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三角世界 第三話

精霊王朝とノア


「精霊王朝コールシアの家宝⁈」
驚く私に老人は慌てて取り繕う。
「いえ。私たちは冒険s…」
「我らは精霊王朝コールンの3大臣が1人ニコラド・サイエンと第一皇女ラテネ・コールシア様であられる。平民、伏してひかえよ。」
老人の言葉を遮り、うるさいおっさんが話し出す。
人を見下しすぎでは…というか、正体バラしちゃってますよ。
「では、い・だ・い・なサイエン殿にお尋ねします。この腕輪には何か裏があるのですか?」
私が皮肉な口調で尋ね、
「貴様のような下賤なる平民に教える義理は…」
「もうよいでしょう。正直に全て話せばよい。」
私とサイエンが同じ会話をループしそうになったとき、それまで黙っていたラテネ皇女が口を開いた。
鈴を転がしたような綺麗な声色。
しかし、そこには厳しさが含まれている。
「サイエン殿、そのお方は腕輪をつけていらっしゃる。つまり、我らが神に認められたと言うことです。そのようなお方と話すのに対等な態度ならまだしも、見下すなどもっての他。」
「しかしラテネ様、この平民風情が代々語り継がれてきた“英雄”だと言うのは、納得がいきませんな。ましてやこんな小娘など。」
「民の上に立つ者が生物を見た目や身分で判断していては国が滅ぶというでしょう。」
エイユウ?なんのことだろうか。
私とリズがポカンとしていると、執事らしき老人が諦めたようにため息をついた。
「皇女様が仰るなら何も隠さずにお話ししましょう。」
「このような所では何が聞いているかわかりません。場所を変えたらどうでしょう。」
樹木妖精の青年が提案する。
「それもそうですね。」
頷いた老人がパチンと指を鳴らすと、5人と1匹は豪華な応接間にいた。
ふかふかな深紅の絨毯が敷き詰められ、壁には獣神達の絵画が飾られている。
深紅を基調とした部屋は快適な温度で、先ほどの森とは大違いである。
「そこにかけてお待ちください。」
と、丁度大人が2人座れるサイズのソファーを指し示して4人は出て行った。
「ねえリズ。エイユウって何?」
ソファーにリズと並んで腰掛けると私は訊ねた。
「えっ!ノア、世間知らずもいい所だよ。」
「悪かったわね。で?エイユウってなんなのよ。」
「英雄は、昔からこの世界に伝わる御伽話に出てくる人だよ。」
「御伽話?」
「うん。」
「詳しく教えて。」
リズは頷くと語り出した。
[この世界がまだ、出来たばかりの頃。
世界は3柱の神を創った。生物を生み出す力を持った3人の神とは牙王ローフ、森之化身フォルク、惑星竜グローダのことである。そして世界はバランスを保つために3獣人と対等な立場の悪魔を創った。破壊王デストロイヤーの二つ名通り、万物を崩壊させる力を持つデルフィートがその悪魔。正反対の特性を持つ神と悪魔は互いに牽制し合いながら世界のバランスを保っていた。しかし200年後、いきなり世界のバランスが崩れた。デルフィートの強力な配下が表れたのだ。
その名をルフリ。幼い見た目をしながらも“魔之王紋”と呼ばれる攻撃に特化した紋章を持ち、その神力は一国をたった一晩で滅ぼすほど強力であった。彼は紋章名やその恐ろしさから『魔王』と呼ばれている。どのようにして彼がデルフィートの配下になったのかはわからないが、それまで釣り合っていた力の天秤が傾いたことで世界に亀裂が生じた。最初は小指の爪程度の大きさだった裂け目はルフリの力が強まるにつれて広がり、ついにはその虚無とも言える空間に近づいた者の紋章を簒奪・吸収し、自らの糧にすることでその空間は具現化し、意思のない凶悪で生みの親とも言えるルフリやデルフィート、3獣神の力を軽く凌駕するほどの力を持った怪物バケモノとなってこの世に解き放たれた。
近くの集落を襲い、魔獣や人類、精霊までも虐殺して喰らった。喰らった者の紋章だけでなく特性までも奪い、人の知恵を手に入れた怪物は日に日に力を増し、ついには3獣神やデルフィート達を襲った。デルフィートやルフリは自らを封印し、結界で守ることで死を免れた。しかし神である3獣神は民を守らなければいけない。彼らは持てる力全てで怪物と戦ったが為す技全てを吸収され、相手は強くなる一方。しかも200年生きているとはいえ、神としてはまだまだ若い彼らは押され始める。戦いの始まりから一ヶ月。このまま喰われてしまうかと思われた時、1人の青年が現れ怪物と戦った。彼の攻撃が怪物に喰われることはなかった。理由は簡単だ。単純に彼が強すぎた。怪物は吸収する間も無く青年の剣に斬り裂かれ、滅ぶ一歩手前まで追い詰められた。しかし、そこで殺られるほど怪物も弱くはない。デルフィートがそうしたように自身の時間を代償に破壊不可の封印を自らに施し、消えた。その後、一時的とはいえ天災を祓った青年は人々に対して
自分は世界によって生み出された“天秤ヲ直ス者”だと告げる。彼は
元々はただの一般人で、怪物が生まれるのと同時に世界によってこの紋章を与えられたのだった。しかし、怪物との戦いによって元々人間だった彼の脆い肉体は傷付き、滅びかかっていた。青年はそれを察し、この世界の頂点に君臨する3獣神に自身の力と紋章を刻んだ腕輪を託してその場を去った。後に勇者と呼ばれる青年が言い残したのは
たった一言。『僕の後継者によろしく。』]
「でも何故獣神に渡された腕輪がコールシアの家宝に?」
話を終えたリズに訊く。
「それは600年前に起きた第一神魔大戦の際に獣神様が我ら樹木妖精族にその腕輪を託してくださったからです。」
いつの間にか部屋に入ってきたラテネ皇女がいう。
「その腕輪は彼の魂が後継者だと認めた者にだけ身につけることが出来るらしいのです。」
「だから私がその後継者だというのですか?」
「はい。今までその様な者は現れなかったので確証はありませんが。」
「それで?ノアに何をさせるつもり?」
リズが口を挟む。
「察しが良くて助かります。」
すると、ラテネの横に光る蔦が現れ、一瞬で人の姿になる。
コールシアの国王、ザウス・コールシアである。
「ノア殿。個人的に3つ、貴殿に頼みがある。
1,英雄として亡き勇者の意志を継いで欲しい。
2,封印されている3獣神を解放して欲しい。」
しばらく間をおいてザウスは告ぐ。
「そして3,ラテネの護衛をして欲しい。」
「え?」
あまりに唐突な頼みに一瞬思考が停止する。
「えっと,それはどういう…」
「実はな、最近ラテネの命を狙う輩が出てきているのだ。そしてそ奴らの背後にいるのが最近封印が解けた例の怪物だと言われておる。ラテネの紋章が奪われれば世界が混乱に陥ることは目に見えている。」
私はラテネ皇女の神力を知らなかったが、その強さは耳にした事がある。
なるほど。能力を簒奪されるのを危惧しているのか。
「しかし、私以外にも優れた騎士がいるのでは…」
「残念ながらあの怪物の能力に抵抗できるのは勇者とその力を継いだ英雄のみなのだ。」
「私からもお願い!」
ラテネ皇女は口調が完全に素に戻っている。
「ノア。どうする?」
まあ、自分もリズもラテネ皇女に助けてもらった身だし、よく分からないが異常な力を引き継いでしまった以上、恩返しがてら引き受けようかな。
「わかりました。その話、謹んでお受けします。」
「ありがとう。そして、貴殿は英雄。私たちとは対等に振る舞ってくれて構わない。」
「「「これからよろしく」」」
こうして、私の新たな生活は幕を上げたのだった。

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