見出し画像

ドラマ「ペンションメッツァ」 〜小林聡美という生き方

短編小説のようなドラマ

WOWOWドラマ「ペンションメッツァ」を観た。
コテージの様なこじんまりとしたペンションを営む女主人テンコを演じる小林聡美さんを軸として、1話ごとに一人の共演者と1対1で向き合うような二人芝居という試みが、質の良い短編小説を読むような味わいのある連作ドラマであった。
クスッと笑えたり、人生のほんの一コマを切り取ったスケッチのような情景が描かれていた。6話どれも味わい深かったけれど、とくに印象に残ったのは次の2作。

山の紳士」では、役所広司さん演じる常木という正体不明の怪しげな男が突然森の中に現れ、ペンションメッツァに泊まる事になる。翌朝テンコが常木の部屋に様子を見に行くと、ベッドの上には手紙と置き土産がぽつんと残されていて…。
ツネキツネキツネキ。オチがクスッと笑える大人のメルヘンでした。

一番余韻が残ったのは「むかしの男」珍しく艶っぽいタイトル。
テンコの若かりし頃の恋人コマちゃん(光石研さん)が、ある日突然訪ねて来る。近況や懐かしい昔話をして、なぜか「あの素晴らしい愛をもう一度」を一緒に踊りながら歌い、森の中を昔みたいに二人で歩く。

コマちゃん「もう少し早く逢いに来ればよかった」
テンコ「そうだねぇちょっと遅かった」
テンコ「また会えるかな?」
コマちゃん「うん。いつかは」
テンコ「いつかは」
コマちゃん「それまで気長に待ってる」

じゃあね、と言って別れる二人。
てくてく歩いて行くコマちゃんの後ろ姿がいつの間にか消えて、一人佇むテンコ。
たったこれだけの話なんだけれど、もしかして…コマちゃんはもうこの世の人ではなくて…テンコもそれを判っていたのかもしれない。
しみじみとして何処か切ないような話だった。

全話に登場する森の人役の、もたいまさこさんもいるので厳密には二人芝居ではないけれど、もたいさんは数秒しか出てこずセリフも他のキャストとの絡みもない。森の中で佇んでいたり、車の助手席に座っていたり、人間にはその姿が見えているのかいないのか、唐突に画面に出てくるのが面白い。とても短い出演でも相変わらず独特の存在感があり、しっかりと作品の中に爪痕を残している。

丁寧に豆を挽きお湯を注いでゆっくりと蒸らす珈琲を淹れるひと時のような、静謐で穏やかな時間が流れる作品だった。
主題歌「空飛び猫」を歌う大貫妙子さんのずっと変わらない透明感のある声と、渡辺シュンスケさんの深く美しいピアノ曲のBGMも心に沁みる。
湖を渡り森へと吹き抜ける風のざわめき、鳥の鳴き声、インターネットもテレビもないサマーハウスで過ごす夏の日を想った。


小林聡美という存在の妙

荻上直子監督と組んだ映画「かもめ食堂」から始まった、小林聡美さんそのものの様な凛として自然体で自由な主人公を据えた作品たちは、「めがね」の後に松本佳奈監督へ引き継がれ、「マザーウォーター」「東京オアシス」「パンとスープとネコ日和」を経て、石井桃子さん原作の「山のトムさん」から本作へと続く。監督やストーリー設定に違いはあっても、常連キャストと作品の中に流れる空気感はいつも同じ感じで、偉大なるマンネリだとしても、手放せないライナスの毛布に包まれているかのような癒しと安らぎがあり、それも嫌いではない。

小林聡美さんにはかなり昔から好感を持っていて、出演した作品は10代の頃の「転校生」から始まってほとんど見ている。
不思議とその頃から印象がほぼずっと変わらない。独特な魅力がある女優さんだなぁと思う。きっと60代、70代になっても、ほとんど変わらない魅力のある方ではないかと思う。

小林聡美さんは、どこか飄々としていい具合に力が抜けていて、"なるようになるさ" という諦念を感じると共にブレない揺るぎなさがあり、いつも背筋を伸ばしてすっくと立っている感じがする。年齢も性別も超越しているような存在感。
こんな歳のとり方をしたいもんだと思わせる人なのだ。
私生活では、45歳で大学に入学しその後は大学院まで進学している。
女優さんとして素敵なのはもちろんのこと、彼女の生き方というか、在り方に好感を持っている。そして、おそらく彼女のファンは男性より女性の方がずっと多い。

ドラマ「すいか」

もう18年も前ということに驚くけれど、2003年放映のドラマ「すいか」は、私の中のドラマ史上ベスト3に入る名作だ。
小林聡美さんは、この作品がテレビドラマでは初主演。脇を固めるのは、もたいまさこさん、片桐はいりさん、市川実日子さんというお馴染みのキャストではあるけれど、脚本が木皿泉さんということもあり他の作品とはかなり趣が違う。
銀行の同僚で逃亡を続ける横領犯となる小泉今日子さん、母親役の白石加代子さん、大学教授役の浅岡ルリ子さんという、現在のドラマではかなり貴重なキャストに加えて、篠井英介さんがトランスジェンダー役で、かなりスパイスが効いている配役だ。高橋克実さんのユーモラスな持ち味はこの頃から健在。
ドラマウォッチャーの間でも、伝説のドラマとして今なお人気がある作品だと思う。そのDVD-BOXは、日本から移住する際にもしっかり持ってきた。
ドラマ「すいか」については、またあらためて思いの丈を綴りたい。


この記事が参加している募集

#テレビドラマ感想文

21,675件

いただいたサポートは、日本のドラマや映画観賞のための費用に役立てさせていただきます。