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大自然が広がるザルツカンマーグート<前編>ーハルシュタット

モーツアルトが生まれた町、オーストリアのザルツブルグ南東に風光明媚な景観が広がっていることはご存知だろうか。そのエリアは”ザルツカンマーグート”と呼ばれている。山々が連なる合間には、70以上もの湖が点在しており、オーストリアの湖水地帯となっている。オーストリアを訪れるのであれば、ぜひお勧めしたい場所の一つである。

お勧めの場所として、具体的な町の名前ではなくエリアとして名前があがると、実際にどこを訪れるべきなのかわかりずらい。ザルツカンマーグートというエリアにはステキな場所がたくさんある。そこで、今回は私が大好きな街の一つ、ハルシュタットを紹介したい。

切り立つ山々に囲まれた湖、ハルシュタット湖。まるで、山が湖にベールをかけて包み込み、外界から守っているかのような気高さが感じられる。湖と山、そして街の教会が一度に見渡せる光景は、見る人を魅了せずにはいられない美しさがある。多くのカレンダーや旅行雑誌の表紙などにも使われており、目にしたことがある人も少なくないのではないか。

この街は、1997年にユネスコ世界遺産に登録された。私がウィーンに住み始めた当初から、行ってみたい場所の一つであった。ザルツカンマーグートを訪れる一番簡単な方法は、ザルツブルグからの半日バスツアーに参加すること。けれど、そのツアーではハルシュタットには立ち寄らない。そこで私は、日本から友人が訪ねてくれた際、一緒にウィーンから列車で訪問することにした。ハルシュタットの街の中心地へは、列車で到着した後さらに渡し船で移動しなければならない。駅からすぐ近くの湖岸に停泊している小さな渡し船に足を踏み入れると、どこか特別な場所に連れて行ってくれるような高揚した気持ちがこみ上げてくる。

けれど、残念なことに私たちがハルシュタットを訪れた時は、雨だった。雨でも美しい景色を目にすることはできたが、やはり晴れた日のハルシュタット湖の姿が見たい。その後も再び別の友人と訪れたが、やはり雨。そして、その後も。3回連続訪れる度に雨だった。私の中で、ハルシュタットへの憧れはますます募っていく。どうしてそんなにも手強い街なのだろうかと恨めしい思いも抱いてしまったが、実際この街はそれだけ崇高なところなのだ。

ハルシュタットの歴史は、紀元前1200年から紀元前500年頃の先史時代まで遡る。この頃ケルト民族がこの辺りへ移住し、塩の交易で栄えていった。そう、ハルシュタットの名前、それはケルト語のハル "Hall" が ”塩” を意味することに由来している。この時期はハルシュタット時代と呼ばれており、ハルシュタット文化が栄えていた。この岩塩は中世になってさらに価値を増し、当時オーストリアに君臨していたハプスブルク家は、岩塩の街であるハルシュタットを手厚く保護したという。

今でもハルシュタットでは、この世界最古の岩塩坑を見学できる。ケーブルカーで山上まで上がり、岩塩坑へ入る。中の見学には服の上から作業服を着て、ツアーに参加する必要がある。トロッコに跨って暗い岩塩坑の奥まで入り、さらに木製の滑り台を降りるというなかなか興味深いアトラクションを体験できる。


さて、そんな歴史ある気高きハルシュタット様も、ようやく私を晴天で迎えてくれた。その日、湖も燦々たる夏の陽光に照らされた。さっそくクルーズに乗って湖に出てみよう。

遠くまで広がる山間の湖は、静けさと偉大さに包まれ、日頃の喧騒を忘れさせてくれる。ザルツカンマーグートにはいくつもの湖があるが、それぞれの湖によって雰囲気が違う。賑やかな明るさが感じられる湖であったり、芸術的な雰囲気があったり。そして、このハルシュタットは荘厳な落ち着きをもたらしてくれるように感じる。

湖の奥へと旅に出ていたクルーズ船が、再び街に近づいてくると、シンボルである教会が見えてくる。絶好のフォトスポットだ。カレンダーにしたいと思う人たちの気持ちはよくわかる。

クルーズから降りて、ハルシュタットの街の中心地、マルクト広場へと向かう。カラフルな家並みが可愛らしい。

広場の奥にある細い階段を上がってみる。

高台から見下ろすマルクト広場、その背後に広がる湖。家々が密集していることに少し驚く。

高台にある教会の背後には、バインハウスと呼ばれる納骨堂がある。ここはちょっと一見の価値があるのだ。12世紀に建てられた納骨堂には、約1200個の頭蓋骨が納められている。墓地の敷地が狭く、スペース不足を解消するため、埋葬された10から20年後に墓を開け、骨を取り出していたという。そして、頭蓋骨は洗って太陽に晒された。墓を花で飾る習慣があるように、頭蓋骨にも芸術家などにより花が描かれるようになった。

これだけたくさんの頭蓋骨を目の前にするという経験はなかなかできることではない。花やグリーンの葉が描かれた頭蓋骨からは、故人を偲ぶ尊い気持ちが感じられた。

少し不思議な気持ちを味わったところで、高台の小径を歩いていく。清々しい風が吹き、暑さで流れた汗も吹き飛ばしてくれる。こういう小径を歩くことって楽しい、そう思っていると、ネコさんたちに遭遇。

あ、やっぱり私が心地よいと思う場所は、ネコさんも好きなのだ。それぞれ気持ちの良いお散歩を楽しんでいるようだ。

それから、何やら奇抜なオブジェも発見。いにしえのハルシュタット文化の名残りなのか、ただの芸術的なオブジェなのか。

またいつかハルシュタットの街を訪れたい。雨に迎えられるのか晴天に迎えられるのかは、行ってからのお楽しみ。 

本日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
次回はザルツカンマーグートの山、あの映画にも登場した有名な登山電車の旅をお届けしたいと思います。

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