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映画感想文「君たちはどう生きるか」 集大成にして原点。そして宮﨑氏の答辞&送辞

映画館でスタジオジブリ・宮﨑駿監督「君たちはどう生きるか」を鑑賞しました。
感想を書いてみようと思います。

えーっと、ネタバレについてひとまず注意喚起しておきます。
事前情報を入手したくない方はここで退避してくださいませ。

ただこの映画はあらすじを知ったからといって、その良さが失われることはないと思う。
なぜなら、ストーリーはちょっと破綻してるから。。。
魅力は話のすじとは違うところにあります。

そもそも宮﨑作品って、理路整然としたストーリーテリングを味わう、っていうものではないですよね。
だから、そこの部分は過去作品と変わってないと思う。
ただ今回はそこをケアする気が薄いというか、もう開き直って分かってやってる感じが強いですかね。
なので、ネタバレに関して過度に気にすることはないんじゃないかなあ、と個人的には思いつつ、ま、それは人それぞれなので。

これらの作品があっての今作です。ネタバレ気になる方は今のうちに退避!


「集大成」と「原点」の説明


タイトルにあるように、この作品は宮﨑氏の「集大成であり原点」。
まず「集大成」の方から説明すると、過去ジブリ作品を彷彿とさせるシーンが数々あります。
セルフオマージュというか、俗っぽく言うと「卒業アルバム」。
「○○」(過去作品)にこんなシーンあったなあと。
自分はちょっと懐かしくなって、うるっときました。
スタッフも宮﨑氏のもとで腕を磨いた錚々たる面々が集まってます。

全体的に、「卒業式」感は漂っていると思う。
ファンは感激すると思うけど、そうじゃなかったりセレモニーに意義を見出さない人だと、あんまりかもしれません。
自分はジブリファンなので、「♪あんなこと~こんなこと~」と思いながら観てました。

次に「原点」について。
宮﨑氏の書いた文章をいくつか読んだことがあるのですが、彼は少年を主役にしたアニメーションを作りたかったそうです。
ただいろいろな考え(もしくは思惑)があって、ジブリと言えばヒロインという印象ですよね。

「ラピュタ」のパズーや「もののけ姫」のアシタカはメインどころだけど、それぞれシータやサンとセットで主役。
「風立ちぬ」の二郎さんは主役だけど大人だし、「紅の豚」は豚だし。
というわけで、宮﨑氏の作品で少年が主人公って、ジブリとは関係ないTVシリーズの「未来少年コナン」ぐらいじゃないかな。

でも今回の「君たち~」は少年・眞人(まひと)が主人公。正真正銘、眞人の物語。

しかも眞人は、コナンやパズーのような両親がいない設定ではなく、呪いをかけられたアシタカみたいな宿命を帯びた少年でもない。

舞台は日本で時代は太平洋戦争中という設定がはっきりしてる中での、ごく普通の少年。
母親を戦火で亡くし、その妹を新しい母親に迎えるという事情はあるけれど、家族はいるし、お手伝いさんたちにも囲まれている。

その眞人が新しい母親をなかなか受け入れられず、自身が持っている悪意に気付き、それに向き合う。
そこに母屋の隣に建っている怪しげな塔がからみ、物語は現実パートから異世界ファンタジーへと進む。
これが「君たち~」の簡単なストーリーライン。

母親に対する葛藤というのは宮﨑氏の実人生が多分に投影されているし、怪しげな塔は宮﨑氏が大好きな江戸川乱歩「幽霊塔」や他もろもろのオマージュ。

というわけで、今回宮﨑氏は自身が影響を受けたものを隠していない。
長年抱えてきたものをそのまま出している。(身もふたもない言い方をすると、脳内だだもれ)
彼の研究者からすれば、よだれが出そうなぐらいのかっこうの資料だと思う。

ここから感想文

でも自分は資料性の高さは認めるけど研究者じゃないから、その文脈で書くのはやめます。
ここからは解説めいたことはやめて、普通の感想文でいきまっす。

率直に言うと、「君たち〜」は面白くなくはないけど、ジブリ作品でベストかと問われれば違うかなと。

アニメーション技術はほんと高くて、ジブリの粋が集められてます。
ワンシーンワンシーンのアニメ表現が究極まで練りに練られて、宝物のよう。
もううっとりしちゃう。

ただストーリー含め全体的な印象は、傑作!というのとはちょっと違うかなぁ。

気になった点を箇条書きであげると、
①前半の現実パートが結構ボリュームありで、後半の異世界ファンタジーに入るまで時間がかかっている。物語が動き出すのがちと遅い。

②後半の異世界ファンタジーが、ジブリスタッフやアニメーション業界への直接的なメタファーになっていて、横軸への広がりを感じられなかった。

③キーキャラクターであるアオサギの後半の存在感が薄い。

①と②に関して言うと、実は前半の現実パートの描写がすごく良いと感じました。
少年・眞人の心性をとても丁寧に描いていて、お話的にはあまり動かないのだけど、正直に言うと、自分はこっちの方にドキドキ・ワクワクしました。
どうしても後半のファンタジーパートに目がいってしまうけど、前半部分が宮﨑氏の今回の新境地だったと思います。
彼はこういうこともずっとやりたかったんだと思う。

逆に宮﨑氏&ジブリの強みであるはずの後半のファンタジーに自分はあまり魅力を感じなかった。
単純にあの時間で異世界ファンタジーを広げるにはちょっときつい。駆け足の印象。
あの異世界を描くなら、もう少し作品全体の時間を延ばすか、前半の現実パートを短くするか、どっちかだったと思う。
構成が少しはまってなかった気がします。

今回の作品は、彼の中ではアニメ性よりも文学性が強い作品。
特に前半はそうで、自分はドキドキすると同時にちょっと身構えちゃったんですよね。だからうまくファンタジーパートに気持ちが移らなかったのかもしれません。ま、気にしない人は気にしないかも。

③に関して言うと、ポスターにもなっているアオサギが後半あまり印象に残らない。
前半は眞人の苛立ちや不安の象徴みたいな感じですごく存在感があるのだけど、後半ちょっと。。。
②で「ファンタジーの横の広がりがない」と書いたけど、アオサギが存在感を発揮すればそれを解消できた気がします。
アオサギはある意味何でもありで遊べるキャラクターだったから、前半の登場シーンが出色だったぶん(ここも前半が良かった理由のひとつ)、後半になって話を進めようとするあまり真面目になっちゃったのはもったいなかったかな。
年を重ねたハクにしちゃえばよかったのに。。。(←心の中のつぶやき)

※星のあとにも続きあり

総合評価 ☆☆☆+☆半分

☆☆☆☆☆→すごい。うなっちゃう!世界を見る目がちょっと変わる。
☆☆☆☆ →面白い。センス・好みが合う。
☆☆☆  →まあまあ。
☆☆   →う~ん、ちょっと。。。
☆    →ガーン!

あとがき

と、ここまでいろいろ書いてきたのだけど、再度卒業式のアナロジーを使えば、宮﨑氏は作品内で答辞と送辞を一人でしている。。。

そこが面白い!こんな人いない!

しかも普通は送辞があって答辞だけど、彼の場合は答辞があって送辞がある。
「自分はこういうことをやってきた。さて君たちはどうする?」

さらにいえば、これからを生きる人に語りかけているようで、実は宮﨑氏の心中の少年に向かって語りかけている。
つまり過去の少年時代の自分にも送辞をおくっているのです。
「もう一度人生をやり直すなら、自分はどうする?」。
全然達観していないのです。だから説教臭くもない。

もう時間も空間も呼びかける相手もあやふやの中で、ド直球なメッセージを発している。
こんなどファンタジーなメッセージの伝え方をする人っていないと思います。
彼の作品にめちゃくちゃ影響を受けた人間として、この作品ほど彼らしい作品はないと断言できます。

だからもう、この作品に関しては中身うんぬんは関係ないのかもしれません。
宮﨑氏と同時代を生きる人間として(会ったこともないのに偉そうに言うと、友人として)、卒業式に参加できてよかった、というところが素朴な気持ちです。
ほんとによかった。

あー、いっぱい書いちゃった。。。
なんだかんだいって、やっぱり宮﨑作品が好きなのだ。
好きじゃなきゃこんなに書かないですよね。

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