イノベーションは私たちの生活を必ずしも豊かにしないかもしれない、という話
イノベーション、ないし技術革新という言葉は基本的に肯定的な意味で使われていると思います。
実際、私たちの生活が昔に比べて豊かなのは、間違いなくイノベーションのおかげです。
しかし、「イノベーションが私たちの生活を豊かにできる」という事実は、必ずしも「イノベーションが私たちの生活を”必ず”豊かにする」ということを意味しません。
昔、産業革命下のイギリスでは、手工業者が織物機械を破壊して回るというラッダイト運動が猛威を振るいました。それは明らかに産業革命というイノベーションが起こした悲劇です。初歩的な経済学では、「いかにラッダイト運動が誤った思想のもとに起こった愚行か」ということが指摘されがちですが(労働塊の誤謬など参照)、突き詰めて考えていけば然程不合理でもないということを後に示していきます。
他にも、消える職業やなくなる仕事で調べれば、技術進歩によって消失してしまう生業が数多く示されています。しかもこれは昨日今日起こった問題ではなく、これまでも様々な進歩の中で既に消えたり減ってしまった職種が存在するわけです。サプライチェーンに関するイノベーションが、各地の商店街をシャッター街にしたのも、技術革新が消した仕事・生業の典型例です。
もちろん、各種イノベーションは商品・サービスの消費者にとっては望ましいことがほとんどですけれども、基本的に私たちは消費者であると同時に生産者(主に労働者)でもありますから、消費と労働を切り離して考えるのはナンセンスです。
以下で議論していくのは主に2点です。
①イノベーションは仕事を奪わないとする説(経済学の基礎的議論)とそれに対する批判
②イノベーションが仕事を奪う中で必要な施策と、その施策の困難さ
関心のある方は、是非ご購読願いたいと思います。
※※※このコラムは、望月夜の経済学・経済論 第一巻(11記事 ¥2800)、望月夜の雇用・労働論まとめ(4記事 ¥900)にも収録されています。※※※
①イノベーションは仕事を奪わないとする説とそれに対する批判
先に引用した「労働塊の誤謬」という概念から明らかなことですが、経済学では「イノベーションが庶民に不幸を齎し得る」という考えそれ自体に極めて批判的、ないし中傷的です。
なぜそうなのかについては、経済学の基礎的な理論について理解しておく必要があるのですが、初学者にもわかりやすいように説明していくつもりです。
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