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サツマイモのパン・おいもさん

秋だ。秋といえば様々なものが連想される。
スポーツの秋、読書の秋、食欲の秋。
朝晩肌寒くなり、秋の気配を十分感じるようになった私の頭に、サツマイモが浮かぶ。
秋といえばサツマイモ。
サツマイモが好きだから、ではない。

コンビニでバイトしていた。

私が出勤する日に必ず来店するお客様(男性)がいる。
私がそのことに気づくのには時間はかからなかった。
そのお客様は毎回パンを3個購入されるのだが、その際に必ずサツマイモのパンを購入する(以下略してイモパン)。

何となく最初は(イモパンがお好きなんだな)くらいの記憶だった。
しかし3個全てイモパン購入が続き(どんだけサツマイモが好きなんだ!)と、それから毎回必ずイモパンを買うかどうか気になり始めた。

1個の時は(やっぱりイモ買うのね)、
2個の時は(おしい。なぜなら↓)、
3個の時は(ビンゴ!3つ揃ったわ!ラッキーいいことあるかも!!)、
などと、勝手にラッキーチェックし、いつのまにか毎回そのお客様がイモパンを買うかどうか確認せずにはいられなくなってきた。

そのうち私はそのお客様を心の中で(おいもさん)と名付け、店頭に立ち(今日はおいもさん来るかな)とドキドキしながら毎回待つようになった。

その日はサツマイモのパンの種類が多く、パンの棚を見て私は心が踊った。(今日はおいもさん絶対喜ぶね!!)

おいもさん。なんとなくいつも俯き加減で、売られていくロバのような寂しげな瞳のおいもさん。毎回パン3個買うなんて、パンが大好きなのね。そしてサツマイモ、イモパンは大、大、大好きなんだね。美味しいイモパンがきっと冷えたおいもさんの心を暖かくしてくれるんだわ。
あっ、いっけない!私っておいもさんのことばっかり考えてるじゃない!!もしかして恋⁈まさか!

などと妄想が膨らみ始めた頃、おいもさんは来店し、パンを手にレジにやってきた。私の「いらっしゃいませ」の声もどこと無しか上擦っている。そして、レジ業務であるバーコードを次々スキャンする。

お茶、
ドーナツ、
チョコパン、
以上。



え!?

イモパン、

イモパン無いじゃん!!

毎週必ずイモパン買うのに!
今日はイモパンたくさんあるのに!!


今日こそはおいもさんの寂しげな瞳に微かな笑みが見られるのでは!と期待していた私は、おいもさんがイモパンを買わなかったことに、大きな衝撃を受けた。一瞬頭が白くなりお会計を告げるのも忘れそうになってしまった。

「お、あ、えと、○○○円…です…」


人は、毎回あるはずのことが行われなかったとき戸惑うというものだ。しかも、期待に胸膨らませていた者にとってのその現実は、すぐには受け入れられない。

なぜ?なぜなの?なぜイモパン買わなかったの?
もしかして私の心がおいもさんに気づかれたのかしら?おいもおいもってうっせえんだよって、おいもさんっていうニックネームが気に入らなかったとか…(いやいやおいもさんも誰もそんなこと知らないし)。

会計を済ませ、店を後にするおいもさん。
おいもさんの心に何の変化があったのか。
しかしその瞳は相変わらず寂しげなロバの瞳のように憂いを含み、背中は寂しさが滲み出ていた…。
(っていうか、あるお客様がたまたまその日はサツマイモのパンを買わなかっただけ)

そしてそのうち私は気づく。
おいもさんの買うパンが、
ある時期からチョコパンばかりになっていることを…。

ハマるタイプなのね。
イモブームは去ったのね。




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