白鳥は歌う
冬の初め頃から、近所の島で見かけるようになった白鳥のつがいと子供がいる。
マイナス10度以下の気温になり本格的な寒さがやって来ても、白鳥ファミリーはまだ留まっている。
普段白鳥は春先になると南からこの国へやってくるため、春を運んでくる鳥だ。
そして冬の訪れと共に再び南へと飛び立つので、こんな季節までこの地に残っていることは珍しい。
朝、島へ散歩に行くと、凍りかけた海上にまだ白鳥ファミリーがいた。
ゆっくりと流れてゆく薄い氷の上に乗り、体を丸めて寝ている。
もしかしてこのまま越冬するつもりなのか?
丁度つがいが寄り添い二羽の子供も側にいてファミリー勢揃いだったので、写真を撮ろうとスマホを出したが、1枚撮っただけで急に電源が落ちてしまった…。
いい写真が撮れそうだったのに…がっかりしていると、傍らでは一眼レフで撮っている人が何人かいて、その中には三脚まで立てている人もいる。
これはやっぱりカメラで撮った方がいいな、と私も大急ぎで家に戻り一眼レフをカメラバッグへ入れて出直した。
いつもなら外で撮る時もカメラは剥き出しのまま首から下げて行くけど、気温がマイナスだとすぐにバッテリーが切れてしまうので、寒さから守るように撮影直前までカメラバッグへ入れておいた方がよい。
そして撮影も短時間で済ませないと、最悪カメラが故障する恐れもある。こうして冬はいろいろ気を使わなければならないので、ますます重くて嵩張る一眼レフは持ち歩かなくなってしまった。
島へ行く途中の桟橋では、バードウォッチングをするためなのか、首から双眼鏡を下げている人達とも何度もすれ違った。
先ほどの地点にまだ白鳥ファミリーはいるかな?と心配だったが、一応まだいた。
しかしお父さんとお母さんそれぞれが一羽づつ子供を連れ、二手に分かれて海上を漂っていた。時すでに遅し。
集合写真が撮れず残念。
間近で見ると、白鳥は思いのほか大きくて、近づき過ぎると突かれそうな迫力がある。
以前見かけた時より子供たちはかなり成長していていて、親とほとんど変わらない大きさになっていた。白い羽に覆われた親と並んでいると、暗く灰色がかった羽を持つ子供は黒鳥みたいに見える。
白鳥のつがいは生涯連れ添い、親子の絆も強いという。
親鳥は子に何か語りかけるように羽を広げたり、頭を海の中につっこんで餌を探したり、親子で海に浮かんでいた。
次の日も、まだいるかもしれないと思い、また一眼レフ持参で島へ行くと、やっぱりまだファミリーはいた。
けれど今度は、一羽だけがひとりで毛づくろいしたり自由に過ごしていて、そこから少し離れたところにもう一羽と子供たちがいた。
「ちょっとお父さん、子供たち見ててよ」
「私だってたまには一人時間を過ごしたいのよ」
ー 歌う白鳥
この国では白鳥は国を象徴する鳥とされており、広く人々に愛されている。
十分に育った子供たちを連れて、白鳥ファミリーが南へ飛び立つ時は、もうすぐそこかもしれない。
追記:
マイナス15度まで気温が下がった朝、島へ見に行ってみると、白鳥ファミリーはいなくなっていた。
ついに南の国を目指し飛び立ったのだろう。
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