「嫌われたくない」部下に言えない…ビクビク上司の再生の一歩
その日、私は異様に緊張していた。何もかもが静まり返る中、会社全体の重い空気がじりじりと肩にのしかかってくるような感覚だった。四十歳を迎えた私は、中堅管理職として若手を育て、チームを率いる役割を任されている。しかし、その立場には時折、言葉にしがたい重圧がのしかかるのだった。
午前の会議が終わると、社内の冷ややかな雰囲気がさらに際立つ。最近、部下である山下の業務の成果が芳しくなく、チーム全体の士気が下がっていると感じていた。私は山下との面談を決めたが、果たしてどう伝えるべきか、悩みが頭を巡る。
数日間、葛藤の中で眠れない夜を過ごした。仕事は成果がすべてだが、部下に厳しい指摘をして反発されることへの恐怖が渦巻いていた。「もし言って辞められたら?」という不安が募り、厳しいことを言うべきかどうか悩み続けた。
「森野、最近ちょっと元気ないんじゃない?」ランチを共にしていた同僚の田代が、私にそう問いかけた。
私はため息をついて答えた。「山下のパフォーマンスが問題なんだ。でも、正直どう伝えたらいいのか分からない。少し言い方を間違えたらすぐに辞めるかもしれないし、どうしたもんかと思ってる」
田代は少し考え込むような表情で、私に向き直った。「森野、確かに厳しいことを言うのはリスクがあるかもしれない。でも、ここで何も言わずに黙って見過ごしたら、それこそチームの成長が止まってしまうだろう?」
その言葉に、私は少し考え込み、視線を落とした。「でもな、俺は部下に嫌われたくないんだ。俺の一言で彼らのやる気が失われたら、俺がチームを崩壊させたも同然だ」
田代は笑いながら肩を叩いた。「森野、時には嫌われる覚悟も必要だよ。部下が反発するのは、言葉が刺さった証拠だ。逃げずに、相手のために真摯に伝えることが必要なんだ」
その言葉に、私はある種の決意を感じた。次の週、山下との面談を行うことにした。
山下が部屋に入ると、私は一呼吸置いて切り出した。
「山下、正直に言うよ。今の君のパフォーマンスは、チーム全体の期待を下回っているんだ」
山下の顔に一瞬、不安の色が浮かんだ。しかし、私はそのまま続けた。
「これを厳しいと感じるかもしれない。でも、君にはもっと成長できる可能性があると思っているから言っているんだ。チームの一員として期待しているからこそ、今ここで話しているんだ」
山下はしばらく無言で私の言葉を聞いていたが、やがて小さく頷いた。その日は険悪な空気で終わるかと思われたが、面談が終わった後、山下は少し考え込んだ様子で帰っていった。
数週間後、私は思いがけない場面に出くわした。プロジェクト会議での発表中、山下がこれまでとはまるで違う熱意でチームを引っ張っていたのだ。新しい提案を積極的に出し、リーダーシップを発揮する山下の姿に、私は驚きを隠せなかった。
会議後、山下が私に歩み寄り、ぽつりと口にした。
「森野さん、あのときは正直、反発しようと思ってました。でも、家で何度も考えたんです。森野さんが言ってくれたことは、自分にとって必要なことだったって」
私は微笑み、山下の肩を叩いた。「山下、あのとき嫌な思いをさせてしまったが、それでも伝えてよかったよ」
その日、私は一歩成長した気持ちでオフィスを後にした。私の胸には、部下を信じて厳しい言葉を伝えることの大切さが深く刻まれていた。
私のテーマは「人生の試練が教えてくれたリアルなストーリ」を1日1話発信。ビジネスや人生に役立つヒントや気づきをお届けします。迷いや悩みが生まれた時は、一緒に地図を広げ、進むべき道を探していきましょう!
@morizo_23