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【#123】岐阜県・池田町長選挙レポート(2024 6.9)

※この記事はメンバーシップ「金城ガンヂの選挙取材をサポートする会 活動支援プランmini」の特典「2024年6月分」になります。 メンバーの方は個人アカウントの「メンバーシップ」⇒「参加中」から入ってご覧ください。


 “ハラスメント3町長” というパワーワードで括られ、全国的に有名になってしまった岐阜県池田町。 堕ちてしまった町の評判、そして雰囲気を一新するために新しい町長を選ぶ、、、 ハズが、まさかの “選挙出まくりマン” が現れ、更にゴチャゴチャした選挙になりました。
 ただし、その件はあくまで。 刺身でいえば「つま」みたいなもの(今回 “記念写真に欠席した学生” みたいなサムネイルなのは、そのためです)。 読者の皆様におかれましては、それを見失わずに今回のレポートを読んでいただければ幸いです。




◆池田町(いけだちょう)・概要

(池田町役場)
  • 面積:38.80㎢(岐阜県 第32位 / 42市町村)

  • 人口:22,631人(第23位)※2024年6月1日現在

  • 人口密度:583.27人/㎢(第16位)※2024年6月1日現在

  • 平均年齢:47.77人(若い順 第13位)※2020年10月1日現在

  • 衆議院は岐阜2区に属し、棚橋泰文(自民 9期)を選出

 いつものように、最初は小西氏の件を無料部分で触れておきます。 ただ、再度申し上げますが、この選挙の本分はコイツこの人ではないので。
 しかしながら今回は告示日にドラマが有りました。

 ドタキャンしやがった兵庫県相生市長選ほどではないですが、選管も取材陣も「こんなコト初めてだ」と驚いた告示日の模様を、お伝えしましょう。


▼ドキュメント「6.4」

 告示日前日まで池田町長選は新人1名のほかに立候補を表明する者がいないため無投票の公算が高いものでした。 では何故、無投票になるのを承知でクルマで約5時間もかけて取材に行ったかというと、

 愛知県と岐阜県の3町でハラスメントが明らかになり町長が辞職するというコトが同時期に発生。

 4月に岐阜県岐南町選を取材し、愛知県東郷町長選も取材予定で、3町の町長選がどうなったかを見比べるための取材で「池田町は無投票でした」という記述を東郷町長選レポートに記載したいがために池田町に向かい、何なら無投票当選した候補が万歳する姿を撮るためダケに向かったのでした。 なので立候補受付締め切りとなる17時までに着けばイイやと、ゆっくり出発したのです。

 ところが、休憩している時に何気に「池田町長選挙」で検索したら、

「・・・と、元兵庫県議の小西彦治氏(52)が立候補を届け出た」

というニュースを目にして運転疲れが吹き飛ぶほどの衝撃を受け、そして憤慨したのです。 繰り返しになりますがこの選挙はハラスメントで前町長が辞職したコトを受けて行われる大事な選挙。「無投票はいけない」という小西氏の主張は分かりますし、1,000,000歩譲ってこれまで出た選挙を「是」としたとしても、この選挙だけは部外者が横槍を入れてイイものではなく、例え無投票でもそれ自体(こんなコトが起きても選挙にならなかった)という事実を町民全員が目の当たりにするコトが重要だと考えていたので、「マジで余計なコトしてんじゃねーよ!!」と怒り心頭で役場に行き、選挙管理委員会(以下、選管)に行ったのです。

 時刻は16時20分。 締め切り間近でリラックスしまくった選管に伺い「小西氏が立候補してきたとのコトで、災難でしたねぇ」と挨拶し話を伺うと、小西氏は前日の夜中(当日未明)に報道にメールで連絡を入れたようで、そのため事前には報じられず、且つ慌てて報道陣が駆けつけたコトで彼が最も大事にしている「立候補インタビュー」を撮ってもらうコトに成功したようです。 小賢しいマネを・・・
 更に驚いたのは、何と小西氏、8時には役場に来て候補者一番乗りだったようなのです。

(長野県松川村長選にて、ポスター位置の “こだわり” を報道陣に力説する小西氏)

 常々「ポスターは目線の低い方にも見てもらえるから、2番が良い」と言い、8時半の受付開始からやや遅れて選管に現れていた小西氏なので意外な展開です。 だって、相手候補とのくじ引きの結果次第では「1番」を引いてしまう確率も50%有るのだから。 どういう心変わりなのでしょうか。

 しかしながら、受付開始の朝8時半に間に合うように来ていれば小西氏を取材出来たワケで、予知できなかった自分の至らなさに落ち込みながら、さぁこれからどうしようかと考えていると選管の職員が、

「相生市長選のコトも有るので、万が一に備えて立候補取り下げの書類を準備している」

と言ったので、無いとは思うけどもしその絵が撮れたらオモロイなぁと思い、

選管横のスペースで待機させてもらいました。 とはいえ来るハズないと思いながらスマホゲームなどして時間を潰していた16時45分頃、何だか選管前に人が集まりだし、肩に乗せるようなテレビカメラを持った報道陣まで来て準備しだしたのです。
 「まさか・・・?」と思いながら私も待っていると現れた! ・・・のは小西氏ではなく、

まさかの “第三の候補”!!  無投票と思われた選挙戦が小西氏が来て一騎打ちとなり、そして受付終了間際に3人目の候補が現れ、まさかの三つ巴選挙となったのでした。
 朝イチで来れなかったのは自分のミスだとはいえ、逆に受付終了間際に来たおかげでこのような瞬間に立ち会えたので、災い転じて福となす、と言いますか・・・

 ちなみに、第三の候補が現れた瞬間、報道陣の目も気にせず「よぉぉぉぉぉし!!!」と叫んだのは内緒にして下さい(汗)。


◆立候補者

竹中 誉  無所属 新 会社員
小西 彦治 無所属 新 選挙出まくりマン
柳生 一成 無所属 新 元岐阜県職員

(柳生候補は告示日にポスターが準備できていませんでした)

 辞職した前職の次を狙って新人3人で争われる選挙。 竹中候補と柳生候補は昨年行われた町長選(前町長が6選)にも立候補した方になります。

 いつもでしたら「POINT」と題して、この選挙の要点を書きだすのですが、先に小西氏に関する部分を片づけておきましょう。 何度も言いますが、この選挙の要点はそれじゃないので。


▼小西氏の選挙ポスターをチェックする

 ハイ、いつものポスターです。 私が “ゴチャゴチャしている左側” と読んでいる「お約束」の内容も、

(左:埼玉県伊奈町長選 右:岐阜県池田町長選)

 直近出た町長選となる「埼玉県伊奈町長選」と同じで、且つ2024年に出た「三重県川越町長選」「山形県舟形町長選」「千葉県横芝光町長選」と同じ。 つまり、安定の使いまわしです。 ちなみに市長選の場合は「町民」「市民」に、「1500万円」「2000万円」に変わるダケ。

 伊奈町長選から新たな試みとして選挙ビラなどが見られるQRコードを追加しており、伊奈町長選や、

“幻の” 兵庫県相生市長選では既存のポスターにQRコードを上貼りしていましたが、

静岡県藤枝市長選ではポスターにQRコードを載せて印刷したマイナーチェンジ版を作っていましたが今回はQRコードを上貼りするやり方に逆戻り。 どうやら町長選のマイナーチェンジ版が未だ出来ていないようです。

 それにしても「お約束」の中に、

「今までの地域政治で一番の害悪が『マンネリ』化です」

と書かれていますが、こんだけマンネリのポスターを使いまわしている人が、何をか言わんやと思わずにはいられません。


▼選挙費用の公営負担を算出してみる

 得票率が10%を超えれば供託金(町長選は50万円)が返還され、更に選挙運動にかかった費用を自治体が負担する「公営負担」(公費負担)が発生します。 では今回、得票率が10%を超えた候補者に対し支払われる公営負担がいくらになるか、

市HPに載っているコチラの条例から算出してみましょう。


①選挙カー及び燃料代と運転手

(長野県松川村長選挙にて持ち込んでいた選挙カー)

 選挙カーは自ら準備する方法とレンタカーやタクシー等をレンタルする方法の2タイプに分かれますが、

 2月の長野県松川村長選辺りから選挙カーを導入してきており(それまではフツーのクルマで来て、ポスター貼ったらサヨウナラ)、今回もそれだと仮定して算出しますれば、

・選挙カー:16,100円/日 × 選挙期間5日間 = 80,500円
・燃料
:7,700円/日 × 5日間 = 38,500円
・運転手
:12,500円/日 × 5日間 = 62,500円

 となり合わせて最大181,500円が候補者に支払われます。

 ちなみに立候補受付後の記者会見にて小西氏は選挙期間中の予定を聞かれた際「毎日自宅(多分兵庫県伊丹市)から通う」と宣言していたそうで、「んなアホな」と思いつつも小西氏は立候補のためなら福島県や山形県にクルマで行く人なので有り得ないコトではありません。 なので高速代は、

・中国池田IC ⇔ 大垣西IC 片道3,420円 ×2(往復) ×5日間 = 34,200円

(インターチェンジは筆者推測)
(軽自動車使用で算出)

 高速の距離が片道約150km、町内を選挙カーで走らせたりとかでプラス50km加えといて、見た限り池田町周辺のガソリン価格(レギュラー)が「170円/L」辺りで、上記写真の選挙カーの平均燃費を「13L/km」と仮定し、ざっと計算すると、

・片道150km × 2(往復) + 50km = 350km × 5日間 =1,750km
・1,750km ÷ 13L/km = ガソリン使用量約134L × 170円/L = 22,780円

(筆者推測)

 となり、交通費は「56,980円」ほどかかるかなぁと予想されます。 これなら4泊5日(火~金)で運転手との2部屋ビジネスホテルを借りるのとそんな変わらない(宿次第ではむしろ安い)気がするのですが・・・ イチイチ通うとのコトで、お疲れさまでございます。


②選挙ポスター

 面積が38.80㎢と比較的小さい町で、ポスター掲示場の数は47か所と少ないため、

・541.31円/枚 × ポスター掲示場47か所 + 316,250円 = 329,242円

(1円未満切上)

 最大329,242円と、ポスターの公費負担額としては少ないです。 単価及び加算額は多くの自治体が上記の数値を設定しているので、掲示場の数が公費負担額を決めるカギとなります。


③その他

 伊奈町長選から導入している「選挙ハガキ」。 今回も撒いているのかどうかは情報が有りませんが、もし撒いていたとしても郵送代公費負担対象ですが作成費自己負担なので持ち出しが多くなると思われます。
 また、選挙ビラについては、選管に提出していたポスターではない印刷物を見たので恐らくそれだと思われますが、新聞折り込みにするコトは無いでしょうしポスティングは違反なので、配るならば選挙運動中に町民に手渡しするしかないと思われ、また現実的にビラに添付する「証紙」を貼りつけるにはマンパワー(運動員の数)が必要で、小西陣営にはそこまでの組織力は(現地では)持っていないので、配布の有無や配布数が不透明なので想定できません。

 と、いうコトで、①+②合わせて最大「510,742円」ほどが公費負担で候補者に支払われるコトになると推測されます。 勿論、このお金は町民が納めた税金が原資の一部となるワケです。


◆選挙結果

[当]竹中 誉  無所属 新 7,150票
 -------------------------------------
[落]柳生 一成 無所属 新 1,928票
[落]小西 彦治 無所属 新    393票

投票率:51.89%(前回比マイナス6.40ポイント)

 町長の辞職理由があまりにも恥ずかしかったり前回とほぼ同じ顔ぶれなのが原因か、投票率が6.4ポイント下がる中、唯一、告示前から立候補を宣言していた竹中候補が予想通り当選。 柳生候補は前回は2,739票獲っていましたが如何せん準備期間が短すぎて票を落とす結果に。 そして小西氏は三つ巴という構図では全く歯が立たず、得票率4.14%という歴代最小得票率で落選となり、供託金没収です。 

(小西氏の “首長選シリーズ” 全成績)
(クリックやタップで拡大してご覧ください)

 コレで供託金没収ラインの「得票率10%」を基準にした通算成績は、12勝4敗1ドタキャンとなりました。
 あ、もちろん、当落を基準にするならば、16敗1ドタキャンですよ。

 とはいえ、とはいえですよ! 小西氏は常々「無投票はいけない」と訴え、他に出る人がいないので立候補を続けてきたワケで、それを考えれば今回、柳生候補が締め切り直前に立候補を表明したコトこそ、小西氏が望んでいた状況でしょう。 彼の訴えが遂に届いて立ち上がる候補者が出てきたのですから。(←そうじゃないとは言わせませんよ)
 なので今回は50万円供託金没収されましたが、小西氏のキモチを汲んで「おめでとうございます」という言葉を贈りたいと思います。

 以上、小西氏についてでした。

 さて、ここからが本番です。 繰り返しますがこの選挙は前町長がハラスメントで辞職したコトに伴い行われるもの。 一体何が有ったのか、ちゃんと見ていきましょう。


◆POINT

①「15人へのセクハラ」で辞職した前町長

 町の職員と元職員が前町長からのセクハラ被害について労働組合「岐阜青年ユニオン」に相談、同組合が昨年7月に相談内容を明らかにしたコトで表沙汰になり第三者委員会が調査を開始。 4月に調査報告書がまとまると、そこには、

調査報告書 概要版※PDF より引用)

 という、ド真ん中のセクハラが明らかになり第三者委員会は「町長は辞職相当である」と結論づけ、それを受けて前町長が辞職しました。 今回の選挙はそれに伴い行われるものです。

 「ハラスメントで町長が辞職」というコトが岐阜県池田町以外にも同時期に、岐阜県岐南町愛知県東郷町(後日レポート掲載)の3町で起こったのですが、内容を比べると(悪い意味で)三者三様。

 “99のセクハラ” というパワーワードが炸裂した岐阜県岐南町ですが、その多くが「頭ポンポン」。 それより酷いセクハラやパワハラ案件も重なり前町長が辞職したのですが、(不謹慎を承知で)比較すると池田町のセクハラが如何に酷いかが分かります。
 また、愛知県東郷町(後日レポート掲載)はパワハラのほか、セクハラマタハラ(マタニティハラスメント)、パタハラ(パタニティ=父性)と “ハラスメントのオンパレード” とです。
 いずれも前町長は「親しみをもって」とか「冗談のつもり」とか言い訳をしていますが、その言葉が町長は前時代的な価値観からアップデート出来ていなかったコトを如実に表しています。

 ただ、池田町は岐南町や東郷町と明らかに異なるコトが有ります。 それは役場を、そして町を覆う圧倒的な「閉塞感」。 そしてそれはまさに「選挙」が根本の原因のひとつなのです。


②「多選」が招いた町政の硬直化

 前町長は現在76歳。 町職員として37年勤務したのち2003年に町長選に立候補し無投票で当選。 そこから当選を重ね6期21年、町のトップに君臨し続けてきました。

◎前回の町長選(2023 1.29投票)
[当]岡﨑 和夫 (74) 無所属 現 4,467票
 -------------------------------------
[落]竹中 誉  (52)  無所属 新 3,731票
[落]柳生 一成 (67)  無所属 新 2,739票

(投票率:58.29%)

 今回も出馬している2候補との争いとなった前回。 新人2名で票が割れた結果、自民国会議員他の首長などからの厚い応援をバックに組織戦を展開した前町長が6選を果たしましたが、この選挙が12年ぶりの町長選。 前町長は過去6回の選挙のうち4回無投票当選でした。
 勿論、今回の件は前町長自身の資質が最も大きな原因ですが、町民の民意を受けるコトが少ないままで当選を重ね権力が強大化し、前町長に意見したり意に反したりするコトが出来ない環境が出来上がってしまったのは、「多選」に大きな原因が有ります。

 例えどんなに住民にとって良い政策をしていてもトップが長期にわたって君臨すると権力集中してしまいます。 トップがやるべきコトは「自分でしか出来ない」政策を実現するコトではなく、「良い政策を他の人でも出来るようにする」環境を作るコト。  風通しが悪くなる前に後継者を育て然るべき時期に引き継ぐのがトップの大きな使命(勿論、誰が次のトップかを決めるのは選挙)です。
 私が4選以上の「多選」となる首長を総じて「無能」だと断じているのは、まさにこのような事態が発生してしまう恐れが有るからで、この池田町で起きたコトは選挙の大切さ、多選のダメさを表す悪しき例として皆様にもご記憶いただきたく思っています。

 さて、ここまで読んで、町政の「硬直化」とまで言い切るのは私の決めつけだと思われた方はいらっしゃるでしょうか。 そんな方のために、私がそう言い切る根拠を「数字」で示しましょう。 先述の「ハラスメント3町長」に出た調査報告書を比べると池田町で明らかに異様な数字が出ているコトが分かります。


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