1982)ドラマ概要+「仄暗い鏡の中に」「車中の娘」 紹介と感想

クリスティーのノンシリーズ短編8話とパーカー・パインから2話をドラマ化したドラマシリーズになります。 どの話も大筋は原作に沿いながら、ドラマとしてのアレンジが上手く面白い話が揃っています。 純粋な謎解きストーリーは無く、サスペンスからホラー、ロマンスを扱った作品が多いのが、他のクリスティー映像化とは違う特徴になります。 また、描かれる時代は、全て執筆当時の1920~30年台です。 ポワロやマープルがいなく、有名作品ではない中でも、しっかり受け入れられ高視聴率を得ていたよう

マーガレット・ラザフォード主演ミス・マープルシリーズ1『夜行特急の殺人』(1961)紹介と感想

あらすじ パディントン発4時50分の列車に乗ったマープルは、別の路線を走っている列車とすれ違う際に、女性が首を絞められているの目撃する。 すぐに車掌や警察に訴えるが、誰にも信用してもらえないマープルは、旧知の司書・ストリンガーと一緒に調査を開始する。 列車の走行ルートにあたる線路沿いの情報を丹念に調べたマープルは、アカンソープ邸に目を付ける。 職業斡旋所へ行き、メイドとして屋敷へ潜入することにしたマープルは、気難しいアカンソープ氏と丁々発止のやり取りを繰り広げながら、調査

マーガレット・ラザフォード主演ミス・マープルシリーズ2『寄宿舎の殺人』(1963)紹介と感想

あらすじ 募金活動で家々を回っているマープルとストリンガー。 二人は偏屈で有名な金持ち・エンダビーの家を訪れると、当主のエンダビーが階段から転げ落ちる現場を目撃する。 エンダビー氏は亡くなり、側には土の塊が落ちていた。屋敷の奥から物音がするためマープルが確認へ行くと、エンダビー氏が死ぬほど嫌いな猫が飛び出してくる。 マープルは早速クラドック警部補へ相談へ行くが、真剣に取り合ってもらえない。 泥の塊はあぶみがねの跡だと検討をつけたマープルは、泥の塊と同じ形の石膏の塊を作り、

マーガレット・ラザフォード主演ミス・マープルシリーズ3『最も卑劣な殺人』(1964)紹介と感想

あらすじ マギンティ夫人が首を吊っている現場で現行犯逮捕された男ハロルド・テイラー。 その裁判で陪審員を務めていたマープルは、マギンティ夫人が死の当夜、胸にバラの花を挿していたことから、誰か別の人物を待っていたのではないかと疑問に思い、ハロルドが無罪である可能性を考える。 マープルはストリンガーと共に独自に調査を始め、遺品の中から所々が切り取られた新聞紙を発見する。新聞紙の文字を組み合わせると、「バラの名を変えてもバラ」という文章になり、マギンティ夫人の家の連絡先も記載さ