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入院雑記vol.3 『生理』

2日目の生理が始まった。

身体は重だるく、
まぶたは、ゆっくり開いて、ゆっくり閉じる。
まるでカタツムリの動きくらい、スローだ。

そのまま泥のように眠ってしまいそう、眠い。

昨日は夕食を食べたあと、どうも眠たいので
ベッドに少し横になったら、
すぐ寝てしまった。

瞳を軽く閉じた瞬間、
知らない声と知らない都合が浮かんできて、

それはとっても不思議なんだけど、
わたしは妙に全てを納得していて、
受け止めることができた。

つまり、わたしの意識は、
夢の中へスムーズに突入していった。

まだ、7時にも回らないうちだったと思う。

いつもなら、食事の後、
デイルームでテレビをぼうっと見たり、
図書館から借りた本を読んだりしていた。
最近はすぐに病室にこもってしまう。

前は、1時を回っても、目が冴えていて、
寝ることに必死だったというのに。


最近、わたしの自意識の過剰さが
高まってるのを感じている。

わたしの癖として、人と関わるたびに、
その人の発言をいちいち考察して、
いろんな解釈を頭の中に垂れ流してしまう。
もちろん、すごく疲れるけど、
その人の解像度を上げようと、
研究している気がする。

苦い思いもたくさんするが、
けして嫌いな癖ではない。

だが、一昨日、本心の見えない、
セルフィッシュだなと思う人と話をしてから、
どうもわたしの体調はよろしくない。

わたしは、その時、
その人がきっぱり、発言する毎に、
「合わないな」と分かっていても、
自分と折り合いをつけて
なんとか同感することを頑張っていた。

そう、「合わないな」と分かっていた。

でも、わたしの同調がなければ、
会話は終わってしまう。
わたしの本心をぶつければ、
とたんに不穏の空気が流れてしまう。

人の投げかけを切り捨てる相手に対して、
どうにか心を通わせたくて必死だった。

わたしは、仲良くなりたかったのだ。

でも、その人は
わたしの仲良くなりたい気持ちなんて、
もちろん知らないし、知る由もない。

その人にだって、仲良くなりたい人は選べる。

まな板でシンクに切り捨てられる、
野菜のくずを思い出す。

ゴミ箱に、くしゃくしゃにして
投げ捨てられる、ちり紙を思い出す。

機械的に規律正しく千切りされる、
いらなくなった文書の数々を思い出す。

お風呂上がりに排水溝でぐるぐる巻きになって
たまる、髪の毛のことを思い出す。

愛情を込めて作ったおにぎりを食べる時、
その愛を感じるかは、
作った人を尊敬し、
愛しているかどうかで決まる。

セルフィッシュ。そう、セルフのみ。

判断する人は、相手であって、
わたしではない。

感情のない、機械たち、
提供をやまない、愛しい機械たち。
24時間、機械は壊れることなく、
淡々と動き続ける。愛を届けられる。

そう、つまり何が言いたいかというと、

わたしの言葉は捨てられる権利のもと、
大抵、今まで捨てられてきたということだ。

わたしは万能な機械じゃない。
ただの無能なくせに、
見返りを欲しがっている。

いつもコミュニケーションの中で
選ばれないわたしだからこそ、
私は誰よりも、わがままなのかもしれない。


悲観癖がまた出た。

わたしは、
わたしが生きやすく、生きたいと
願ったばかりなのに、いつまでこんなふうに、
拗らせているのかしら。

わたしは、自分が悲観しがちなことを
客観視できるようになってからは、
考えの軌道修正がうまくいくようになった。

だけど、この頃、
実はただの実況者なのではないだろうかと
思えてくる。

心の思惑を、スポーツゲームのように
実況するわたし。

(今、虚しいと思った自分、
 に気づいた自分。)

きっと、考えすぎと、
生理によるホルモンバランスの崩れが
影響していると思う。

弱ったな。


生理パッドをいちいち変えるために、
病室のベッドから体を起こして、
トイレに行かなくては行けないのが
めんどくさい。

かといって、
ごそごそとベッドのそばで
着替えるのも気が引ける。

わたしの病室は、個室ではなく相部屋だ。
白地のカーテンで、
簡易的に各々のスペースを区切っている。

よく、わたしは嫌なことが
フラッシュバックするたびに、
ふとため息が出たり、
「あぁ、」と独り言を行ってしまう。

それをカーテン越しの
同室の人たちを気にして、
誤魔化すように、あとで
2、3回くらい咳のふりをする。

(人を気にしすぎ!気にしすぎ!)

同調しようと必死なのかもしれない。

だからこそ、
セルフィッシュな相手にはとてつもなく
「なんで、そうなの?」が止まらないのかも。

きっと、納得してないんだろうな。

自分ではなく他人ばかりを気にしてるから、

だから、いざ合わせない人に会うと、
わたしに同調しないのは
「なんで?」って思うのかもしれないな。

(わたしはこんなに合わせてるのに。)

もしかして、わたしがセルフィッシュ?

まさかね!

(沈黙)


そろそろ、身体を起こそうかな。
そして、甘さ控えめのコーヒーを買いに、
売店に行こうかな。

それとも、値上げが著しい、自販機に行って
ちんまいカフェラテでも買いに行こうか。

何はともあれ、何かを飲んでこよう。

ともかく、まずは
生理パッドを新しく変えてから。

入院雑記、以上。

PS 最近、憎くなるくらい
綿矢りさの文章が好きだ、
才能が好きだ。
彼女が大好きだ。

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