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新卒でのコンサル経験は起業に役立つのか?

こんばんは,もりおです。
 今日はコンサルティング会社での勤務経験が起業の役に立つのかを考えたいと思います。

はじめに

 近年,新卒就活におけるコンサル業界の人気が急速に高まっており,ある就活サイトの2019年版東大・京大就職ランキングでは上位30社中14社をコンサルファームが占めるほどの盛況を呈しています。
(母集団の志向に偏りがあり過ぎる気もしますが…)

 こうして一部の学生から支持を得ているコンサル業界ですが,私自身が就活中に周囲の志望者からよく聞いた志望動機の一つに「いずれ起業しようと思っており,その勉強になりそうだから」というものがありました。
 その時は私も「なるほど,そういう人もいるんだな」程度にしか思っていなかったのですが,実際に働きだして1年が経った今,「本当に新卒就職先としてコンサルファームを選ぶことが,将来起業の役に立つのだろうか?」という問いを持つようになりました。

最初にこの問いへの現時点での自分なりの答えを述べると,「コンサル経験が参考になる部分はあっても,直接起業に結びつくかはかなり疑問」と考えています。

DeNA創業者の南場さんの意見とその考察

 この記事を書こうと思ったきっかけは,DeNA創業者である南場智子さんの著書『不格好経営』を読んだことです。

 南場さんが世界有数の戦略コンサルファーム・マッキンゼー出身であることは有名です。
 1962年生まれの南場さんは1986年にマッキンゼー日本法人に新卒入社すると,ハーバード大学MBA取得を経て,コンサルティング会社の最高職位である「パートナー(共同経営者)」にまで上り詰めます。
 戦略ファームのパートナーともなると億単位の年俸が見えてきますが,そんな彼女が1999年に社外へ飛び出して設立したのがDeNAでした。
 コンサルティング会社での経験が起業に際してさぞかし役に立っただろうと思われるかもしれませんが,南場さんは著書の中でこのように述べています。

「コンサルティングで身につけたスキルや癖は,事業リーダーとしては役に立たないどころか邪魔になることが多い。今でも苦しみながらunlearning(学習消去)を続ける毎日だ(p.16)」
「もし将来起業することを知っていたら,コンサルティング会社ではなく,事業会社で修行したかった,というのが私の偽らざる本音である(p.201)」

 このように,南場さんはコンサルファームでの経験が起業に直結することはないとお考えのようです。

 これは何故なのか,私なりにコンサルファームの特徴からその理由を考えてみました。

理由①ロジック重視の世界である

プレゼンをする女性


コンサルファームでは「ロジカル」であることが非常に重視されます。
 ロジックが通っていれば若手の意見でも通りやすいといったメリットがある一方で,少々理屈に寄りすぎた戦略策定や提案を行ってしまうことがあることもまた事実です。
 ロジカルで口達者な人材が活躍しやすい一方,「何としても事業を前に進める!」といったエネルギー溢れる人材が,ベンチャーなどに比べるとどうしても少なくなります。

理由②リスクを負った事業判断はしない

分かれ道


 コンサルファームでの仕事は,基本的にクライアント企業の意思決定や業務遂行をサポートすることです。
 その業務の性質上,「〇〇円の予算をつけるから,投資判断を行ってくれ」といった依頼はほぼ発生しません。
 最後にリスクを負って事業判断を下すのは常に依頼主であるクライアント企業なので,自分で全責任を負って事業判断を下し続けることが必要になる起業とは近しいとは言えません。

理由③クライアントが大企業の案件が多い

大企業の社長


 世間に名を知られたコンサルファームに依頼をかけるクライアント企業は,やはり誰もが知っている大企業であることがほとんどです。
 ある個人が起業を考える際に,最初から大企業並みの規模でビジネスを展開することは事実上あり得ないことですが,コンサルファームで経験するのは概して規模の大きな案件ばかりとなり,起業に類するスモールビジネスの立ち上げから収益化までを経験することはあまりありません。

理由④営業経験が積みにくい

営業マン1


 起業して信用も実績もないうちに重要なのは,強力な営業力とよく言われます。しかし,コンサルファームの特に若手ポジションでは,営業力を鍛える経験は積みにくくなっています。
 というのも,コンサルファームで営業力の発揮(=プロジェクト獲得)を期待されるのはパートナーやマネジャーといった管理職ランクの人たちだからです。コンサルタントやアソシエイトといった若手スタッフランクの人たちは,彼らが獲得したプロジェクトを確実にデリバリー(実行)することが求められており,この期待役割の区分はかなりはっきりしています。
 もちろんスタッフレベルでも提案書作成などでパートナーの案件獲得のお手伝いをすることはよくありますが,営業力をつけるという意味では事業会社の営業職の方が経験を積みやすいように思います。

理由⑤チーム作りの経験が積みにくい

組織作り


 起業して営業力と同様に重要になるのが組織作り力です。こちらも理由④と同様,スタッフレベルでは自らチームを組織する経験はほぼ積めません。チームの組織権はマネジャー以上の管理職層にあるためです。
 例外的に若手が自主的にチームを結成できるケースとしては,プロボノ(社会奉仕)活動でいわゆるボランティアチームであったり,社内改革チームであったりと,通常プロジェクト以外の場に限られます。

新卒コンサル経験が起業に役立つケース


 以上,新卒でのコンサル経験が起業に直接役立つと考えられない理由を述べてきました。
 一方で私は,自分がCEOになるのではなく,コンサルだけでは不足する経験を積んだ誰かと共に起業するのであれば,コンサル経験も十分役に立つと考えています。
 その理由は主に以下の3つです。

①分析力の高さ
 コンサルティングの仕事では,どんなプロジェクトでも「問題の本質はどこか」「いかにクライアントに問題を体系立てて理解してもらい,事態改善のための具体的アクションを取ってもらえるか」といった,問題の分析や整理を常に行うことになります。
 ロジック重視の世界であることは先述の通りですが,実行力の高いリーダーとの相性は悪くありません。

②特定のコンピテンシーでの経験
 コンサルタントはそれぞれ特定のコンピテンシー(戦略・M&A・マーケティング・会計・人事・ITなど)に強みを持っていることが多いです。日系大手事業会社に比べると専門性の確立が早く,自分の意思で専門性を磨いていくことになるので,マネジャー(新卒入社8年前後)の時点ではかなりの専門性を有しています。
 20代・30代といった若い年齢で起業に参画する際に,こうした専門性を持っていることは日本においては稀少な強みとなり得ます。
 
③社外ネットワーク
 コンサルタントとしてプロジェクトを進めていくと,少なからずクライアントとの関係も構築されていきます。実際にクライアントから引き抜きのお誘いがあって転職される先輩方も珍しくありませんし,マネジャーが案件を獲得するのも,仕事を通じてのクライアントとの信頼関係あってこそです。
 離職後数年間は競合サービスを提供することを禁じられる場合もありますが,自分が起業した際にこうしたネットワークが直接/間接的に役立つことは大いに考えられます。
 
④社内ネットワーク
 以前の記事でご紹介したように,近年はコンサルファームのアルムナイ(卒業生のネットワーク)が活発に活動しています。こうしたところから仕事の引き合いが来たり,また仕事の悩み相談ができるのはコンサル出身者の強みと言えるでしょう。
 また,新卒入社であれば特に,同期との繋がりは強力な武器となります。
起業に関心のある人もかなり多いので,将来的な起業の仲間探しには悪くない環境と言えそうです。

まとめ。それでもコンサルを経由して起業したいあなたに

長くなりましたので,そろそろまとめに入りたいと思います。
 ここまで述べてきたように,私は,コンサルファームに新卒入社することが将来CEOとして起業することに直接役立つとは考えていません。
 理由は先述の通りであり,これはコンサルビジネスの性質上の話なので,戦略系・総合系・IT系といったファームの種類を問いません。

 もしCEOとして起業することを考えているのであれば,小〜中規模の事業立ち上げを自社資金で裁量を持ちつつ実行できるベンチャー企業の新規事業チームで経験を積む方が良いと考えます。
 もっと言ってしまえば,私の周囲で起業している多くの友人たちのように,大学生/大学院生のうちからスモールビジネスの起業を繰り返して経験値を高めるべきだと思います。

 一方で,自分がCEOとならずに起業に参画する場合は,コンサルファームを経由するのは決して悪い選択肢ではありません。若手でも早期から専門性を持って様々な企業を相手にプロジェクトを行い,仕事の基礎を身に付けることができるからです。

 それでもコンサルファームに新卒入社してからCEOとして起業したい!という方は,戦略系やマーケティング系のチームでとにかく新規事業立案のプロジェクトに継続関与するのをお勧めします。
 近年,大企業も新規事業立ち上げに非常に熱心になっており,コンサルファームにも新規事業立案や実行のサポートの依頼が多く舞い込んでいます。
 可能な限りそうした案件を選び続ければ,コンサルファームにおいてもスモールビジネス立ち上げに関する知見や経験を得ることができるでしょう。

 それでは,今夜はこの辺りで。
ここまでお読みいただき,ありがとうございました!!


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