森江 蘭

読書雑記を掲載中です。ぼちぼち小説なんかも書いております。 どうぞよろしくお願いします。

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最近の記事

笑う社会の行方

太田省一『すべてはタモリ、たけし、さんまから始まった』(ちくま新書、2021年) 【概要】 1980年代初頭、世に漫才ブームが到来する。テレビを通じて社会を席巻したブームがもたらしたもの、それは「笑い」がコミュニケーションツールとなる時代であった。人と人の間に浸透するボケとツッコミ。阿吽もツーカーもボケとツッコミに取って代わられてゆく。それは日本が「笑う社会」に突入したことの表れであった。本書では、「笑う社会」がいかにして生まれ、そして、現在に至るまでどのような変容を遂げて

    • いつかの自分にパンチ

      いつか忘太朗『ニードルパンチピープル』(2022年、私家版)。 note、久しぶりの投稿です。二年くらいさぼってしまいました(笑)。 本日ご紹介する一冊は、ちょっと特別。いわゆる私家版です。 とあるバーの店主である、いつか忘太郎氏が綴った「呑み屋哲学」の本です。ひょんなことから手に入れた一冊ですが、これがめっぽう面白く、ゴールデンウィーク中に読み切ってしまいました。 ご案内の通り、昨今の疫病禍の中で、まるで社会の害悪のように語られた「呑み屋」。最近はようやくそのような言

      • 実朝—王者の孤独、果ての「冷え」

         中野孝次『実朝考―ホモ・レリギオーズスの文学』(講談社文芸文庫、2000年)  鶴岡八幡宮の大銀杏が台風で倒れたのは、もう十年も前のことでした。十年と言えばひと昔。ニュースで聞いたときは大変残念な気持ちになったのを覚えていますが、一昔前のことなんですね。切り株から生えたひこばえも少しは大きくなったことでしょう。    鶴岡八幡宮といえば源氏累代の尊崇を集めた神社です。拝殿に至る大階段で源家三代将軍実朝は公暁に暗殺されました。時に建保七年(1219年)1月27日、実朝26歳

        • 欺す、騙す、瞞す。

          月村了衛『欺す衆生』(新潮社、2019年) この記事を書いている6月18日。今から35年前のこの日、昭和史に残る事件が起きた。 豊田商事会長刺殺事件― マスコミの目の前で発生した惨劇である。詳しくはウィキに譲るが、被害総額2000億に上るという、日本の犯罪史上類を見ない詐欺事件の顛末であった。 本書を読み、レビューを書いている日がまさにこの事件が起きた日ということに、なんだか奇妙な因縁を感じないではない。なにせ、物語の通奏低音となっているのが、豊田商事事件(※フィクシ

        笑う社会の行方

          テツ分補給に。

          野田隆『テツはこう乗る―鉄ちゃん気分の鉄道旅』(光文社新書、2006年。) ステイホームと言われ続け、なんとなく遠出もしにくい昨今。シリーズ「お家で旅を」の第三弾として本書を手に取ってみました。  鉄道の愛好家の方々―いわゆる、「テツ」や「鉄ちゃん」―は、日々どのように鉄道を楽しんでいるのか。それをテツの目から徹底的に、そして、一般人にもわかりやすく解説した、テツ入門ともいえる本です。  どんな人にも、鉄道を愛する気持ち―テツ分―がある。それが作者の掲げる大前提です。と

          テツ分補給に。

          旅は続くよどこまでも

          東海林さだお『東海林さだお自選 ショージ君の旅行鞄』(文春文庫、2005年) 緊急事態宣言が解除されたとはいえ、まだまだ以前のように自由に外出、という雰囲気ではありません。 そこで、「お家で旅を」第2弾として、今日は本書を取り上げました。 東海林さだおといえば、もはや漫画家というより、エッセイストというイメージが強いかもしれません。紫綬褒章まで受賞しちゃってますが、この日常のあるある感を掬い取る眼力と、それを余さず読者に伝えながらもわかりやすくテンポの良い文体が作者の妙

          旅は続くよどこまでも

          Wandering Destiny...

          スウェン・ヘディン著、福田宏年訳『さまよえる湖(上・下)』(岩波文庫、1990年) #STAYHOME が叫ばれる今こそ、読書は最高のエンターテインメントとなり、人間らしさを保つためのよすがになるはず。 今失われている「人間らしさ」とは何でしょうか。自分なりに考えてみましたが、一つには「自由に動き回ること」が人間らしさなのではないかと思います。 そこで、今回から数回にわたって、「お家で旅を」というシリーズで家にいながらでもどこか旅をしている気分になることができるような、

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          それは「百年」戦争か?

          佐藤猛『百年戦争―中世ヨーロッパ最後の戦い』(中公新書、2020年) 百年戦争…。なんと中二的な響きでしょう。一部の人を惹きつけてやまないこのネーミング。しかし、本当に百年のべつ幕なしに戦争が行われていたのでしょうか。そして、その戦いはいったい誰(何)と誰(何)の戦いだったのでしょうか。 世界史の授業で習うものの、その内実はよく知られていない事件が、中世末期のフランスを舞台にしたこの「百年戦争」という事件。本国フランスでも有名かといえばそうでもなく、本書の「はじめに」でも

          それは「百年」戦争か?

          ほら、あなたの周りにも…

          谷川健一『魔の系譜』(講談社学術文庫、1984年) 魔が差した、通り魔、逢魔が刻… 今も僕たちの周りには「魔」が潜んでいて、時に跳梁跋扈する。 日本の歴史にも「魔」が影響を与えてきたという。日本では死者が生者を支配してきたのか。 谷川民俗学、ここに開幕― 【目次】 1「学術文庫」のためのまえがき/2 怨念の序章/3 聖なる動物/4 崇徳上皇/5 バスチャン考/6 仮面の人形/7 再生と転生/8 地霊の叫び/9 魂虫譚/10 犬神考/11 狂笑の論理/12 装飾古墳

          ほら、あなたの周りにも…

          島宇宙の未来はwow,wow,wow,wow

          柴那典『ヒットの崩壊』(講談社現代新書、2016年) やたらに長い生放送の音楽番組が増えた。 紅白見ても知らない人ばかり。 オリコンのランキングはAKBとEXILEだらけ。 周りで夏にフェスに行く人が増えた― そんな経験はありませんか?2000年代(とくに、ゼロ年代の後半)以降、日本の音楽シーンは地殻変動を起こしています。それは、かつて経験したことのないような大きなパラダイムシフトであり、現在もその変動は継続中なのです。 本書は、小室哲哉など音楽関係者へのインタビ

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          業を飲みこんだ人

          古川緑波『ロッパの悲食記』(ちくま文庫、1995年。) 令和の現在、古川ロッパ(※筆名は「緑波」を使ったそうです)の名を聞いて、ああ、と思う人がどれほどいるでしょうか。 私も、なんとなく、エンタツ、アチャコ、エノケン、ロッパという固有名詞の並びで記憶しているだけであり、昔々のコメディアン、という知識しかありませんでした。この本を読むまで、ロッパが大変な美食家であることも知りませんでした。(うーん、これは小林信彦の『日本の喜劇人』を読んでみたくなったぞ…) さて、本書は昭

          業を飲みこんだ人

          戦争は一国ではできない。

          秋田茂、桃木至朗編著『グローバルヒストリーと戦争』(大阪大学出版会、2016年) 1 「国民国家」の限界まだまだ気になる中東の情勢。戦争なんて、誰も望んでいない(…はず)と思いますが、人間の歴史は戦争の歴史とはよく言われることです。いつになったら、戦争の恐怖から人は解放されるのでしょうかね。 さて、今回の一冊は、その「戦争」を切り口にして、グローバルヒストリーを俯瞰する論文集です。 世界を見渡してみますと、ブレグジットが迫り、アメリカファーストやそれを真似する国が増え、

          戦争は一国ではできない。

          文明の衝突?それとも…

          R.W.サザーン著、鈴木利章訳『ヨーロッパとイスラム世界』(岩波現代選書、1980年) 1 隣人のとらえかた  2020年の年明け早々、中東がまたくすぶっています。ぶすぶすと。油田の煙は、どうにも、戦火を連想させてしまうのです。ひとまず、大惨事、いや、第三次世界大戦は避けられたのか、先延ばしになったのか、というところですが、実に不穏な年明けとなってしまいました。  さて、初めてのレビューで採り上げた今回の作品は、イスラム世界が中世ヨーロッパの思想界の目にはどのように映って

          文明の衝突?それとも…