【1分小説】明るい殺人犯
お題:「明るい殺人犯」
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「刑事が来てる」
このきらびやかな劇場で、今一番暗い場所は、客席でも控室でも物置でもない。
強い照明が照らす舞台のその脇、すなわち、今私が立っている場所だ。
私の目の前に広がる舞台には、誰もいない。照明の明かりが、主役を照らすのを今かと待ちわびている。
シンとしていても、満員の客たちの熱気が、照明の熱と共に私に伝わってくる。
背後から、彼が私の肩に手を置いた。ぞっとするほど寒い暗がりから。
先ほど彼女を殺めたその手からは、何の動揺も伝わってこない。同じ場所にいた私の手は、これほどまでに震えているというのに。
「いつも通りだ。何もなかった。何も見なかった。お前は今から、明るくて、希望に満ち溢れた姫君だ」
その冷たい手が、私の背中をおした。
私はひとり、舞台に立った。