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アガサ・クリスティー「事故」原作・戯曲 紹介と感想

「ナイチンゲール荘」の記事を書いてから、同じく『リスタデール卿の謎』に収録されている「事故」も他者の手による戯曲があったと思い出し、久しぶりに読み、情報を一つにまとめようと思い立ちました。
ネタバレ全開で記載しています。


原作「事故 Accident」

1929年にイギリスの新聞Sunday Despatchへ掲載後、1934年出版の『リスタデール卿の謎』に収録。

登場人物も少なく、ページ数的にもショートショート的なサスペンスです。現代の眼で見れば良くある話といえますが、主人公エヴァンズ目線で進む物語は、短い中でサスペンスを盛り上げてくれ、結末が予想できたとしても、程よい興奮と面白さを味わえます。
また、エヴァンズが二つのことを間違えていたということが、エヴァンズが本当に余計なことをしたのだと味わえて良かったです。
まさに「他人のことに口ばしをつっこんだらろくなことにはならんからな」というヘイドック船長の言葉通りの物語でした。

本短編は、短編ミステリーの名手、エドワード・D・ホックがあげるクリスティー傑作短編の一つでもあります(他は「検察側の証人」「ナイチンゲール荘」)。


マージョリー・ヴォスパーによる戯曲『三人でお茶を Tea for Three』

一幕の戯曲。クリスティーの戯曲の研究書『CURTAIN UP』によると、『見知らぬ人からの愛』を書いたフランク・ヴォスパーの妹であり文芸エージェントをしていたマージョリーが執筆し、1939年に『Theatrecraft Plays Book Two』に掲載されたが、どのような経緯で書かれたのかは不明とのこと。
日本では出版されていないため、クリスティ・ファンクラブ機関紙『ウインタブルック・ハウス通信 NO.59』に小堀久子さんが翻訳したもので読ませてもらいました。

物語はメローデン夫妻の居間のみで展開され、ヘイドック船長がヘイドック夫人に変更になっています。また、メローデン氏が原作から受ける印象と少し違う人物像でした。
短い戯曲なので物語は原作の通り展開されますが、セリフ回しが全体的に芝居的な感じになっています。

原作から感想として追加することは特にありませんが、メローデン夫人とエヴァンスをどれだけ上手く演じることができるかが成否を分ける内容なので、一度芸達者な役者で演じられたものを観たいと思いました。


映像化について

調べた限りでは本作の映像化は見つかりませんでした。
クリスティーの膨大な映像化作品を包括的に論じた本『AGATHA CHRISTIE on Screen』によると、1957年に『ヒッチコック劇場』のエピソードに脚色する話があったようですが、実現しなかったとのことです。

使用文献
アガサ・クリスティー/田村隆一訳『リスタデール卿の謎』早川書房, 1987, p.167-184
クリスティ・ファンクラブ機関紙『ウインタブルック・ハウス通信 2000.9.15 NO.59』http://www.ab.cyberhome.ne.jp/~lilac/christie/wh59.htm
ディック・ライリー&パム・マカリスター編/森英俊監訳『ミステリ・ハンドブック アガサ・クリスティー』原書房, 1999,p195
JULIUS GREEN『CURTAIN UP Agatha Christie: A Life in the Theatre』HarperCollins, 2015, p152-153
MARK ALDRIDGE『AGATHA CHRISTIE on Screen』Palgrave Macmillan , 2016, p86


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