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悪くないはなし

「あのたこ焼きタコ入ってたか」 

確かにそうなんだ。 

僕は、口に入れた瞬間のフワトロにやられてしまって、その事を言われるまで気付かなかった。 

思えば最初からミスリードがあった気がする。 

その日、僕らは出来上がりのたこ焼きを食べながら呑めるお店にいた。 

出てきた「たこ焼き」を前に彼はこう言ったんだ。 

「いきなり口に入れたらヤケドのパターンあるよね」 

僕は、ここですでに刷り込まれている。 

ヤケドに気をつけなきゃならない。 

初めてのお店は、緊張する。
緊張をごまかす為に呑む。 

熱々の熱気がこもった「たこ焼き」が、テーブルにやってくる。 

ヤケドしては、ならない。 

最新の注意を払いながら、「たこ焼き」を見た。 

彼は、3種盛りを頼んでいたんだ。 

僕はここでも視覚から彼にミスリードされていたと思わずを得ない。 

僕の興味はタコよりも、味に変わっている。 

明太子マヨネーズを見て、僕はどっかの誰かを少し思い出した。 

これもトラップか。 

タヌキと呼ばれる「たこ焼き」には、揚げ玉が乗っていて少し、辛口みたいだ。 

ネギが乗っている「たこ焼き」が、最後のピースだった。 

僕は、初めての店、3種の「たこ焼き」に浮かれていたんだ。 

彼は、僕に決定的な一言を言う。 

「口に入れると柔らかいぞ」 

ヤケド、柔らかい、3種。 

僕は、その感想しか言えなくなっていた。 

「たこ焼き」を堪能して、次の店へ行こうと電車に乗った。 

彼は、僕に囁いた。 

「あのたこ焼きタコ入ってたか」 

彼は、学生時代から変わらずのテンションで僕に笑いながら囁いたんだ。 

僕はしてやられた。 

「あのたこ焼きにはタコが入っていたかどうかが、わからないんだ。君はもしかしたら知ってたのか?」 

「そういう事は、電車の中で言うものなんだ」 

僕は、彼の導きで彼の友人の店に行く。 

彼は、僕を上手く酔わすんだ。 

僕は、何を飲むか考えた時、
「最初はビール。後は、ハイボール」
と誰かに囁かれたのを思い出した。 

今まで、何度彼と乾杯したことかわからない。 

僕は、彼と僕のジョッキの大きさの違いがよくわからなかった。 

「なぁ、そのジョッキ大きくないか?」 

「大きいし、重いんだ」 

彼は、ダンベルを持つみたいに持ち上げた。
僕は、酔いも手伝って彼が「彼」とも思えるなと少しおかしな気持ちだった。 


彼は、今年の仕事のはなしを僕に聞かせる。 

彼は、何度も山に登ったはなしをした。 

山。山が好きな人にもいっぱい出会ったな。なんて、思い出した。 

そのうち、彼は好きなYouTuberのはなしをしだした。 

僕の知ってるYouTuberもいたなと、少しだけ思った。 

美味しい料理。お刺身を彼の友人のお店で嗜む。 

僕は、彼に僕らのこれからと、来年と、今までの僕らを語った。 

明らかにサイズの違うジョッキだが、不思議なことに同じペースで無くなっていくんだ。 

彼はふいに囁いた。 

「子供が生き物好きなんだ。それと本も少しね。ピアノも始めたんだ」 

僕は頷きながら、色々な事を思い出した。 

僕らの人生に色々な繋がりが増えた事を考えた。 

僕は、彼に言った。 

「出来ることは少ないが、楽しむことは継続出来る」 

彼は僕の話しを聞きながら、彼の友人のお店の4周年を祝った。僕も嬉しくなりお祝いした。 

お店を出た彼は、今年一番の囁きを僕にした。 

「結局のところ、僕はあのMEGAジョッキが、今でもいくらかは知らないんだ」

なんのはなしですか

そして、行く年に感謝しつつお店で呑めた時間を振り返りながら、僕は彼を親友と呼ぶことに何の疑いもない。 

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