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三角世界 第一話

あらすじ

この物語の主人公は私である。というか、私であって欲しい。
私ことノア・グロッドは無数にある世界の1つに住む人類である。
私の住むこの世界は人類だけでなく、魔族や精神生命族など、さまざまな種族が暮らしている。
この世界の住人は、獣や炎を操ることのできる“神狼紋ゴッズウルフ・クレスト”、大地と精霊の加護を受ける“森鹿紋フォルラン・クレスト”、知恵に富み、物質を変化させる“宙竜紋バラウルス・クレスト”と大きく分けて3つの「紋章」を刻まれていて、その紋章に合った力を使うことができる。
紋章は一人ひとり違い、同じ紋章を持つものは1人としていない。今この瞬間にも3つの紋から派生してさまざまな紋章が生まれている。
補足すると、国の規定というものはなく、一つの種だけの単族国家や、すべでごちゃ混ぜの共生国家など、さまざまな勢力がある。
しかし、人類は多種族を受け入れず、孤立する傾向にある。


過去と出会い


人類は通常いくつかの勢力に分かれて睨み合っているくせに、他の種族に対すると少しでも自分を大きく見せようと団結する。自分勝手な人間は苦手だ。人間の私が言うのも変かもしれないが本当に人間は嫌いだ。
なぜなら私は捨て子で虐げられてきたから。
16年前、この世の創造主とも言える三柱の神族、“牙王ロボ”ローフ、“森之化身ファウヌス”フォルク、“惑星竜ギャラクシー”グローダが、世界を破壊して新たな世界の創造主になろうとした“破壊王デストロイヤー”デルフィートを抑えるために、7年間の大戦闘ののち、自分達もろとも彼を封印したのだ。混乱の7年間、そう呼ばれる事件は10年以上経った今でもなお多くの人々の心に恐怖と3神獣への尊敬の念を刻んでいる。
その事件から2週間が経った頃、当時3歳の私はグランド王国の山中に1人眠っているいるところを下級役人達に発見された。
その頃の私は優れた容姿をしていたらしく、何名かの役人が引き取りたいと声を上げたが、結局私の顔を見たロリコン地方公爵が私を引き取った。
しかしその公爵は「いいひと」ではなかった。
まあロリコンって付いている時点で察しはつくだろう。
第一に、私を引き取ったのは義理の子供としてではなく、ただ単に容姿のいい給仕が欲しかっただけらしい。
次に、私は皆が必ず一つは持っている、神から授かった力、『神力』を使えない。
この能力は人が生まれながらに持っている物であり、それを使えない者は人ではないも同然なのだ。
そんな私を公爵やその家族、ましてや同じ給仕や家政婦すらも私を家畜のように見て、鞭打った。
公爵に引き取られて10年。
私は紺と銀のグラデーションの短いクルクルした髪、深く澄んだ翠色の目をしていた。
目立つ見た目を悪く言われ、辛い日々に耐えながらも他に行き場がなく、懸命に働いていた私の思いを嘲笑うかのようにことは起こったのだ。
ある日、公爵家の庭で長男のゲイン(10歳)〈紋章:神狼属性『獅子狂紋カム・キング』〉と次男のゴーナン(9歳)〈紋章:神狼属性『狂犬紋クレイジードッグ』〉が剣技の特訓をしていた。
しばらくそれを眺めているとゴーナンがどこから連れてきたのか下位魔獣を引きずってきた。ニタニタと下衆のような笑みを浮かべ、
「兄様、この魔獣を的に実戦訓練をしませんか?」
と魔獣の尻尾を掴み、近くにあった柵にぶら下げた。
暴れているふわふわした小さな魔獣は子供の炎牙狼ブーストウルフだった。自身達の紋章と同じ属性の魔獣をあのように扱うとは。牙王ローフへのリスペクトなどは無いのだろうか。
「やめろっ。この下衆めっ」
キャンキャンと喚きながら暴れるが尻尾をがっちり挟まれているため、抜け出せない子炎牙狼の姿を見て嘲笑したゲインは小さな魔獣に向かって容赦なく真剣で打ち込んだ。
小さな体に傷がつき、見るからに弱っていく。ゲインが最後の一撃を決めようとした時、私は我慢できなくなり、
「やめなよ。それは実戦などではなくただの弱い者いじめだ。そんな下衆は傭兵にだってなれないよ?」
と、素の口調で魔獣を庇い、公爵の息子達を睨んだ。すると、顔を真っ赤にしたゲインとゴーナンが13歳の私めがけて手に持った真剣を振るってきた。
防御に徹する私の顔に、腕に、傷がついていく。特にゲインは同じ場所に何度も攻撃してきたため、私の左頬はぱっくりと大きく開いていた。
しばらくして騒ぎを聞きつけた公爵婦人によって一方的な攻撃は収まったものの、傷を治療する間も無く公爵が私を呼びつけた。
「グロッド。お前は私に対する恩を忘れたのか?私の息子に手をあげるなど。」
「いえ。私は何も…」
私の言葉を遮って公爵は話す。
「これから私がよしと言うまで発言は許さん。」
私が頷くと公爵はため息をついた。
「私はお前を引き取り、働き口や部屋まで用意したと言うのに、その恩人の息子の特訓を邪魔し、暴力を振るうとは…
妻から聞いているぞ?息子が噛み付いてきた下級魔獣に反撃をしていたところ、お前が魔獣を保護したうえに、息子を突き飛ばしたと。お前の傷は魔獣を庇った時に誤ってついたものだと。」
私は憤慨した。婦人は見ていたはずだ。私が公爵の息子達に一方的に攻撃されていたのを。
なのに私が完全に悪役になっている。
沸々と湧く憤りを顔に出さないよう最大限努力する。
「しかもお前の唯一の美点である容姿もこの怪我ではな…」
と公爵は嘲笑う。
お前はもう要らない。そう言っているのがわかった。元々容姿のいい召使いを集めるのが好きなだけという理由で私を引き取ったのだから。
私はここから追い出されるだろう。
望むところだ。むしろこんな家、今すぐにでも出て行きたい。
(どこへ行くのか。当てもないだろう?)
どこからか声が聞こえた気がしたが、そんな事は関係ない。自力で冒険者でも何でもやってやる。
出て行け。その言葉を私は待った。
しかし降ってきたのは予想外の言葉。
「おい。そこの商人。この娘を連れて行きたいのなら好きにすれば良い。ただし、少なくとも金貨5枚は貰うぞ。」
こいつ…私を奴隷として売りつけてない?
猛烈に腹が立った。しかも金貨5枚だと?人を何だと思っている。
しかしそんな私の思いはどこ吹く風で、交渉は進む。
「…。」
渋っている男を前に公爵がしびれを切らす。
「もうこの際1枚で良い!早くその女を連れて行け。」
公爵。私を厄介払いしたいと言う思いが見え見えだぞ。まあ隠す気もないだろうけど。
「乗った。」
奴隷商人の男はそう言うと、金貨1枚を公爵に投げた。
公爵がそれをキャッチすると同時に私は男を無理やり引っ張って行き、屋敷の外にある、牢獄のような馬車に乗せた。
ガシャン。
私が大したことないと判断したのか、拘束は足枷をはめられるだけ済んだ。
「さて、どうやって逃げようかな…」
馬車が進み始めると私は脱出方法に考えを巡らせた。足枷を外して後ろの小さな窓を開けることができれば脱出はできる。
しかし肝心の足枷が外れない。直接馬車に繋がっているため、足枷をつけたまま移動するのも不可能だ。
どうしようかな。
そう考えていた時、どこかで聞いた高い声が聞こえた。
「姉ちゃん困ってる?」
そう問いかけてきたのはゲインとゴーナンに痛めつけられていた子炎牙狼だった。
傷がまだ痛々しかったが、さすがは魔獣。
魔獣は森之化身フォルクの加護を受けているため、回復速度が人間の比ではない。
しかも加護は紋章とは違うので魔獣は回復作用とは別の紋章を持っている。
この子炎牙狼はおそらく神狼ゴッズウルフ属性の魔獣だ。
「うん。困ってるけれど…どうやってこの中に?」
「えっと…捕まった!」
笑顔で応える子炎牙狼。渾身の笑みだが、私が呆れるのに変わりはない。
ため息をつく私をよそに無邪気な子炎牙狼は
「なーんてね。」
と首に付けていた拘束具をゴトリと床に置く。
「本当は姉ちゃんを助けにきたんだよ。奴隷になりたいわけじゃないんでしょぅ?」
首を傾げ、上目遣いで見てくる可愛い生き物に、頰が緩まないように意識しながら応える。
「それはそうだけれど、初対面の魔獣がなぜ私を助けるの?貴方にメリットが無い以上警戒するしか無いわよ。」
そう言うと子炎牙狼は頬を膨らませ、
「僕が姉ちゃんを助けるのは貴方に恩返ししたいから!姉ちゃんは僕の命の恩人だもの。」
「あと『マジュウ』じゃなくて僕の名前はリズだよ。」
と付け加えた。
「そう。」
『リズ』の言葉はいろいろ引っかかるが嘘を言っている様子はない。しかも魔物は金銭等の感覚がないため、基本的には物々交換であり、そのこともあってか魔物の忠実さは人間には見られないほどに深く、硬いものである。
そこまでは信用できる。しかし、魔物に名前とは?
普通、魔物は名前を持たず、名前を持っているとしたらかなりの上位種の筈なんだが…。
謎が多い奴を信用しない方がいい。しかし、このままおとなしくしていればいずれ奴隷として強制労働。
そんなの絶対に嫌だ。
その思いで私の判断は決まった。
「ならリズ、脱出の手伝い、頼める?」
「任せなさい!」
とリズはニカッと笑い、私の足枷の鍵穴に前脚の爪を入れ、器用に開けた。
足枷から解放された私は音が鳴らないように窓を開け、馬車から飛び降りる姿勢になる。
が、隣りのリズは外に顔を出した途端に動きが止まる。
あろうことか馬車は正規の輸送ルートではなく、今にも崩れ落ちそうな断崖絶壁を走っていたのだ。窓の10センチ向こうは崖で、100メートルほど下には黒々とした『迷宮森ラビリスト』が広がっている。
生き物が落ちたら潰れて終わりだ。
かと言って崖の反対側は巨大な土の壁ギリギリを走っているため飛び降りればぶつかって圧死だろう。
困っていると急に馬車が揺れ、私とリズは崖へ投げ出された。
「わあああああああ⁈」
彼は一瞬のことに驚き、驚きの声を上げる。
パニックになり、私の腕から抜け出そうともがくリズをがっちりホールドすると
「大丈夫。なんか今回はうまく行く気がする。」
と私は落ち着かせるように笑って言う。
「姉ちゃん?このあとどうするの?このまま行くとあと5秒で僕ら、死ぬけど。」
「まあ見てて。」
そう言った私の下に大きな魔法陣(?)が現れ、私はそこに見えない階段があるかのように空中をトントンッと一段ずつ降りていく。
やがて地面に着地する。軽い振動で済むようにリズに気を遣ったが
今までの能力や行動によって、リズの私対する疑問が深まっているのが分かる。
「姉ちゃんって何者?弱い給仕かと思ったらすごい魔法使えるし。」
「私にも分からない。今まで魔法も神力も使えたことなんてないから。」
けれど今回はうまく行く自信があった。
「リズと一緒だったからかもね。」
私が言うとリズは嬉しそうに尻尾を振った。
そのまましばらく私を見つめてくるリズの様子が気になり、どうしたのか訪ねると
「姉ちゃんって…恋人…居るの?」
いきなりだ。いきなりすぎる。
「ふぇ?」
流石の私も情けない声をあげる。
「恋人はいないけ…」
「じゃあ僕が恋人ね!」
「え?」
いきなりの告白。肝が座っているとはいえ、恋愛経験ゼロの私は落下中のリズ並みにパニックになる。しかも相手は魔獣。
「いやいや。わ、私はまだOKしてないし。ってか会って1日の相手と付き合うわけないだろう!」
「え〜」
あからさまにしょんぼりするリズ。流石に言い過ぎかと思いフォローする。
「でもリズとは友達かな。私のこと助けてくれたし。」
「トモダチ!じゃあいつかは恋b…」
「思考回路どうなってんのよ。」
と私も笑みを漏らす。
リズも笑った。
「これからも一緒にいていい?」
いつも1人で孤独だった私にとって彼は救いだった。
「ええ。勿論!」
こうして1人と1匹の物語は始まったのである。


三角世界を読んでくださった皆様、誠にありがとうございます。
(誤字脱字、多いと思います。すみません。)
以下、2話と3話のURLです。
三角世界第2話

三角世界第3話




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