手と手

街で手をつないでいるカップルを見かけると、自分が夫と手をつないでいるイメージが彼らに重なる。そして実際にわたしと夫が手をつないでいる感触を覚える。

彼女が彼氏に頭を撫でられている様子を見ると、夫が私の頭を撫でているイメージが重なり、撫でられている感触を覚える。

男性がそっと女性の背中に手を回す動作を見ると、夫が私の背中を支えてくれるイメージが重なり、感触もよみがえる。

これはなんなんだろう。なんと呼べばいいんだろう。

今年で夫と一緒になって6年目。昨年くらいから、この現象が起こるようになった。あの手は夫の手だ。夫が手を握ってくれている。そして安心感とともに幸せを感じる。なぜ赤の他人を見てイメージが重なるのか。そして感触が、この手にはっきりと、わかるのか。

夫がそばにいなくても、その存在を誰かに投影して、感触がよみがえる。

それは、反射神経というものだろうか。人が記憶を呼び起こす時には2通りある。主観的な想起と客観的な想起だ。主観的な想起は、実際に自分の目を通したイメージが想起され、当時の体験をした時と同様の強さで感覚が思い出される。一方、客観的な想起は、自分を俯瞰したようなイメージが想起され、当時その体験をした時よりも弱く感覚が思い出される。

わたしが他人に夫と自分のイメージを重ねるときは主観も客観もどちらも入っている。それはとても奇妙な現象。今まで体験したことのないもの。安心感と幸せを感じる。すべてが反射的で、無意識のうちに起きる。

もしも夫がこの世からいなくなっても、わたしは他人に彼とわたしを重ね、幸福感を得ることができるのかもしれない。もちろん生きていてほしいけれど。

わたしにすべてをくれる夫。手をつなぎ、わたしの荷物を持ち、エスカレーターや階段ではいつわたしが落ちても守れるよう気遣い、夫が悪くなくてもわたしが怒ると必ず先に謝り、時にお詫びの品を沢山こしらえて許しを乞うてくる。夫は、わたしのために生きていると言う。それは夫の本音かもしれない。まさかと思うだろうが、そんな人間いないと思うだろうが、夫はそんな人なのだ。夫にとってわたしは全てだ。人は自分が一番大事な生き物だと思ってきた。しかし彼は、違う。今まで付き合ってきた男性と決定的に異なる。

そんな、わたしだけの夫が愛おしい。手をつなぐカップルに自分たちを投影してしまうほどに。

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