森江 蘭

読書雑記を掲載中です。ぼちぼち小説なんかも書いております。 どうぞよろしくお願いします。

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記事一覧

笑う社会の行方

太田省一『すべてはタモリ、たけし、さんまから始まった』(ちくま新書、2021年) 【概要】 1980年代初頭、世に漫才ブームが到来する。テレビを通じて社会を席巻したブー…

森江 蘭
10か月前

いつかの自分にパンチ

いつか忘太朗『ニードルパンチピープル』(2022年、私家版)。 note、久しぶりの投稿です。二年くらいさぼってしまいました(笑)。 本日ご紹介する一冊は、ちょっと特別。…

森江 蘭
2年前
7

実朝—王者の孤独、果ての「冷え」

 中野孝次『実朝考―ホモ・レリギオーズスの文学』(講談社文芸文庫、2000年)  鶴岡八幡宮の大銀杏が台風で倒れたのは、もう十年も前のことでした。十年と言えばひと昔…

森江 蘭
3年前
6

欺す、騙す、瞞す。

月村了衛『欺す衆生』(新潮社、2019年) この記事を書いている6月18日。今から35年前のこの日、昭和史に残る事件が起きた。 豊田商事会長刺殺事件― マスコミの目…

森江 蘭
3年前
5

テツ分補給に。

野田隆『テツはこう乗る―鉄ちゃん気分の鉄道旅』(光文社新書、2006年。) ステイホームと言われ続け、なんとなく遠出もしにくい昨今。シリーズ「お家で旅を」の第三弾と…

森江 蘭
4年前
1

旅は続くよどこまでも

東海林さだお『東海林さだお自選 ショージ君の旅行鞄』(文春文庫、2005年) 緊急事態宣言が解除されたとはいえ、まだまだ以前のように自由に外出、という雰囲気ではあり…

森江 蘭
4年前
3

Wandering Destiny...

スウェン・ヘディン著、福田宏年訳『さまよえる湖(上・下)』(岩波文庫、1990年) #STAYHOME が叫ばれる今こそ、読書は最高のエンターテインメントとなり、人間らしさを…

森江 蘭
4年前
3

それは「百年」戦争か?

佐藤猛『百年戦争―中世ヨーロッパ最後の戦い』(中公新書、2020年) 百年戦争…。なんと中二的な響きでしょう。一部の人を惹きつけてやまないこのネーミング。しかし、本…

森江 蘭
4年前
3

ほら、あなたの周りにも…

谷川健一『魔の系譜』(講談社学術文庫、1984年) 魔が差した、通り魔、逢魔が刻… 今も僕たちの周りには「魔」が潜んでいて、時に跳梁跋扈する。 日本の歴史にも「魔」…

森江 蘭
4年前
3

島宇宙の未来はwow,wow,wow,wow

柴那典『ヒットの崩壊』(講談社現代新書、2016年) やたらに長い生放送の音楽番組が増えた。 紅白見ても知らない人ばかり。 オリコンのランキングはAKBとEXILE…

森江 蘭
4年前
3

業を飲みこんだ人

古川緑波『ロッパの悲食記』(ちくま文庫、1995年。) 令和の現在、古川ロッパ(※筆名は「緑波」を使ったそうです)の名を聞いて、ああ、と思う人がどれほどいるでしょう…

森江 蘭
4年前
2

戦争は一国ではできない。

秋田茂、桃木至朗編著『グローバルヒストリーと戦争』(大阪大学出版会、2016年) 1 「国民国家」の限界まだまだ気になる中東の情勢。戦争なんて、誰も望んでいない(…

森江 蘭
4年前
1

文明の衝突?それとも…

R.W.サザーン著、鈴木利章訳『ヨーロッパとイスラム世界』(岩波現代選書、1980年) 1 隣人のとらえかた  2020年の年明け早々、中東がまたくすぶっています。ぶす…

森江 蘭
4年前
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笑う社会の行方

笑う社会の行方

太田省一『すべてはタモリ、たけし、さんまから始まった』(ちくま新書、2021年)

【概要】
1980年代初頭、世に漫才ブームが到来する。テレビを通じて社会を席巻したブームがもたらしたもの、それは「笑い」がコミュニケーションツールとなる時代であった。人と人の間に浸透するボケとツッコミ。阿吽もツーカーもボケとツッコミに取って代わられてゆく。それは日本が「笑う社会」に突入したことの表れであった。本書で

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いつかの自分にパンチ

いつかの自分にパンチ

いつか忘太朗『ニードルパンチピープル』(2022年、私家版)。

note、久しぶりの投稿です。二年くらいさぼってしまいました(笑)。
本日ご紹介する一冊は、ちょっと特別。いわゆる私家版です。

とあるバーの店主である、いつか忘太郎氏が綴った「呑み屋哲学」の本です。ひょんなことから手に入れた一冊ですが、これがめっぽう面白く、ゴールデンウィーク中に読み切ってしまいました。

ご案内の通り、昨今の疫病

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実朝—王者の孤独、果ての「冷え」

実朝—王者の孤独、果ての「冷え」

 中野孝次『実朝考―ホモ・レリギオーズスの文学』(講談社文芸文庫、2000年)

 鶴岡八幡宮の大銀杏が台風で倒れたのは、もう十年も前のことでした。十年と言えばひと昔。ニュースで聞いたときは大変残念な気持ちになったのを覚えていますが、一昔前のことなんですね。切り株から生えたひこばえも少しは大きくなったことでしょう。
 
 鶴岡八幡宮といえば源氏累代の尊崇を集めた神社です。拝殿に至る大階段で源家三代

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欺す、騙す、瞞す。

欺す、騙す、瞞す。

月村了衛『欺す衆生』(新潮社、2019年)

この記事を書いている6月18日。今から35年前のこの日、昭和史に残る事件が起きた。

豊田商事会長刺殺事件―

マスコミの目の前で発生した惨劇である。詳しくはウィキに譲るが、被害総額2000億に上るという、日本の犯罪史上類を見ない詐欺事件の顛末であった。

本書を読み、レビューを書いている日がまさにこの事件が起きた日ということに、なんだか奇妙な因縁を感

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テツ分補給に。

テツ分補給に。

野田隆『テツはこう乗る―鉄ちゃん気分の鉄道旅』(光文社新書、2006年。)

ステイホームと言われ続け、なんとなく遠出もしにくい昨今。シリーズ「お家で旅を」の第三弾として本書を手に取ってみました。

 鉄道の愛好家の方々―いわゆる、「テツ」や「鉄ちゃん」―は、日々どのように鉄道を楽しんでいるのか。それをテツの目から徹底的に、そして、一般人にもわかりやすく解説した、テツ入門ともいえる本です。

 ど

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旅は続くよどこまでも

旅は続くよどこまでも

東海林さだお『東海林さだお自選 ショージ君の旅行鞄』(文春文庫、2005年)

緊急事態宣言が解除されたとはいえ、まだまだ以前のように自由に外出、という雰囲気ではありません。

そこで、「お家で旅を」第2弾として、今日は本書を取り上げました。

東海林さだおといえば、もはや漫画家というより、エッセイストというイメージが強いかもしれません。紫綬褒章まで受賞しちゃってますが、この日常のあるある感を掬い

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Wandering Destiny...

Wandering Destiny...

スウェン・ヘディン著、福田宏年訳『さまよえる湖(上・下)』(岩波文庫、1990年)
#STAYHOME が叫ばれる今こそ、読書は最高のエンターテインメントとなり、人間らしさを保つためのよすがになるはず。

今失われている「人間らしさ」とは何でしょうか。自分なりに考えてみましたが、一つには「自由に動き回ること」が人間らしさなのではないかと思います。

そこで、今回から数回にわたって、「お家で旅を」

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それは「百年」戦争か?

それは「百年」戦争か?

佐藤猛『百年戦争―中世ヨーロッパ最後の戦い』(中公新書、2020年)

百年戦争…。なんと中二的な響きでしょう。一部の人を惹きつけてやまないこのネーミング。しかし、本当に百年のべつ幕なしに戦争が行われていたのでしょうか。そして、その戦いはいったい誰(何)と誰(何)の戦いだったのでしょうか。

世界史の授業で習うものの、その内実はよく知られていない事件が、中世末期のフランスを舞台にしたこの「百年戦争

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ほら、あなたの周りにも…

谷川健一『魔の系譜』(講談社学術文庫、1984年)

魔が差した、通り魔、逢魔が刻…

今も僕たちの周りには「魔」が潜んでいて、時に跳梁跋扈する。

日本の歴史にも「魔」が影響を与えてきたという。日本では死者が生者を支配してきたのか。

谷川民俗学、ここに開幕―

【目次】

1「学術文庫」のためのまえがき/2 怨念の序章/3 聖なる動物/4 崇徳上皇/5 バスチャン考/6 仮面の人形/7 再生と

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島宇宙の未来はwow,wow,wow,wow

島宇宙の未来はwow,wow,wow,wow

柴那典『ヒットの崩壊』(講談社現代新書、2016年)

やたらに長い生放送の音楽番組が増えた。

紅白見ても知らない人ばかり。

オリコンのランキングはAKBとEXILEだらけ。

周りで夏にフェスに行く人が増えた―

そんな経験はありませんか?2000年代(とくに、ゼロ年代の後半)以降、日本の音楽シーンは地殻変動を起こしています。それは、かつて経験したことのないような大きなパラダイムシフトであり

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業を飲みこんだ人

古川緑波『ロッパの悲食記』(ちくま文庫、1995年。)

令和の現在、古川ロッパ(※筆名は「緑波」を使ったそうです)の名を聞いて、ああ、と思う人がどれほどいるでしょうか。

私も、なんとなく、エンタツ、アチャコ、エノケン、ロッパという固有名詞の並びで記憶しているだけであり、昔々のコメディアン、という知識しかありませんでした。この本を読むまで、ロッパが大変な美食家であることも知りませんでした。(うー

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戦争は一国ではできない。

秋田茂、桃木至朗編著『グローバルヒストリーと戦争』(大阪大学出版会、2016年)

1 「国民国家」の限界まだまだ気になる中東の情勢。戦争なんて、誰も望んでいない(…はず)と思いますが、人間の歴史は戦争の歴史とはよく言われることです。いつになったら、戦争の恐怖から人は解放されるのでしょうかね。

さて、今回の一冊は、その「戦争」を切り口にして、グローバルヒストリーを俯瞰する論文集です。

世界を見

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文明の衝突?それとも…

R.W.サザーン著、鈴木利章訳『ヨーロッパとイスラム世界』(岩波現代選書、1980年)

1 隣人のとらえかた  2020年の年明け早々、中東がまたくすぶっています。ぶすぶすと。油田の煙は、どうにも、戦火を連想させてしまうのです。ひとまず、大惨事、いや、第三次世界大戦は避けられたのか、先延ばしになったのか、というところですが、実に不穏な年明けとなってしまいました。

 さて、初めてのレビューで採り

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