元ぎゃるお先生、現る~第6話~
2022年もあと1日。
今年最後の投稿です。
この連載を読んでくださってる方々、本当にありがとうございます。
来年もこの連載を淡々と更新していきますので、よろしくお願いいたします。
自分に言葉を送るなら
life is hard
But,it's you who create a bright future.
かな。
それでは、ご笑覧ください。
■司法修習って何するの? ~導入修習編~
というわけで司法試験に合格した私ですが、司法試験に合格すると12月から司法修習といって、1年間の研修が始まります。この1年間の研修については、司法試験受験生ですら何をしているのかを詳しく知らない部分だと思いますので、司法試験受験生か否か関係なく楽しく読んでいただけるよう、詳しく話していきたいと思います。
まず、司法修習について簡単に説明していきましょう。司法修習の1年間は大まかに分けると導入修習、実務修習、選択型実務修習、集合修習、二回試験の5つに分かれます。その中で最初に受けるのが導入修習なんですね。導入修習は埼玉県和光市の司法研修所という所で行われるのですが、配属先の同期と初めて顔を合わす機会になります。あ、でも正確には、導入修習が始まる前に配属地ごと? もう少し大きい単位で修習生の輪を広めるための飲み会らしきものが毎年開催されているらしいですよ。多分、公式イベントで知り合った修習生が連絡先を交換して、そこを中心に飲み会を主宰するみたいな流れなんだと推測されます。ええ、あくまで伝聞の形で書いているのは、私は修習が始まるまでそんな楽しそうな飲み会が開催されていることなど知りもしませんでした。導入修習が始まって友達ができたころに、「あれ、そういやゆっくんってこの写真写ってないよね? 」みたいな流れで見せてもらった集合写真を見て初めて知るという(笑)、公式のイベントに関してはネットで調べれば出てくると思いますので、受験生はぜひ参考にしてみてください。
導入修習が始まる前といえば、司法研修所の講義で使ういわゆる「白表紙」と呼ばれる類のテキストが大量に送られてきます(表紙が白いから白表紙なんですかね)。そして、課題も送られてくるんですね。この課題がまた難しいんですよ。民事の主張整理(弁護士事務所にやってきたお客さんの言い分を弁護士の先生が法律的に整理するイメージを持って頂ければと思います)に関する問題については予備試験の民事実務科目や司法試験の民法で勉強しているのである程度は何とかなるのですが、民事と刑事で問われる事実認定に関する問題(弁護士の先生が提出した証拠等を基に、裁判官が判決を出すイメージを持っていただければと思います)はこれまで触れたことがほとんどなかったので、私の場合はトンチンカンな起案をして提出してしまった記憶があります。この導入修習前に提出する課題については、あくまで噂レベルですが、特に任官希望(裁判官志望)の方は任官にあたり考慮されるとかされないとかっていう話ですので、白表紙を読んだうえで、しっかりとした起案を提出することをお勧めします。任検志望(検察官志望)の方については考慮されるか否かについて私はうわさを聞いていないので何とも言えないところではありますが。まあ、任官志望者か否かにかかわらず、導入修習の課題にしっかりと取り組めば修習開始後に教官が行ってくれる課題の講義が充実したものになるので、課題はまじめに取り組みましょう。
そして導入修習が始まります。まずは顔合わせですね。私の場合、千葉で修習を受けたのですが、千葉修習は約50人で、一つの教室に全員集まっていたので、比較的早い時期に多くの仲間と話すことができたと思います。おもしろいのが、みんなキャラが濃い(笑)自分とは全く違う人生を歩んできた人がたくさんいておもしろかったですね。これから修習を控えている方は、どんな人がいるのかな? というわくわく感をもっておくといいと思います。いい意味で、期待を裏切られると思いますよ。
導入修習の内容
としては、導入というだけあって座学中心で講義形式の修習になります。民事裁判、刑事裁判、検察、民事弁護、刑事弁護それぞれの教官がレジュメを作ってくださり、そのレジュメを用いながら講義を聞く、大学やロースクールの講義と同じ形式で展開されます。現場の第一線で働かれている実務家の教官の授業なので、とにかく具体例が豊富でリアルな講義であるという印象が強く残っています。なので、講義自体をとても楽しむことができました。まあ、私の場合、ほぼ全て予習していなかった(教官、ごめん(笑))ので、授業中にちんぷんかんぷんになったり、隣の友達にいろいろと助けてもらったのはいい思い出です。また、教官は忙しいにもかかわらず丁寧に講義内容に関する質問に答えてくださいます。授業の合間に同期の友達がよく質問するために列をなしていたのを、私は外から「みんな熱心だなあ」と思いながら見ていました(おい)。あと、教官は進路についても熱心に話を聞いてくださります。修習が始まると、進路調査の紙が配られ、そこに弁護士、検察官、裁判官、その他のいずれを志望しているのかを書いて提出する機会が私のころはありまして、それを提出した後に希望者は各教官と面談をすることができるんですね。この面談の機会はぜひ皆さん利用するといいと思います。別に進路が確定していなくても、興味があるという理由だけでも教官は快く相談に乗ってくださいます。私の場合、予備校講師になるって決めていたので、正直、法曹三者になる気はその時点でなかったんですね。でも、ある日検察教官と講義の合間に雑談していた時に「俺も面談申しこみゃ良かったっすわあ」みたいなこと言ったら「じゃあ、面談すっかあ。お前今日何時まで空いてるの? 」みたいな流れになり、そのまま面談にいきました。まあ、面談というか雑談というか、私の予備校講師になるという「夢」を語り、話の流れで元ギャル男だったっていう話が出たので、プリクラを見せながらギャル男について爆笑しながら語っただけなのですが(笑)でも、そんな話を楽しんで聞いてくださる教官って、本当に実務でいろいろな人を見ているからこその懐の深さなんだなあと思いました。これから1年続く修習を楽しめそうと思えた瞬間の一つでもありましたね。
そんな感じで、12月の間だけという短い導入修習はあっという間に過ぎ去ります。
■司法修習って何するの? ~実務修習:弁護修習編~
導入修習の後は、実務家の先生方の仕事ぶりを付き添いながら模擬体験する
実務修習
というものが始まります。私の場合、最初は弁護士の先生との修習だったのですが、
弁護修習
はあらかじめ決められた配属事務所の先生方に修習生が同行して、弁護士業務について学ぶ修習です。弁護修習では担当弁護士の先生のみならず、希望すれば配属事務所の他の先生が持っている事件についても修習させてもらえますし、のちに書きますが委員会活動というものを通じて他の事務所の先生の業務についても修習することができますので、自分次第で無限大に弁護士業務について学ぶことができます。私は訴状起案等の書類作成業務よりも、実際に先生方がどういう場所で誰と何を話してるのかという受験勉強やネット上ではわからない部分を見たいという気持ちが強かったので(別に、書面作成が嫌だったとは一言も言ってないです(笑))、先生方が行う法律相談や裁判所での法廷活動、警察署及び検察庁で行う被疑者との接見、交通事故現場の調査、少年審判期日の傍聴、委員会の新人研修、入局管理局、中学生に向けたいじめに関する授業といったとにかく様々な活動についていきました。弁護士活動は本当に多彩で、いろいろな働き方があるんだなということが経験でき、本当にいい経験になりました。
接見と聞けば、司法試験受験生であれば刑事訴訟法39条3項本文の「捜査のため必要があるとき」の解釈、初回接見と「不当に制限」の解釈あたりは、司法試験に出題される問題なわけですから、ぱっと出てきてほしいところですが、具体的に、最初に行う接見ではどうやって被疑者と向き合い、何を聞き、何を伝えるのか、どこで行われるのか、接見前後にどのような準備をするのかについて、少なくとも私は全く知りませんでした。そんな中、修習先の事務所の先生が「石橋、今日俺接見入ってんだけど、お前来る? 」と誘ってくださったんですね。「おおおお、チャーンス」と思った私は速攻で快諾して検察庁に一緒に同行しました。そこでリアルな接見を始めて目の当たりにしたんですが、その時私が感じたのは接見はコミュニケーションなんだなということです。詳しいことは書けませんが、その被疑者は少しメンタル的にきていたようで、あまり話をしたくなかったみたいなんですね。弁護人の先生はそれを察して、まずは話しやすいような環境づくりに努めていらっしゃいました。結果的に、被疑者も話してくれるようになったのですが、そこに接見のリアルを見たわけです。机の上で刑事訴訟法の解釈のみを行っていた身からすると、とても新鮮でした。ほかにも、外国人の被疑者接見の際に通訳をつけたり、私に模擬初回接見をさせてくださったこともありました。模擬とはいえ、相手は実際に拘留されている生身の被疑者ですから、緊張感は半端なかったです。でも、司法試験の勉強をしているだけでは経験できないことをそこではリアルに経験できるんですね。本当に楽しかったです。
あとは、弁護士の先生方は委員会活動というものも行われています。委員会活動といっても、子ども子どもの権利委員会であったり、犯罪被害に関する委員会であったり外国人の権利に関する委員会であったりとさまざまで、委員会ごとにいろいろな活動を行っているんですね。私が修習中によくお世話になった子どもの権利委員会では、少年付添人活動について学ばせていただきました。確か、最初に委員会活動に同行したときは、修習終了後の18時頃に先生についていき、何かの委員会の定期報告会に同席させていただいたんですね。正直、最初の同席はちんぷんかんぷんだったんですが、その後の飲み会で千葉県弁護士会に所属されているいろいろな先生方と話をする機会があり、そこで子ども子どもの権利委員会があることを知り、弁護修習中に子ども子どもの権利委員会の活動によく同席させていただいたという運びでした。私が最も印象に残っているのは、弁護士というキャリア及びいじめの意味についてワークシートを用いながら千葉の中学校に弁護士の先生が授業をしに行くという取り組みに同席させていただいた時のことです。キャリアについては弁護士って何をするの? 検察官は? 裁判官は? といった最初に誰もが疑問に思うことを楽しく授業されていたのですが、私が特に印象的だったのはいじめに関する授業で先生がいじめられている子の気持ちをコップに入っている水に例えながら話されていたことですね。いじめられている子も最初は耐えているんだけど、コップにどんどん水が溜まっていってこぼれだした瞬間、その子の心に限界が来てしまって壊れちゃうんだということを真剣に伝えられていて、それまでは雑談をしながら聞いていた子どもたちが全員静かに、真剣にその話を聞いているのを見て、子どもたちに先生方の気持ちが届いてるんだなと思いました。こういった活動を通じて、少しでも救われる子どもがいるのであれば、すごい活動だなって思いました。これもとてもいい経験になりました。あと、私が稀有な体験をすることができたと思ったのが、少年事件の審判期日の傍聴に同席させていただいた時のことです。少年事件は刑事事件とは異なり、裁判官、調査官、付添人それぞれが少年の将来の更生について真剣に考え、それをどう実現するかという観点から審判が行われているんだなということがよく実感できたということもあるのですが、その審判期日が終わった後に、電車の時間の関係で傷害を起こした少年とマックで電車を待つという時間があったんですね。その時に少年といろいろ話したんですよ。話した内容はここには書けませんが、社会記録という家庭裁判所の調査官が作成した少年の様子などを記した結果や少年鑑別所の鑑別結果が記された記録があるんですね。それを読んでいて自分の中に湧いた少年像と実物の少年像は一致する部分もあれば、あくまで私の感覚ですが一致しない部分もあって、ああ、これがリアルなんだなと思いました。ここでもやはり、リアルを学べたと思います。ほかにも、日々の法律相談業務にはかなりの数同席させていただき、法律相談に来る相談者の方は本当に様々な悩みを抱えながら相談に来ているんだなと思いました。受験生のころは、いろいろな事件を判例を学習しながら勉強しますよね。そして、判例学習においては事実関係の分析がすごい重要だから、事実関係は必ずチェックしよう。その際、重要な事実関係は必ずインプットするようにしましょう。とか言われるので、とりあえず事実関係も読み込むわけです。でも、私自身、そこにリアルはなかったなあと思います。どれだけ判例の事実関係についていろいろ調べても、リアルではなかったなと。そういう意味で、修習で生身の人間同士のやり取りを目の当たりにして、本当にリアルなやり取りを見て、これが実際に起きている事件なんだと思いました。法律相談の同席は、このような日々に事件のリアルを実感できたというだけでもいい経験になったと思ってます。あとは、私の場合、修習担当の先生がゴルフ好きということで打ちっぱなしに連れて行っていただいたり、うまいご飯に連れて行っていただいたり、ここには書き切れませんが、修習以外の部分でいろいろと楽しませていただきました。ただただ、楽しかったですね。この本を読まれている受験生のみなさんは積極的に修習担当の先生にご飯が美味しいところに連れて行ってもらったりした方がいいですよ。みなさんノリがよく面倒見がいい先生だと思いますので、快く連れて行っていただけるでしょう。このように、弁護修習の楽しみ方は千差万別で、私みたいに外に出て知らない世界を見ることに重きを置いた修習をすれば、たくさん弁護士のリアルを体験することができます。そういった意味でも、司法試験関係者は受験生時代から具体的に自分がどんな弁護士になりたくて、どんな分野に興味があるのかを具体的に考えておくといいのではないでしょうか。
■司法修習って何するの? ~実務修習:検察修習編~
検察修習
では、検察修習クールの班をさらに2~3人ほどの班に細分化して、それぞれの班ごとに割り振られた事件の捜査を実際に行う修習、検事正や部長の講義を聞く修習、あらかじめ決められた事件を題材とする事件検討会、司法解剖見学(死体の解剖です)、刑務所見学といった修習を行いました。やはり、なんといっても実際の事件の捜査を行うというのは、緊張感漂う修習ですよね。私自身、検察修習では取り調べを中心とする実際の捜査が一番印象に残っています。
裁判員裁判論告演習なんていうのもありまして、私たちの班は傷害致死事件の既済記録を用いて事実認定を行い、論告を起案してそれを実際に修習生及び修習担当検事の前で読み上げることをしました。正直最初は「読み上げもやんのかよ。まじか」とか思っていたのですが、実際にやってみると結構面白かったです。修習同期の論告(文書の読み上げです)起案も知ることができますし、同期と議論する過程が白熱したり、読み上げの得手不得手もあとになって笑いに変わったり(笑)
検事正や部長の講義では、検察官と他の職業の違いについて学ぶことができておもしろかったですね。特に裁判官との違いとして、裁判官は目の前にあるもの(裁判資料)を料理する仕事であるのに対し、検察官は目の前にないもの(証拠)を探すという違いがあるんだよという趣旨の説明をされていた時に、これまでにないモノの見方だったので面白いなと思いました。
そして、やってきました。捜査ですね。私の場合、否認事件1件が班に割り振られ、認め事件は修習生ごとに割り振られ、それぞれの事件を処理するという修習でした。まず、警察官から送致されてきた事件記録を読んで事件の概要を把握しました。この事件記録を読むという作業なんですが、そこまで厚くないものもあれば、証拠が大量で相当な量になるものもあるんですね。私は万引き事件を担当していたのでそこまで複雑な事件ではなく、記録も厚くなかったのですが、修習生によっては最初に読み込む記録がかなりのボリュームの修習生もいましたね。そして、ここからが新しいと思ったところなのですが、被疑者の嫌疑についての犯罪構成要件に該当する事実及び犯人性を立証する上で、警察が送ってきた事件に関する資料だけで本当に足りているのか、足りていないとすればそれはどのような事実なのか、そしてその事実を証明するためにはどのような証拠を集めればいいかといったことを自分で考えて、実際に証拠収集活動を自分で行うんです。これって、事実が所与のものとして与えられている司法試験、予備試験(まあ、予備試験の刑事実務科目は一部証拠収集活動についての設問もありますが)では考えることがあまりなかった部分だと思います。実際、私はスーパーのGメン[U1] に電話をして電話で聴取したメモを作成したり、防犯ビデオカメラの映像を確認したり、実際に被疑者を取り調べたりしました。検察実務では決済制度というものがとられていて、ある程度証拠を集めて事件の見通しが立ったら上級の検察官のもとへ行き、決済をもらうんですね。その決済がけっこう厳しく、かつ、すごさを実感できるいい経験になりました。私が万引き事件の決済に向かった時、私自身この証拠だけで立証として足りているかやや不安に思っていた部分についてすぐに指摘が入ったんです。結局、アドバイスをいただいたのですが、その時は、検察官は何百何千もの事件を見てきているから、事案を聞いただけでどんな証拠が想定できて、それが足りているのかを瞬時に判断できるんだな。すごいなと思いました。あと、被疑者の取調べは修習生として行うとはいえ、実際の被疑者に直接語り掛けて話を聞き、話を聞き出すわけですから、かなり緊張しましたね。複数回行ったのですが、ちゃんと話を聞くというところを毎回強く意識しました。基本的にオープンクエスチョンで聞いて、まずは被疑者の言い分を聞くようにすることで、私は彼らを理解するよう努めていました。これは総務部長が講義の中で、「相手をバカにしないでしっかりと耳を傾けろ。そこから始まるんだ」とおっしゃっていたことを意識した結果だったかなと今では思います。
そんなこんなでいろいろな経験をさせてもらえた検察修習ですが、検察官のイメージってみなさんどういうものを思い描いていますか? ドラマ「HERO」の久利生検事をイメージする方、あるいはその逆で堅い雰囲気の人間像をイメージする方は割と多いのではないでしょうか。まあ、久利生検事はさすがに型破りすぎなので、少なくとも千葉地検にはいなかったように記憶しております(笑)が、私が修習させていただいた千葉地検の検察官の方々はフランクな方が多かったように思います。仕事中はガチ、仕事後は全力で楽しむといったイメージですかね。私の同期で任検した友人がいますが、最近全然会ってないので、どんな検事に成長したのか、久々に会って刺激を受けたいですね。
■司法修習って何するの? ~実務修習:裁判所修習編~
裁判所での修習
は大きく分けて民事裁判修習、刑事裁判修習、家庭裁判所の修習に分かれます。私の場合、民事裁判修習では起案を3通(いずれも判決起案ではなく、争点についてのサマリーライティング(事件の要点をまとめる起案)でした)、弁論準備手続や弁論、証人尋問期日といった法廷傍聴、保全執行倒産といった特殊部の講義、事実認定勉強会への参加、書記官事務の講義が主な修習内容で、刑事裁判修習では、起案を5通、公判前整理手続、公判審理、裁判官と検事、弁護人との打ち合わせ、勾留質問手続の傍聴、裁判員裁判における裁判官と裁判員の評議の見学、正当防衛の成否と量刑が争点となっている事件についての模擬裁判が主な修習内容でした。家庭裁判所の修習では、家事事件の調停の傍聴、少年事件の審判の傍聴を行いました。家庭裁判所の修習内容が民事裁判及び刑事裁判の両社[U2] より薄いのは、家庭裁判所の修習は4日間しかないからなんですね。すごく短い期間なので、どうしても経験できる事項は少なくなってしまうのですが、もっと家庭裁判所について知りたいという修習生は、私のように実務修習後の選択型実務修習という期間に家事・少年合同というプログラムを選択するとよいと思います。
まず、刑事裁判ですが、私はかなり積極的に裁判官にいろいろと質問したり、公判審理を傍聴させてもらったと思います。覚せい剤被告事件、住居侵入窃盗被告事件、強制わいせつ被告事件、強盗被告事件、詐欺被告事件、大麻取締法違反事件、放火未遂事件等々、様々な事件の公判審理や打ち合わせを見させていただきました。千葉地裁の場合、裁判官室のすぐ横に裁判所書記官室があるので、傍聴する前に書記官室に行って事件記録をお借りするんですね。事件記録はかなり厚いものは読み込むのが大変で大変で。事件記録を読むのに慣れていない頃は、全ての資料に目を通さないといけないのかな? という思いがあったので、事実関係や証拠構造の把握に相当な時間をかけてしまったことを覚えています。段々慣れてくると、どの証拠を優先的に読めばいいかといった感覚が身に付いてくるので、ある程度のスピードで読めるようになるんですけどね。そして、自分なりに事案や証拠構造を整理したら期日を傍聴して、裁判官室に戻るんですが、裁判官が忙しくないときは、傍聴の後すぐに感想やいろいろな質問をしてきてくれるんです。これがまた面白くて、例えば検察官の主張だけど、あれって本当に意味があるのかな? どう思う? といったリアルな質問がバンバン飛んでくるんですね。当然、結審していないのでまだ答えがない部分であり、裁判官自身も現段階で決め切れていない事項について、修習生にも考えを求めてくれるんです。自分の頭で考えて自分なりの考えを裁判官に伝えて、それについて議論する過程がとても面白かったし、私にとってはいい経験となりました。ほかにも、裁判員裁判における冒頭陳述や論告求刑の在り方について、裁判員にわかりやすく行う方法を議論したり、遮蔽措置を実際に見ることができたり、いろいろな体験をさせてもらえました。修習外でも千葉地裁の裁判官の方々はすごいノリがよくて、ボーリング大会であったり、普通に飲みに誘っていただいたり、なんと東京都内某所で休日に修習先の裁判官夫婦と出会うというサプライズがあったりと、とにかく楽しい毎日でしたね。私のように記録を読むよりいろいろと見たい聞きたい喋りたいタイプの方、マジで自分次第でどうにでもなります。
民事裁判修習では、裁判官の手持ちの事件の多さにとにかく脱帽したのを覚えています。というのも、民事裁判修習でも修習生は基本的に記録を読んで、裁判官についていき、期日を傍聴して、裁判官と事件について議論するという1日を送るのですが、とにかく民事は一人の裁判官が1日に処理する事件が多いんです。うおおおおお、まじか、すげえええええええ。って、最初びっくりしましたね。千葉地裁の場合、刑事裁判修習と民事裁判修習では修習生に開廷表というその日に裁判官が担当する事件一覧表が配られるんですが、民事の裁判官の開廷表は事件数が二桁の時がざらにあるんです。確かに、判決言渡手続きや弁論がアッサリしているものもあるのですが、普通に考えて1日二桁を処理するって並みの人じゃできないことだと思います。記録を読んで、要点を整理して、当事者の言い分を整理して、事件を進めていくあの処理力はホントすごいですね。修習中はすごいなあと感心しつつも、どう考えたり、どのような観点から物事を見ればあの処理力が身に付くんだろうということをいつも考えていました。普通にびっくりするので、ぜひ、みなさんも民事裁判修習を楽しみにしておくとよいと思います。修習外では、これまた刑事裁判修習の裁判官の皆様と同じで、私が配属された部の裁判官の方々はお酒が好きな方が多く、焼き肉や飲みにたくさん連れて行ってくださいました。裁判官に対して堅いイメージを持ってる方、多いと思います。そりゃあ、ニュースに映る法服を着た裁判官が写っている法廷の写真を見れば誰だってそういう印象を受けますよね(笑)でも、私の部の裁判官の方はすごい面白くて懐が深い方々だったので、趣味や家庭のこと、将来について楽しく語ってワイワイしていましたね。とにかく、民事裁判修習も楽しかったです。
というわけで、裁判所修習も楽しかったですね。なんていうか、新しいことに出会うときって、ワクワクするじゃないですか? 修習では、その新しいことにたくさん出会えるんです。とにかく裁判所修習では積極的に見たい事件、聞きたい事件、喋りたい事件について裁判官に自分の気持ちを伝えましょう。充実した日々を送れるか否かは自分次第だと思います。
■司法修習って何するの? ~選択型実務修習・集合修習編~
弁護修習、検察修習、裁判所修習が終わると、
選択型実務修習と集合修習
に入ります。選択型実務修習というのはより専門的な内容の修習を受けたい場合に、複数あるプログラムの中から自らプログラムを選択して行う修習を意味し、集合修習は、修習地の全員が和光の司法研修所に集まり、自分たちの教官から座学を中心とした、実務に出る前のまとめの講義を受ける修習を指します。
私の場合、選択型実務修習では、家事少年合同プログラム、法務行政修習プログラム、民事裁判プログラムを選択し、他の期間は弁護修習先の事務所でホームグラウンド修習を行っていました。
家事少年合同プログラムを選択した理由は、裁判所修習中は家庭裁判所に4日間しかいなかったので、純粋にもっと少年事件や家事調停を見てみたいなと思ったからです。このプログラムでは、調停制度について記録を検討したり評議に立ち会うことで理解を深めることができましたし、少年事件の審判を傍聴し、部長といろいろ話すことで、少年事件と刑事事件の違いを学ぶことができました。
法務行政修習というのは、全国プログラムという配属先に関係なく全国の修習地から選択可能なプログラムのうちの一つで、実際に法務省に行き、1週間の間に法務省の各部の担当者から法務行政に関する講義を聞いたり、施設見学を行うプログラムです。東京に来てみたいという理由で、地方からこのプログラムを選択している修習生もいたと記憶しています。私は霞が関で働く気はこれっぽっちもなかったので、逆に言えば、霞が関のことを何も知らなかったんです。深夜も電気が付いているとかいないとか程度の噂しか知らなかったのですが、法務省各部局職員による講義や関連施設見学を受けたことで、実際に法務省にはどのような部局があって、それぞれがどのような仕事をしているのかを学べたと思います。あと、昼休みに農林水産省の食堂に行ったのですが、むっちゃ美味かったですね。流石は農林水産省、クジラ料理をランチで食べられるとは思いませんでした。みなさんもぜひ、法務行政修習プログラムを選択した際は農林水産省の食堂にランチを食べに行ってみてください。
次に、民事裁判ですね。選択型実務修習で民事裁判や刑事裁判、検察を選択する場合、自分が所属していた部以外のプログラムも選択することができるのですが、私の場合は自分が所属していた部のプログラムを選択しました。というのも、私が所属していた部はとにかく明るく楽しかったので、再度その部に行きたかったんですね。あと、私は民事系の起案があまりいい評価ではなかったので、裁判官に起案の仕方も学びたかったという理由もあります。結局、民事裁判プログラムでは、判決理由も含めた判決起案を行いました。この起案刷毛好悪も片野[U3] ですが、書面の作成能力、要件事実、事実認定能力を総合的に学べてよかったです。また、その部は建築関係訴訟の専門部でもあったので、建築関係訴訟の傍聴をたくさんすることができました。瑕疵を実際に裁判体[U4] で見に行ったりもしましたし、数年にわたって原告被告がもめている大規模訴訟も傍聴することができ、かなり有意義な時間でした。
この時期になると、二回試験のことが頭をよぎるので、二回試験対策にとらわれてしまう修習生が多くいると思われます。でも、二回試験の勉強は二回試験の勉強、実務修習は実務修習というようにはっきりと区別して、実務修習でなければできない経験をたくさん積んだ方が将来的には絶対にいいと思います。二回試験対策という観点から選択型実務修習でプログラムを全然選択しないという修習生がいるとかいないとかっていう話を聞いたことがありますが、修習生でなければ法曹三者の仕事を近くで見る、体験することはできないんです。ぜひ、司法修習を自分の社会経験を積む機関として有意義に使ってほしいと思います。
次に、集合修習ですね。集合修習は和光市の司法研修所で行われ、ほとんどの修習生が研修所の寮に泊まることになります。私は研修所の寮に必要最小限の生活物品しか持っていかなかったのですが、和光の寮は通信環境が悪いので、あらかじめ通信環境を整えたうえで入寮することを強くお勧めします。
集合修習に入ると起案の数が多くなるんですね。これがけっこう大変でした。正直、私は起案対策を全然してこなかったので、記録を読んで事案を把握し、分析整理して文章を作成することに相当時間がかかりました。予備試験は答案用紙4枚、問題文も2~4頁、司法試験は答案用紙8枚、問題文は2~6頁ほどだと思いますが、集合修習で扱う記録は100頁前後もあるんで、事案の把握が大変なんです。答案用紙は司法試験と異なり1行あけながら書くというルールがあるので、実際50枚書いたら司法試験の答案で言う25枚相当の文字数なのですが、それでも多いんですね。なかには100頁くらいの分量を書き上げる強者もいますが、私の場合は短くて密度の濃い起案を目指していたので、分量はそこまでではありませんでしたが。話を戻して、集合修習では起案後に教官がかなり密度の濃い解説授業をしてくださいます。そして、この解説授業がそのまま二回試験対策につながるので、皆さんはぜひ、集合修習中の起案の解説授業は真剣に聞いて、しっかりとノートを取ってください。
他に印象に残っている集合修習といえば、模擬裁判です。この模擬裁判は結構大掛かりで、民事の場合は修習生を裁判官側、原告側、被告側に分け、刑事の場合は修習生を裁判官側、被告人側、検察側に分けて進めるのですが、各自に渡さる資料が立場によって異なるので、事件のリアルな流れを体験できるんですね。たとえば、民事の原告代理人役の修習生は原告役の修習生から法律相談としていろいろと話を聞かないといけないですし、そこでの聞き取りが下手だと聞きだすべき情報を聞き出せなかったことになったり、刑事の公判前整理手続では、裁判官役の修習生の手腕次第で争点整理がうまくできるかが左右されます。このようなリアルさは結構印象的でしたね。なお、私は民事の模擬裁判では証人を、刑事では反対尋問を行う検察官を担当しました。一人がちゃんと資料を読み込まないとみんなに迷惑がかかるので、割とまじめに取り組んだと思います。まあ、いろいろな人にいろいろと助けてもらいましたが(笑)
その他、集合修習も17時には終わるので、私は寮の前のグラウンドで他の修習地の人たちも集まってサッカーをしたり、ゴルフに行ったり、寮の友達の部屋で飲んだりしていました。ここもやはりプライベートと仕事の峻別、メリハリが利いた点ではかなり楽しめたと思います。あと、研修所の隣に大きな公園があって、バーベキュー場も設置されているんですね。この情報を聞いた時にすぐにピンときちゃいました。「修習地関係なく修習生集めてバーベキューしたら面白くない? 」みたいな。結局、千葉修習の仲間を中心に、バーベキューを森林公園で企画して行いました。このバーべには修習の教官も奥さんやお子さんを連れてきていただいたりして、かなりワイワイ楽しい時間を過ごせました。めっちゃ飲んだので、記憶が怪しい部分もありますが(笑)今となっては、いい思い出です。
■司法修習って何するの? ~ラスボス二回試験編~
二回試験
というのは11月の中旬から下旬にかけて行われる司法修習の卒業試験です。民事裁判、民事弁護、刑事裁判、刑事弁護、検察の5科目について合計5日間で行われるもので、正式名称を「司法修習生考試」といいます。この試験の試験時間。聞いたらビビりますよ。ありえないくらい長いんです。はっきり言って、尋常じゃない。というのも、試験時間は10時20分から17時50分までの7時間半です。7時間半ですよ。まあ、導入修習から集合修習にかけて複数回起案を行うので、修習生的には7時間半は普通あるいは短いという感覚になるものではあるのですが、そうでない方からすれば一体そんな長い間何をやってるんだって思う長さですよね。昼休みは12時からの1時間なのですが、大体の人がパンや弁当を食べながら記録を読んでいるので、実質的には昼休みはないようなものです。
そして、面白いというか、今でも私は変だなあと思う二回試験のルールなのですが、この試験の答案用紙には二つの穴が開いていて、これを試験時間内に紐で綴ったうえで試験官に提出しなければならないんですね。逆に言うと、時間内に紐で綴れなかった修習生は、それだけで不合格となってしまうのです。紐で綴り切れないと不合格って、謎ですよね。ちなみに、私は「そんな時間内に紐で綴れないわけないじゃん」と思っていたのですが、なんと、二回試験1日目で紐を理由に不合格になりかけてしまいました(笑)いや、マジで焦りましたね。試験終了間際に汗だくだくになりました。というのも、私は試験終了20分前くらいに少し余分な量の答案用紙も含めて答案を紐で綴り、使わなかった答案用紙は終了前に破って紐から外すという方法で紐対策を行っていたので、二回試験初日もそのように終了20分前くらいに紐をつづったんですね。んで、5分前くらいになると試験官が「再度紐を確認してください。絶対に確認してくださいね」といったアナウンスをしてくださるんです。なので、私も自分の紐を確認したんです。そしたらなんと、自分で書いた答案用紙の半分くらいしか綴れてなかったんです。「ふぁっ」って気分でしたね。実は、答案用紙の残り半分は構成用紙の下に隠れていて、それに気づかないまま半分の答案と余分な答案用紙を紐で綴っていたんです。しかも、蝶々結びではなく方結びでほどけないようシッカリと。もうね、歯を使いながら死ぬ気でほどきました。時間にして残り3分ほどでしょうか。死ぬ気でした。汗だくだくです。隣の修習生の視線がすごかったんですが、多分、彼女もびっくりしていたんじゃないでしょうか。え、この人1日目で落ちるの? みたいな(笑)結局、試験時間終了前に紐がほどけたので、残りの答案用紙も含めて綴ることができました。3分間であんなに汗をかいたのは人生で初めてでした。あの時、もしミスっていたらもしかしたら私はこの本を書いていないかもしれませんからね。リアルに間に合ってよかったです。なお、実は試験官にはさみを借りることができるみたいですね(笑)知りませんでした(笑)
そんな「二回試験」ですが、これを読んでいる受験生が気になるのはその対策といったところでしょうか。まあ、結論から言うと司法試験に合格する際に培った考え方、勉強の仕方を応用するだけなので、何か特殊なことはしなくてもOKですということなのですが、一応、私が行った「二回試験」対策をここに書いてみますね。なお、私はがっつりと二回試験対策を行ったわけではありません。任官志望ではなかったので、ナンバーワンを目指していた司法試験とは異なり、二回試験については、目的を落ちないことに設定したんですね。そして、落ちないことという目的との関係で必要最小限度のことしか行いませんでした。なので、ここに書くことは二回試験を突破するうえで私が考える必要最小限度の方法論だと思って読んでください。
まず、私は二回試験対策として用いる教材を厳選しました。教材がたくさんあるとあれもやらないといけない、これもやらないといけないと思ってしまい、散漫となってしまうので、二回試験合格者のブログや、情報をたくさん仕入れている友人のアドバイスを参考に、各科目ごとにこれだけは読んで吸収しようという教材をセレクトするんですね。この作業はおすすめです。司法試験も同じですが、手を広げすぎず、内容的にも時間的にも合理的に勉強を行うために、教材の厳選はするとよいと思います。その際、多くの修習生が必ず読むであろう教材を中心に選び、苦手な科目だけプラスアルファの教材も選ぶという方法をとっていました。例えば、検察起案対策でしたら「検察終局処分起案の考え方」は必須ですし、民事裁判対策でしたら「事例で考える民事事実認定」(通称、ジレカン)が必須ということは誰もが言っていたので、私もこれだけはマスターしようと考えていました。そのうえで、民事裁判の起案が思うように書けていなかったことから、民事裁判については「ステップアップ民事事実認定」という本を読みました。このような教材の厳選を行ったわけですが、結局、一番役に立ったのは授業の復習と友人との自主ゼミでした。やはり、起案の解説授業は内容的に学ぶことがかなり多く、教官のレジュメや授業内の発言には、二回試験に役立つポイントがかなり多く含まれていたんですね。また、起案の形式的体裁や記録の読み方についても解説内で言及してくださるので、二回試験に直結するんです。私は休んでしまって出席できなかった解説授業が割とあったので、友人にノートを借りて勉強していました。あと、自主ゼミを三人で組んで起案の仕方や記録の読み方を相談しあいました。これが効果テキメンでして、三人ともA評価をもらった科目が違う科目でしたので、それぞれがA評価をもらっていた科目につき、どんなところに気をつけながら大量の記録を読み解くのかを伝えあったんです。「なるほど」の連続でしたし、そのおかげで二回試験本番もスムーズに記録を読み進めることができました。
以上のように、私が行った二回試験対策は今紹介した教材の厳選、授業の復習、自主ゼミの3本柱でした。これ以外にも、知識面の確認のために司法試験と予備試験の過去問をやり直そうと思いましたが、それは全然時間がなかったのでできませんでした。ま、実際、今考えると司法試験の過去問のやり直しをする必要はなかったとは思いますが。
最後に、二回試験は修習生を落とすための試験ではありません。イメージ的には、予備試験の口述式試験と同じです。私が修習を受けた[U5] 70期の場合、99%の方が二回試験を通過しています。ですから、適切な方法論さえ取れればほぼ必ず通過できる試験なんです。そして、二回試験直前まで来ている方は皆、司法試験に合格しているわけですから、正しい勉強法を考えることができるはずの方々なんです。受けられる方は、二回試験は長丁場ですが、しっかりと対策して淡々と乗り切ってほしいと思います。
■元ギャル男がロイヤーではなく司法試験予備校講師になったワケ
司法試験→司法修習→法曹。
多くの方がこのルート(特に法曹の中でも弁護士)を考えるのではないでしょうか。
司法修習を終えて社会人として働き始める前に、これまでお世話になった友人に就職先の報告をしたんですね。そしたら、「え、なんで弁護士にならなかったの? 」「予備校の先生? 弁護士じゃなくて? 」といった反応を割と多くもらいました。
確かに、司法試験を受けるということだけ知っていた方からすれば、法曹に進むと考えるのが普通なのかなあと思います。
でも、私は違った。
私の感覚からすると、司法試験に受かることというのは、キャリアアップの手段・武器を手に入れる一つの方法にすぎないと思うんですね。ですので、司法試験に合格したとしても、法曹にならないという選択をすることは、全然不思議じゃないと思います。
もし、法曹以外にも興味がある……という方がいましたら、そんな他の可能性を探している自分に自信を持ってください。既定路線とか、こうあるべきとか、そんな意味不明な戯言は気になさらなくて全然大丈夫です。
というわけで、ここでは、私がなぜ就職先として司法試験予備校の講師の道を選んだのかについて具体的に書いていこうと思います。
「ギャル男弁護士になるわ~」と言っていた時代があるように、私は小さいころから司法試験予備校講師になろうと思っていたわけではありませんでした。モテそうだし、かっこいいし、金持ちになれそうだしという当たり障りのない理由で、最初は、ただぼんやりと弁護士になろうと思っていました。
そこから司法試験予備校講師になろうと考えがシフトし始めた原因の一つに、
恩師・谷山政司との出会い
があります。
前述のとおり、私が彼の前職時代に開催していた予備試験ゼミのゼミ生だった時からなので、かれこれ10年ほどが経つわけですが、彼のゼミを受けていて思ったのが、ゼミで彼が熱狂していたんですね。
一生懸命さ、真剣さがゼミを通じて伝わってきますし、なにより、彼は楽しそうでした。ゼミは大変でしたが、私も楽しかったんです。そんなゼミを通じて、「なんか、このおっさん楽しそうだな」と思い始めたのが最初にぼんやりと講師になるのもいいなと思ったきっかけでした。私は論理よりフィーリングを優先するタイプなので、このゼミでの経験が大きかったのかなと思います。
そして、その後、ロースクール入試に合格した後、谷山さんは私に合格者としてゼミを担当させてくれたのです。そのゼミはちょうど入門段階の方々に憲法、民法、刑法の基礎知識を教えるゼミと、下四法も含めて論文を教えるゼミでした。その時にすごい印象に残っている感情が「楽しい」という感情だったんです。
ゼミの準備は、はっきり言ってむっちゃ大変でした。プロの講師として指導をしている今もそうですが、誰かに何かを責任もって教える場合、教える側は教わる側の倍以上の準備、熱意が必要になるんです。少なくとも私の場合はそんな感覚です。レジュメの準備と一言で言っても、扱う問題の選定、記載内容の確定、構成、解説の作成、答案例の作成、印刷といったいろいろな工程がありますし、ゼミ自体をどういう進行にすればみんなが楽しんでくれるかなあといったことも考えるので、かなり時間がかかるんです。
でも、その大変さを加味しても、ゼミの子たちと一緒にゼミを作り上げていくことが「楽しい」と思えたんです。最初に担当したゼミは準備と進行だけで手いっぱいというか、試行錯誤の連続だったと思います。もちろん、その時の自分としては全力なんです。一生懸命でした。ゼミという点において、今思えば、レジュメはもっとこうすべき、進行はもっとああすべきという反省点がたくさんあったなあと思っています。
反省点もありますが、全力でゼミをして全力でゼミ以外の時間も教え子と過ごした日々は、本当に楽しかったです。
その時の教え子が予備試験に合格したり、司法試験に合格したり、法曹ではない道を選択したりといった報告を聞いた時には、本当にうれしかったですね。私自身、自分の仕事のペースを調整して、またみんなに会いたいと思ってます。
そんなこんなで、谷山さんに担当させていただいたゼミを終えた後も私はゼミの魅惑の虜になっていました。
教え子の一人が言ったんです。
「石橋さん、ゼミをまたやってくださいよ。大学の空き教室とか、貸し会議室とか使えばできるじゃないですか」、と。
その時、即答しました。
「やるっしょ」。
そこからですね、手元に残っているデータを見る限り、回数にして約23回の学生企画ゼミと称するゼミを開催しました。メンバーは自分が某予備校で開催していたゼミのメンバーを中心に始めたのですが、そこから噂や紹介を通して増えていき、私としてもいろいろな受験生に出会うことができました。
そして、1回1回のゼミがやはり「楽しい」んですね。
真剣にレジュメを作り、真剣にゼミを行い、終わった後は恒例の飲み。飲みはすさまじかったですね(笑)毎回朝まで飲んで、教え子とマン喫に泊まり、そして昼にまた顔を合わす(笑)
それくらい、はまっている自分がそこにはあったんです。この学生企画ゼミを自分で続けていた頃に自分自身で決心したんです。「俺、予備校で先生やろっと」って。
そんな中、月日は経ち、私も司法試験に合格して司法修習に行くことが決まった頃でしょうか、谷山さんと久々に飲みに行ったんですね。そしてこれまでのこととかいろいろ昔話をして懐かしんだ後、谷山さんから言われた一言があります。
「俺と一緒に働かないか? 」
私自身はすでに予備校の先生になることは決めていましたが、改めて恩師から誘っていただいたときはうれしかったです。この時も、即答で「もちろん。これからよろしくおなしゃす」と返しました。
こうして、私は現職に就くことが正式に決まりました。私はわがままなので、やりたいことを仕事にしますし、それができたわけです。ですから、今、私はとても「楽しい」です。趣味を仕事にできて、責任感は増しましたが、本当に楽しんでいます。
仕事が楽しいって、控えめに言って最高です。
ところで、私は未だに自分のことを「先生」と呼ばないでと教え子たちにお願いしています。なぜか。それは、司法試験予備校の「先生」は、単に司法試験合格に必要な知識、方法論だけを教えるのではなく、自分の生きざまを教え子に見せることで、教え子に夢を見させることができる存在だと思っているからです。
その意味で、私は「先生」なのではなく、まだまだ「講師」なんです。
「先生」と「講師」の厳密な意味での定義は知りませんが、少なくとも私の中では区別があるんです。まだまだ私は経験が足りていません。もっともっと、いろいろな経験をして、「先生」と呼ばれても恥ずかしくないと思える自分になりたいと思います。知識や方法論だけじゃない、夢と経験を伝えられる「先生」に私はなろうと思います。
そんな感じで、私は司法試験予備校の講師になりました。うちの両親は最初のころは「え~」みたいな反応だったんです。でも、両親には悪いけど、決めるのは俺だし、俺が超がんばって楽しんでれば両親も納得してくれると思っていました。現に、両親は納得してくれています。みなさんも、自分が一番やりたいことは何なのか、それを考えて、実現していってほしいと思います。
■予備校講師って何してるの?
司法試験予備校の講師の仕事については、最近でこそTwitterで業務に関する配信をしている講師が増えたと思いますが、今なお何してるんだろうという声を聴きますので、私が普段何をしているのかについて話していきたいと思います。
最初のほうにも書きましたが、予備校の講師には、
① 収録した講義をネットで配信することを業務の中心とする講師
② 個別指導やゼミといった形で、直接対面で生徒に指導することを業務の中心とする講師
がいます。そして、私は後者なわけですが、週の半分以上は個別指導で埋まっています。個別指導というのは、基本的に、受講生が書いてきた答案を添削し、指導して答案の改善点を質疑応答しながら伝えるというフローを指すのですが、他にも、受講相談やカウンセリング、教材制作も行っています。さらには、私の場合、受験生交流会というイベントも毎月開催しています。Zoom飲みを企画し、Twitterで宣伝し、毎月全国の受験生と飲む。所属予備校や大学生、社会人といった属性は関係ない。ただ、おもしろそうと思った方々と一緒に真面目な話から雑談を繰り広げながら飲む。そんなイベントです。この話を聞いて、なんて生産性のないことをやってる暇人なんだという人もいるでしょう。大いに結構。だって、むっちゃ楽しいし、それを期に勉強に、人生に自信を持ってくれる方々もいるんです。それが無駄なわけないでしょう。
あとは最近は行うことができませんが、大学の法律系サークルへの出張授業をやっていたこともありました。あとは執筆や貸教室等を使った勉強会ですね。
とまあ、いろいろやっているわけですが、その全てが『自分がやりたい』ことなので、やりたくないことを強制されてやったことは一つもありません。
それだけ、責任を持ちながら自由に仕事ができています。もちろん、全ての予備校がこんなふうに働けるとは思っていませんが、少なくとも私はとても充実した仕事=予備校講師だと思います。
ここまでいろいろと話してきましたが、私の業務の超中心である現場での指導に関して言えば、もともと話すことが好きなこともあって、個別指導で真剣に向き合い、私も含めてお互いが成長し、何かあるときにみんなで集まって一緒に飲んで語ることが本当に楽しいんですよね。
個別指導は「およそ受験生」ではなく「1人の受験生」と向き合うことも自分が熱中できる大きな要素なんだと思っています。目の前の個人に対して大きな責任を負わせてもらえる点が、頑張ろうと思える原動力になっています。一緒に合格したい。この、一緒に切磋琢磨した経験が受講生の将来につながるかもしれないと思えば思うほど自分が一生懸命になれるんです。合格のその先まで寄与できる指導を一つでも多くしたいなと思えるのです。
オンリーワンでナンバーワンの個別指導。
今なお、ずっと探求しがいのある道です。
■YouTuber始めました
急に温度差が変わるタイトルとなりました(笑)が、ここでは私がYouTuberになったきっかけ、位置づけ、撮影の裏側について話していきたいと思います。
URLはこちら 元ぎゃるお先生のちゃんねる - YouTube
きっかけは至ってシンプル。コロナです。
というのも、私は毎年貸教室を使った勉強会を実施しており、2020年も例年通り実施する予定だったので、レジュメの準備等を済ませ、たくさんの受験生からのお申し込みもいただきました。そんな折、コロナが流行して緊急事態宣言。それが原因で2020年に予定していた勉強会が初回を除いて全て中止になってしまいました。いやあ、この時は本当に悔しかった。自己の力では如何ともしがたい事由ですからね、どうしようもないのですが、勉強会はやりたかったので、歯がゆい気持ちになりました。
そこで思い出したんです。そういや、YouTubeのアカウントは作っていたけど、やるやる詐欺になっていたなと(Twitterで2カ月前くらいからyoutube始めますと言いつつ、全然動画を撮っていなかったんです)。
そこでyoutubeで何をしようか考えたのですが、その結果、勉強会に変わる受験関係の情報を発信して行こう、ついでにいえば、勉強系のみならずゆくゆくはいろんなジャンルの動画も配信できたら「おもしろ」そうだなと思うに至ったんですね。結局、行動基準は面白そうか否か。思い立ったら即行動。
そこから先は勉強系の動画(判例解説、条文解説といった受験生用の動画であったり、弁護士にならなかった理由といった一般向けの動画もあります)やたまに趣味でやりたいと思ったこと(例えば、「【五等分の花嫁】元ぎゃるおが好きなアニメを紹介してみた!!!!」とか、「もしもエヴァンゲリオンのアスカが司法試験の個別指導をシンジにやってみたら」とか)を撮って今に至っています。YouTube liveもちょこちょこやておりまして、テーマを決めずに私は晩酌しながら遊びに来てくれた方と雑談する形式なのですが、最長で8時間やった時は、さすがに体力持ってかれましたね(笑)
そんなこんなでYouTubeを始めたのですが、いろいろと気づいたことがありまして、その気づきによって自分のポジション、YouTubeを続ける意味についても考えさせられました。というのも、司法試験業界って、全体的に固いイメージが先行していると思うんですよね。参入自体も並大抵の覚悟ではできませんし、法律と聞くと余計固く思われてしまう。そして、それに拍車をかけるかのように、司法試験予備校が全体的に固い。カッチリしすぎていて、失礼を承知で書かせてもらうと、なんかみんなおんなじ感じなんです。それでいいだろと言われればはいそうですねなのですが、もっと受験生との距離が近い講師がいても良いのではないか、いろんな面白そうなことをやっていて受験勉強以外の部分の魅力を伝えていくこともアリなのではないか。そんなことを考えるにつれて、それは俺にしかできないのではないかと思うに至ったんですね。
その一環として、YouTubeは最適だと思いました。私はもともと話すことが好きですので、YouTubeで話すことは趣味みたいなものです。このYouTubeを経由して受験生の方々と交流して、もっと受験勉強を楽しんでもらいたい。
私みたいな自由な生き方を知ってもらうことで、受験生の方々の新しい可能性・選択肢を一つでもいいから増やしたい、元ぎゃるお先生として活動していく中で、法律とか弁護士とか司法とかのイメージを変えていこうと思っています。
最後に、撮影の裏側につきましては、私の撮影は台本なし、編集無しの超アナログでやっています。まあ、編集能力が皆無なので、そのまま上手に話せばいいや、編集無しで続ける方が自分のトーク力を磨けるだろうと思っているから、編集する気はゼロなんですけどね。なので、撮影は一本撮りです。テーマと動画のタイトルを決めて、あとはひたすら話すのみ。そんなこんなで、この本を書いている時点で半年ほどが経ちました[U6] 。まだまだ駆け出しですが、YouTubeはおもしろいですね。YouTube liveではリスナーさんと絡みながら晩酌をして雑談しているのですが、いろんな人がいて楽しいんですよ。ってことで、YouTubeもめっちゃ楽しんでやってます。
そんなこんなで、やることなすこと、辛いときもありましたが楽しみながら生きてきた中で形成された私のメンタリズム。次章でお伝えいたします。
よろしければサポートお願いします!サポートしていただいた費用はyoutubeのサムネや教材費等々に充て、さらなるバックアップを行えるようにいたします!