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土の研究と畑の記憶

かつて、大学の研究室で土の研究をしていたことがあります。

「土」と一言で言っても、中を覗いてみると、とても複雑な構造をしていることがあります。

大きな空洞になっている場所もあれば、弱い生物が隠れ家として使えるような入り組んだ場所もあります。

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そうして、いろんな微生物たちが住んでいます。

その中には、人にとって有用な成分を生産してくれたり、逆に有害な物質を分解してくれたりする微生物もいます。

人はそういった微生物を土の中から取り出し、培養することで活用してきました。

そういう意味では、これまで主に活用してきたのは、「研究室で培養できる」微生物だったと言えます。

下の写真にあるような、シャーレというお皿の中に栄養たっぷりの寒天を満たし、そこで微生物を育てたりします。

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でも全ての微生物が、シャーレの上で生きられるわけではありません。むしろ、そういった微生物は少数派です。

自分の住処から取り出された段階で、死んでしまう微生物がほとんどだったりします。

そういった微生物たちを活用するために、シャーレに分離するのではなく、「土ごと培養する」もしくは「土の中でしか生きられない微生物の遺伝子を、シャーレの上でも生きられる微生物の中に移動させる」というのが、主な研究テーマでした。

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その研究の目的とするところは、地球の環境汚染の浄化です。

専門的には「バイオレメディエーション(Bioremediation)」とも言われています。

人類が地球の土に撒いてきた、農薬をはじめとする化学物質。それらの中には難分解性で、長期にわたって生物に害を及ぼすものがあります。

しかしそれらの化学物質が、ある種の微生物にとっては食べ物であったりします。

そういった微生物の働きを活性化させ、有害な化学物質を分解させようとする研究でした。


畑に行って化学物質を撒き、何日かごとにその土を採取して、小分けに瓶詰にする。

そうしてできた何十本ものガラス瓶を持ち帰り、暖かい(というか暑い)部屋(培養室)に置いておく。

それらの土を、時々ガラス瓶の中から採取して研究室に持ち帰り、いろんな手段を用いて調べていく。

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当時、土の研究をしていた関係で、自分で野菜を育てて収穫する機会もありました。

大学には圃場がありましたし、同じ研究室の人の中には自分の畑を持っている人もいました。そういった場所をお借りして、野菜を育てたことがありました。

畑に種を撒いて、しばらくほったらかしにしておくと、いつの間にか野菜ができてくる。

当たり前だと思われるかもしれませんが、私はこれは奇跡的なことだと思いました。

「おぉ~野菜ができている!」という感動。

それは、自分の手で実際にやってみないと分からないかもしれません。

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科学が発達して便利になるほど、いろんなことが当たり前になり、ありがたみがなくなっていきます。

今は、お金さえ出せば何でも手に入る時代になりました。

スーパーやコンビニには様々な種類の食べ物があります。インターネットでも買い物ができます。

そのように便利になって、ありがたみがなくなったから、フードロスのようなことも起きるのかもしれません。

大量にモノを生産し、廃棄している一方で、食べ物が足りなくなっている地域もあります。

どれだけ便利な技術を開発できたとしても、幸せというのは人の心のあり方次第なのかもしれません。


明後日(4月22日)は「アースデイ(Earth Day)」といって、地球環境について考える日だと聞きました。

それで、昔の研究の記憶を思い出していたのでした。


「アースデイ」というのは「母の日」のようなものだと思います。

母の日にはカーネーションを贈ったりして、日頃の母の苦労をねぎらい、「いつもありがとう」と感謝を表します。


当たり前になっていることに思いをめぐらせる日。

地球も私たちの母のようなものではないでしょうか。


4月22日、たまには何か贈ってみませんか。



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