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ぎっくり腰が連れてきた、僕と部長と大工のマッスルワールド。村上筋肉倶楽部の歴史編

これは、僕の記憶に寄るところが大きい。半年振りのぎっくり腰は、僕に記憶の旅をさせるには充分の時間だった。休息を僕に望むのか、破壊からの創造を望むのか、それを決めるのも僕でしかない。

村上筋肉倶楽部~創設編~

村上春樹が新作を出すというニュースが世界を駆け巡った。僕は、ハルキストでも村上主義者でもないことを、靴下を履けない痛さを紛らわすために考えていた。

僕は、ジムにいる少しタイプの女性の事を想っていた。彼女は、年末年始の休み明けからジムに来ない人が増えると懸念していた。

僕は、少しタイプの彼女を裏切った事になるだろうか。ぎっくり腰が僕と少しタイプの彼女を分断させた事に意味を考えなければならない。

軀が思うように動かない時に、思考は割に自由に飛ぶようになる。不自由さは、せめて頭の中の自由さを解放しているのだろうか。

僕は、僕の存在を確かめるために1人の男を思い出した。僕がなぜ筋トレを始めたか。それは1人の男に寄るところが多い。

今まで、その存在を有耶無耶に隠してきたが、本当の事を言わねばならない。

村上筋肉倶楽部は、実存する。

物事の起点は、僕がフラフラフフフの毎日から脱け出すために、それを最初から決められていたように時計が秒針を刻むように自然と進んだ。

世界の終わりとワーク・アウト on Instagram: "🍩 #筋トレ好きと繋がりたかった そのとき僕は、新たに購入したトレーニング・ベンチを組み立てている途中で、休憩にスマート・フォンをいじっていた。僕は何気なく、Instagramのハッシュタグで、「 #筋トレ好きと繋がりたい 」と検索してみた。世界には94万件も筋トレ好きと繋がりたいと思っている投稿があるようだった。それは本当の意味で、誰かと筋肉を通わせた心からの繋がりを求めているのかはわからない。あるいはその美しい肉体を世界に発信するための便宜的なハブに過ぎないのかもしれない。僕はふと、「#筋トレ好きと繋がりたかった」と検索してみた。 検索結果は0件だった。 僕は安心した。どうやらこの世界には、筋トレ好きと繋がっておけばよかったと後悔している人は一人もいないのだ──────少なくともInstagram界隈には。 ⭐︎ 生まれてこのかた、筋トレを好きな人と友達になったことがない。元々友達を作るのが苦手だった。高校生のときにできた唯一の友達は、筋トレはおろか体育会系な連中を毛嫌いしていた。「奴らドストエフスキーが何かさえ知らないのさ。きっと今度一緒にジムでドストエフスキーしようよ。なんて誘ったらいいね、俺もよく高重量でドストエフスキーしてる、なんて知ったふりしてジムにくるんだ。あいつらはダンベルは持てるくせに、本やペンを持つことはできないのさ。」僕たちはそんな風にして筋トレをしているやつらを笑って青春時代を過ごした──────── でも、本当は筋トレ好きな友達が欲しかったんだ。 俺は今年中には死ぬことになるだろう。死と直面して初めて、自分の心の声に気がついた。心は筋肉を求めていて、合同トレーニングというやつに憧れていたんだ。おしゃべりをしながら、一緒にダンベルを持ち上げる。そんな何気ない行為をやってみたかった。 それでももう俺は筋トレをすることはできない。病室の窓から落ちてゆく枯葉を眺めるくらいしか、俺がこの世界の変化を感じる方法はない。せめて最後に、好きな部位やトレーニングを話せるような─────────筋トレ好きと繋がりたかったなぁ ⭐︎ 僕は涙を流しながらトレーニング・ベンチを組み立てていた。妄想と分かっていながらも、筋トレ好きと繋がりたかった彼のことを思うとやらせない気持ちになったのだ。「こんな僕でいいなら、君と友達になりたい」僕は彼にDMしようかと思ったけど、彼はそこにはいなかった。それもそうだ。そもそも彼は僕が作り出した空想上の人物だった。僕はトレーニング・ベンチを組み立て終わると、試しにプッシュ・アップをしてみた。トレーニング・ベンチはきちんと僕のことを支えていた。 「君は筋トレが好きかい?」僕は組み立てられたばかりのトレーニング・ベンチに語りかけてみた。 #村上春樹 #村上春樹ワールド #村上春樹好きな人と繋がりたい #村上春樹好きな人とも繋がりたかった #村上主義者 #harukimurakami #村上春樹が好き #筋トレ #ワークアウト #harukimurakami #workout" 120 Likes, 12 Comments - 世界の終わりとワーク・アウト (@workout_and_end_of_ www.instagram.com

これが、直近の実存する村上筋肉倶楽部の部長だ。実在ではなく実存だ。

なぜ女性は部長にトキメキを覚えるのか。

それは、彼の紡ぐ文章と実存するギャップのトレーニングの相対関係が人々を魅了してやまない事にある。特に文章×トレーニング×筋肉の相乗効果がInstagram女子を離さない。

当然、僕は嫉妬する。なんなら彼になるにはどうしたら良いのかと考えた。僕はそこに僕であるための何かが存在すると考えた。

僕は、彼の思想を僕に取り込む事を選択した。それが筋肉書簡だ。Instagramでは、ストーリーズというCMみたいな24時間で消える写真に文面を入れて投稿出来るシステムがある。僕は、そこに彼宛にメッセージを送り始めた。

そこから約1年半。僕と彼の書簡は300を越えた。それは書簡という概念を越えた壮絶な自撮りの交換日記だった。

僕はほんの少し、その世界の僕に自信が持てた気がしていた。

僕と部長のその世界の繋がりをより強固にした男がいる。もう、私の世界の住人とでもいう男。

大工こと卍丸くんだ。

現在の彼が実存する世界は、読書が好きな博識なイケメン大工だ。だが、僕の本当の最初の彼との出会いは彼の筋肉なのだ。

当時、まだあどけなさの残る青年大工は、Instagramに於ける僕と部長とのストーリーズのやり取りに、そのイケメンな筋肉を発散する場所を求めていた。

ましてや、僕と部長が長文を晒し合うストーリーズは青年大工の才能を発揮するのに最高の場所だった。

Instagramのストーリーズを送りたい相手に確実に知らせるには、宛先を入れなければならない。それをあの世界では、メンションという。

当時の青年大工卍丸くんは、これが出来なかった。

そこで村上筋肉倶楽部の歴史で欠かせない名言が生まれる。

君がしなければならないのは、メンションだ。

以降、勝手に #村上筋肉倶楽部 とハッシュタグをつけてストーリーズに筋トレをアップする少し変わった人達が激増していく世界になる。

その人達を毎日見つけては、

君がしなければならないのは、メンションだ。

と言い続け発展していった。

メンションによる発展は、僕を惑わせた。僕は40代、部長は30代、卍丸くんは20代だ。

僕は少し、僕もイケてるのではないかと、思い始めていた。それは、20代、30代のイケメン達に囲まれた偽装された世界だと気付くのが少し遅かったようだ。

ある時、卍丸くんがとても重大な論文を発表する。それは、今でも覆せない確固たる定説として君臨している。

自撮りを出すとフォロワーが減る。

この論文は、村上筋肉倶楽部の存亡を危うくさせるほどの威力を誇った。

もちろん僕は、大人なのでそんな事あるわけないだろと信じていた。

が、それ以来気にするようになった僕はその数が気になりだす。

自撮りを提出した翌日のフォロワーを見るのが日課になっていった。

結果僕は、卍丸くんの論文を否定出来なかった。

確実に減っている。

それも、間違いなく自撮りを提出した次の日だ。普段からのイケメンをよりイケメンに撮影した自信がある次の日も減った。

僕は、僕の体重とフォロワーどっちが減るのが早いかの戦いに向かわなければならなくなった。

投稿で増やして自撮りで減る。

このスパイラルから抜け出せない僕が、Instagramから去る決意をしたのは間違いではないだろう。それほど40代での自撮りの否定は、リスクを伴う戦いだ。

20代30代の大工や部長のイケメン達は、他の人の嫉妬による減少かもしれないし、そうでは無いかもしれない。だけど若さからすぐに立ち直れる。

だが、20代30代と一緒にはしゃいでる40代の中年には心理的ダメージが計り知れない。それでも僕はどこかで僕を信じているのだ。

僕の世界の中の筋肉倶楽部に僕、部長、卍丸くんが参加しているものが残っていた。ここにも晒す勇気を褒め称えていただきたい。

どうぞ。

今回発掘された貴重な書簡
発掘された部長による貴重な返信書簡
準備万端に参戦した卍丸くんに対して
さらに返信している貴重な書簡

要するに、私のストーリーズはその都度返信の度に私の自撮りで繋がっていくのだ。

それは誰でも耐えられない。

そして、現実を知っていても止められないし止める事をしていない自分がいる事も確かだ。

先日、久しぶりにInstagramを開き、Instagramを鍵アカウントにした僕は半年振りに部長に書簡を送った。

次の日、半年振りにフォロワーは減っていた。

なんのはなしですか

僕の自撮り待ちをありがとう。

村上筋肉倶楽部。現在部員募集中。
筋肉と一瞬にメンタルも鍛えられます。

この投稿が誰かの手により、部長の世界に届くことを望む。





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