雇用増加の下でも賃金が停滞する理由
安倍政権への政権交代が起きる前後(2012年末頃)から、雇用量については大幅な改善が見られています。
(アベノミクスで雇用が増えたと言えるのか?より引用)
(労働力調査(基本集計)平成28年(2016年)平均(速報)結果の要約より引用)
ただし、その一方で、賃金(実質賃金)は下落・停滞傾向です。
(島倉原氏のTwitterより引用)
尤も、実質賃金の場合は、新規雇用者が増える場合、(一般的に、新規雇用は既存雇用に比べて賃金が低いので)全体の(平均)実質賃金に低下圧力がかかることになります。したがって、どちらかというと、実質賃金の"総計"である実質雇用者報酬に目を向ける必要があります。
しかしながら、実質雇用者報酬もじつは停滞傾向にあるのです。
(こちらより引用)
雇用量が改善に向かっていた2012年末~2015年までは、むしろ実質雇用者報酬の伸びが抑制的(どちらかというと下落)でした。実質雇用者報酬が伸び始めるようになったのは、2016年頭頃と、(雇用回復の開始に比して)ごく最近のことです。
このように、(下落バイアスのかかり得る実質賃金でなく)実質雇用者報酬の面から見ても、ここ数年の雇用回復は「雇用増加と賃金停滞の両立」という極めて奇妙な事態だったというわけです。
よくある誤解としては、「ここ数年の雇用改善は、アベノミクス・異次元緩和によるものだ」というものがあります。
ところが、ここ数年の(期待)インフレ率は、一時は上昇しましたがその後停滞~下落傾向にありました。
(財務省より)
以前、なぜ異次元緩和は失敗に終わったのかにおいて解説したように、アベノミクスないし異次元緩和は、期待インフレ率・予想インフレ率を引き上げることによって総需要→総生産の拡大を目指す政策です。したがって、仮に期待インフレの停滞と共に雇用の改善が生じていたなら、それはアベノミクス・異次元緩和による雇用改善ではない、ということになります。
また、総需要起点の雇用改善の場合、実質賃金(ないし実質雇用者報酬)が下落~停滞するのは実は経済実証・理論上では不合理になるのです。
①今回の雇用改善が総需要起点ではない理由
②今回の雇用改善の真の原因
上記について以下に論じていきます。関心のある方はご購読よろしくおねがいします。
※※※このコラムは、望月夜の経済学・経済論 第一巻(11記事 ¥2800)、望月夜の雇用・労働論まとめ(4記事 ¥900)にも収録されています。※※※
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